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一人は気楽です

 ライアンとルークは元気にしてるだろうか?

 後で聞いた話だけど、乗り合い馬車っていうのはやっと座れるような狭い席で左右や前の客と膝をぶつけながら長時間揺らされる酷い乗り物らしい。

 かなりの悪路だから乗り物酔いも酷いし、クッションもないから体もかなり痛いだろう。

 向い合わせの席では前の人と膝を交互に重ねて座るんだって。

 それに休憩もほとんどないらしい。

 馬が疲れれば歩かされるし、馬車が土や砂にはまれば客が押す。

魔物や盗賊が出れば客も戦う。

 奴隷でも運んでるような環境だ。


 聞いてから考えてみれば馬車を買うべきだった。

 いや、二人だけなんだから馬でも良かったのだ。

 知ってたら馬くらい用意したのに。

 買い方知らないけど・・


 二人ともお金は持ってるはずだから、少しでも良い乗り合い馬車に乗ったことを願うばかりだ。



 で、一人で王都に残った俺が何をしているかというと、ライアンとルークがいなくなったので宿も移って一人部屋になったのだが、宿のランクをもう一段階上げてみた。

 というか、安い宿はトラブルを嫌がって子供一人じゃ泊めてくれなかったのだ。

 チャックは泊めてくれたのにね。


 今いるのは王都の宿の中でもかなり高い宿だ。

 もっとも貴族に近いような金持ちが使う宿ではない。

 そんな宿は門前払いをくらって泊めてくれるはずもない。

 ドレスコードもあるだろう。


 なので、今泊まってるのは冒険者向けで最高ランクの宿だ。

 家具や建物は立派だし風呂も綺麗だけど、部屋はそれなりなので広くはない。

 ご飯はたっぷり出るし美味しいけどね。


 今俺はその広くない部屋の中で黒ずくめの男達に囲まれていた。

 黒ずくめとは言っても忍者やよくいる強盗みたいに顔までは隠していない。

 服や装備が黒いだけだ。

 少しでも音が鳴らないように鎧は革製で、剣の鞘もおそらく革製だ。

 まぁ冒険者としては珍しくない装備だけどね。

 長距離を歩くことも珍しくない冒険者は体の負担を減らすために、軽い革製の鞘を使うことも多い。

 しかし、そんな冒険者としては一般的な装備も、黒ずくめにしてしまうと悪役にしか見えない。


 実は、こんな怪しい連中が来るのは2度目だ。

 一昨日も来た。

 やっぱり来たのは夜中だったから、早く寝るために山に捨ててきた。

 捨てるって言っても転移で飛ばしただけだけどね。

 当然だけど、転移では人も飛ばせる。

 油断してたのか、素直に飛んでくれた。

 今日も飛ばしてもいいけど、また明日も来られるのは面倒だ。

 それに、一昨日はあまりに眠かったので飛ばしちゃったけど、俺はこーゆー奴らを待ってたんだ。

 今日は一人は捕まえたい。


「ホントに子供だな。間違いじゃねぇのか?」

「情報通りだ。殺せ。」

 やっぱり一昨日の連中とは別人らしい。

 それにしても、いきなり殺せとか言ってるけど、なんなのこいつら。

 って暗殺者か。

 悪いことばっかりやってる裏のギルドみたいなのもあるってメリンダが言ってたから、そーゆー連中なんだろうね。

 どこにでも悪いやつはいるもんだ。


 たぶん今殺せと命令したやつがリーダーなんだろう。

 捕まえるならこいつかな。


 一人になってから部屋に結界を張るのをやめた代わりに、寝てるベッドに張ってある。

 虫も入ってこないので便利だ。

 荷物は全部収納の中だし、自分の身を守るにはこれで十分。

 というか、結界を小さくしたことで強度が増してるからこの方が安全なんだよ。

 でもそのせいで、こいつらみたいな暗殺者が部屋に入ってこられるようになった。

 まぁお隣さんに迷惑をかけないためには仕方ないだろう。


「で、誰がやるんだ?こんなガキに4人は必要ないだろ?」

「油断するな。こいつは木刀で剣を斬ったらしいからな。ふふふ」

 自分で言って笑ってる辺り、こいつは全く信じてないらしい。

 まぁ気持ちはわかる。

 なので実際に見せてあげることにした。


 俺はゆっくりベッドから降りると木刀を構えた。

 もちろん結界は解いてある。


 俺がビシッと構えたことで一気に暗殺者達の表情が変わる。

 鍛練はしっかりやったからね。

 わかる人にはわかるんだろう。

 俺の実力が・・


「こいつ!どっから木刀を出した!」

「ちゃんと見てろ!油断するなって言っただろ!」

 どうやら俺の構えが素晴らしかったからじゃなかったらしい。

 収納からだよ。

 聞くなよ、めんどくさい。


 4人のうち2人が俺の後ろにいる。

 一人は前だ。

 さっき命令をしてたやつはドアの前に移動した。

 逃がさないつもりか?

