風呂は日本人の心だ
俺はこの世界に来る時にディオと名乗る神様に何らかのスキルを貰ったのだろう。
今はそのディオが関係してそうなスキルはとりあえず放置することにした。
意味も効果もわからないからね。
でも、気になることはまだまだある。
「『二段ジャンプ』って・・さっきのだよな?」
さっきクレバスを魔力球を使って越えた時以外、『二段ジャンプ』なんてやった覚えはない。
出来ると思ったこともないしね。
スキルってのは一度出来たら増えるのか?
わからないことは試してみればいい。
やることは簡単だ。
二回跳んで『二段ジャンプ』なら三回跳べば『三段ジャンプ』になるはずだ。
早速やってみよう。
球状だと踏み辛いので今度は魔力を平らにする。
簡易的に結界を足場にするイメージだ。
それを二つ用意して、順に踏んで高く跳ぶ。
「うおっ!」
高い!
いつも視線が低いお陰で高さに馴れてなかったらしい。
落下する時にちょっとビビった。
「ふぅ、これでどうだ?」
早速冒険者カードを確認する。
『ロイ レベル11 B
所属 ニート B
ステータス
攻撃力 C-
防御力 A+
素早さ C-
知力 B-
魔力 S
スキル
『纏い レベル8』『空中歩行』『魔力操作 レベル8』『魔力回復』『無詠唱』『物理耐性 レベル2』『環境耐性 レベル1』『状態異常耐性 レベル1』『魔力感知 レベル8』『並列思考 レベル4』『成長補正 レベル5』
』
「ありゃ?」
『三段ジャンプ』にはなっていなかった。
カードから『二段ジャンプ』が消えて、『空中歩行』と書いてある。
なんか微妙な気分だ。
俺は跳んだつもりだったのに『歩行』と言われてしまった。
いや、わかってる。
『二段ジャンプ』が無くなってるんだからスキルが進化したんだろう。
でも、ジャンプから歩行って進化じゃないだろ。
こうなったら『空中歩行』をどうにかしてもっと別の名前にしてやる。
さて、何が出来る?
歩行はとりあえず嫌だ。
例えば、機動とかはどうだろうか?
『空中機動』
いいんじゃない?
ということで、とりあえず空中で無茶苦茶に動いてみた。
最初は足場を作ってそこを踏んでいたけど、足場を上下左右に作ってると融通がきかないし、固定した魔力が移動の邪魔になることがわかった。
そこで踏んだり蹴ったりしたい時だけ足に付けた魔力を空中に固定することにした。
俺には必要ないんだけど、魔力の節約にもなるみたいだ。
足場に限らず手の平に出した魔力を支えに軌道を変えてみたり、掴まってる魔力を動かして自分を引っ張ったり、色々空中で動き回ってからカードを確認する。
「おぉ!」
カードから『空中歩行』が消えて『立体機動』になっている。
名前も格好いい。
やってやったぜ。
で、やってる最中に思い付いた別のことも試してみる。
足でも手でもどこでもいいと思うけど、とりあえず全身を魔力で包む。
その魔力をゆっくりと持ち上げる。
当然、体も浮くよね。
今度はそのまま空中で動いてみると、結構なスピードが出る。
三段ジャンプの時よりはるかに怖い。
このやり方は、速い代わりに小回りが効かないみたいだ。
体を包む魔力の形は結構複雑なので、飛んでる最中に細かく動かそうとすると体にフィットしている魔力の形が崩れるのだ。
今もちょっとウェッてなった。
これは他人には使えないな。
それに、飛ぶスピードが上がるとちょっと風が辛い。
これは進行方向に結界を張っておいた方が良さそうか?
ここで一度冒険者カードを確認すると、『立体機動』の他に『飛行』と書かれていた。
「おぉ、スキルが増えたな。」
出来ることが増えるのは嬉しいけど、とりあえず今は『飛行』のことは置いておくことにする。
邪魔だった進路上の魔物は『飛行』でとっくに飛び越えているので、俺は今日の予定であるランニングを再開した。
さっきよりはのんびり走りながら次は何を鍛えようか考える。
カードに書いてあったステータスやスキルではわからないことが多いけど、気になることがある。
例えば『魔力操作』だ。
レベル8というのはもう少し伸びそうに感じるけど、実際は毎日やってても最近はあまり変化がないのだ。
もうここらが限界なのかと思っていたんだけど、8という数字は微妙だ。
もしかしたら他に何かが必要なのかもしれない。
あと、『並列思考』ってのがあったな。
たぶん、今みたいなことを言うんだろう。
ランニングと感知魔法に風魔法を放ちながら魔力球も放ってる。
しかも考え事をしながら。
ここまでやったのは初めてだからまだ慣れないけど、いつもの調子ならすぐに慣れると思う。
普通に出来ることじゃないよね。
魔法も二種類使ってるし。
これがきっとこのスキルのことだ。
しかし、スキルってなんだ?
