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イゴイスは空気が悪い

 イゴイスの東の方にはライアン達はいなかった。

 今は念のために南を探している。

 首都の北は山だから、南にいなければまだこの辺りには来てないんだろう。


 俺はダッシュに飽きたので街道の脇で剣術の型をやっていた。

 猛スピードで。

 鎧を着てやると体の使い方が変わる。

 かなり力も必要になるし、動きは一緒でも中身が全然違う。

 鎧の重さに体が振り回されないように練習しておかないとね。


 最近は木刀も振れてなかったから、なんだか新鮮な気持ちだ。

 とはいえかなり力も付いてきたし、そろそろ真剣を買うのも良いかも知れない。

 鎧はもちろんだけど、剣を変えても重心は変わる。

 俺はこの木刀しか振ったことはないから、真剣を持って戦うには練習が必要になるだろう。

 使いたい時に使えないのは辛い。

 だから早めに用意した方が良いかもしれない。


 一通りの型をやり終えた後、空を飛んで移動しながら、ふと気が付いた。

 おかしい。

 俺って・・昔は魔術師を目指してなかったっけ?

 いつからこうなった?

 全身を鎧で覆ってるなんて戦士みたいじゃないか。


 ハンターになろうとしたせいかな?

 魔法しか出来ないとハンターにはなれないからと体を鍛え始めたからかな。


 まぁいいけどね。

 鍛えて困ることはないし。

 この体はやっただけ成長する。

 面白いほどにね。

 これがやらずにいられるか。

 って、それが原因か。



 首都の南にもライアン達はいないようだった。

 俺も、流石にそろそろ異常だとわかってきた。

 日程的にもそろそろ到着してないとおかしい。


 それに、俺はこの首都を目指してる途中でライアンとルークを見なかったか、念のために聞いておいたんだ。

 最後に目撃されたのは首都からすぐの街だ。

 すぐといっても馬車で5日くらいはかかるらしいけど、目撃されてからの時間を考えたら歩きだってそろそろたどり着いてるはずだ。



 俺はイゴイスに戻ると馬車の溜まり場に行って聞き込みをした。

 でも、最近起こった事故などの情報はないらしい。

 街道も落盤とかそんなこともなく、どの街にも行き来出来るそうだ。

 当然のように情報料を求められたけど、今回ばっかりは嘘を教えられては敵わないので、ちゃんと払った。


 俺はどこでどんなボッタクリをやったかとか、そんなことで盛り上がってる御者の溜まり場をあとにした。

 空気が悪いなぁ。

 もう早くこの国を出たい。


 ライアン達が使ったのは西側の馬車のはずだけど、念のために反対側の出入り口でも聞き込みをした方が良いかもしれない。

 俺はデカい首都を『飛行』で飛び越えようとした。


「まったく、ライアンはどこへ行ったんだよ。・・あれ?」

 城の近くを通り過ぎていた時、北の方から不思議な感覚を感じた。

 感知魔法を使ってみるけど、感じる感覚に変化はない。

 少し気になったのでそちらに向かってみることにする。

「これは・・ライアン?」


 最初に異変に反応したのは『魔力感知』だ。

 近付いてみると、『気配感知』でも感じることが出来た。

『気配感知』ならともかく、『魔力感知』で人が見分けられるとは知らなかった。

 というか、今までは出来なかったからね。

 冒険者カードを取り出すと、『魔力感知』の文字の横からレベルの表記が無くなっていた。


 いつの間にかスキルのレベルが上がったらしい。

 それに伴って感知魔法の効果がほとんど無くなったっぽい。

 ということは俺が知ってる感知魔法は、感知スキルを一時的に使えるようにする魔法だったらしいね。

 今試した感じだと、魔法と変わらない精度があるらしい。


 城よりも北側、貴族街を抜けた辺りにある建物。

 そこにライアンの気配があった。

「何の建物だ?宿には見えないけど、兵舎かな?」


 沢山の兵士が建物の周りをウロウロしている。

 敷地には多くの馬車が入っていくので、日暮れという時間的に多くの人が中で暮らしているんだろう。

 そんなところでライアンは何をしてるんだ?

