冒険者デビュー
みんなをギルドから送り出した後、俺は一人でどんな依頼があるのか依頼書を見て回った。
その中からなんと『鮭、成魚一匹銀貨10枚』というのを見付けた。
さすがにこんなに高いのはなかったけど、他にも魚関係の依頼は多かった。
最近漁ができていないらしいので、依頼が溜まってるんだろう。
依頼料も高騰してそうだ。
収納に残ってる魚を数えると、報酬が高そうな依頼書を選んでいくつか受付に持っていった。
「こんなに受けるんですか?」
「ダメですか?」
俺は首を傾げてみる。
我ながら可愛いポーズだ。
「い、いえ!問題ありません!」
どうやら怖がらせてしまったようだ。
メンチを切ってるとでも思われたのだろうか?
くそっ
もうやらん。
冒険者カードも渡すと、依頼を登録してくれる。
「今回の依頼は全て届け先が依頼主になっていますので、依頼主のところに採集したものを届けたら完了証明書を受け取ってきて下さい。それをギルドに持ってきたら依頼完了ですので、報酬をお渡しします。」
「なるほど、ちなみに店の場所がわかるものってありますか?」
俺はこの街の店の場所なんて一軒も知らないからね。
「えーと、それではこちらを使ってください。」
といって職員は『カークの街』と書かれた観光パンフレットみたいなものを渡してきた。
ギルドって観光協会も兼ねてるのか?
「ほとんどの店が書いてあるはずです。」
うん、そうっぽいね。
たぶんだけど、魚料理を出すような高級店ならみんな載ってるだろ。
依頼の登録が済んだ冒険者カードを受け取ると、念のために依頼をちゃんと受けてあるか確認する。
メリンダによると受けた依頼はカードに印字されるはずだ。
「あれ?ない?」
「ど、どうかされましたか?」
職員が失敗したかと慌てている。
「受けた依頼内容が印字されるって聞いたんですけど?」
「あぁ、それなら裏に書かれてます。」
「・・あっホントだ。」
裏には今受けた依頼がしっかりと印字されていた。
たしかメリンダには表だと聞いてたはずだけど、スキルとか表に書くことが増えたから裏にしたんだろう。
これを見せれば店でも邪険には扱われないかな?
職員に礼を言ってギルドを出ると、俺は早速店を巡った。
今日は顔を売るために一店舗につき一匹ずつ売って、店を多く回る。
最初こそ子供扱いされるけど、どの店も魚と冒険者カードを見せると掌を返すように態度を変えた。
それでも名前と所属、チームのランクしか見せないせいか、『チームのお使いで商品を届けにきた子供』として扱われてる気がする。
早く大人になりたいなぁ・・。
依頼は報酬が高い店ばかり選んだので、今後魚を買い取ってくれるか聞いて回る。
今回はこれがメインの目的だ。
新鮮な魚を見てどの店も「次も是非!」と言ってくるから、顔も一応売れたと思うし今回の依頼は大成功かな。
まぁ新鮮さで言えば釣ってからせいぜい数分なんだ。
新鮮に決まってるわな。
一番高いと思われるところで残りの魚を全部売って金にした。
高級店はどこも大通りに面してるところが多かったので、地図さえあれば回るのも楽だった。
ギルドで完了が早すぎると疑われながら報酬を受け取った後は時間が余ってそうだったので、海岸に転移して釣りをしながらシャサからの連絡を待っていた。
新品の釣具は今までの代用品と違って使いやすい。
遠くまで針を投げられるので効率も良い。
海トカゲが現れるまでは釣りまくってやるぜ!
