やっと合流しました
今日は素晴らしい朝だ。
体を包み込む柔らかいベッドの中、窓から射し込む光と小鳥のさえずりで目が覚めた。
窓を開けて貴族街区の綺麗な空気を肺に詰め込んでいると、エイミーが紅茶を持ってきて入れてくれた。
俺が礼を言うと、綺麗なお辞儀をして退室する。
教育が行き届いてるなぁ。
そういえば、ジェフとエイミーは何年ここで働いてるんだろう?
エイミーはまだ若いのにここに来た時点で一人前の紋章士だったはずだから、そんなに昔からいる訳じゃないだろう。
せいぜい長くても2~3年が限界だ。
じゃあ綺麗な所作は生まれもったものか、ジェフの教育の賜物かな。
もう俺はあの二人を解放する気マンマンだ。
だってツックが反論したとして、信用出来るのはどっちかって話だよ。
そんなの答えはもう出てるでしょ。
俺とライアンは優雅な朝ご飯をいただいた後、ツックを起こして尋問した。
そう。
まだ寝てたのだ。
図太いにも程がある。
まず、初めに聞いたのはジェフ達のことだ。
「それの何が悪い!」
はい。
答え合わせ終了。
ジェフ達を解放しろって言っても言うことを聞かなかったので、豆粒みたいな魔力球から徐々に大きくしながら50個くらい当てた辺りでやっと解放してくれた。
大事な専属鍛冶のことともなると、根性を見せるらしい。
さすがコレクター。
ツックも良いところがあるじゃないか、と褒めてあげたんだけど、全く嬉しくなさそうだ。
ジェフ達は剣が仕上がってないからと作業場に戻っていった。
剣はキチンと仕上げてくれるらしい。
やっぱり良い人だ。
ヴァンフォーレ王国民は違うね。
ツックにはそのままドンドン質問していった。
次に聞いたのはルークのことだ。
ツックはルークという名前は知らなかったようだ。
それでもライアンが説明した話に心当たりはあるようだったので、関係者を教えて貰った。
当然ルークの奴隷紋に魔力を注いだやつも誰だかわからないらしい。
ツックの予想では言うことを聞かせるためにも現場にいるはずだと言っていた。
なるほど。
一理ある。
とりあえずツックは不要なので、また魔力球で眠って貰った。
そしてジェフ達に声をかけて外出する。
作業場にお邪魔したついでにライアンの剣を見せて貰ったけど、かなり良くなったと思うよ。
やっぱりジェフの腕は確かだったみたいだ。
今日中にはエイミーが紋章を刻んでくれるらしい。
そしたら完成だ。
役人達には念のためにルークのことを聞いてから、お仕置きと財産の没収、奴隷市場へ売り飛ばす、のパターンで回った。
ライアンがあからさまに手持ち無沙汰だったので、途中から奴隷として売り飛ばすのは全部任せた。
手続きとかが面倒なので、そこに人手が欲しかったんだ。
それにライアンの方が口が上手いから高値で売れるしね。
ツックから聞いてた役人を全員お仕置きした頃には、もう日が沈んでいた。
悪い役人が多すぎるんだよ。
一人一人やってたからもう疲れた。
ルークが死なないようにお祈りを捧げてから、この日もツックの家にお世話になった。
次の日の朝にライアンは剣を渡された。
エイミーは魔鉱を材料にしてる剣に紋章を刻むのが初めてだったので、少し手間取ったらしい。
謝られたけど、そんなことは大したことじゃない。
剣は素晴らしい出来映えだ。
素材の力を限界まで引き出した上に、紋章によるサポートで攻撃力が跳ね上がっている。
何で俺にわかるかって?
『気配感知』に反応したんだよ。
剣に意識を集中しただけで、『気配感知』のレベルが上がったらしい。
今までは人が持って攻撃力が上昇した分で武器の大体の攻撃力を判断してたけど、この剣のお陰でただそこにあるだけの物の気配も感じられるようになった。
正直に言ってライアンには勿体ない剣だ。
次にエイミーが紋章の説明をしてくれた。
この紋章は切れ味がアップするもので、基本的には周りの魔力を吸って攻撃力を上げる。
でも、剣の持ち手から魔力を注ぐことで、その効果はさらに上がるらしい。
つまり紋章が持ち主の魔力を使って『纏い』をかけてくれるのかな?
