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お仕置きは必要でしょ?

 次の日、朝ご飯を食べたあとで俺達はイゴイスに戻った。

 ライアンもこの宿のご飯は気に入ってくれたらしい。

 俺がいつまでも王都の宿を使ってるだけあるからね。

 ライアンはルークはほっといてもう一泊しようって言ってたけど、たぶん本気だ。

 流石に奴隷にされたら怒るでしょ。


 でも、何だかんだ言っても付いてきてくれるんだから、ライアンも優しいよね。

 まぁ残っても俺が何とかするけど、ライアンがいた方がやりやすいこともある。



 俺達はまず、乗り合い馬車の御者を探した。

 着いたのが一週間以上前だともう出てしまってるとは思ったんだけど、念のためだ。


「ダメだ。いないな。」

「だろうね。」

 やっぱり馬車の溜まり場にはいなかった。

 だけど、諦める必要はない。

 乗り合い馬車なんて大体同じルートを往復してるか、回ってるはずだ。


 今回探してる馬車は往復タイプらしい。

 じゃあ探すのは簡単だ。

 首都の一つ前の街に行けばいい。


 転移して馬車を探したら、昨日通り過ぎたところだった。

「どうすんだ?馬車がいる場所なんてピンポイントでわかるのか?」

「わかんないよ。だけど、街道を辿ればいるでしょ。」


 昨日出たならすぐ近くにはいないだろう。

 俺は大体この辺りか、というところの手前に転移した。

「いないぞ?」

 ライアンは焦りすぎだ。

 たぶん俺が街道を進むのが早いのも走ってるからだと思ってるんだろうな。

 まぁ空を飛べるなんてライアンに言ったことはないから当然か。


 一応ライアンに声をかける。

「飛ぶよ。」

「は?」

 俺は『飛行』を発動した。

 今回は二人をしっかり包むのがめんどくさいので、結界のようにボールの形にして中に入って移動する。

 中で転がってしまうので小回りは全く効かないけど、まぁ移動は速い。


「おい!なんじゃこりゃ!」

 ライアンは初めての感覚に驚いている。

 当然だろう。

 飛行機もないんだから、空を飛んだやつなんて『飛行』でも持ってない限りほとんどいないはずだ。

「『飛行』っていうスキルだよ。一人だともっと乗り心地は良いんだけどね。あっ、喋ると舌噛むよ。」


 俺達は高速で街道の上を移動した。

 ライアンが後ろでゴロゴロ転がっている。

 まぁ立つどころか座るのも無理だよね。

 街道は曲がりくねってるので、その上を飛んでる俺達は左右に振られまくる。

 俺だって魔力で作った手すりに掴まってやっと前を向いてるだけだ。


 5分ほどで馬車が見えてきた。

 大体考えてた辺りにいたらしい。

「ライアン。あの馬車であってる?」

「あ!?あぁ間違いねぇ!」

 転がりながら見えたのか?

 器用なやつだな。


 馬車に追い付くと、スピードを合わせてライアンに話しかけた。

「ライアンって御者はできるの?」

「まぁ少しならな。ってどうするつもりだ?」

「さあ?どうしようか?」


 特に考えてないけど、御者を誘拐しようかな?

 客がいるとめんどくさいし。

「だったら客を転移で飛ばせないか?」

 それは客を目的地に飛ばすってことか?

 どっちにしても邪魔は居なくなるけど、街道の真ん中に客を放置するよりはいいかもね。

「じゃあ、そうしようか。」


 やることが決まったので俺は馬車の前に回り込んで馬を止めた。

「なんだお前!死にたいのか!」

「客に用があるからちょっと黙ってて。」


 俺は一先ず御者を無視すると、後ろのライアンの様子を見に行った。

 ちなみに馬は俺が張った結界で動けなくしてある。


「こいつとこいつは王都だ。で、こいつは前に俺達が一度会った街まで行きたいらしい。できるか?」

 ライアンはもう目的地を聞き出したようだ。

 仕事が早いのは良いけど、全部で3人しかいないのか?

 出発したばっかりだとこんなものなのかな?


 それよりも、3人ともイゴイスから出るのか。

 まぁこんな国は出たいだろうけど、イゴイスの人間を増やすと王都が汚れていく気がする。

 それに不法入国にはならないのかな?


 疑問は沢山あるけど、今回は目を瞑ることにした。

 今回は特別だ。


 客をさっさと転移させると、辺りには御者の怒鳴り声が響いていた。

「この駄馬が!進めと言うのがわからんか!」

「駄馬はお前だろ。」

 御者はライアンの方を向くと鼻で笑った。


「ハッ!なんだお前は!」

「覚えてないのか?」

「あ?お前みたいな貧乏人は知らんぞ。」

 ライアンがこちらをチラリと見ると前に出た。

 任せろってことかな?

