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貴族っていいな

 貴族はまだ起きない。

 もうすぐ夜なのに。


 どうするかライアンと相談していたら、執事に呼ばれた。

 夕飯の準備が出来たって。


「頼んでませんけど?」

「ご迷惑でしたか?」

「いや、そんな事はないんですけど・・」

 ライアンは喜んでテーブルについた。

 ルークはいいのか?


「ロイ。早くしろよ。飯が冷めちまうぞ。」

「ルークは冷めたご飯しか食べてないかもよ?」

「それは自業自得だろ。」

 やっぱりまだ怒ってるらしい。

 まぁしょうがないか。

 今日明日に死ぬ訳じゃないだろうしね。


 俺達は初めて貴族の食事を味わった。

 料理は陶器の皿で出された。

 この世界にも陶器はある。

 だって金属が高級品なんだよ?

 鍋とかが高級品だったら生活が大変でしょ。

 陶器の器はよく使うよ。

 壊れやすいし重いから、冒険者はあんまり使わないけどね。



 出された料理は見たこともない食材ばかり!という訳ではないけど、当然のようにみんな美味しいものばかりだった。

 執事とメイドを食卓に誘ったけど、断られてしまった。


 奴隷だからって言ってたけど、確かに貴族が目覚めた時に一緒に食事してたらマズイとは思うよ。

 でも、食事を振る舞うのは良いんだろうか?

 警戒してるんだろうってことは伝わってくる。

 でも、警戒する場所がちょっとずれてるような気がする。


 食事を作ったのはさっきのメイドらしい。

 お礼を言ったらお辞儀で返された。

 そういえばこの子の声をまだ聞いたことがない。

 喋れない訳じゃないならこの子も警戒してるんだろうね。


「そういえば、お二人は借金奴隷ですか?」

「いえ、私は犯罪奴隷です。娘は私のせいで借金奴隷になってしまいました・・」

 メイドは娘さんだったのか。

 言われてみれば常に執事の後ろに隠れてるように見える。

 いや、メイドってそうゆうものか?


 それにしても、犯罪?

 執事の人柄を見る限り、悪いことをしそうには見えないけどな。

 娘さんが借金奴隷ってことはお金にでも困ってたのか。


「ちなみに犯罪、というと?」

「それは・・」

 今日はもうやることもないので、詳しい話を聞いてみた。


 ライアンが聞いたところ、執事の名前はジェフと言うらしい。

 ちなみにメイドの名前はエイミーだ。

 名前をちゃんと聞くとは感心だな。

 こちらも聞かれれば聞き返すんだけど、わざわざ聞く気にならない。

 こんなに長く一緒にいると思ってなかったしね。



 ジェフは元々このイゴイスで鍛冶屋をやっていたらしい。

 鍛冶屋というのは武器や防具を作ったり、修理を生業にする仕事だ。

 武器屋や防具屋との違いはそんなにない。

 まぁ売るのがメインか、作るのがメインかの違いくらいだ。

 自分では武具を作らない店では全ての鍛冶仕事は鍛冶屋に依頼するらしい。

 ちなみに革製の武具も当然扱う。


 ジェフの店はここの貴族も贔屓にしていたらしいので、かなりの腕を持っていたんだろう。

 貴族からも専属の鍛冶屋になれと何回も言われては断っていたそうだ。


 しかしある日、仕事で詐欺にあった。

 貴族から研ぎ直しを頼まれた剣が、鞘から抜いたら折れていたのだ。

 当然ジェフは剣に何もしていない。

 貴族がわざと置いて行ったんだろう。


 常連客ということもあるし、研ぎ直しはよくある仕事なので油断していたらしい。

 最初は剣を打ち直しても良いし、弁償しても何とかなると思っていた。

 しかし、貴族の剣を折ったというのを不敬罪と言われたジェフは犯罪奴隷に。

 膨大な賠償金を請求されてエイミーは借金奴隷にされてしまったのだ。


 二人とも貴族が自分で買い取る辺りがあからさま過ぎる気がするんだけど、この国では何でもありなんだな。

 しかし、ジェフは鍛冶屋としての腕が欲しかったとわかるけど、何でエイミーも?

 女だからか?

