遂に俺も冒険者?
カークの街、二日目。
朝になると、俺達はまず宿を出て買い物をすることにした。
俺は昨日もしたけど、現状を確認して出来ることはないってことになったし、しばらく別行動で過ごすなら必要なものがまだあるからね。
とりあえずルークに金貨を1枚貸した。
かなりひきつった顔をしていたけど、銀貨はあんまり持ってないのだ。
買い物には俺も付き合った。
必要なものがあれば一緒に買うためだ。
ルーク達は俺が買わなかった保存食も買った。
というか食料は保存食しか買っていない。
二人は収納魔法に大した量が入れられないし毎日使えるほど魔力が余ってないので、鞄に入れておける保存食しか運べないのだ。
「まだ仕事も決まってないんだが・・」
とルークが呟いていた。
俺と違って荷物が限られるので、普通は仕事が決まって必要な量がわかってから買うものなんだって。
まぁ少な目に買ってるみたいだし、問題ないでしょ。
あと、木製の食器も買った。
ルークは手持ちの荷物に大体の物は入ってるらしいけど、ライアンはこっちに来たときにほとんど手ぶらだから買わないと何もない。
二人の分も当然買ってあったので金属製のをあげると言ったんだけど、高いからと断られてしまった。
もちろん俺は釣具も買った。
予備も買った。
思ったよりも良いものが揃ったと思う。
それと、魔力石を買った。
治療魔法の魔方陣が刻まれてるものに、俺が甚蔵さんを集めて送り込んだ。
これで何かがあっても余程のことじゃなければ大丈夫だろう。
他にも色々と買って買い物が終わると、俺達はギルドに向かった。
俺はとりあえず冒険者カードが欲しい。
ライアンとルークは仕事探しだ。
ギルドに入ると、双子狼が依頼書が貼ってある壁の前で依頼を選んでいた。
「あっロイさん!」
エビルがこちらに気付いて声をかけてくる。
さん付けは辞めてくれ。
エビルの声で振り向いた他の5人にも笑顔で答える。
ギルド内のロビーには冒険者はほとんどいない。
臨時の依頼を除けば仕事はほとんど朝からなので、もう昼も近い時間にギルドにいるのは調度この時間に街にたどり着いた冒険者を除けばごく一部の冒険者だけだ。
俺達はお互いに会ったことのないメンバーを紹介して、ピロークに話し掛けた。
「二人はもう仕事するの?大丈夫?」
「そりゃあんだけ強力な・・いや、もう大丈夫だ。完治したよ。」
ピロークが危うく口を滑らせそうになってから俺の質問に答える。
双子狼のメンバーが焦っているけど、俺はニヤニヤ笑ってるだけだ。
言い触らさなきゃ別に知ってる者同士で話題に出すくらいは構わないからね。
「それで、ロイ君達も仕事を探しに?」
「仕事は後ろの二人がね。僕はカードを作りにきたんだよ。」
「なるほど。でも、お二人で?」
シャサが心配そうに二人をみている。
この場合、心配してるのは俺無しでってことじゃなく、二人っていう人数の少なさだと思う。
元々土地勘も何もないのに少人数では出来る仕事がほとんどないのだ。
シャサが言うにはここらの冒険者はほとんどが5.6人のグループで活動してるらしいし。
「良かったらご一緒しますか?」
「有り難いが、しかし・・」
誘われたルークが困っている。
そりゃそうだろう。
俺から離れて双子狼の世話になったんじゃ意味がない。
しかし、俺としては安全は確保して貰いたい。
「初めの一回くらいは良いんじゃない?まだこの辺の地理もわからないし、ここまで来る間も魔物がほとんど出なかったから、誰かと一緒なら調度良いでしょ。」
「まぁ、そうだが・・」
そんなことはルークならわかってるか。
それなら追い討ちをかけよう。
「俺もお金を返してもらう前に死なれたら困るからね。」
「お金を借りたんですか?」
シャサに聞かれてルークが嫌そうな顔をしている。
「ああ。そうだな、俺も早く返したい。」
「じゃあ決まりだね。」
「・・よろしく頼む。」
ゴリ押しだったけど、決めてくれて良かった。
双子狼なら安心だ。
「それで、何か良い仕事はあったの?」
「ええ、ちょっと長旅になりますけど。」
俺達は長旅の最中だし、戻る手段がわからない以上、予定もないんだ。
特に問題はないと思う。
「内容は?」
仕事内容は商隊の護衛だった。
海岸から北に見えた山の向こうまで街道で回り込んで行くらしい。
最大で一ヶ月近くかかるそうだ。
ちなみに食事は商隊持ちなのでさっき買った保存食は無駄になるかと思ったんだけど、違うらしい。
商人と冒険者では食べる量が違うので貰える食べ物だけだと足りないことが多いから、無駄どころかこの後みんなで追加分を買いに行くんだって。
冒険者って大食いなのか。
もしかして肉体労働してる人みたいに昼ごはんも食べるのかな?
