南から東へ
旅は順調だった。
地図で見ると僅かな隙間でも、実際に歩くとかなりの距離がある。
もっとも、俺には『飛行』があるからね。
こんな危険な場所は一気に通り過ぎて終わりですよ。
数日あれば抜けられるだろう、と俺は本気で思っていた。
最初に出たのは海竜だった。
それは良かったよ。
『気配感知』で気が付いてたし遠くの海面が盛り上がってから近付いてくるから、海さえ見てれば誰でも気が付くと思う。
トマルから弱点も聞いてたから戦い方もわかってる。
俺はファイアボールでさっさと片付けた。
弱点が火で冒険者チームでも倒せるなら俺の敵じゃないさ。
別に当たらないからって何発も放ってないし、自棄になって広範囲のファイアで辺り一面焼きつくしたりしてない。
海の方に放ったから証拠も残してない。
だって、海竜って海の中だと速いんだよ。
ちょうど俺がいた場所は陸地に引きずり出すだけのスペースもなかったし。
あれは良くやったと思う。
次に出たのは飛竜だった。
どっから見てもプテラノドンに見えたけど、飛竜だった。
鱗もちゃんとあったし、鑑定魔法でそう出たから間違いない。
遠くから近付く影を見たときはコリューの親かと思ったんだけど、近付いて見てみると全然違った。
プテラノドンに見えるだけあって飛竜は手と翼がくっついてる。
でも、コリューは手と翼は別だ。
飛竜の色は灰色で、黒いコリューに近いんだけど、見た目は全然違う。
これが同じ生き物でいいのか?
って思ったけど、海竜なんてもっと違う。
ドデカい海蛇みたいな感じだ。
空に逃げようとしてもイルカか飛び魚みたいに飛び上がって来るんだよ。
見た目は東洋の竜に近いかな?
ウネウネ動くから魔法が当てづらいったらなかった。
で、飛竜はほとんどコリューが倒した。
近付く時は見えてたんだけど、戦闘に入ったら速くて俺には見えなかったんだ。
でもコリューも消えたと思った瞬間、飛竜が空から落ちてきた。
どうやら翼を爪で切り裂いたらしい。
コリューの動きを見る限り、俺とはまだまだ遊んでるレベルだったみたいだ。
飛竜に向かっていくコリューの動きが俺には全く認識出来なかった。
落ちてきた飛竜は飛べなくなってたから、俺はトドメだけを刺したよ。
もうコリュー様様だ。
そう思ってた。
あることに気が付くまでは。
今、コリューは楽しそうに遊んでる。
相手は緑竜だ。
緑だから間違いないと思う。
俺はこの日も辺りの安全を確認しながら進んでいた。
感知スキルには何も引っ掛からなかったんだけど、突然コリューが「ピィ!」って叫んだから何かと思ったら目の前に緑竜が現れた。
何回も召喚されるうちにコリューが召喚魔法を覚えたのかと思ったよ。
もちろん実際は違う。
コリューは魔法なんて使ってないからね。
せいぜい近くにいた緑竜を呼び止めたってとこだろう。
ちなみに俺を襲おうとしてたところを止めた、とかはないと思う。
だって緑竜さんは俺に興味を持ってないからね。
さっきからコリューと緑竜でずっと戦ってる。
俺にはいまいち何が起こってるんだかわからないけど、時々聞こえるコリューの声が楽しそうだってことはわかる。
緑竜が本気なのかはわからないけど、辺りにウィンドエッジみたいなものを撒き散らしてるのを見る限りは本気なんじゃないかな。
俺?
もちろん全力で回避してるさ。
何度か緑竜の攻撃の余波がかすったけど、十分に傷が付くってわかったからね。
もう本能を研ぎ澄ませて避けまくってるよ。
こういっては真面目に感じないかも知れないけど、最高の鍛練にはなると思うよ。
ただし、俺が最後まで死ななければね。
だって・・毎日これが続くんだぞ。
毎日のように日替わりで色んな竜が現れるんだよ。
ここは地獄か?