 俺はライアンの変幻魔法を解いた。


「これでもわからないか?」

「あ?・・お前は!なぜここにいる!」

「せっかく弁償したのに馬車は買い換えないのか?」

 ライアンは剣を抜いた。

 ゆっくりと御者に向かって歩いていく。

 御者は馬に鞭をいれ続けるけど、馬は進みたくても進めない。

 馬が可哀想なので鞭は魔力を操って取り上げた。


「な、何だこれは!何が起きてる!」

「ライアン。役人もお仕置きしたいから殺さないでね。」

「あぁ。わかってる。」

 このあと、ライアンの仕返しが始まった。

 傷付き過ぎたら俺が回復させるから、死ななければ何の問題もない。


 俺は御者をライアンに任せると、一人で馬車を漁った。

 積み荷はほとんどが保存食だったけど、御者の横にあった箱にはお金が詰まっていた。

 金貨は少ないけど、これだけあればルークは買い戻せるだろう。

 もちろん全部貰っておいた。


 馬車を漁り終えた頃、ライアンの仕返しも終わったようだ。

 御者はボコボコに殴られていた。

 血はあまり出てないようだけど、服は無惨に切り刻まれている。

 自業自得だね。


「仲間の役人のところに連れていけ。」

「あぁ。いや・・はい。」

 弱いな。

 ちょっと殴られただけでこれか。

 嫌なやつだ。


「馬車はどうする?」

「売ればいいでしょ。」

「運ぶのか?」

 大きいけど、転移で運べると思う。

 ここに置いていったら馬が可哀想だ。

 転移も散々やってるからね。

 使い方も慣れたもんだよ。


 俺達は転移でイゴイスの首都に戻ると馬車を安値で売りさばいて役人のところに向かった。

 御者が仲間に話しかけていたから何か企んでそうだけど、どうせ大したことじゃないだろう。

 それごと潰してやる。


 と思ってたんだけど、どうやら御者は首都の城か貴族街区に向かっているようだ。

 別に貴族が相手でもいいけど、貴族の家って漁るのに時間がかかってめんどくさいんだよね。


 御者が街をドンドン進んでいく。

 街並みが綺麗になっていくのに合わせて御者の顔に自信が戻ってきた。


「おい。まだか。」

「さあなぁ。まだまだかも知れんぞ?」

 つまり、このまま城まで行っちゃうかもよ?っていう脅しか?

 別にいいぞ。

 一度城とか入って見たかったし。


「ロイ。平気か?」

 ライアンも城はさすがに不安なのかな?

 顔が心配そうだ。

「まったく問題ないよ。」

「・・そうか。」


 俺の言葉でライアンの表情が元に戻った。

 信頼されてるって良いね。


 御者の足は貴族の家が並ぶエリアと商店が並ぶエリアの中間付近で止まった。

 城まではまだ遠いしエリアを分ける門や塀がある訳じゃないけど、一応は貴族の居住区のはずだ。


「ここだ。引き返すなら今だぞ。」

 御者が誇らしげにライアンを振り返った。

 お前の家じゃないだろうに。

 目の前には貴族のものと思われる屋敷がある。

 貴族の住むエリアの端にあるだけあって、そこまで大きい訳じゃない。

 それでも日本ではなかなか見かけないくらいの豪邸だけどね。


「・・小さいな。」

 俺がボソッと呟いた言葉にライアンと御者が驚いている。

 だってカークの家と比べたらかなり小さいぞ。

 門の隙間から中を覗いただけでも、敷地は広そうには見えるものの庭だって汚いし、品がない。


「空き家じゃないだろうな。」

「ば、バカな!失礼だぞ!」

 ん?

 これはどっちの反応だ?

 図星かな?

 まぁ、どちらでもいいけどね。


 中にはまぁまぁ強そうな気配がいくつかある。

 待ち伏せは間違い無さそうだ。


「さっさと入れよ。」

「門が閉まってるだろうが!開くのを待て!」

 やだよ。


 バン!

 ノックのつもりで蹴ったら開いた。

 鍵がかかってなかったんじゃないか?

「早くしてよ。」

「わ、わかった。」

 御者が目を丸くして驚いている。

 でも、その後も自信のある歩調は変わらない。

 待ち伏せしてるやつらに自信があるのかな?

 そんなに強い気配は感じないけどなぁ。


 御者に建物の入り口のドアを開けさせて中に入ると、そこには御者がさっき話していたやつと兵士が一人立っていた。

 そこに御者は駆け込む。

「助かった!」

「ホントに来やがったな!」


 俺はその時、家具の品定めをしていた。

 玄関ホールはまぁまぁの広さがある。

 まだ遠目でよくわからないけど、貴族が使うだけあって高そうだ。

 玄関というのは、この屋敷を訪れた人がみんな通る場所だ。

 置いてあるものにも多少のこだわりがあるんだろうね。


 家具がちゃんとあるってことは空き家じゃないんだよな?

 一応掃除も行き届いてるみたいだから誰か住んでるんだろうけど、貴族の家は生活感がなくてわからん。

 庭が汚かったのは何でだろ?


