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ロックタウンで鉱夫体験

 俺が転移したのはカークの街から見て北の山の向こう側、山を下った辺りだ。

 前に山の頂上から確かめた感じだと、今いる場所からライアン達がいるはずの街まで歩いても半日もかからないだろう。


 1ヶ月もあったのにこれ以上進んでない理由は何となくだ。

 特に理由はない。

 仕事に行く親の後を付いていく子供の気分を味わったせいではない。

 けっしてそうではない。


 俺は周囲に人がいないことを確認してから『飛行』で飛び立った。


 上空に浮かび上がりながら辺りを確認する。

 まばらに低い木が生えてるだけの山肌は見通しがいい。

 近くには魔物もあまりいないようだ。


『飛行』の移動方向を上から横に変える。

 一瞬ジェットコースターのような浮遊感を感じるが、恐怖感はそんなものではない。

 目に見える支えなんて何もないのだ。

 体を支えるバーやベルトも当然ないし、前に伸びるレールもない。

 突然の横風が直に体を煽る。

 もし機会があったらウォータースライダーに目を瞑って乗ってみて欲しい。

 今よりは遥かにましだが、かなり怖いから。


 横風に慣れる前に『飛行』が嫌いになりそうなので、結界を張って風を防いだ。

 透明化の魔法もかけた。

 これで感知系の魔法でも使われない限りは街に近付いても気付かれないはずだ。


 しばらく移動すると、魔物の群れのようなものが見えてきた。

 ゴーレム達のシルエットはいくつかのグループに別れてロックタウンに向かっているようだ。

 まだ襲撃は始まってなかったのかもしれない。

 とりあえず放置して街を目指すと、すぐに街が見えた。

 遠目で見る限りは無事だと思う。


 ロックタウンは小さな街だ。

 鉱山に働く人が住むために建てた集落を中心に、周りに宿屋や食堂、鍛冶屋等が並んでいる。

 街の規模に似合わない丈夫そうな柵に囲まれているのは、おそらく毎年魔物の群れに襲われるせいだろう。


 その街の手前に沢山の人影が見えてきた。

 ゴーレムの襲撃に備えてるのかと思ったんだけど、どうやらもう戦ってるみたいだ。

 十体くらいのロックゴーレムと40人を超える冒険者と警備兵達が戦っている。

 近付くに連れて一人一人の顔が見えてきた。

 双子狼は最前線で戦ってるみたいだ。

 とりあえず無事で良かった。


 といってもゴーレムと冒険者たちは入り乱れて乱戦状態になっている。

 防御陣形がちゃんと築けてるのは、見た感じだと警備兵だけみたいだ。


「砕けろぉ!」

 冒険者と思われる男性がつるはしをロックゴーレムに向かって振りおろしている。


 なにこれ・・


 冒険者も警備兵も剣や槍ではなく、みんなつるはしを手に持っている。

 剣士はまだ良いよ。

 戦士なんか両手に盾とつるはし。

 魔術師なんかローブ姿なのにつるはしだ。


 どうみてもみんな必死に戦っているのだが、それが逆にシュールな現実を作り出していた。

 そんなにつるはしが良いのか?


 周囲の人の意識がロックゴーレムに集中しているのを確認してから、『飛行』を解いて双子狼に近付く。

 双子狼も2体のロックゴーレムを相手にしているようだ。


「これじゃ話せないな。」

「あれ?今、なにか声が・・」


 俺の声を聞いたシャサが不思議そうに周りを見ている。

 すみません。

 独り言です。


 しかし、これで透明化の魔法が切れていないことと、効果は確認ができたな。

 知ってたけど。


 シャサが周りをキョロキョロ見ている。

 なんだ、暇そうだな。

 ロックゴーレムはカルストとガトエルで1体ずつ動きを止めて、マーシャとピロークが攻撃を加えている。

 よく見たらシャサとエビルは暇そうだ。

 恐らくサポート役に徹しているんだろう。

 つるはしを持ってはいるけど、魔術師が前衛と並んで戦うなんて怪我の元だ。

だったらつるはしじゃなくて杖を持ってれば良いのに・・。


「ねぇ、シャサ。」

「え?その声は・・ロイ君ですか?」

「そうそう。ちょっとつるはしを貸して貰うよ。」

 そう言ってつるはしをシャサの手から受け取る。

 これってつるはしが浮いて見えてたりしないだろうな。


「つるはしって見えてる?」

「いえ、消えました。」

「ならいいか。」

 どうやら魔法をかけ直さなくてもいいらしい。


 マーシャとピロークはもちろん俺がいることは知らないので、自由に動き回ってロックゴーレムに攻撃を加えている。

 俺はその攻撃に合わせて2匹のロックゴーレムをつるはしで砕いた。

 相変わらず『纏い』の効果は絶大だ。

 俺は良い鉱夫になれるだろうか?