というか、冒険者って肉体労働者か。
俺は街ではつまみ食いをよくするけど、いつも街にある屋台を見るたびに思うことがある。
あれだけ昼に屋台があるんだから、みんな食べるんだよね?
食べなきゃ屋台が出るわけないもんね。
それってさ、昼飯なんじゃないの?
俺は普通の人は昼ごはんは食べないと孤児院で教わった。
けど、実は孤児院が貧乏だったから昼飯がなかっただけなんじゃないかと、俺は本気で疑っている。
それはともかく、みんなでそんなに遠くまで行くなんて羨ましい。
今更俺も付いて行くなんて言い出せないけど、俺も何か仕事でも受けようかな?
たくさん貼ってある依頼書を見てみるけど、多過ぎて何が良いのかわからない。
依頼の前に冒険者登録を済ませるか。
俺はカウンターのところまで来て、暇そうなオバサン・・ベテランぽい女の人に話しかける。
「すみません。冒険者登録をしたいんですけど。」
「あぁ、親はいるのかい?保護者の同意がないなら受け付けないよ。」
職員が頬杖をつきながら答える。
明らかにめんどくさそうな態度を隠そうともしていない。
くそっ
子供だと思って足元を見やがって。
いや、カウンターごしだから顔しか見えないと思うけどね。
どうしたものかと困っていると、そこにライアン、ルーク、シャサが来る。
「こいつは孤児だ。親はいないぞ。」
「登録に保護者が必要なのか?」
「何か問題でも?」
カウンターごしに詰め寄られたスタッフは焦って自分の言葉を否定する。
「い…いえ、大丈夫です。登録できます。」
後ろを振り返ると双子狼のみんなもカウンターに集まっていた。
脅迫してるみたいだな。
しかし、出来るのかよ。
やっぱりめんどくさかっただけか?
「ギルドの職員はこちらが動かないと何もしてくれませんから、わからないことがあればこちらから聞いて下さい。知識も資料も豊富なので依頼のことで知らないことはありません。上手く使ってくださいね。」
シャサは職員に聞こえるように言ったみたいだけど、使うって・・
「うん・・わかった。」
「それではこちらに記入して下さい。あの・・文字は?」
「書けるよ。」
「そうですか、では」
職員が渡してきた記入用紙は簡単なものだった。
書くのは名前と所属だけ。
保護者の同意はどうした?
名前はともかく、一人の時は所属はどうすればいいんだろう?
横を見ると、俺が記入している間にライアンとルークは双子狼と一緒に別の職員と話して依頼を受けているみたいだ。
しょうがない。気は進まないけど、わからないから聞くしかない。
「すみません。所属って何ですか?」
「えぇ?所属は所属だよ」
みんなが離れたのをいいことに、オバサンが再びめんどくさそうな顔で俺を見ている。
この職員ハズレだろ・・
「記入方法が全くわからないので、説明してもらってもいいですか?名前はそのまま書けばいいんですよね?一人の時は所属はどうすればいいですか?」
「・・あなた文字が読めないのかい?」
バカにすんなよ。
さっき「所属」って言っただろ。
「読めますよ。所属の意味がわからないって言ってるでしょ?」
「読めるんだったらわかるだろ?」
といって再び頬杖をついて見下してくる。
なんなんだこいつ?
わからないって言ったよな?
バカなのか?
もしかしてさっきみんなが脅迫みたいな態度を取ったのは、これが原因か?
いや、脅迫みたいな態度を取られた腹いせに俺に嫌がらせしてんのか?
ライアンもルークも昨日はここで情報収集をしてたはずだし、この職員のことを知ってたのかもしれない。
もしくはこのオバサンは俺を試してるのか?
