無駄遣いはしない
ルークは何回も騙されたのがショックなのか、助けられた礼を言うとあてがわれた部屋に籠ってしまった。
「どうする?」
「ほっとけ。良い薬だ。」
ライアンはちょっと冷たい。
まぁこればっかりはしょうがない。
だって今のルークに、何て声をかけたら良いと思う?
「人を信じるのは良いことだよ!」とか「騙すやつが悪いんだ!」とか言うか?
冗談でしょ。
この国にいる限りは騙されないように気を付けるべきだ。
いや、この国に限った話じゃない。
どこにでも人を騙して自分が得をしようという奴はいる。
中には意味もなく、ただ騙すのが好きな変人だっている。
かといって、「人を疑え!」って言うのは間違ってる。
「ちゃんと見極めろ!」って言うべきなんだろうけど、俺だったら年下の男にそんなことを言われたくない。
ライアンも俺も、ルークよりは年下だからね。
ジェフに頼むのは有りかも知れないけど、他人に言ってもらっても意味がない。
だから、ほっとく。
こーゆー時にほっといてくれる友達って大事だと思う。
「かわいそうに」とか言って寄ってくるやつなんて、所詮は自己満足だ。
俺は自分のことを優しいと思ってる勘違い野郎になる気はないからね。
年下にはアドバイスくらいするけど、どうせ誰だって自分で立ち直るしかないんだ。
ルークならきっと大丈夫だろう。
いや、待てよ?
そういえば俺って、見かけはともかく中身はルークやライアンより年上だったな。
これはいかん。
もっとしっかりしよう。
居間で寛いでいたら執事姿のジェフが話しかけてきた。
「あの、ちょっと宜しいでしょうか?」
「どうしたの?」
「はぁ、私達も奴隷から解放していただきましたし、明日にでもこの屋敷を出ようかと・・」
そりゃそうか。
いつまでもここにいても奴隷だった頃のままだ。
それでは解放された意味がない。
話しやすいように、ジェフには一緒にソファーに座ってもらった。
落ち着かないのか、ソワソワしている。
「ここを出てからどうするつもりですか?ヴァンフォーレに帰るとか?」
そうなら転移で送っていくけど。
「いえ、私は元々イゴイスの良質な鉄が目当てで移って来たものですから、やはりここに残ることにしようかと。」
へぇ。
イゴイスって鉄が名産なのか?
ヴァンフォーレのロックタウンにも鍛冶屋はあったし、鉄は取れるはずなのに。
そういえばアイアンタウンじゃなくてロックタウンってことは、岩だらけなのか?
俺には良質な鉄とか全くわからないけど、ジェフみたいな優秀な職人がわざわざ引っ越してくるほどなんだから、全然違うんだろうな。
「それじゃ、また店を出すんですか?」
「今は蓄えがないので無理ですが、いつかはまた出したいと思っています。」
何年働いたんだか知らないけど、奴隷は給料を貰えないんだろう。
鍛冶道具があるだけ、まだましなのかな?
仕事をして開業資金を貯めるのもこの国じゃ大変だ。
「良かったら開業資金を出しましょうか?」
「そんな!そこまでして頂く訳にはいきません!」
ジェフがソファーの背もたれに逃げるように断ってくる。
遠慮なんかしなくていいのに。
だって俺がツックから巻き上げたお金や装備も、一部はジェフの店のものでしょ。
ここで俺達の話を聞いていたライアンが口を挟んだ。
「どうせ使い道なんてないんだ。無駄遣いするよりは遥かにましだと思うぞ。」
「無駄遣いって・・そんなことした?」
「カークの街に着いた時に買ったものはどうした?」
うっ!
それを覚えてたか・・
旅に出る時のために買った食材は一人でいる時もおやつとして、ちょこちょこと減らしている。
でも、毛布とかは数回しか使ってないし、金属製の食器なんて一回も使ってない。
無駄かと聞かれれば無駄かも知れない。
売らないのは選ぶのに時間がかかったせいで、愛着があるんだ。
使ったことないけど・・。
「まぁとにかく、あんたの腕に投資するなら俺も賛成だ。」
「いや、しかし・・」
もう一押しかな?
まぁ無理強いするものでもないけどね。
でも、俺だってジェフの作った剣を見た。
作った武器が『気配感知』に引っ掛かるほどの腕を持ってる職人が、下手くそな鍛冶屋でこき使われるところなんて見たくない。
何よりも、勿体ないだろ。
技術を持ってる人はそれを活かすべきだ。
ツックの金庫には魔鉱を使った武器がいくつか置いてあった。
でも、出来は悪い。
これは素材として難しいというのが問題なんじゃない。
職人が下手くそだったんだ。
良い素材は金を持った職人ではなく、腕を持ってる職人が扱うべきだ。
だから、ジェフにはキチンと自分の店を持って欲しい。
「じゃあさ、俺が雇うよ。それなら良いでしょ?」
「は?」
「俺がお金を出して俺の店を出すから、そこで働いてよ。そこでお金が貯まったら、自分の店を出せばいいんじゃない?」
「しかし・・店を出すにはかなりの金額が必要になりますよ?」
それはかなりの蓄えがあるから問題はないと思うけど?