と、思ってたら、結構すぐに遠隔通話で連絡がきた。
遠隔通話の魔法は徒歩で数時間の距離なら問題なく繋がるらしい。
長距離は無理だとシャサに聞いていた通り、先生やメリンダには繋がらなかったけどね。
釣りを切り上げると、転移で街に戻って店に向かう。
シャサに聞いた場所はなんと俺が魚を卸した店の中の一軒だった。
というか、魚を全部売った一番高かった店だ。
速攻で店に着いたけど、どうやらシャサ達はまだ着いていないようだ。
都合がいい。
せっかくの高い店だから、美味しいものが食べたいよね。
「すみません。」
俺は店に入ってすぐに店員さんに話しかける。
「はい。あぁ君はさっきの。えーと、ニートさんだったか?どうした?」
さすがにさっき来たばかりなので覚えていたようだ。
チーム名まで覚えているのは高級店のスタッフだからだろう。
客の名前とか覚えるだろうし。
「今日これからこちらで仲間と食事を取るんですけど、この魚を全部譲るので、出来るだけ色んな料理を出してもらえませんか?」
「これ、全部ですか!?」
「はい。」
全部と言っても時間が短かったから20匹くらいしか釣れてないけどね。
店で出すことを考えたら少ない気がする。
今回はよく知らない魚も何匹か混じってた。
急いでたから名前も調べてないけど、店員の反応を見る限りはどうやら食べられるらしい。
いい加減に料理を焼き鮭以外も覚えたい。
一応調味料は買ったから、いくつか作れるようになれたらいいな。
ライアンに覚えさせることができれば尚良し。
「あの、譲るって・・タダで?」
「はい。残りはお店で使ってください。あの、大丈夫ですか?」
「はい・・喜んで!」
・・ここは居酒屋か?
数人の店員が店の奥に魚を運んで行ったところでシャサ達が到着した。
「ロイ君?早かったですね。」
「転移で飛んできたからね。」
「なるほど。」
みんな馴れてないのか高級店の前で中に入れずにまごついているが、シャサが店員に慣れた様子で予約の名前を告げると、すぐに全員が中に案内される。
店員が俺がいるグループなのを確認して真面目な顔で頷き合っているのが見えた。
こりゃ期待できるかな?
メニューを選ぶ前に一言言わせて貰おう。
「実は報告があるんだけど。」
「突然なんだよ?」
ライアンが煩わしそうに聞いてくる。
きっと早く注文して食べたいんだろう。
「さっき、冒険者デビューしました。」
「あの後か?」
「早いですね。」
「どんな依頼を受けたんですか?」
大体俺の言葉に真っ先に反応するのってシャサかエビルだよな。
魔術師ってお喋りなのか?
いや、ライアンも反応するのは早いからそうでもないか。
「採集系の依頼。手元にあった魚を店に渡しただけだから、もう報酬も受け取ったよ。」
依頼内容を聞いてみんな納得顔だ。
「今日は本当にお祝いですね。」
シャサが嬉しそうだ。
良かった。
さっきはシャサに悲しそうな顔をさせてしまったからね。
これで挽回出来たかな。
みんなで俺の次の仕事は何がいいかという話題で盛り上がってる時に、店員が総出で料理の乗った皿を持ってきた。
どうやらすでに作りはじめていたらしい。
届いたのが前菜系ってことはコース料理だろうか?
「お待たせしました。」
「えっ?まだ頼んでませんが・・」
「本日は魚料理のフルコースになっております。」
みんなが魚と聞いてオロオロしだす。
同じ店でも魚を頼むと値段が跳ね上がるんだろう。
「今日は俺の奢りだから。みんなで楽しんでよ。」
俺がしてやったりの満面の笑みで言うと、ライアンだけが深く頷いた。
「でも・・」
シャサが一番納得していない。
そこに店員が助け船を出してくれる。
「今日の代金は頂きません。すでに魚で頂いておりますので安心してお召し上がり下さい。」
魚は渡したけど、料理をタダにしてくれとは言ってないんだけどな・・。
まぁしてくれるなら有り難く頂こう。
「・・わかりました。流石に魚で返す訳にもいきませんね。」
シャサも納得してくれたようだ。
店員がサービスでお酒も出してくれたので、みんな大喜びだった。
俺は飲んでないよ?
別に法律での年齢制限とかは無さそうだけど、さすがに9才じゃねぇ?