そう思ったので聞いてみたら、なんか違うらしい。
『纏い』はその名の通り魔力を纏わせるスキルだけど、紋章は魔力を使って魔法を発動させるものらしい。
要は切れ味がアップする補助魔法だ。
つまり魔力をさらに纏うこともできるんだって。
それは便利だね。
俺が使ったら凄いことになりそうだ。
金は払うから俺の剣にも紋章を刻んで欲しいって言ったら、金なんかいらないって言われた。
剣を収納から出したらエイミーに驚かれたけど、かなり今更な気がする。
で、見て貰った結果、俺の剣には紋章が刻めないらしい。
というか、もう刻んであるんだって。
そういえば刀身に格好いい模様があったけど、これは紋章だったのか。
良く見たら、刀身全体から硬貨から漏れるような魔力を感じることが出来る。
これが紋章の補助魔法の魔力なのかな?
ってことは硬貨にかかってる魔法は紋章の力か。
そりゃそうだよな。
普通の魔法ならいつか切れちゃうし。
エイミーに、この剣に刻まれてるのは切れ味と強度を両方アップする紋章で、魔力さえあればこれが一番良いって言われた。
魔力はあります。
売るほどね。
やっぱりこの剣を選んで良かったよ。
せっかくだから槍をジェフに選んでもらって、一番良い槍にエイミーに紋章を刻んでもらうことにした。
もちろん紋章は剣とお揃いだ。
材料を無視して一番出来の良い槍を選んで貰ったので、素材は魔鉱ではなく鋼だ。
鋼なら間違いなく今日中に終わるらしい。
エイミーに槍を預けると、俺とライアンは出発した。
目的地は北の鉱山だ。
昨日のうちに俺が『飛行』でかなり近くまで来ておいたので、転移ですぐにたどり着く。
鉱山では調度仕事が始まるところだったみたいだ。
兵士が何人か歩いているのが見えたので、その内の一人に話しかける。
「ルークという青年を探してるんだけど。」
「あ?知らねぇな。冒険者か?」
ここには冒険者もいるのか?
でも、そうじゃない。
俺達が用があるのは借金奴隷のルークだ。
「奴隷?奴隷の名前なんか知るわけねぇだろ。バカか?」
すっとライアンが前に出た。
「借金奴隷に用があるのは買い戻しに来るやつくらいだろ?金儲けのチャンスじゃねぇか。いいのか?他のやつに取られても。」
「なんだ、買い戻すならそう言えよ。どれ、俺が探してきてやるぞ。そいつの特徴はどんなだ?」
ライアンに軽く乗せられた兵士にルークの特徴を伝えると、兵士が納得したようにニヤリと笑った。
ふむ。
危なくこの兵士を魔力球で吹っ飛ばすところだったな。
ここはライアンに任せよう。
俺とライアンはボロい兵舎の応接室に案内されていた。
「すぐに連れてくるからな。」
そう言って兵士は部屋を出ていった。
お茶くらい出せよ。
「で、ライアン。どうするの?」
「ルークの奴隷紋を解除させたら転移で逃げればいいんじゃねぇか?」
「うん。そうだね。」
その後は帰った後のことを話し合った。
まずは二人の装備を揃えないといけない。
捕まった時の装備はもう売られてしまったので戻ってこない。
一応探してはみたんだけど、すでに買い手が見つかってサイズを変えられてたりしたので諦めたんだ。
「ライアンは魔獣の革のを着ければいいんじゃないの?軽い方が良いでしょ?」
「お前なぁ、そりゃそうだけど、魔獣の革なんて・・持ってんのか?」
「ツックの家にあったよ。オーダーメイドならピンクの鎧も作れるし。」
「あ?ピンク?どんな魔獣だそれは。」
そんな話をしてたらさっきの兵士がルークを連れて戻ってきた。
「こいつだろ?」
「あぁ。久し振りだな、ルーク。」
「ライアン!そうか。ロイ君に買って貰ったのか。」
ルークが何か勘違いしてるようだけど、まさかここで脱走したなんて言えないので黙っておく。
「すまなかったな。俺はすぐには出られない。先に行ってくれ。」
「何言ってんだ。すぐ帰るぞ。仕度はいらないな?」
「おいおい、ちょっと待った。金を払わなきゃ帰れねえぜ?」
兵士がルークとライアンの会話に割って入る。
「金貨10枚だ。もちろん即金だぜ?」
「何を言ってんだ。せいぜい3枚だろ。」
ライアンも払う気がないのによくやる。
ルークは自分が返さなきゃならない金額の多さに目を白黒させている。
意味のない金額のせめぎあいはすぐに終わった。
「じゃあそれでいいや。奴隷紋を解除してくれ。」
「ふざけんな!前金に決まってんだろ!」