スキルがあるから出来るんじゃなくて、出来たらスキルが増えるのか?
それって必要?
今度ギルドで聞いてみるか。
ステータスの『知力』ってのが何なのかわからないしな。
後は、俺の『攻撃力』と『素早さ』を上げるトレーニングをやるか。
でも、攻撃力ってどうやって上げればいいんだ?
今のままじゃ体重が足りなくて重い攻撃とかできないぞ・・。
足を踏ん張って殴ればいいのか?
『素早さ』は・・そういえばランニングはしてたけど、ダッシュはしてないな。
まずはそこか?
試しにダッシュをしてみると、前世ではあり得ないようなスピードが出た。
「十分速いだろ・・」
かなり速いと思う。
なんなら馬にも勝てそうだ。
荒れ地で出せるスピードとしては限界なんじゃないのか?
これでもステータスの足を引っ張ってるんだから、俺って大したもんだ。
まぁこんな荒れ地で走り続けてたら足腰はかなり鍛えられるはずだ。
そうだな。
そうゆうトレーニングだと思って、しばらくやってみるか。
ということで、魔力球で道を作るのをやめた。
魔力球は遠くにある岩を狙って精密射撃の練習だ。
実際の戦闘では敵の攻撃を避けながら自分も攻撃もしなきゃならないだろうから、調度いい練習になる。
今まで前だけ見てれば良かったのが、視界を広くもって獲物を探さなくちゃならない。
しかも未整備の荒れ地を走らなくちゃいけない。
今までにやったことがないことをして、頭が活性化してるのがわかる。
良い感じだ。
新しいトレーニングにウキウキしながら岩から岩に跳び移っている時にある変化を感じた。
この岩は動く!
なぜかと聞かれても困るけど、なんかわかったのだ。
岩には乗らず、岩を蹴って地面に着地した。
振り返ると岩が調度動き出したところだった。
「ロックゴーレムか。」
ロックゴーレムとは岩で出来たデカい人形のような魔物だ。
普段は岩と同化しているので、動き出すまでわからない。
魔力も動き出すまでは他の岩や草と同じくらいしかない。
体が岩でできているので冒険者が一般的に使う剣や槍などの武器がほとんど通じない厄介な敵だ。
おまけに倒しても岩に戻るだけで金になるような素材も取れない。
ホントに厄介なんだよ。
でも・・
「調度良いところに出てきたな。俺の特訓に付き合え。」
ロックゴーレムが振り回す腕をこちらも腕で受け止める。
「ぶわっ!」
体重が軽いので殴り飛ばされそうになるけど、なんとか数歩下がって耐える。
体勢はギリギリだったけど、腕はしっぺを食らったくらいしか効いてない。
『物理耐性』のお陰か防御力が凄まじい。
鑑定魔法の結果、こいつの強さはC-だった。
防御力重視の・・きっと防御力重視のC-クラスの攻撃なんてランクを考慮すれば俺には効かないはずだ。
でもきっと、俺の攻撃もこいつにはほとんど効かない。
俺の攻撃練習にもってこいの魔物だ。
この日は残りの時間をずっとロックゴーレムと遊んで過ごした。
ロックゴーレムの攻撃を紙一重で避ける練習に、ロックゴーレムを素手で倒す練習だ。
とりあえず俺が使ったのは打撃技だけで、一度だけ投げようとしたけどさすがに無理だった。
もう少し筋力を鍛えた方が良いかもしれない。
お互いに倒せない相手に攻撃を続ける行為を続けて数時間。
そろそろ夕飯の時間なので、ロックゴーレムにお礼を言って別れた。
長く触れあったせいか、少しだけ気持ちがわかりあえた気がするよ。
絶対にあいつは俺のことが嫌いだ。
まぁ、魔物だから生きてる人間は全員嫌いなのかもしれないけどね。
宿に戻ると店主のチャックに格好よく声をかける。
「よぉチャック。戻ったぞ。」
「上から降りてきといて何が戻っただ。っておい!なんでそんなに砂だらけなんだよ!」
「あぁちょっとね。」
チャックが迷惑そうにこちらを見ている。
「今度から汚れは落としてから部屋に入れよ。」
たしかにこれは酷い。
砂場で転げ回って遊んだ子供みたいだ。
あれ?
