ピーとの遭遇
結局、俺は山へ行くことにした。
ただし、南へは行かない。
俺が進む方向は南西だ。
山を掠めて行こうと思う。
なぜなら
今の実力だと山を越えるのは無理だと思うからだ。
でも、竜には興味があるんだよ。
ということで、山に近付きはするけど、突っ込んだりはしないことにした。
別に海まで回り込んでも竜は出るらしいけどね。
それはそれ。
出来れば魔鉱とか拾いたいっていうのもあるんだ。
だって買えないなら自分で取ってくるしかないでしょ。
魔鉱は強い魔力があるところでしか取れないらしい。
だったらこの山のどこかにはあると思う。
山脈全体からは近付けば近付くほど強い魔力を感じるからね。
これだけデカい山脈なら鉱脈の一つや二つくらいあるだろう。
それが山の魔力で全部魔鉱化してても俺は驚かない。
竜の巣なら人が立ち入ることはないだろうし、鉱脈があったなら魔鉱を一人で取り放題だ。
はい。
ということで来ました。
山脈に。
といってもまだ入り口だ。
いや、山に入り口とかないけどね。
どこからが山なのかわからないけど、徐々に近付きながら海を目指して進んでますよ。
そういえばこの大陸もそうだったけど、この山脈も名前はないらしい。
ただ、『山脈』といえばこの山脈のことなんだって。
大陸はこれ以外にあることを知らないんだから区別する必要がないんだと思ったけど、山脈は他にもあるんだから名前くらい付ければいいのにね。
俺は『飛行』で飛びながら進んでいる。
かなりのスピードだ。
街道とかもついでに探そうかと思ったんだけど、森が深くて探してるとあまりにスピードが落ちるからやめた。
代わりに高度を上げて景色を楽しむ。
基本的には見えてるのは森と山と空だけだ。
大き過ぎるだろ、この森。
でもまぁお陰様で眺めは最高だ。
文句は言うまい。
たまに鳥が飛んでいるくらいで、空は平和そのものだ。
森から伝わってくる気配も危険を感じるほどではない。
もっとも敵意を向けられた時にどう思うかはその時にならないとわからないけどね。
空の旅を満喫している実感がある。
流石にそろそろ『飛行』にも慣れてきたから怖くもないし、操作に集中することも無くなってきた。
つまり景色を楽しむ余裕が生まれてきたのだ。
それでも強そうな気配や魔力には注意を払いながら飛んでいるけど、流石に空を飛んでるので見渡しは良い。
ここしばらくは雨も降ってないので空気も快適そのもの。
春先の直射日光と乾燥した風が調度良いバランスを保っている。
俺の近くには地面すらないので『魔力感知』の感度も抜群だ。
この環境で不意打ちを食らうことはないだろう。
そう思ってた時代が僕にもありました。
今、俺の目の前には竜がいる。
何でだ?
いつの間に近付いたんだ?
俺はそれなりに警戒してたはずだ。
いくら辺りが見渡せても油断はしてないと思ってた。
まさか空から来るとは・・
そうだよね。
竜なんだから空くらい飛ぶよね。
上はさすがに見てなかったよ。
はい。
完璧に油断です。
いきなり攻撃されなくて良かった。
俺の前にいるのは小さい竜だ。
どれくらい小さいかというと、ギリギリ肩には乗らないくらいかな?
大人の肩なら乗ると思う。
見た目は西洋の竜に近い。
鱗の色は黒で腹の辺りは黒っぽい黄色かな?
竜種は赤い赤竜、青い青竜、緑の緑竜と茶色の茶竜の4色が基本のはずだ。
他にも海竜等の亜種がいくつかいるらしいから、それの仲間なのかな?
きっと子供・・というか赤ちゃんなんだろう。
迷子かな?
成竜って言うかはしらないけど、大人じゃなくてラッキーだ。
ラッキー・・だよな?
「ピー?」
おぉ。
かわいい。
じゃないよ!
ちっちゃいし小首を傾げてるから可愛く見えるけど、こいつは俺の感知スキルを掻い潜って現れたんだ。
姿を現すまで俺は存在にすら気付かなかった。
つまりこいつの素早さは俺の知力よりは上、ってことなんだろう。
少なくとも、素早さは・・ね。
気配で探る限り、見た目に反して相当強い。
こんな上のランクのやつに会ったことはない。
俺よりも強いのかな?
「ピー!」
子竜が動いた。
というか、消えた。
速すぎて認識出来ない速度なんだろう。
こんなに素早く動けるってことは、絶対に羽ばたきで動いてるんじゃないと思う。
なんだろ?
『空中機動』かな?
俺は竜が動くと思った瞬間に最速で魔法を発動していた。
俺が一番慣れている魔法だ。
唱えたのはもちろん結界魔法。
全力のレベル10の結界が即座に出来上がる。
慣れてるだけあって、我ながら発動が早い。
子竜がどんなに早くても、あの小さな体じゃこのレベル10の結界は破れないだろう。
まずは防御を固めるのが先決だ。
俺の今回の目的は魔鉱探しと力試し。
死ぬような目に遭うのはごめんだ。
そう。
命、大事に。
少し大きめの結界に包まれて少し安心した俺は、子竜の姿を探す。
さっきから結界に子竜が当たる連続した打撃音がガンガン響いている。
攻撃しているみたいだけど、早すぎてよく見ても薄い線しか見えない。
どんだけ早いんだよ。
でも、線自体の動きはそこまで速いとは思わない。
というか線に見える速さってどれくらいなんだ?