 今度はカークの時と違って家具も売ろうか悩んでいた時、正面の階段から白髪混じりのおじさんが降りてきた。

「そいつか?殺せば金貨10枚出すって言うのは。」

「はい!約束通り、私は半分残れば御の字です!」


 ちゃんと数えてなかったけど、御者が持ってた箱には金貨20枚も入ってたってことか。

 銀行がないと大変だね。


 ライアンはさっきから俺の方をチラチラ見てくる。

 注意を促してるんだろう。

「ロイ。」

「わかってるよ。」


「どうだ?今からでも謝るなら命だけは助けてやってもいいぞ。長生き出来るかは買い主によるがなぁ。」

 貴族のおじさんがいやらしい笑いを浮かべて言ってるのはつまり、持ってる金はもらうけど奴隷として売り飛ばすってことだろう。

 なるほど、ここにいる連中の使い道が決まったな。

 人が売れるとは便利な街だ。

 山に捨てなくて済む。


「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとかかってこいよ。」

 俺の宣戦布告に反応したライアンが剣を抜いて左右を警戒する。

 今俺達から見えているのは、御者が二人と兵士と貴族の4人だけだ。

 だけど、ライアンも気が付いていたように、左右の部屋にも気配が二つずつあった。


 貴族は俺の言葉が気に触ったのか、プルプル震えている。

 貴族は短気ばっかりか?


「殺せ!」

 貴族の合図で左右の部屋から兵士4人が出てきた。

 正面の兵士が剣を抜くと、左右の兵士も全員抜剣する。


「右は任せろ!」

 ライアンが右側の兵士に向かって剣を構える。

 俺は左と正面の兵士を魔力球で殴り飛ばした。

 起き上がってこないのを確認すると、ライアンの言葉に答える。

「任せた。」


 残りの兵士は右側だけだ。

 任せろと言ったからには大丈夫だろう。


「くそぉ!」

 ライアンが明らかに自分の不用意な発言を後悔している。

 死ななきゃ治療出来るから頑張れ。


 俺は呆気にとられている貴族達と向き合った。

「ゴフッ!」

 とりあえず邪魔な御者の友達は黙らせる。


 後二人。

「ま、待て!私の元で働かぬか!?金は思いのままだぞ!」

「寝言は寝て言え。お前のものは俺のものだ。」

 なんかテンションが上がってガキ大将みたいなことを言ってしまった。

 まぁいいか。


「ねぇ御者の人。役人がいないみたいだけど、こいつが黒幕?」

「そうだ!俺はこいつに言われて仕方なくやったんだ!」

「ふ、ふざけるな!俺はお前が金を払うと言うから口をきいてやっただけだろうが!」


 うーん。

 とりあえず貴族がいれば役人は探せそうだから、御者はいらないかな?

 俺は御者も黙らせると貴族に向き合う。


 ここでふとライアンの方を見ると、もう片方の兵士は倒したみたいだ。

 二人相手はちょっと厳しいかと思ったんだけど、さすがライアン。

 器用なだけじゃなくて剣術の才能もちゃんとある。

 これならすぐに終わりそうだね。


「くそっ!」

 貴族は俺がよそ見をしてる隙に壁に向かって走った。

 そこには飾り用にしては地味な剣が飾ってある。

 貴族は剣を壁から取り上げると、素早く鞘から刀身を抜き放った。


 おや?

 貴族の気配が強くなっていく。

 装備が増えるとこんな感じになるのか。

 よくよく気配を探ると、元からの気配に装備分が足されていくのがわかる。


 剣を持った貴族自身の気配もなかなかのものだ。

 他の兵士よりも強そうだぞ?

 貴族の嗜みで剣術でもやってるのかな?

 それに、剣の気配も強い。

 玄関に飾ってあるのに装飾が少ないことからも、お飾りの剣では無さそうだ。

 もしかして、魔鉱か?


 貴族は準備が出来たのか、剣を一振りすると俺に向かって構えた。

 貴族ってのは戦いの最中なのにのんびりしてるね。

「俺が相手をしてやる!かかってこい!」

「・・わかった。」


 俺は貴族に魔力球をぶつける。

 貴族は吹き飛ばされて壁にぶつかったまま、起き上がってこない。

 どうやら気を失ったらしい。

「・・何なの?」


 思ったよりも雑魚だったようだ。

 剣もたぶん魔鉱じゃなかったんだね。


 そこにライアンが近付いてきた。

 死ぬことはないと思ってたけど、兵士二人を相手にしても傷一つ付いてないようだ。

 しばらく見ない間に強くなったな。

 というか、弱いぞ兵士。


「終わったのか?」

「役人を見付けてないでしょ。ルークを助けてないし。」

 貴族との戦いでルークのことを忘れたのか?


「役人よりもこいつの方が都合が良いと思うぞ。」

 あぁ、なるほど。

 役人に口をきいてたのはこいつだっけ。

 じゃあこいつでもいいか。

 役人にもお仕置きは必要だと思うけどね。


 俺は貴族が起きるのを待つ間に、家を漁ることにした。


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