閑話休題・ルークの日常
私の名はルーク。
職業は元冒険者だ。
今はひょんなことからイゴイスという国の奴隷として鉱山で鉱夫をしている。
借金奴隷としてここで働くことになったが、私は借金などしていない。
騙されたのだ。
今思えば、契約書など必要なかった。
その場で払えば終わったのだ。
一緒に旅をしていたライアンは反対していたのに、言うことを聞かなかった私の責任だ。
思い返してみると、私は焦っていたのかもしれない。
見る見る成長していくライアンを見ていて嫉妬していたのもあるだろう。
そのくせ私はライアンが素振りや型をやるトレーニングを毎日ただ眺めていただけ。
バカな話だ。
騙されてこうゆう結果にはなったが、私の待遇に不満はない。
自分のしたことの責任は自分で取るつもりだ。
しかし、ライアンを巻き込んでしまったのはとても申し訳なく思っている。
きっとライアンは怒っていることだろう。
それも当然だ。
「後で揉めないためにちゃんと契約書を作ろう」、という御者の言葉を私は信じた。
ライアンは私が人を信じすぎると言ったが、それは違う。
御者の言葉に反対するライアンのことを、私は信じなかったのだ。
私はライアンに何を言われてもただ謝ることしか出来ないだろう。
そういえば、ライアンは今どうしているだろうか?
彼には不真面目なところがあるので、少し心配だ。
反抗的な態度を取らず、ちゃんと主人の言うことを聞いているのか。
そもそも買い主が見つかったのか。
まぁ買い主が見付からなければ最終的にはほとんどの奴隷がこの鉱山に来ることになるらしい。
だから、ここにライアンがいないのが唯一の安心材料だ。
奴隷とはいっても、私は借金奴隷だ。
借金さえ返せば自由になれる。
運の良いことに、この鉱山での仕事は体がきつい代わりに給料は良いらしい。
きっとライアンよりも早く自由になれるはずだ。
だから早く自由になって、ライアンの分まで借金を返すつもりだ。
それが人の道、というものだろう。
「おら!お前ら仕事だぞ!」
監視が奴隷達を呼びに来た。
さあ、今日も仕事が始まる。
「サボるな!埋めちまうぞ!」
ここの監視はいつも言葉が悪い。
それに頭も悪そうだ。
確かに私達は流れ作業で掘り返した鉱石を運んでいる。
誰かがサボればそこで作業が滞ってしまうだろう。
しかしサボったからといって、そいつを埋めてどうするというんだ。
誰が埋める?
私達か?
仕事の邪魔になるそれを、また私達が掘り返すのか?
それは時間の無駄だろう。
そんなに働きたくないなら坑道の入り口にでも鎖で繋いで置けばいい。
魔力濃度が濃いせいか、鉱山に出る魔物は沢山いる。
入り口ですら見張りがいないのは問題だと思う。
坑道に入り込まれるくらいなら奴隷を鎖で繋いで置けば必死で戦うことだろう。
ここでの生活は効率が悪いことが多すぎる。
例えば、重労働をする時は一日二食では午後には力が出なくなる。
こんなの常識だ。
だけど、ここでは一日二食の上、一回の食事も少ない。
サボりたくもなるってものだ。
まぁそれには奴隷にも落ち度はある。
朝から張り切るから午後にバテてしまうのだ。
ペース配分も考えずに激しい運動なんてしたら体を壊すだけだ。
それと、ここは安全に無関心過ぎる。
坑道の中は掘りっぱなしのところがほとんどで、落盤がしょっちゅう起きる。
人が巻き込まれることも少なくない。
落盤が起きる度に作業は滞る。
これも効率が悪い原因の一つだ。
所々補強されてるのはほとんどが監視の立ち位置だ。
奴隷のための補強なんて時間と資材の無駄、とでも思っているんだろう。
同じ場所で何度も落盤が起きていると聞いた時には大いに呆れたものだ。
それに、鉱山では街道とは比べ物にならないほどに魔物がよく出るのに、奴隷には武器も持たされていない。
つるはしは坑道の最奥にしか用意されていないので、表では被害もかなり出るらしい。
奴隷紋があるから反乱の心配はないのに、監視兵達は何を考えているんだ。
奴隷だってタダじゃない。
死ねば補充が必要になるし、怪我をしたら治療のために働けなくなるだろう。
そんな意味でもここは効率が悪い。
まったくわかっていない。
もっと上手くやることを覚えるべきだ。
もっとも、私は新人だ。
何か理由があってやってることなのかもしれないし、ここにはここのやり方があるんだろう。
だから今の私に出来ることといえば、言われたことをキチンとやるだけだ。
昨日、また落盤事故が起きたらしい。
坑道は沢山あるし、中も入り組んでるから自分の知らないところで起きている事故も多い。
自分達が巻き込まれないように注意して掘り進めよう。
そういえば、この山では全体でいったい何人の奴隷が働いているんだ?