なので、俺はジュースだ。
しかし、この店の料理は美味しい。
俺としては魚料理は和風が良いと思ってたんだけど、この店は洋風っぽいのに結構美味しい。
新鮮な魚が全部加熱されて出てきたのは少しもったいない気がしたけどね。
まぁ醤油がないから刺身にしても寿司にしても和食は完成しないし、仕方ないでしょ。
洋食で生ならカルパッチョとかかな?
今日のメニューにはないけど、あれはどうやって作るんだろ?
いや、待て。
ここにないメニューのことより大事なことがあった。
「ライアン。ここの料理ちゃんと覚えてね。次はライアンに作って貰うから。」
「なんでだよ!こんなに覚えられねぇぞ!」
こんなになければ覚えられるのか?
凄いな。
さすがライアンだ。
ライアンは酒を飲む手を止めて真剣に魚を味わっている。
もしかして料理が好きなのかもしれない。
「これ、良い匂いがするんだけど何だかわからないぞ。」
「それならバターだよ。」
「バター?これが?」
「バターで焼くとこんなふうに良い匂いになるからね。」
ライアンもバターが気に入ったらしい。
他のみんなも料理を誉めちぎっている。
旨いもんねぇ。
みんなも食事を楽しんでくれてるようだ。
俺も楽しい。
さっきからちょっと気になることがある。
シャサが浮いているのだ。
ナイフとフォークの使い方が美しく、凄く行儀が良い。
この高い店に良く馴染んでいる。
むしろ着ている冒険者らしい服が浮いて見える。
干し肉を食べてても品の良さはわかったけど、性格的なものかと思っていた。
でも、さすがにこんな高い店に馴染む冒険者は少ないはずだ。
現に他の双子狼のメンバーは冒険者としてはいたって普通だ。
カルストやガトエル、ピロークなんか豪快に食べながらも食べ物も飲み物も一切無駄にしないという器用な食べ方をしている。
マーシャとエビルは・・普通かな?
豪快でもなく、丁寧でもない。
いたって普通だ。
あえて言うなら魚料理にまだ戸惑っているようだ。
ルークは丁寧に見えて食べるのが早い。
ライアンは完璧にスピード重視だ。
みんな性格が食べ方に出ているが、やはりシャサだけが浮いて見える。
そもそも双子狼はこんな店に来るようなレベルの冒険者ではないだろう。
今回は治療費が浮いたから派手に使おうとしたんだろうけど、メニューを見る限りこの店はいつも使うには高すぎる。
初めて会った時も金がなさそうだったし。
いや、あれは仲間が怪我をしたせいだっけ?
でも、入り口でもスムーズに対応出来たのはシャサだけだった。
俺のお祝いの為でも普通はここまでの店は用意しないでしょ。
元々仮祝いだったしね。
きっとシャサはいいとこのお嬢様なんだろう。
だって可愛いし。
いつも敬語だし。
あれ?
エビルも敬語か?
俺も孤児院育ちだけど敬語は一応使えるな・・。
んー?
まぁ、いっか。
楽しいから何でもいいよね。
この日、ライアンとルークは明日が早いからと双子狼と同じ宿に泊まった。
朝に見送りはしないので、別れる時にみんなと再会の約束をした。
だから今日は一人だ。
今日から一人か?
大丈夫。
寂しくない。
俺は自由だ。
とりあえず、俺は昨日と同じ宿に泊まることにした。
着いて一人で一泊と告げるとさすがに不審な顔をされるけど、笑顔で誤魔化した。
昨日とは違う一人部屋に入ってもすぐには眠くならなかったので、久々に魔力を使いきって寝ることにした。
魔法なんて何でもいいので、孤児院への転移魔法を連発した。
レベル10の魔法を数回使えばさすがに魔力も切れる。
魔力が切れると、俺はベッドでぐっすり眠った。
寝る直前になってやっと自覚した。
俺・・・・めっちゃ酔ってる。
酒の匂いにやられたのか、もしかしたら料理酒だろうか?
さて、明日から何しよう?