「そりゃ無理な相談だな。お前に払っても解除は別のやつだったらお前に払った金はどうなる?解除の金はちゃんと解除してくれたやつに払うよ。それにこんな山奥から逃げられやしない。順序くらい譲ってくれても良いだろ?ほら、金はあるんだ。」
そう言ってライアンは懐から金貨を取り出す。
この世界ではそれなりに貴重な、計算のできる人間を沢山売った金だ。
ルークを取り戻すには十分だろう。
「チッ!ちょっと待ってろ。」
金を見て納得したのか、そう言って再び兵士は部屋を出ていった。
「ライアン!俺にはそんな大金は返せない!ただでさえロイ君に借りた金を返さなければならないんだ!」
「そうなのか?」
ライアンが俺に話を振ってくる。
「いや、むしろ今回のことで俺は大金持ちだよ。ライアンもそうでしょ。良かったらルークにも分け前を払ってもいいよ。」
「大金持ち?何のことだ?」
「まぁわからないだろうね。とりあえずここを出てから話すよ。」
ここでさっきの兵士がもう一人兵士を連れてきた。
「こいつが金を払うのか?」
「あぁ。さっさと解除してくれ。」
「金はあるんだろうな?」
「ほら。」
と言ってライアンがまた金貨を見せる。
「手を出せ。」
といって兵士がルークの奴隷紋に触れる。
少しするとルークの手から奴隷紋が消えて無くなった。
「ほら、金を払いな。」
「待てよ。確認が先だ。奴隷紋がもう一つあったらたまらねぇからな。」
「あるわけねぇだろ!」
「ないなら確認しても構わないだろ?ルーク。こっちに来い。」
ライアンが手招きするけど、ルークは動かない。
「ライアン、ロイ君。申し訳ない。」
「は?」
「助けに来てくれたこと、二人には感謝している。だが、仲間をもう一人助けてもらう訳にはいかないだろうか?」
さっきから黙りこんでるから何を考えてるかと思えば、そんなことか。
まぁ俺とライアンもジェフとエイミーを助けてるし、これで一人につき一人助けたことになるね。
ライアンがこちらを伺っているので頷いてあげる。
「構わないぜ。」
「おいおいマジかよ。金はあるんだろうな?」
兵士がまた金の心配をしている。
「あるから言ってんだろ。早く連れてこいよ。」
「まぁあるなら文句はねぇ。で、そいつの特徴はどんなだ?」
ルークは助けたいという男の特徴を兵士に伝えた。
ここではベテランの奴隷らしい。
「おい、それって・・ははっマジか!」
特徴を聞いた兵士達が笑い出す。
「そいつは無理だなぁ。残念だが、売れねぇよ。」
「何故だ!あの男も借金奴隷だと言っていた。それなら金で解決できるはずだろう!」
ルークが兵士達に食って掛かる。
よっぽど助けたいのかな。
可哀想な身の上話でも聞かされたか?
兵士達はニヤニヤと笑みを浮かべてルークを見下している。
「あいつは借金奴隷じゃないからな。売れねぇんだよ。」
「何?しかし・・いや、犯罪奴隷だとしても買い取ることは出来るだろう。」
「だから、奴隷じゃないんだよ。」
言ってる意味がわからない。
奴隷じなきゃなんだって言うんだ?
ルークを見たけど、やっぱりわかってなかったみたいだ。
「じゃあルークだけでいい。ルーク。帰るぞ。」
話を打ち切ろうとライアンが口を挟む。
ライアンにはわかったのかな?
「待ってくれ。意味がわからない。どうゆうことだ?」
ルークが兵士に説明を求める。
「だから、お前が買いたいって言ったやつは冒険者なんだよ。普通は冒険者だけで集まって掘るんだがな。あいつは物好きだから奴隷に混ざって楽しんでるんだ。あることないこと奴隷どもに吹き込んで効率良く仕事をさせるから、こっちは助かってるがな。」
「冒険者?吹き込むって・・じゃあ、魔鉱を見つけたら解放されるっていうのは・・」
「そりゃーあいつの常套句だ。解放なんかしねぇし、そもそもあの辺りの坑道で魔鉱が出たなんて聞いたこともねぇぞ。」
「しかし!あいつは奴隷用の部屋で寝起きしてるぞ!」
「鉱山で働く冒険者はタダだからな。汚ぇし臭いから普通は金を払って宿屋に泊まる。」
まったく。
ルークは騙されて奴隷になった後もまた騙されているらしい。
人を信じるのは悪いことじゃないけど、この国では命取りになるぞ。
まぁこの国が悪いんだけどね。
これ以上こいつらを相手にするのは時間の無駄だ。
ルークの体からはもう奴隷紋から出るような魔力を感じない。
これなら大丈夫だろう。
それを確認した俺は、ライアンとルークを連れてツックの屋敷に転移した。