 可愛いもんな。


「この子はまだ若いですが、それでも紋章士としては一流ですので。」

「ん?紋章士って?」

「魔力石に魔法陣を刻んだり、物や人を強化する紋章を刻む仕事ですよ。」

「魔力石は聞いたことがあるけど、物や人に?そんなことが出来るの?」

「はい。効果は紋章士の腕と才能次第ですが、この子には才能がありますので、それなりには。」

 紋章を刻んだ剣なら魔鉱じゃなくてもアイアンゴーレムを切れるのかな?

 しかし、二人とも職人だったのか。

 てっきり執事とメイドだと思ってたよ。

 料理も美味しいし。


「ちなみにその格好は?」

「旦那様は趣味以外にお金を使いたがらないのですよ。使用人の服はこれしかないんです。料理人はもちろん、庭師やメイドは皆首になりました。その後、激務に耐えきれずに執事も逃げてしまいまして・・」

 庭師がいないから庭が汚かったのか。

 しかし、執事が逃げるって・・

 根性ないっつーかなんつーか。

 それで残ったのは奴隷だけってことか。

 貴族として終わってるな。

 それにしても、料理人が首になったのはこのエイミーの料理が旨いからじゃないのか?

 ただの家庭料理の味じゃないだろ。


「紋章士ならその奴隷紋ってのは消せるんじゃないの?」

「いえ、たしかに刻むことは出来ますが、これは魔力が鍵になってますので。最初に魔力を流した者にしか奴隷紋は消せません。」

「ちなみに最初に魔力を流した人が死んだら?」

「奴隷紋は消えませんが、効力は一時的に無くなります。」

 なるほど、そんな風になってるのか。

 じゃあルークを解放するにはルークの奴隷紋に魔力を流した人を探さなくちゃいけないわけね。

 大変そうだな。


「ちなみに二人の紋章はさっきの貴族が消せるの?」

「はい。」

 執事が期待を込めた目でこちらを見てくる。

 俺達に優しい理由はこれだったのか。

 手の込んだお願いだな。


「じゃあ貴族が気が付いたらあっちにも事情を聞いてみますか。」

「ありがとうございます。」

 そう言ってジェフとエイミーが頭を下げてきた。

 エイミーの方は疑わしそうな顔をしている。

 まぁそうだろうね。

 騙されたからここにいるんだし、簡単に他人を信じることは難しいだろう。

 でも、さっきまでは完全に無表情だったのに少しだけ表情が生まれた。

 これも進歩なのかな。


「ところで、ここでも剣は打てるの?」

「はい。私たちはそのためにいるようなものですので。」

「じゃあ良かったらだけど、ライアンの剣を打ち直して貰えないかな?」

「畏まりました。すぐにとりかからせて頂きます。」

 ジェフはライアンから魔鉱を芯に使ってる剣を受けとると、すぐに部屋を出ていった。


 さっき執事が集めてきた金目の物の中に鍛冶の道具はなかった。

 自分達の私物だからか、仕事道具に愛着でもあるから渡したくなかったのか。

 どっちにしてもちゃっかりしてる。

 それを守るために一階の金目の物は自分達で玄関ホールに持ってきたんだろう。


 別にいいけどね。

 私物だって言われれば貰わなかったし。

 まぁ剣の出来映えを見ればさっきの話が本当かどうかの参考にはなるだろう。

 結果が楽しみだ。


 俺とライアンの食事は終わった。

 だけど、この後どうすればいいのかわからないので動けずにいる。

 同じ部屋にはなぜかメイドが残っている。

 静かな沈黙に耐えきれなかったのか、ライアンが色々とメイドに質問している。

 エイミーは声が出せない訳じゃなかったらしい。

 ちょっと安心した。



 ジェフとエイミーはヴァンフォーレ王国という国の出身らしい。

 道理でこの国の人とは対応が全然違う訳だ。

 言葉遣いもすごく丁寧だしね。

 話してるだけでさっきの話もホントかな?って思ってしまうのは間違いだろうか?