生でF1を見たことあるけど、間近でも線には見えなかったぞ。
知力の限界を超えるとよーく見ても線になる、とかいうこの世界のルールでもあるんだろうか?
そうっぽいな。
変な世界だし。
きっと当たりだ。
結界を壊すのを諦めたのか、子竜が動きを止めて姿を現す。
対象が止まればどこにいるかは感知スキルで正確に把握できる。
俺のすぐ横だ。
「はぁ!?」
どうやら最初から結界の中にいたようだ。
さっきから響いてた打撃音は俺への攻撃ではなく、外に出ようとしてたらしい。
俺の声に驚いたのか、子竜は俺の耳に噛みついてきた。
「痛い痛い痛い!もげるっ!もげる!!」
咄嗟に『纏い』を使って全身を強化すると流石に歯が通らないのか、甘噛みに感じるようになった。
耳をガジガジかじってるだけで、今はダメージはない。
それでもそのまま竜種でお馴染みのブレスでも吐かれたら、耳が焼肉になりそうだ。
俺は子竜に魔力球を放って吹き飛ばそうとする。
しかし、子竜は俺が全速力で放った魔力球を噛み砕いた。
はしゃいでいるところを見ると、全く効いてないみたいだな。
遊ばれてる気がするぞ。
子竜がまた噛み付こうとしてきたので、カウンター気味に本気でぶん殴る。
ちゃんと当たったと思ったのに、これも効いてないみたいだ。
手応えがないから受け流されたかな?
効いてないはずなのに子竜は俺に殴られてうな垂れている。
どうやら叱られたと思ったらしい。
何なついてんの?
というか、なついてるってことはさっきの噛みつきは本気じゃなかったのか?
そういえば殴ったのに避けなかったな。
わざとか?
それに噛み付くのはやたらゆっくりだった。
やっぱり、わざとか・・
何なんだこいつは?
俺と遊んでるのか?
今も全く攻撃してこないし、そもそも敵意を感じない。
最初は敵意を感じたと思ったんだけど、気のせいだったのかな?
もしかして、竜って人懐っこいのか?
ありそうだな。
子竜があの強さなのに、成竜がじゃれてきたら普通の人間は全員死ぬぞ。
それはそれは狂暴な魔物だと思われることだろう。
「ピー!」
また子竜が動き出した。
さっきまで落ち込んでたくせに、子供は立ち直りが早いのは竜でも一緒なのか?
子竜の姿は相変わらず見えない。
俺は意味のない結界を解除すると、転移で軽く距離をとる。
ここ数日の旅で空中にも転移出来るのはわかってる。
自分がいた辺りを振り返ると子竜の動く薄い線が見える。
相変わらず感知スキルには何も引っ掛からない。
あれ?
もしかしてこれって最高にチャンスなんじゃないか?
こいつと遊んでるだけで問題だった素早さと知力が両方鍛えられるじゃん。
たぶん『纏い』さえ使ってればダメージを負うこともないはずだ。
問題はこいつの親が近くにいるかどうかだけど・・
「おい。子竜。」
俺が呼び掛けると子竜の薄い線が俺に向かって飛んでくる。
「おい、待て!」
ゴフッ!
腹に突っ込んで来やがった。
誰だダメージがないとか言ったやつは。
鎧の上からでもかなり痛いぞ。
今のは本気の攻撃じゃないのか?
・・どうやら違うらしい。
子竜は俺の腹にしがみついてる。
遊んで欲しい子供そのものだ。
「このやろう。付き合ってやろうじゃねぇか!」
自分もその気だったので子竜の相手をしてやることにした。
親のことはひとまず置いておくことにしよう。
もちろん怖いから西に移動しながらである。
少しでも山から離れたいからね。
子竜と遊んでる間に親が現れたら出会い頭の一撃で死にそうだし・・。
この日は日が落ちるまで子竜と遊んでいた。
ちなみに遊んでるのは子竜だけで、俺は本気だ。
広域魔法こそ使わないものの、攻撃魔法はもちろんのこと、俺の今持っている全力で子竜に攻撃した。
鑑定魔法すら全部楽しそうにかわされたけどね。
魔力での攻撃なんて全部食われるし。
全く通じない。
子供でこの強さで、大人の竜とかどれだけ強いわけ?
的が大きくなるから当てやすくなるのかな?
体が大きくなれば素早さも落ちるとか?
よくわからないな。
誰かに聞いた方が良いだろう。
このまま何も知らずに山の近くを移動するのは危険な気がする。
情報と言えばギルドだよね。
ということは、あの人に聞くのがいいと思うけど。
教えてくれるかなぁ。
まぁ明日行ってみよう。