「ちなみに店を出すのっていくらくらいかかるの?」
「扱うものが武器ですからね・・。一般的な飲食店なら金貨10枚あれば出せますが、武器屋では金貨が千枚必要だと言われています。」
「千枚!?」
あっライアンに先を越された。
高いだろうとは思ってたけど、そこまでとは・・。
金属製の武器はバカみたいに高いからね。
しかし・・
「千枚ね。」
「あるのか!?」
「さあ?・・あるんじゃん?」
「あるのか!」
ライアンがやたら食い付いてくる。
お前だって今は金持ちだろうが。
「数えたことないからわかんないよ。」
事実だ。
収納には山ほどお金が入ってるけど、数えたことなんてない。
数えなきゃいけない状況になったことないし。
そう。
お金に困ったことなんか、生まれてから一度もないからね!
「待って下さい。」
「おい!金貨千枚だぞ!?あるのか!?」
「ライアン。うるさいよ。ジェフさんが話そうとしてるでしょ。」
ライアンは黙ったけど、体勢は前のめりのままだ。
言わなきゃ良かったかな。
「あの、一般的にはそう言われていますが、私は鍛冶屋なので武器はほとんど買いません。最初に必要なのは鉄などの少量の素材ですので、一般的な武具屋よりはかなり安くなるとは思います。それと、場所も大通りに出す必要はありませんし、道具もほとんど揃っているので初期投資としてはそんな額にはならないかと。」
なんだ、それならやっぱり言うんじゃなかったな。
というか、もしかして試された?
いや、断ろうとしたのか。
「で、千枚あるのか?」
「うるさいなぁ。数えたことないんだから知らないよ。それくらいならあるんじゃないの?」
「あ、あるのか・・」
あるだろ。
回復薬なんかを売って儲けたお金だけじゃなくて、貴族の家2軒から貰った分のお金があるし。
それに金貨以外でも、今回の大量の武具を売れば数軒の店を出しても余裕なはずだ。
しかし、ライアンがうるさい。
ライアンってこんなにお金に執着するやつだったか?
奴隷になって変わったかな?
まぁ奴隷になる前から俺への借金生活だったもんな。
「それでジェフさん。足りると思うんで、どうです?」
「まぁどうせどこかの店で雇って貰おうと考えていましたので、雇ってもらえるなら有り難い話ですが・・良いんですか?」
「もちろん。ただ、僕たちは店なんて出したことないから、全部任せることになると思うけど、大丈夫ですか?」
「それは大丈夫でしょう。私もこの街で店を持ってましたから。」
そりゃそうか。
じゃあその辺は全部任せよう。
「ところで、給料ってどんな感じが普通なの?」
「給料なんて貰えませんよ!」
「そうはいかないでしょ。」
「いやいや!ロイさんは命の恩人ですから!」
「命まで救った覚えはないんだけど・・。それに、給料なしでどうやって生活するつもり?エイミーさんだっているのに。」
「そ、それでは、生活出来るだけ戴ければ、それで・・」
うーん。
確か1日辺り銀貨一枚あれば家族を養えるんだよな?
職人の給料とかわからないし、とりあえずはそれでいいか。
後は出来高で。
「エイミーさんも働いてくれますかね?」
「雇っていただけるなら、喜んで。」
「いや、ジェフさんが喜んでも意味ないでしょ。」
エイミーさんには後でジェフさんから聞いてもらうことにした。
他には何かあったか?
何かあってもジェフさんがなんとかしてくれると思うから、いいかな。
「お金は渡しておいた方が良いよね?とりあえずどれくらい?」
「いえ、まずは場所を探しますので。お金はその契約時に。」
「そっか。」
鉄は俺が運ぶからヴァンフォーレで店を出すことも考えたんだけど、常に俺が付いてる訳にもいかないのでやめた。
「なぁロイ。」
何やら考え込んでたライアンが、突然深刻そうな顔をして話しかけてきた。
改めて見ると深刻な顔が似合わない男だな。
「何?」
「奴隷を売った金だけどな。あれは・・どうする?」
どうする?って聞かれても・・
「好きにしたら?」
「いいのか!?」
「いいんじゃないの?」
「そうか!」
というと、ライアンは俺に金貨を渡してきた。
どうゆうこと?
「これで借りはないからな!」
「・・そんなことを気にしてたの?」
「そりゃ気になるだろ。弟に金を借りてるようなもんなんだから。」
あぁ。
そんなもんか。
なるほどね。
「あの、もう一つ大きな問題が・・」
とジェフが言った時
「すみません。今、よろしいですか?」
といってエイミーが部屋に入ってきた。
なんだろう?
槍の紋章が仕上がるのにはまだ時間がある気がするけど。
話が聞こえたかな?
