ポメラニアンは元気でうるさい
兵士達が街に着いた。
俺達は街の入り口で兵士達と合流した後、一緒に屋敷に向かう。
屋敷はかなり豪華だった。
少しだけ高くなっている小さな丘が丸ごと屋敷の敷地になっている。
もちろん二階建ての石造りだけど、外側は白く塗ってある。
見た目が平らになってるから漆喰みたいなものなのかな?
洋風の建物ではなんて言うんだろ?
昨日一日街を回って気がついたんだけど、この街には兵士が少ない。
領主の屋敷にいる連中を足したとしても少なすぎるくらいだ。
街中では兵士を一度も見なかったし、詰め所もなかった。
どこにあるのかと思っていた詰め所は屋敷の横に建っていた。
領主の屋敷の敷地内だ。
これは完璧にポメラニアの私兵だね。
街の警備はどうなってるんだろう?
放置か?
人数が少ないから街道の入り口と領主の屋敷の警備で精一杯なんじゃないかな?
俺達は屋敷の中に入ると、応接室に案内された。
少しするとメイドがお茶を持ってくる。
当然のように高そうで、良いお茶だ。
食器も高いんだろうね。
今頃は俺が昨日話した兵士が、ツックの奥さんに屋敷のことを話してるんだろう。
上手いこと話してくれ。
話をこじらせるんじゃないぞ。
椅子には座らず、俺の後ろに立ってるライアンとルークが貴族の屋敷に入ったことで緊張してるのが伝わってくる。
お茶を飲ませてあげたいけど、護衛だから無理かな。
というか、護衛って応接室まで付いてくるの?
まぁ案内されたんだからいいけどさ。
しばらく待っていると、ドタドタと歩く音が廊下から聞こえてきた。
廊下からドアを開けて入ってきたのはオバサン・・というには少しだけ若い女の人だった。
ヒラヒラしたドレスみたいな服をきている。
どう見ても平民じゃない。
えーと・・誰?
「あのバカはどこに行ったの!」
「はっ?」
オバサンは部屋に入るなり、護衛の二人を気にもせずに俺に詰め寄ってきた。
「あのバカはどこにいるのか聞いてるのよ!」
「さ、さあ、どこでしょう?」
「あんたが追い出したんでしょう!?」
「はぁ?」
何なんだ、このオバサンは。
ここでオバサンと一緒に入ってきた執事が止めに入ってくれた。
「奥様。落ち着いて下さい。」
「これが落ち着いていられますか!」
どうやらこの人が奥様らしい。
まぁ、そうだろうよ。
子供はいないって話だから、親戚でもない限りそれしか考えられない。
それにしても、かなり若い。
今の自分の年だからオバサンって言えるけど、実際は二十歳を少し過ぎたばかりなんじゃないのか?
「それで!?何しにきたのよ!」
「いや・・来たくて来た訳じゃないんだけど。」
目的はあるけど、形の上ではここの兵士にお願いされたから来ただけだ。
しかし、強烈なオバサンだなぁ・・
どうしようか?
とりあえず屋敷のことは言わなきゃな。
「だったら帰りなさいよ!あんなバカの家がどうなろうと知ったことじゃないわ!」
おっ?
そうなの?
じゃあこのまま話しちゃうか。
「念のためにこちらもこういった物を作ったので、確認してください。」
といって契約書を差し出す。
「失礼します。」
それを執事が横から受け取って読み始めた。
「なっ!バカな!」
なんかすごい驚いてるけど、なんで驚いてるんだ?
どうなろうと知ったこっちゃないんだろ?
「見せなさい!」
オバサンが執事から契約書をもぎ取って読み始める。
「・・何ですって!これはどうゆうこと!?」
「えーと・・そーゆーことですね。」
なんかこちらとテンションが違いすぎて付いていけない。
どうでもいいって言ったり、どうゆうことだって問い質したり。
何がしたいんだ?
後ろにいるライアンとルークの様子を伺ったら、困ったように目だけで周りの様子を見ていた。
俺と目が合うけど、お互いに首を傾げることしか出来ない。
今が状況的に上手くいってるのかわからないんだ。
たぶん大丈夫だと思うんだけどね。
「これは・・あいつのサインよ!」
おぉ。
偽造は上手くいったようだ。
まぁ本物と並べて見ても違いがわからないんだから、当然か。
後は帰るだけかな?
「どうゆうことなの!?いくらあいつがバカでも、タダで全てを捨てるはずがないわ!」
あぁ、やっぱりそうくるよね。
みんなもそこを一番心配してたし。
まぁ自信はないけど、一応考えはある。
「タダで譲って貰った訳じゃないですよ?」
「じゃあどうしたって言うのよ!一体いくら払ったっていうの!」
お金なんていくら払っても普通は屋敷を売って行方不明になったりしない。
って言いたいんだろうね。
でも、ツックが欲しがるものはなんとなくわかる。
「魔鉱と交換したんですよ。」
「魔鉱と!?それほど大量の魔鉱がどこにあるって言うのよ!」
大量に必要なのか・・
そりゃデカくて立派な屋敷だもんな。
でも、魔鉱は土地や建物よりはるかに高いと思うぞ。
「大量にはありませんけど、貴重なものですからね。」
「じゃあ豆粒みたいな魔鉱と交換したって言うの!?」
「豆粒って・・あのね。もっと多いよ。大人の鎧は難しいけど、剣を作れるくらいはあったから。」
「剣・・?そんなに魔鉱があるわけないじゃない!」
あるわけないの?