まぁ成長したのは有り難いけどね。
ちなみにコリューの攻撃力だと竜種には効かないのか、毎回散々楽しむだけで倒したりはしてない。
毎日数時間遊んだ後いつの間にか2匹ともいなくなって、コリューだけが戻ってくる。
飛竜は簡単に倒したから、仲間意識とかはないんだと思うけどね。
きっと竜種は小さい時が一番速いんだろう。
大きくなるとそれだけ重くなるからスピードは落ちるんだと思う。
じゃなきゃコリューが大人の竜種で遊べる訳がないからね。
海と山の狭間の道を抜ける頃にはかなり俺もランクが上がったような気がしていた。
竜種の動きも見えるようになってたし、広範囲攻撃じゃない限り避けられるようになってきたからね。
最初はずっと自分に回復魔法をかけてたけど、いつ急所に当たって死ぬかと気が気じゃなかったよ。
でも知力って、スキルと一緒で集中力を持って見よう、認識しようとすると上がるもんだね。
命懸けとはいえ、徐々に色んなものが見えてくるのはなかなか面白かったな。
素早さも命にかかわると成長が速かった。
まぁこんなことは無事に抜けられたから言えることだよね。
俺は狭間の道を抜けた。
やっとだよ。
途中でコリューが竜を呼んでるって気が付いた時は本気で連れてきたのを後悔したけどね。
何度宿から戻ってきてもいるんだよ。
いなくてもすぐ駆け付けてくるしね。
俺を殺す気なんじゃないかと思ったほどだ。
この道を抜けたから、コリューともしばらくはお別れだ。
そろそろライアンとルークと合流するためにイゴイス方面へも進んでおかないといけないからね。
いつでも召喚できるけど、街に連れていく訳にはいかない。
どうせ自分にもかける変幻魔法をコリューにもかければ連れていけるとも思ったんだけど、俺が宿で寝ている間とかに何が起こるかわからない。
いくら可愛くてもコリューは竜だからね。
狭間の道でのように他の竜種でも呼ばれたら街の一つや二つ、簡単に滅びるだろう。
そんな責任を俺は負えない。
とりあえずここで一度別れておいた方が良いと思う。
コリューのお陰でかなり成長出来た。
ここを抜けると決めた時は逃げながら抜けるつもりだったし、変幻魔法さえ使えば逃げる必要すらなかったと思うけどね。
コリューのお陰で楽しかったし、余計な竜種さえ呼ばれなければ一人でも狭間の道を往復出来そうな実力もついたかな。
コリューとはライアン達と合流出来たらまた一緒に旅をしたい。
お礼に魚を沢山釣って凍らせておいたから、しばらくはこれで大丈夫だと思う。
まぁ獲物くらい自分でいくらでも探せると思うけどね。
最近の急成長のお陰で本気のコリューの相手も出来るようになってきたから、かなり強くなったと思う。
俺はいつも通り、日が暮れるまではコリューと遊びながら先に進んだ後で王都の宿に戻った。
最近ホントに言葉が理解出来てるような反応をするコリューに別れを言った時、寂しそうな顔をしてたのは気のせいじゃないと思う。
宿での夜は毎日似たようなローテーションだ。
風呂に入ってご飯を食べる。
ちょっと筋トレや柔軟をした後に魔鉱作りをして、朝まで眠る。
たまに回復薬も作るけどね。
魔鉱は順調に増えてると思う。
俺は鉄の塊ではなく、トレーニング用に作った鎧を魔鉱にしている。
トレーニング用の鎧はまた作ればいいけど、魔鉱は素材が良すぎてすごく加工が大変らしい。
だったら加工してある鎧を魔鉱にした方が早いと思ったので、そうしている。
今魔鉱にしてるのは手に付けるガントレットだ。
大きめに作ってもらったパーツの内、すね当てと悩んだ結果、戦いでより使うのは手だと思ったのでこれにした。
防具よりも剣を魔鉱にした方が俺のステータス的にはバランスが良いんだけど、どうしても安全第一で考えてしまう。
それに鉄製の剣は持ってない。
どうせ魔鉱にするなら最高の剣を使いたい。
時間が出来たら探しておこう。
とりあえずはガントレットだ。
手のパーツが軽くなっても素早さの鍛練は出来そうだし、いざ戦いで使うなら手は軽い方が疲れなくて良さそうだからね。
いつ着けても左右の重さに違和感が出ないように毎日交互に魔力を込めてるけど、まだ全部が魔鉱にはなっていない。
もう見た目は鉄じゃないからもうすぐ終わると思うんだけど、どれだけの魔力を込めたら出来上がるんだろう?
魔鉱が市場に滅多に出てこない訳だよ。
この星の地中深くはやたら魔力濃度が濃いのかもね。
それか宝石のダイヤと一緒で、魔鉱の出来上がる課程にも圧力とか熱が関係してるのかもしれない。
ありそうだな。
装備品を燃やす訳にはいかないけど、鉄なら持ってるからね。
気が向いたら試してみよう。
イゴイスへの旅は順調に進んでる。
俺はダッシュを挟みながら『飛行』で進んでるけど、前に同じ事をしてた時よりもペースが上がっている。
素早さが上がっただけあって、ダッシュのスピードはもちろん上がってる。
鎧にも前より慣れてきた。
そして、毎日コリューと競争していたので『飛行』のスピードも上がってるのだ。
ついでに言えばトレーニングの効率も上がってる。
狭間の道での特訓のお陰で集中力が大事だってわかったからね。
『並列思考』のスキルも使い勝手は良いけど、一つのことに集中した方がやっぱり効果は高いみたいだ。
いや、足と手の動かし方や呼吸の仕方、重心の位置なんかを一度に考えてるのも『並列思考』を使ってるのかな?