それなら調度良いんだけど。
「ツックですが、どうされますか?」
「あぁ。忘れてた・・」
俺達はみんなでツックを閉じ込めてる倉庫に移動した。
もうここに閉じ込めて2日くらいは経ったのかな?
みんなで倉庫内に入ったけど、特に嫌な匂いはしない。
エイミーが時々世話を焼いてくれてたらしい。
「ねぇ、反省した?」
「私は子爵だぞ!何を反省する必要がある!」
してないらしい。
さて、どうするか。
「売れると思う?」
「いや、流石に・・貴族ですからね。」
「試してみる価値は?」
「売りに行ってそのまま捕まると思いますよ?」
捕まることはないと思うけど、問題が大きくなるのはめんどくさい。
どうしたもんかな。
「そうだ。この屋敷くれない?この都で店を出したいから、拠点が欲しいんだよ。ここならみんなで住めるし、くれるなら逃がしてあげるけど?」
「ふざけるな!この屋敷もここにある物も、そいつら奴隷も全て私の物だ!貴様なんぞすぐ死刑になる!命乞いをするなら今だぞ!」
どうやら俺の示談交渉は失敗したらしい。
しかもまだジェフさん達が自分の物だと思ってるみたいだ。
勘違いしてもらっちゃ困るな。
ジェフさん達は俺の従業員だ。
色々話し合った結果、試しに売りに行ってみることにした。
ここに残す選択肢はツックが反省してない以上、ない。
店を出してもまた潰されるし、ジェフやエイミーも危険だ。
それに、ツックがくれなくても、あのベッドは俺の物だ!
ヴァンフォーレで奴隷は売れないし、殺すのは俺が嫌だ。
狭間の道に捨ててもいいけど、なんか殺すみたいでこれも却下。
ツックなら剣でも渡しておけば生き残りそうな気がするから、売れなければ山に捨てるってことで話がついた。
でも奴隷市場は危ないし、鉱山に直接売りに行っても今は囲まれるだけだろう。
良く考えたら他の街にも奴隷市場はあるはずなので、ここに来る途中にあった大きめの街に行って聞いてみることにした。
「いいぜ。」
いいって。
自分が貴族だと思ってる頭のおかしいオジサンは売れるか?って聞いたら即OKを貰えた。
「ちなみに貴族は売れる?」
「貴族はダメだな。そんなの扱うのは裏の連中くらいだろ。」
じゃあダメだな。
後で本物だってバレたらめんどくさいことになる。
「その裏の連中に売ることは出来る?」
「仲介はしてやってもいいが、かなり安くなるぞ?」
もう貴族が売れる時点でどうかしてると思う。
でも、売れるんだからそこで売ることにした。
ツックはこのままここで預かってくれるそうだけど、余計なことを喋られたくないのでやめといた。
裏の連中とやらが来るまで時間がかかるそうなので、ツックの屋敷から持ってきた回復薬を売りさばいた。
横でツックが口をパクパクしているのはきっと叫んでいるんだろう。
サイレントの魔法をかけてあるので静かなものだ。
手足は魔力で捕まえてあるから暴れもしないしね。
この街で売れそうなものをいくつか売ってから奴隷市場に戻った。
引き渡す前に一応確認をしておく。
「たぶん、売られたら人間扱いされないと思うけど、どうする?反省した?」
またツックが口をパクパクさせている。
どう見ても反省はしてないみたいだね。
「じゃあこのオジサンをよろしく。」
「いいのか?生きて帰れないぞ?」
え?マジで?
裏の奴隷って何に使うんだよ。
人体実験とかか?
ツックはまだパクパクしてる。
反省はしそうにないし、しょうがないね。
しょうがないよね?
「まぁ・・運命でしょ。たぶん。」
あっそうだ。
忘れてた。
「ツック。屋敷は貰っておくね。もう要らないでしょ?」
俺の言葉を聞いて、ツックが顔を真っ赤にして怒っているけど、知ったことじゃない。
ジェフやエイミーによると、こいつは多くの人の財産や命を奪ってきたらしいし、ほっといたらこれからも続けるでしょ。
害虫みたいなもんだよね。
迷惑だよ。
「とりあえず、しばらくはあの屋敷を使わせてもらうよ。あのベッドって最高だよね。」
ツックが奴隷商人に連れて行かれながら、俺を睨んでいる。
もう会うこともないだろうけど、元気でな。
「じゃあこれが金だ。」
といって奴隷商人に銀貨が入った袋を渡された。
ツック安くね?
まぁ安くなるって言ってたし、こんなもんなのかな。
俺はツックを売った後で、ヴァンフォーレの王都に寄って宿の長期契約を解約してきた。
この流れだとしばらくはツックの屋敷に住めそうだし、あっちの方が住み心地が良いからね。
特にベッドが。
他にも要らない物をいくつか王都で売っておいた。
やっぱりこっちはいいね。
値段交渉とかほとんどいらないし。
相場がしっかりしてるから、売るのも買うのも気持ちがいいよ。
俺は後ろ髪を引かれながらヴァンフォーレをあとにした。
住むならこっちだよなぁ。