あんまり間違ってないな。
岩場だったけど。
「とりあえず風呂に入ってこい。」
「はっ?」
今、何て言った?
「だから、早く風呂に入ってこいって言ったんだよ。湯船に浸かる前に汚れは落とせよ。」
「湯船だって?」
昨日も一昨日もそんなこと言ってなかっただろ?
というか風呂場なんてどこにあるんだ?
今日だって朝、井戸で体を拭いたのに。
それに、この世界の一般人は風呂には入らないと聞いている。
入るのは貴族くらいだ。
孤児院でも体にお湯をかけることはするけど、湯船には浸からなかったぞ。
まさか・・これも昼飯抜きに続く孤児院ルールなのか?
「風呂の修理が今日終わったんだよ。明日からは客も増えるが、今日はお前だけだ。ゆっくり浸かってもいいが、壊すなよ。」
そうだったのか。
ルークは風呂の壊れた宿を取ったのか・・
何やってんだよ。
まぁとりあえず、今は風呂に入れるなら何の問題もない。
「風呂はどこにあるんだ?」
「裏口から出たとこにある小屋だ。」
「わかった。」
魔大陸に来てからも魔法で体を綺麗にしてたから汚くはないけど、やっぱり湯船には浸かりたい。
風呂は日本人の心だ。
とは言っても裏口から出たとこにある小屋?
あったっけ?
柵なら見たんだけどな・・。
行ってみて驚いた。
「露天じゃねぇか!」
建物の裏にあったのは一度に5、6人は余裕で入れそうな立派な湯船だ。
ドラム缶風呂みたいな湯船を想像してた分、驚きが大きい。
木でも石でもなく、レンガ造りな辺りがちょっと和風とは違うけど、見事な露天風呂だ。
露天風呂っていうよりは、屋根無し風呂なのかな?
湿気がこもると建物の手入れが大変だからね。
いや、雨ざらしでも傷みが早い気がするけど・・。
レンガだから良いのかな?
・・何で外なんだ?
小屋っていうのは脱衣所のことだった。
こちらは木造だ。
体の汚れを湯船からすくったお湯で落とすと、早速湯船に浸かった。
久々のお風呂が体に染み渡る。
「これだぁ~~」
これだよ!
最高だ。
日本にいる時はわからなかったなぁ。
この良さが・・
思ってみれば不思議だ。
なんで温かいだけの水に日本を感じるんだろう・・
チャックの言葉に甘えてかなり長湯させてもらった。
といっても体が子供なので出てる時間も長かったけど。
きっとチャックはこの後入ると思って、ぬるくなってしまったお湯を温め直しておいた。
かなり熱めの日本風に。
チャックに声をかけてから夕飯を食べて部屋に戻る。
お風呂のお陰でこのまま寝てしまいたいけど、そうはいかない。
今日は昼間の買い物で回復薬を作る道具が揃ったので、試作品を作るのだ。
作業は単純だ。
一応風呂場でシャサに貰った薬草と、これから使う道具は水洗いをして、最後に熱湯消毒しておいた。
薬草をこちらも熱湯消毒したすり鉢の中に入れて、棒で磨り潰す。
十分に磨り潰したら魔法で出した綺麗な水を少しだけ足して、空気が入らないように買っておいた小さなビンに詰めて小分けにする。
ビンをコルクのようなもので蓋をして、最後に治療魔法をかけたら完成だ。
あとは放置すれば薬草が溶けて完全な液体になるらしい。
レシピは以上だけど、俺はさらに手を加える。
といってもさらにビンごと煮て熱湯で消毒するだけだ。
作り方を間違えると回復薬が漬け込む過程で腐ってしまうらしい。
まぁ日本人の感覚からすれば、ちゃんと消毒すれば問題はないと思う。
今日作った回復薬はみんなレベル10で聖属性の治療魔法をかけておいた。
これは売り物じゃない。
実験みたいなものだ。
まぁ大した実験じゃないけどね。
これで大丈夫なら薬草を煮詰めるとかもしてみようか?
乾燥させた薬草に治療魔法をかけたらどうなるかな?
今日の作業が終わったので、部屋に結界を張って魔力を使いきってから眠る。
金持ちになったら家にデカい檜の湯船でも作ろうかな?
檜・・あるよね?