 エイミーは紋章士の仕事を母親に習ったんだって。

 母親は今もヴァンフォーレの都で紋章士をしてるらしい。

 どこにもいないし、話にも出てこないから死んだのかと思ってたよ。

 まぁ娘が奴隷になったのに助けに来ないんだから、仲が良い訳じゃなさそうだ。


 今まで俺が知らなかった紋章という物についても教えて貰った。

 紋章士が刻む紋章には基本的なものだけでも数種類あるらしい。

 剣に刻み込むものだと切れ味を良くするのが一般的な使い方だけど、鎧や体に直接刻み込んで防御力を強くすることも出来るんだって。

 ちなみに魔法陣を剣の手元近くに刻み込んで魔法を素早く発動することも出来るらしい。

 便利なものなんだね。


 魔力石に魔法陣を刻み込む特殊な職人がいるっていうのは昔聞いたことがあるけど、紋章士って言うんだね。

 初めて知ったよ。

「それはさっき渡した剣にも刻んでもらえる?」

「はい。私で良ければ。」


 ライアンはエイミーに切れ味が良くなる紋章をお願いした。

 材料に魔鉱を含んでるから丈夫さはそこまで必要ないもんね。

 しかし、ジェフもそうだったけどエイミーも喋り方が硬い。

 俺達に遠慮してるのかな?

 故郷の話題でも振ってみるか。


「ところで、ヴァンフォーレってどこにある国?」

「えっ?知りませんか?」

 エイミーが意外そうに聞いてくる。

  知らないな。

 今の反応を見る限りだと、かなり有名なんだろう。

 でも、俺もライアンもこの辺りの地理には疎いんだよ。


 ふとライアンを見ると、俺のことを呆れた顔で見ている。

 あれ?

 もしかして・・


「イゴイスの西にある国ですよ。自然豊かで人も皆優しいので、是非一度行ってみて下さい。」

 マジか。

 僕、気に入ったから今も住んでます。


「ごめん。行ったことあったよ。ヴァンフォーレ王国は俺も好きだ。・・ところで、ここの貴族の名前って何て言うの?」

「知らなかったんですか!?」

「えっ?まぁ、ここには連れてこられただけだし。」

 ライアンを見たけど、これは流石に知らなかったらしい。

 知らなくても当然だろう。

 紹介される前に倒しちゃったからね。

 この世界じゃ表に表札も出さないし。


 ここの貴族はツックと言うらしい。

 発音しづらい名前だな。

 まぁ呼ぶこともほとんどないだろうからいいけどね。

 ちなみにツックはたぶん名前だろう。

 貴族には家名がある。

 孤児院で先生が言ってたから、この大陸でも一緒ならそのはずだ。

 でもフルネームを使うのは正式な行事の時くらいで、ほとんどの貴族は家名とファーストネームのどちらかしか名乗ることはないらしいからね。

 使用人のエイミーが片方しか知らないなら、きっと名前の方だろう。


 ちなみにカークは家名だと思う。

 地名にもなってるんだからきっとそうでしょ。

 違かったらビックリだよ。


 それで、ツックは結婚してるけど、子供はいないらしい。

 奥さんはツックとは反対に領地から出てこないので、エイミーも会ったことはないんだって。

 領地は海の方で爵位は一応子爵らしいから、まぁ偉いのかな?


「すごく偉いんですよ!?」

「そぉ?まぁ偉いんだろうね。元貴族だし。」

「今は身ぐるみ剥がされて、ただのオッサンだけどな。」

 ライアンも同じ意見らしい。

 ツックは身ぐるみを剥いで縄で縛ってある。

 気絶してから随分経つけど、まだ目が覚めないのか?


「そういえば、ツックってまだ起きないのかな?」

「さっき見てきた時は寝てましたね。」

 エイミーが少し呆れながらも答えてくれる。


 寝てたって・・

 逃げないように倉庫みたいな部屋に閉じ込めてはあるけど、起きたら騒ぐと思ってたよ。

 まさか寝るとは。

 なかなか神経の図太いやつだったらしい。


「どうする?起こす?」

「どっちでもいいけど、明日でいいんじゃねぇか?どうせ今から動く訳じゃないしな。」

 ということで、今日はツックの家にお世話になることにした。

 ヴァンフォーレの王都の宿は長期滞在で部屋を取ってあるから宿代は無駄になっちゃうけどね。


 貴族の家だけあって、客室もかなり豪華だ。

 ベッドの寝心地も最高。

 宿より快適かもね。


 いや、専属の執事とメイドと鍛冶屋と紋章士と腕の良い料理人がいる家か。

 宿より良いのは当然だな。


 それにしても、俺、このベッドを収納にしまって持っていこうかな?

 日本でもこんなに寝心地の良いベッドで寝たことないよ。


 貴族っていいな。


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