 それにこの辺りからはルークの気配を感じない。

 どーゆーことだかさっぱりわからないね。


 建物の正面に回り込むと、上から見たのではわからないことがわかってきた。

 この建物は・・何だろう?

 最初は刑務所かと思った。

 高い塀が周りを囲んでて、兵士が守ってて中に人が沢山いたらそう思うでしょ。

 しかもレベルは高くなさそうだけど、建物が結界に囲まれてる。

 この結界のせいで遠隔通話が通じなかったらしい。

 何なんだこの建物は。


 たぶんだけど、ここは刑務所じゃない。

 さっき敷地に入っていった馬車から降りてきたのはおそらく、商人だった。

 商人が来る刑務所か?

 それって・・


 嫌な予感がする。

 とりあえず、結界を破らないようにちゃんと門をくぐると、ライアンの元に向かう。

 どうやら裏口の方が近いらしいので、そちらに行って進入した。

 俺は警備を掻い潜って、手早くライアンの気配に近付いて行く。


 ライアンは一人でいた。

 ライアンがいた部屋にはライアンの他にトイレしかなかった。

 廊下側も窓にも鉄格子がある。

 どうみても牢屋だ。


「ライアン、何をやったんだ?」

「あ?ふざけんな!嵌められたって言ってんだろ!」

 ライアンはこちらに振り返りながら無罪を訴える。

 俺を視界に入れると、何か不思議なものを見るように全身を見てくる。

 そう言えば変幻魔法をかけっぱなしだったか。


「・・ロイか?」

「何でわかった!?」

 まだ変幻魔法は解いてないぞ。


「気配がそのままだろ。」

 なるほど。

 変幻魔法は姿を隠したり他人だと思わせる魔法じゃない。

 ライアンは気配で俺だと気が付いたからちゃんと俺に見えたのか。

 というか、やっぱりライアンは『気配感知』が使えるんだな。


「何もしてないなら何で牢屋に入ってるの?」

「何でって、嵌められたんだよ。さっき言っただろ。それにここは牢屋に見えるだろうが、牢屋じゃないぞ。」

 牢屋じゃないのか。

 じゃあ決まりかな。


「この国って奴隷制があるの?」

「・・あぁ、そうらしいな。」

 やっぱり。

 何でかは知らないけど、ライアンは嵌められて奴隷になったらしい。


 現代の地球だって奴隷はいる。

 堂々と売ってないだけでね。

 今俺がいる世界では国によっては奴隷制を認めてるところがある。

 堂々とね。


 イゴイスの雰囲気的には奴隷がいても何の疑問もない。

 あの大人しいシャサが「野蛮な国」って言うだけのことはある。

 さすがはイゴイス。


「ロイ。聞いてんのか?誰か来る前にさっさと逃がせよ。」

「いいけど、ホントに何もしてないんだよね?」

「してねぇよ!」

 まぁ、そうだろうな。

 俺の知る限りライアンは奴隷に落とされるようなことをする人間じゃない。

 犯罪奴隷か借金奴隷か知らないけど、旅をしてただけのライアンがなるとは思えない。

 お金も非常用にちゃんと渡してたからね。


 俺は鉄格子を切り裂いてライアンを外に出した。

 建物を抜け出すのは簡単だ。

 ライアンにも変幻魔法をかけるだけだからね。

 後は出来るだけ見付からないようにまた裏口から外に出た。



 俺は結界を抜けると、ライアンを連れて王都の自分の宿に転移した。

 あんな国に落ち着ける場所はないからね。


「すごい宿だな。」

 ライアンは部屋の中を見回している。

 ほっとけ。

「で?何があったの?」

「乗り合い馬車の御者に騙されたんだよ。」


 ライアンの説明だとこうだ。


 一週間ほど前、ライアン達はこの首都まであと少しのところを乗り合い馬車で進んでいた。

 悪路が続くこの辺りではよくあることだけど、馬車の車輪が道にはまってしまったのでライアンとルークは馬車を降りて後ろから押したらしい。


 そしたら運の悪いことに悪路で傷んだ車輪が壊れてしまった。

 まぁ道が悪いイゴイスじゃなくてもよくある話だ。

 しかし、そのあとはよくあるでは済まされなかった。

 御者の男はライアンとルークに馬車を弁償しろと言ってきたのだ。


 ライアンはふざけるなと取り合わなかった。