 それはこっちも一緒だぞ。


 俺はすでに4つの魔法を使ってある。

 暗殺者も俺が魔法を発動するたびにピクピクしてたのでわかってるはずだ。

「こいつ・・何をしたんだ!いったい何者だ!」

「知るか!やるぞ!」

「油断するなよ!」


 ある程度の魔力感知が出来れば俺が使った魔力量の予測くらい出来ると思うんだけど、こいつらにはそのレベルもないらしい。

 例えるなら、霧は見えててもどこまで続いてるのかはわかっていない状態かな?


「三流か・・」

 俺の呟きが聞こえたのか、4人は殺気を放ってきた。

 その殺気を鼻で笑うと、俺は追い打ちをかける。

「熊の方が怖かったなぁ」


 その一言で我慢が出来なくなったのか。

 前にいた一人が俺に向かって斬りかかってきた。

「死ねぇ!」

 俺は上段から振り下ろされた剣を鍔のすぐ上で切り落とす。


 カラン

 刀身が地面に落ちて音を立てたのを合図に後ろの二人が動いた。

 いや、動こうとした。

「なっ!」

「動けない!?」


 そりゃ動けないだろう。

 ちゃんと剣は切り落としたし、ちょっと近くにいる3人だけを魔力で拘束してみたのだ。

『飛行』みたいにね。

 実際に『飛行』を仲間や知り合いで試す前にやっておかないと不安だったんだよ。

 攻撃判定されたら下手したら死んじゃうからね。


「くっ!」

 仲間が無力化されたのがわかって、命令を下した暗殺者のリーダーは即座に仲間を見捨てて逃げようとした。

 しかし外に出るためにドアを蹴破ろうとしたリーダーに、ドアを壊すことは出来なかった。

「なんだと!?」

「逃がす訳ないでしょ。」


 さっき発動した魔法の1つはドアや壁の内側に張ってある結界だ。

 壁一枚でも間にあれば魔力感知は一気にしづらくなる。

 俺は出来るんだけど、そーゆーものらしいから壁の内側から張って強化しておいた。

 地中にも張れるんだから壁の中だって張れるだろ。


 あと張ったのは、中の音を外に漏らさない結界のサイレントという魔法だ。

 元々知ってた魔法は外からも音が入ってこないところが不便なので、俺が結界の向きを一方通行にして改良したものだ。

 近所迷惑で宿を追い出されたくないので、はじめに張ってある。

 そして変幻魔法を部屋にかけてあるので中で何をしても外に異常はバレないはずだ。


 あと、ちょっと恐かったので自分に強化魔法をかけてある。

 結界から出ただけでも誉めてほしい。

 相手は真剣を持ってるんだぞ。

 気配で強くないと分かるとはいえ、それくらいはやらせてくれ。


 さて、全員大人しくなった。

 リーダーは全力で警戒してるようだけど、戦うのも逃げるのも無理だと半分絶望しているようだ。

 俺が魔力を少し開放したのを感じとったんだろう。

 今はガタガタと震えている。


 魔法は上手く感じ取れないのに魔力は感じ取れるのか。

 ってことは魔力感知のレベルは2か3くらいだったかな?

 勉強したけどあんまり覚えてないな。

 まぁ今はいいか。


 俺はリーダーと思われる男と向き合う。

「さて、あんたに聞きたいことがいくつかある。」

「だ、誰が言うか!このクソガキが!」

 最初に斬りかかってきた男が話しかけてもいないのに答えてくれる。

 まだ質問はしてないんだけどね。


 ボキッ

「ギャ!」

「あっごめん。」

 すぐに治療魔法で折れた腕を治した。

 力加減が難しいな。

 もうやめとこう。

 拷問なんて慣れないことをやるもんじゃないな。

 気持ち悪い。


「殺せ。殺さなきゃ俺達は何度でもお前を殺しに来るぞ。」

 即座に治っていく仲間の腕を見ながらリーダーが呟いた。

 諦めるのが早い。

 思い残すこととかないのか?