 タイミングを合わせて殴ったので、誰かが見てても二人がやったように見えたはずだ。

 たぶん。


「これはいったい・・」

 マーシャが不思議そうに粉々になったロックゴーレムを見ている。

 そこにシャサが話しかける。

「ロイ君が来てくれましたよ。」

「ロイさんが!」


 みんなは納得したように俺を探している。

 ピロークが恥ずかしそうにしているのは自分で倒したと思ってたからかな?

 そっとしておこう。


「つるはし、ありがとう。」

 と言ってシャサの手につるはしを返すとちゃんと見えるようになったらしく、みんなの目がつるはしを見ている。


「状況を教えてくれる?ライアンとルークがいないみたいだけど・・」

「お二人は別の組なので今は街で休んでいますよ。」

 なるほど。

 交代制で戦ってたらしい。

 わざわざ別にするってことはチームワークが上手くいかなかったのかな?


 周りはまだゴーレムと戦ってるけど余ってるゴーレムもいないみたいだし、とりあえず一息つけたので状況を簡単に説明してもらった。

 みんなはもう4日くらいは戦ってるらしい。

 ゴーレムの群れは一気に全部が来るのではなく、ポツポツと現れるのが何日か続くのが恒例だ。

 ほとんどの冒険者の攻撃が効かないから、一匹倒すのにもかなりの時間がかかっている。

 今は怪我人が増えてきたのと疲労でそろそろ限界が近いみたいだ。

 そのせいでポツポツと集まって来るゴーレムがここに溜まっている。


「まぁそろそろ終わるから何とかなりそうだな。」

 ピロークが周りを安心させるように言うと、みんなが頷いた。


「そうなの?」

「あぁ。今年はここにいるやつらで終わりだろうって街のベテラン兵士達が話してたからな。」

「今回はサンドゴーレムとロックゴーレムだけだったので助かりました。いつもはアイアンゴーレムもいるらしいのですが、今回の冒険者にBクラスはいませんでしたから・・。Cクラスの私達ではアイアンゴーレムは倒せません。」


 そりゃ不味いな。

 これで終わりじゃないんだよ。

「あのさ。山からここに来る途中でゴーレムが20体くらい街に向かって歩いてるのが見えたんだけど。」

「20!?そりゃ・・もたないぞ・・」

 だろうね。

「俺が倒してくるよ。」

「そりゃ助かるが・・いいのか?」


 おそらく、ピロークは報酬のことを言ってるんだろう。

 タダ働きは嫌だけど、それはこちらに考えがある。


「いいよ。倒したゴーレムって好きにしていいんでしょ?」

「いいんじゃないか?でも、どーすんだ?ゴーレムなんて。」

「群れの中にアイアンゴーレムがいたから貰っておこうと思ってね。」

 アイアンゴーレムは全身が良質な鉄で出来ている。

 鉄が高価なこの世界では運べさえすれば一財産築けるのだ。


「それは・・」

「いいんじゃないか?」

「構わないでしょう。街を襲った群れの魔物じゃありませんから。それに、ロイ君は徴兵されてませんし。」

「なるほど。」

「どうせここのメンバーじゃ倒せないしな。」


 話を聞く限り、どうやら徴兵されてる時に戦利品は手に入らないらしい。

 しかも普通の徴兵って報酬もないんだろ?やだなそれ。


「じゃあ行ってくるね。済んだら戻ってくるよ。」

 そう言って俺は再び飛び立った。


 街から遠ざかると、すぐにゴーレムの群れの先頭が見えた。

 思ったよりも移動が早かったらしい。

 ここで戦ったら街から見えるかもしれない。

 幸い今見えているのはサンドゴーレムが数体で、ロックゴーレムも1体いるが街の方に任せても問題はなさそうだ。


 もう少し進んだところに第二陣のゴーレム達がいた。

 ここなら街からも見えないだろう。

 俺は群れの前に着地すると、透明化を解いた。

 生まれたてというのが関係してるんだろうけど、今まで見たゴーレムと比べても小柄な個体しかいない。

 ゴーレムのレベルが上がって大きくなる時って周りの岩がくっついていくのかな?