でも、俺は持ってるけどね。
俺はガントレットを収納から取り出した。
実はガントレットはもう全部魔鉱に変え終わってる。
今は剣を魔鉱に変えてる最中だ。
「このガントレットは屋敷と交換した鎧の残りですよ。」
オバサンは目を丸くしてガントレットを見ている。
これで納得してくれたかな。
「あのバカなら・・確かにありそうね・・」
ありそうで良かったよ。
金庫の中でも魔鉱を使った武器は扱いが違ったからね。
高いせいもあるんだろうけど、かなり目立つ場所に飾られてた。
きっと武器の出来映えよりも魔鉱が使われてる方が大事だったんだろう。
「奥様、それでは・・」
「えぇ・・出ていくわ!すぐに準備しなさい!」
といって、オバサンと執事は部屋を出ていってしまう。
「は?えっ、ちょっと、何言ってんの?」
オバサン達は俺の話を聞かないで出ていってしまった。
契約書は投げ捨てられて床に落ちている。
今部屋にいるのは俺達3人だけだ。
やっと肩の力が抜けたのか、ライアンが「何だったんだ?」と呟いている。
俺が聞きたいよ。
たぶん、旦那に愛想を尽かしたんだろう。
自分の領地も守らずに趣味に没頭するだけじゃなく、若い奥さんまでほったらかしにしてたんだ。
まぁ、わからなくもない。
あの人が奥さんなら俺も逃げると思うよ。
趣味に没頭したくもなるってもんだ。
それに、死んだ人を悪く言うのは良くないよ。
うん。
と、いうことで。
展開の速さに付いていけなかったものの、一つの用事は終わった。
残りは後一つだ。
ツックとの連絡手段を廊下を通り掛かったメイドに聞いたら、さっきとは別の執事を呼んで来てくれた。
「当屋敷の執事を勤めております。」
って言ってるから、この人は執事だ。
執事ってたしか管理職で、一人しかいないはずだよな?
だったらこの人がそうなんだろう。
さっきのは・・使用人だよね?
でも、女の人の使用人が男なのか?
もしかして愛人とか?
まぁ、文句を言う人もいないから良いんじゃないの。
教えに来てくれた執事はセバスって言うらしい。
早速ツックへの連絡手段を教えてくれた。
なんと、転移だった。
といっても、転移で会いに行くんじゃないよ。
もちろん手紙を送るんでもない。
送るのは声だ。
そして、送った先から向こうの声も拾ってくるらしい。
それで短時間なら会話が出来るんだって。
しかも、普通の転移魔法が思い浮かべた場所に転移出来るように、音声転移では会ったことがある人なら思い浮かべた人と通話を繋げることが出来るらしい。
凄まじく便利だね。
是非とも今度使ってみよう。
音声転移の魔法を習ったので、もうここに用はない。
さっさと帰ろう。
「ライアンとルークはどうする?俺は帰るけど。」
「ぶざけるな。帰るに決まってんだろ。」
「聞く必要があるのか?」
ということで、3人でイゴイスに帰って来た。
屋敷には誰もいなかったので、ライアンとルークは装備を外してから店に向かった。
俺は・・やることがないな。
しかし、上手くいって良かった。
ツックがろくでもない奴で助かったよ。
って、ろくでもない奴じゃなきゃこんなことになってないか。
魔鉱と屋敷を交換したって言おうと思い付いた時にはもうツックはいない。
契約書はなかったからね。
納得してくれるかはちょっとした賭けだった。
まぁ偽物だけど契約書がある以上、捕まることはないだろう。
契約は無効だって言われても大人しく従えば無罪放免。
まぁ上手くいかなかったら力業でどうにかするけどね。
それにしても、ルークは今回大人しかったな。
契約書の偽造とか、真面目なルークなら絶対反対すると思ったのに。
むしろみんなと一緒になってそれしかないって雰囲気だった。
こんなのを成長とは言わないと思うけど、まぁ助かったかな。
でも、ルークが詐欺師とかに育ったら困る。
ライアンに様子を見てもらっとくか?
でも、ライアンに任せると面白がって詐欺師に育てるかもしれないな。
詐欺が出来るのは別に良いと思うけど、詐欺師はいかん。
ちょっと注意しておこう。
しかし、今回のポメラニアでの出来事って俺が何もしなくても何とかなったんじゃないかな?
奥さんはこの屋敷がどうなっても良いって言ってたし。
ってこともないか?
最後に納得したのは契約書と魔鉱の話だった。
思ったよりもギリギリだったのかな?