今日聞いた話によると、この鉱山には冒険者も働いているらしい。
坑道が別になってるので、仕事中に会うことはほとんどないらしいが。
冒険者の話の他に良い話を聞いた。
鉱山で魔鉱を掘り出すと、掘り出した奴隷は解放されるらしい。
これは探すしかないだろう。
昔のことだが、この坑道でも魔鉱が出たことがあるらしい。
ベテランの奴隷が言うには、その時に掘り出した奴隷はちゃんと解放されたようだ。
そうゆう約束なのだからちゃんと解放されるのが当然だと思うのだが、奴隷はみんな興奮してその話を聞いていた。
今日は魔鉱の話を聞いたせいか、仕事の効率が上がっている。
いつもサボって怒られている奴隷も午後になっているというのに、先頭に立ってつるはしを振っている。
これは負けられないな。
魔鉱を掘り返すのは私だ。
魔鉱の話を聞いてからというもの、一日の終わりにはみんなで魔鉱が取れたか聞き合うのが習慣になっている。
そんなに簡単に取れるものではないんだろう。
毎日張り切っているせいでみんな疲れている。
基本的に奴隷に休みはない。
しかし、私のように借金奴隷なら一日休むのは意外に簡単だ。
怪我を申し出て治療を希望すればいい。
しかし、治療を受けるのは有料だ。
借金が増えるので、その方法を使うのは本当に怪我を負ったものだけだろう。
魔鉱の話をしてくれたベテラン奴隷に借金の額を聞かれた。
おそらくライアンと半分ずつだと思うので、その額を伝えると「可哀想に」と言われた。
ベテラン奴隷も借金奴隷なので額を聞くと、銀貨30枚と言う。
そんなに少ないのにベテラン?
何年働いてるのか聞くと5年だと言う。
金額はともかく、同じ坑道で一番のベテランで5年だ。
やはり稼げるだけあって、自由になる日は近そうだ。
しかし、このベテランは俺が来てからずっと一緒に働いているけど、休み休みやっているのか?
そうでなければとっくに自由になっているはずだ。
もしかしたら昔落盤とかで大きな怪我をしたのか、体が元々弱いのかもしれない。
そう思って見てみるとこのベテラン奴隷は、体も細いし肉体労働をしているようには見えなかった。
やはり体が細いのは病弱なせいなのか。
俺はベテラン奴隷と持ち場を交代した。
弱った体でつるはしを振るのは辛いだろう。
出来るだけ俺が代わってやろうと思う。
「お前ら!仕事だぞ!」
今日も仕事が始まる。
昨日の疲れが抜けていない。
少し張り切りすぎたかもしれない。
鉱山の山小屋にはベッドなんかない。
体が痛いのはそのせいもあると思われる。
それに鉱山の中は魔力濃度が高い。
濃すぎる魔力はそこにいるだけでダメージになると聞いたことがある。
まぁそれでも私は鉱山ではかなり若い方だ。
すぐに慣れるだろう。
「おい!お前!客だ!」
奴隷に客が来るのが珍しいのか、周りの奴隷達が一斉に私のことを見ている。
私に客?
もしかして、ロイ君が来たのだろうか?
そういえば、役人に渡してしまったお金はロイ君から借りていたものだった。
彼にもしっかり謝らなければならない。
仲間の奴隷達からの刺さるような視線の中、私は呼びに来た兵士の後を歩きだした。