そうかもしれないね。
このペースなら、ライアン達を探しながら進んでも10日もかからずに追い付くと思う。
今回は久々に鎧を身に付けて活動してるので、『飛行』をしてる時には魔力をガントレットに送っている。
こちらも効率が良い。
時々ライアン達を探しながら進んでいたんだけど、見付からないままイゴイスの首都に着いてしまった。
気付かずに追い抜いたとは思えないし、違う街道を使ってるのかな?
まさか先に行ったってことはないだろう。
俺が仕入れた情報によると、どうやらこの国の首都の名前は国名と同じでイゴイスというらしい。
カークと同じパターンか?
嫌な予感しかしないな。
そういえば、俺は拠点の街を王都王都って呼んでたけど、名前もあるのかな?
国と同じ名前か?
・・あれ?
国の名前を知らないぞ・・。
やっぱりもう少し周りのことに興味を持つべきだよなぁ。
反省しよう。
少しだけ。
俺は途中の街でイゴイスの首都はどっちか聞いて進んで来たんだけど、どの街の人も態度が悪かった。
みんな話しかけるだけで嫌がるし、酷い時には教わる代わりに金を要求された。
評判が悪い訳だ。
この首都でもそれは一緒だった。
「銀貨5枚?」
「あぁそうだ。払えないなら帰んな。」
俺は今、イゴイスの首都で宿を探している。
ライアン達が来るのを待つのに拠点ごと移してしまおうかと思ったんだ。
でも、どこも王都の相場よりもかなり高い。
安いところで王都の5倍くらいはするんじゃないかな?
客室までは入ってないけど、外観からしてボロくて小さい宿で銀貨1枚とか要求される。
しかもご飯は付かないらしい。
どんなボッタクリだよ。
「じゃあいいです。」
「まぁ待て。今日だけ特別に銀貨4枚にしてやってもいいぞ。」
さらにムカつくのがこれだ。
今来てるのはそこそこ良さそうな宿なんだけど、態度は他と変わらない。
どこでも最初はふっかけてきて、帰ると言うと値下げが始まる。
しかも、それでも十分に高い。
「別にいいです。」
「じゃあ銀貨3枚だ。これ以上はまけられねぇ。」
めんどくさいな・・
別に俺はお金には困ってない。
その値段でもここに一生住めるだけの蓄えもあるし、これからもっと稼げる。
正直俺にとっては小銭だ。
だけど、問題はそこではない。
宿は休む場所なんだよ。
こんなやつらがいる場所で寛げるとは思えない。
部屋に泥棒とか入りそうだし。
食事の度にストレスが溜まりそうだ。
俺は拠点を移すことを諦めた。
今の王都の宿に不満はない。
魔力は溢れるほどあるから、転移で来れば何の問題もないからね。
宿を諦めた俺は道具屋を探した。
ちょこちょこと作ってた回復薬をこちらで売ろうと思ったんだ。
王都では俺が売りまくったせいで、一時期飽和状態にしちゃったからね。
こちらでも売れるだろうから溜まってる分を売り捌きたい。
今までの感じから全く期待出来ないんだけどさ。
俺は大通りで見付けた大きめの道具屋に入ると、まずは回復薬の売値を確認する。
どうやら王都よりも高いらしい。
1.5倍から2倍くらいありそうだ。
思った通りだね。
次にカウンターにいる店主に回復薬の買い取りを頼んだ。
持ち込んだのはもちろんレベル10の回復薬で、王都なら金貨200枚が相場だ。
漬け込み度が増えてるからもっといくかな?
「金貨100枚?これが?」
「あぁ、売らないなら帰んな。」
道具屋の主人が宿屋の主人と同じ事を言ってる。
これがこの辺の決まり文句なのか?
嫌な決まり文句だな。
「売値は相当高いみたいだけど、買値はそんなに安いの?」
「あ?回復薬は腐りやすいんだよ。買っても腐るんじゃ値段に差が出るのは当たり前だろ。そんなことも知らねぇのか。」
知ってるよ。
それでも在庫を抱えてるだけで価値が増えていくんだ。
それでトントンだろ。
それとも・・
この国は衛生的にも汚そうだから腐りやすいのか?
ありそうだな。
ホントに色々最低の国だ。
「金貨200枚なら売るけど?」
「ふざけんな。じゃあプラス金貨50枚だ。それ以上は出さねぇぞ。」
俺、この国嫌いだ。
回復薬はこの店で売ってしまった。
これ以上めんどくさい会話を繰り返したくないからね。
俺の精神衛生上よろしくない。
俺は道具屋を出ると、東の海岸を目指して進んだ。
万が一ライアン達がここを通り過ぎていた場合も考えて、先の方を探しておく。
まだたどり着いていないなら首都で待てば合流出来るけど、通り過ぎていてもわざわざ戻ってはこないだろう。
まぁまだ首都に着いてないだけだと思うけどね。
日程的にもまだだし、途中の街道の荒れ具合を見ても進むのは遅そうだ。
荒れ地だよ。
あの街道は。
馬車で通ったらすぐ壊れると思うな。