まぁ子供だからな。
そうなのかもしれない。
そーゆーことにしておこう。
なら、認めさせるまでだ。
自分の体から魔力が溢れてくるのを感じる。
でも、別に俺の魔力は減っていない。
使ってないし。
孤児院で先生に言われてからやっていた自分の魔力漏れを押さえ込むのを辞めただけだ。
魔力を操作してるんじゃなくて、放置してるのだ。
ギルド内には元々職員以外は俺達くらいしかいないが、静かだったロビーが余計静かになった。
瞬時にギルドのロビー内からカウンターの向こうまで、一階が薄く広がった俺の魔力で満たされたのだ。
どんなに鈍い人でも気が付くだろう。
即座に異常に気が付いたシャサ達も微動だにしないでこちらを見ている。
ルークも一緒に臨戦態勢だ。
しかし、ライアンだけが違った。
ライアンはこちらに近付いてくると、俺の頭に手を置いて話しかけてきた。
カウンターの奥の方から「ヒッ」という短い悲鳴が聞こえた。
「どうした?問題か?」
「いや、別に。この人が俺の実力を疑ってるみたいだったから。」
オバサンの職員は顔を青くしておびえている。
双子狼の方から「あいつは死にたいのか?」という声が聞こえてくる。
こら、やめなさい。
「じゃあ解決したな。そうだろ?」
聞かれたオバサンは青い顔で小刻みに頷いている。
「ロイもその魔力を仕舞え。目立ちすぎだぞ。」
俺はまた溢れていた魔力を押さえ込む。
俺だってさすがにこんなことになるとは思ってなかった。
思ったよりも遥かに派手なことになってしまった。
ちょっと脅かしてやろうとは思ったけど、魔力の解放なんて数年ぶりで今となっては意識しない限り寝てる間だってそのままなんだから。
「何事だ!」
奥の階段から年配の職員が降りてきた。
左手には鞘に納めたままの剣を持っている。
「あんたんとこの職員が失敗しただけだよ。自業自得だ。」
年配の職員はライアンの説明で納得出来ないのか、他の職員に事情を聞いている。
「それで?続きはあんたがやるのか?」
ライアンに聞かれてオバサン職員がブルブルと首を横に振った。
「じゃあ早く代わりを連れてこいよ。」
オバサンは頷くと弾かれたようにさっき降りてきた年配の職員の方に行った。
ライアンは頼りになるけど、言葉が全部脅迫にしか聞こえないぞ。
俺のせいでもあるけど、登録するだけで大事じゃないか。
左手に剣を持ったままの年配の職員が俺のところに歩いてくる。
あの人が代わりをやるのかな?
「ここのギルドの支部長をやってる、トマルだ。」
うあ、あのオバサン、支部長に仕事を押し付けたのか。
この支部長、トマルだっけ?年こそ五十近いと思うけど、なんというかオーラがある。
元冒険者だろうか。
受付やるの?
この人が?
「うちの職員が失礼をしたらしいな。まずは俺から謝ろう。すまない。」
そう言ってトマルは頭を下げた。
どうやら話のわかる人だったみたいだ。
「ここからは私が説明しよう。」
「じゃあ頼んだぜ。」
ライアンが双子狼達の方に歩いて行った。
支部長と聞いて逃げたな。
「よろしく。」
「ああ。字は書けるか?」
「大丈夫。」
「じゃあまずは名前からだな。名前は何でもいい。本名でも偽名でもな。普通は本名だが、冒険者名に相応しくないと思うなら別の名前にすればいい。」
「相応しくないって?」
「それは自分で判断しろ。まぁ世の中には親が変人なせいで変な名前のやつもいる。そんなやつは大体偽名で登録してるな。ただし、国でもそうだが、どの街でも大抵はこのカードが身分証を兼ねてる。偽名でもそうそう変えられるとは思わないことだな。」
ほぉ。
昔の武将や侍じゃあるまいし、別に名前をコロコロ変える趣味はないから問題ない。
変えたがるのはどうせ犯罪者か問題児だろう。
それよりも、変な名前とはキラキラネームってやつだろうか?
こっちにもいるんだな。
確かにエンジェルとかいう名前の男戦士がいても仕事は任せたくない。
案外強いかもしれないけどね。
「あとは所属だ。どこか所属してるチームはあるか?」
「ないね。」
「じゃあ何か適当に書いといてくれ。別に空欄でもいいが、その場合は名前が所属に書かれる。」
適当ねぇ。
何にするかな。
「その二つを書いたら誰でもいいからその辺で暇そうにしてる職員に渡してくれ。登録料を払えばカードを発行してくれる。」
「登録料って?」
「あぁ?そんなことも説明してないのか?まったく、あいつはクビだな・・。」
待て待て。
「悪い噂を流されたくないのでクビはちょっと。噂が流れてからじゃダメですか?」
「まぁ・・今のところは悪い噂を流すならあいつだろうな。わかった、そうしよう。俺から言っておく。」
ホントに話のわかる人だったみたいだな。
「でだ、登録料という名前だが実際はカードの発行料だな。カードがあれば他所の街のギルドでも仕事は出来る。金額は銀貨5枚だ。あるか?」
「あるよ。金貨で払ってもいい?」
銀貨は残り少ないのでここらで崩したいのだ。
「いいが・・いや、いい。構わん。じゃあ書いたら金と一緒に職員に渡せ。以上だ。」
そこまで話したトマルはカウンターの奥にいたオバサンと少し話すと、階段を登って行った。
トマルがいなくなったのでライアンが戻ってくる。
「終わったか?なんだ?まだ何も書いてないじゃねぇか。」
「ライアン。あの支部長、最後まで剣から手を離さなかったね。」
剣はカウンターで見えなかったが、常に剣を持った左手が緊張していた。
「ああ。強そうだったな。」
ライアン・・それで逃げたのか。
まぁ咄嗟に防御結界を張ろうとしたらライアンは邪魔だけどね。
シャサ達にも意見を聞いたけど、やっぱりカードには本名を書くものらしい。
俺も本名にした。
別に変な名前でもないし、問題はないだろう。
問題の所属だけど、この辺りでは一人で冒険者をやってる人は少ないらしい。
ソロなのに変わりはなくても、名前だと舐められることもあるので、チーム名はつけた方が良いそうだ。
「どうするか・・」
「なんでもいいだろ。俺が決めてやろうか?」
やめろ。
ライアンに決められた名前で活動したくない。
あんまり冒険者として活動する気もないし、何でもいいけどね。
俺はニートのまんまでも生活できるし。
ん?