「まだ質問してないでしょ?」

「どうせ死ぬなら喋ることなんかない。」

「逆でしょ。どうせ死ぬなら喋ればいいのに。」


 もう拷問なんてする気はない。

 するのは交渉だけだ。

 まずは腕が治ってもまだ脂汗でいっぱいの男に質問をする。

「君は喋る気はないのかな?」

「・・ない」

 男は目を瞑って答える。

 怖いなら答えればいいのに。


 俺はその男を山に転移で移動させた。

 魔力で捕まえとけば転移をかけるのは楽だな。

 覚えとこう。

「なっ!まさか!魔方陣も無しで!?」

 呪文を唱える時間もなく魔法を発動させる俺に驚きの目を向けてくる。

 今さらかよ。


「質問に答えてよ。まず、質問は二つ。君達の本拠地と今回の雇い主だ。」

「言うわけがないだろう。」

「そうだ。殺せ!」

 死にたがってる右後ろの男を見もせずに転移させる。

 これで最初に転移させた男が生き残る可能性は増えたな。

 武器なしで生き残るのは辛いだろう。

 間に合ったかな?

 まぁこいつらが持ってる剣じゃロックゴーレムも倒せないと思うけどね。


 俺は魔力を全開にした。

 これでダメなら全員転移かな。

 しっかりビビってくれるといいんだけど、わかるのかな?

「参考までに聞くけど、俺のランクってどれくらいだと思う?」

 リーダーは目を見開いて俺を見ている。

 完全に諦めたか?

「・・わからん。だが、俺よりはるかに高いのは確かだ。」

「あんたリーダーだよな?あんたのランクは?Dくらいはあるのか?」

「・・Cだ。」


 あら。

 全然違ったらしい。

 人を試しておいて自分もわからなかったよ。

 相手の強さはわかるようになっておいた方がいいな。

 自分より強いやつにケンカを売ったら洒落にならない。

 魔力感知だけじゃ無理だけど、気配感知もあればかなり正確にわかるはずなんだ。

 俺がその目安を知らないだけでね。

 これは最優先で覚える必要があるな。


「あんたは・・D+?」

「・・C-だ。それがどうかしたのか!」

「いや、ただの世間話だよ。でさ、別に殺す気はないから教えてくれない?」


 リーダーは疑いの目でこちらを見ている。

「嘘だと思ってる顔だね。」

「・・そりゃな。」

 といってリーダーは仲間がいた場所に目線をやる。

「あんたの仲間なら転移で飛ばしただけだよ?」

「転移だと?」

「そ。」


 俺はリーダーを転移で部屋の窓側に移動させた。

「転移でしょ?」

「なんだこの発動の早さは・・。それにこんなレベルの・・」

「仲間が死ぬ前にあんた達も行った方がいいんじゃないの?」

「・・生きてるのか?」

「たぶんね。知ってると思うけど、転移で移動出来るのは術者が行ったことのある場所だけだ。少なくともその場所から俺は一人で帰って来れたよ。」


 嘘じゃない。

 一人で帰って来たよ。

『飛行』と転移でね。


 リーダーが説得に応じた。

 雇い主がカークと言ったことからも嘘はついていないと思われる。

 そういえば、暗殺者達を飛ばしたのはカーク領だな。

 カークの街の北にある山の頂上付近だ。

 たぶんカーク領だろ。

 リーダーにそのことと転移先がゴーレムの巣だと伝えたら早く飛ばせと言ってきたけど、質問が先だと言ったら積極的に答えてくれた。


 最初に逃げようとしたのは何だったんだ?

 自分が逃げることで仲間が逃げる隙でも作ろうとしたのか?

 それとも応援でも呼ぼうとしたのだろうか?


 残った左後ろの暗殺者も飛ばした後でリーダーにだけ話を聞いてから仲間の元に飛ばしてあげた。

 次殺しに来たら海の真ん中に転移させるって言ったら青い顔で頷いてたよ。

 今回の口止めも忘れずにした。

 あんまり意味は無さそうだけどね。


 リーダーに聞いた話によると、どうやらあいつらが所属していた組織はかなり大きなものらしい。

 特に準備とかないけど、今から行って潰しておこうと思う。

 殺人だけじゃなくて誘拐とか奴隷の売買とか色々やってるらしいから、いない方が良いようなしょうもない連中だろう。


 昼寝をしておいて良かった。

 一昨日は夜にゆっくり寝れなかったからね。

 睡眠は大事だよ。

 しっかり寝ないと大きくなれない。

 まだまだ育ち盛りなんだから。


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