 しかし、真面目なルークは責任を感じたのか、修理代を払うと言ってしまったらしい。

 それにはライアンも黙っていなかった。

 壊れたのはライアンが押していた方の車輪なんだ。

 払うなら俺だろう!と言ったのが最後。

 御者は二人を言いくるめて弁償するという契約書にサインさせてしまったらしい。


 ライアンは全く納得していなかったが、ルークが払うと言って聞かなかったので逃げられなかったんだって。

 で、その契約書は案の定、馬車全部を弁償するものだったらしい。



「何でサインなんかするかなぁ。騙されたにしたってその場で全額払えば良かったじゃん。」

 馬車がいくらだか知らないけど、一度合流した時にもお金は追加で渡してあったんだ。

 多少使って減ったとしても金貨3枚はあったはずだろ。

 いや、この国で金貨3枚残ってたかな?

 ・・馬車っていくらだ?


「サインのことはルークに言え。金は払ったよ。王都に着いたら何故か役人が取り立てに来たから、そいつに持ってるだけ全部な。」

「全部って・・じゃあ何で?」

 払ったならライアンが奴隷になった理由がわからない。


「次の日に別の役人がまた来たんだよ。今度はちゃんと契約書を持ってな。」

「はぁ?」

「役人がグルだったんだろ。金は受け取ってないの一点張りだ。二回ともご丁寧に国の兵士を連れて来やがったし、どうしろっつーんだよ。」

 その状況じゃ、どうしようもないだろうな。

 おそらく兵士がいるのに抵抗したら、借金奴隷と犯罪奴隷のダブル受賞間違いなしだ。


 というか、ルークはどこだ?

 気配は感じなかったから近くにはいなかったんだろうけど、サインをしたなら奴隷になったんだよな?


「あぁ、ルークならもう買われたよ。」

「はぁ?」


 ルークは奴隷の品定めの時に、素直に年齢や出来ることを聞かれるままに答えていたらしい。

 素直な奴隷はすぐ売れる。

 ライアンと違ってさっさと買われて行ったそうだ。


「・・何やってんの?」

「知るかよ。あいつは基本的に人を疑わねぇし、約束も守る。極端だけどな。」

 いくらなんでも極端過ぎるだろ。

 よくそれで今まで生きてこれたな。


 そういえばルークと初めて会った時も魔力注入をしてくれって走り回ってたな。

 一緒に旅をしてみてわかったけどルークは戦闘でも魔力石なんて使ってないし、あれも詐欺にでもあったんじゃないのか?

 あるとしたら当たり屋か?

『あんたのせいで魔力石にヒビが入ったじゃない!弁償しなさいよ!』みたいな感じで。

 ルークじゃ防げそうにない詐欺だな。


「じゃあ、助けに行こうか。どこに買われたかわかってるの?」

 と言って俺はベッドから立ち上がる。

 それをライアンが止めた。


「待て。その前にどうやって助けるつもりだ?」

「どうって、さっきみたいに連れてくればいいじゃん。」

 ライアンは俺の答えを聞いて首を横に振っている。

「そりゃ無理だ。ルークは買われたからな。奴隷紋が刻まれちまってる。」


 ありそうな名前が出てきたな。

 なんとなく想像できるけど、大人しくライアンの説明を聞いた。


「奴隷紋ってのは魔法でご主人様に逆らえなくする紋章を刻んだものだ。一度刻まれたら借金を返すまで消せないぞ。」

 ライアンも奴隷商人に説明されたことしかわからないらしいけど、どうやらご主人様に逆らおうとすると痛みが走ったり、ご主人様が命を握ってるようなものらしい。


「命も?」

「ただの脅しかもしれないけどな。」

 脅しだろうが危険は犯せない。

 最悪は俺が借金を返せばいいんだろうけど、なんか癪に触るな。


「ちなみに買ったのは誰なの?」

「イゴイスだ。聞いた話がホントなら、北の鉱山で働いてるはずだぞ。」


 うーん。

 絶対に払いたくない。

 国ごと滅ぼしてしまいたい。


 とりあえずこの日はもう遅いので、宿でゆっくり休むことにした。


 ルークよ。

 自業自得だ。

 もう少し我慢しろよ。


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