ニート?
「ニートってどう?」
とりあえず、みんなに聞いてみる。
「ほぉ、ニートか。」
「ニートですか。」
「いいですね。ニート。」
「ニートねぇ。どんな意味だ?」
「ニート・・強そうですね。」
ニートニートうるさいな。
どうせニートだよ。
もうこれでいいや。
俺は用紙の記入箇所を埋めると金貨と一緒に男性の職員に渡した。
金貨を見て少し嫌な顔をされたけど、一瞬で表情を隠すとすぐにお釣りを渡された。
「では、こちらに手を置いて下さい。」
職員に促されて魔方陣が描かれている箱の上に手を乗せると、職員が箱の横から中に未使用のカードを入れる。
「では始めます。あ、あの、少し気持ち悪い感じがすると思います・・」
「気持ち悪い?」
シャサがすばやく説明をしてくれる。
「鑑定魔法を使いますから。」
「なるほど。いいですよ。」
職員がそっと魔方陣に触れて魔法を発動させると、すぐに鑑定魔法が発動したようだ。
おぉ。
たしかに気持ち悪い。
細かい振動が頭から足に抜けていく感じかな。
これに気付かない人っているのか?
鈍感すぎるだろ。
「終わりました。」
職員が箱からカードを取り出すと、カードに書かれた文字を見て固まる。
「はっ?」
「何をジロジロ見てるんですか?」
「ここの職員はそんなに死にたいのか?」
「世の中には知らない方が良いこともあるのにな。」
こら!ガトエル、やめなさい!
ライアンも乗るな!
「す、すみません!」
男性職員が頭を下げて俺にカードを渡してくる。
これで俺も冒険者ですか?
早速冒険者カードの内容を読んでみた。
ロイ
レベル11 B
所属 ニート B
ほぉ。
Bね。
B?
強くね?
あれ?
レベルが11だ。
エビルがカードを覗き込んでくる。
「おぉ!さすがロイさん!」
他のみんなも覗き込んでは納得顔で誉めてくる。
職員は脅したのにみんなは見るのか。
まぁいいけどさ。
「ねぇシャサ。これってスキルとかも見れるんだよね?どうやるの?」
「スキルやステータスは念じれば出てきますが、流石にあまり人に見せるものでもないので一人の時に見たらいいと思いますよ。」
人に見せるものでもないのか。
念じれば出てくるなら後で見よう。
カードに念じて名前以外は消すと依頼書が貼ってあるところに向かう。
みんながゾロゾロと付いてくる。
これじゃ貴族の息子だな。
話は聞きたいけど、付いてくるのはシャサだけにして欲しい。
「依頼を受けるんですか?」
「面白そうなのがあったらね。でも一人で出来る仕事って少ないでしょ?」
「そうですねぇ。」
シャサが依頼書を探しだすと、みんなも探す。
お前らはシャサの劣化コピーか?
「こっちはいいよ。みんなは明日の準備があるでしょ?」
「そうですか。それでは今日の夜は一緒にご飯でもどうですか?」
「いいね。お金は払うから美味しい店に連れてってよ。」
「そうはいきません。今日はロイ君の冒険者デビューのお祝いですから。」
デビューって・・
「早くない?」
「すみません。本当のデビューには立ち会えそうにないので。」
しまった。
シャサに悲しそうな顔をさせてしまった。
「いやいや!楽しみにしてるよ。」
「そうですか?では後でまた。」
そう言ってシャサ達はギルドから出て行った。
さっきまでは少し賑やかだったロビーが突然広くなったような気がする。
「いきなり一人か。突然だとなかなか淋しいものがあるな。」
あれ?
シャサ達ってどこに行ったんだ?
集合時間も場所も聞いてないぞ?
遠隔通話で呼び掛けてくるのかな・・。
まぁどうにかなるだろ。
この時、実は一番出ていって欲しい子供が残ってるのを見て、勝手に絶望してたオバサンが一人いたらしい。
まぁ俺の知ったことじゃないけどね。
ライアンが言ってたけど、自業自得だろ。