 ちょっと見てみたい。


 ゴーレム達は突然現れた俺に驚くでもなく・・驚いててもわからないか。

 とにかく、ゆっくりと向かってくる。


「今回は素手でやってる場合じゃないよね。」

 俺は木刀を取り出して『纏い』を使った。

「さあ、来い。」


 一番近かったロックゴーレムが俺に向かって腕を振り下ろす。

 俺はそれを横にかわすと木刀を横に振り抜いた。

 殴りかかってきたロックゴーレムは胴体を真っ二つにされて崩れ落ちる。

 楽勝とは言えないけど、まぁなんとかなりそうだ。


「どんどんいくぞ!」


 俺は次々にゴーレムを斬り捨てる。

 ゴーレムは動きが遅い。

 重いので振り下ろす拳だけはなかなかの早さだけど、今の俺の素早さでも油断しなければ攻撃が当たることはない。

 多少ロックゴーレムにも慣れたので緊張することもないし。


 ここにいるのはロックゴーレムばかりだ。

 1体斬り捨てる度にコツを掴んできたのか、楽に切れるようになっていく。

 そして無駄な力みが無くなり、剣速も上がっていく。

 実戦に勝る練習はない。

 気が付くと俺は最後のロックゴーレムを斬り捨てていた。


 木刀を確認すると、特に新しい傷は付いて無いようだった。

 戦いの痕跡を消すためにただの岩になったロックゴーレムを解体する。

 倒したと同時に関節部分も離れて本当にただの岩になるから、木刀の切り口を隠すくらいだけどね。


 そろそろいいかと思ったところで山の方からアイアンゴーレムが2体現れた。

 主役の登場だ。


 まずは鑑定魔法を使ってみる。


『アイアンゴーレム レベル1 C』


 あれ?

 Cなら大したことない?

 これならさっきのようにこちらに向かってくる力を上手く利用すればなんとか切れるんじゃないのか?


 早速実践してみよう。

 まだ少し距離があるアイアンゴーレムに向かって走る。

 アイアンゴーレムはもちろんこちらに向かって進んでいる。

 すれ違い様に振り下ろしてくる拳をやはり横にかわして木刀を振り抜く。


 ギャン!


 くぁ~!

 固ったい!


 振り向いてアイアンゴーレムの脇腹を確認すると、浅く裂けた切り口が見えた。

 ダメージは与えてるはずだけど、流石に両断するのは無理そうだ。


「ダメか・・。」

 どうやって倒そうか考えていると、後ろからもう1体のアイアンゴーレムが殴りかかってきた。

 咄嗟に左腕で受け止めるが、重さに負けて吹き飛ばされる。


 ゴロゴロと転がったあと起き上がると、目の前には振り下ろされる鉄の拳が見えた。

「くそっ!」

 なんとか横に避ける。

 距離を取るためにアイアンゴーレムの胴体に蹴りを入れて後ろに跳ぶ。


「普通はどうやって倒すのか、聞いてくれば良かったかな。」


 といっても今さら聞けない。

 あんな去り方をしておいて、「やっぱり倒せませんでした」は恥ずかしい。

 自分で倒し方を考える。

 思いっきり殴られてもそんなに痛くないから、負けはない。

 大丈夫。

 落ち着いて考えよう。


 そういえば、ゴーレムってみんな倒し方は一緒なはずだよな・・

 さっきみんなはどうやってた?

 どこを狙ってたんだ?


 双子狼の戦いしか見てないけど、確かマーシャとピロークはつるはしで頭を狙ってたように思う。


「頭か。」

 アイアンゴーレムの頭を見上げる。

「高いな・・。まぁいいけど。」


 俺は『立体機動』を使って空中をかけ上がるとゴーレムの後ろに回り込む。

 そして自分が落下する勢いも利用して、アイアンゴーレムの後頭部に『纏い』を使った木刀を力一杯叩きつける。


 ギャン!


 うぅ、固い・・

 木刀はアイアンゴーレムの頭部を半ばまで食い込んだ所で止まってしまった。

 でも、なんとか倒せたみたいだ。

 アイアンゴーレムがゆっくりと倒れてバラバラになる。


 もう1体か・・

 ちょっと待って・・手が痺れた・・。



 そもそも、シャサにでもつるはしを借りてくれば良かった。

 木刀よりは遥かにましな武器だろう。

 街の人もゴーレムには慣れてるはずだから有効な武器はわかってるはずだ。

 冒険者もみんなつるはしを持ってたんだから、それがゴーレムに対して一番良い武器なんだと思う。

 木刀が折れなくて良かったよ。



 えっ、魔法?


 ・・・・効くの?


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