秘密はいつかバレる
昨日の朝はかなり寒かったけど、今日はトロントのお陰で焚き火があるからまだましだった。
そういえば結界内で焚き火とかして一酸化中毒とかにならないのだろうか?
なってたら死んでるけど、結界が大きいから平気なのか?
その辺はどうなってんだ?
朝起きたら双子狼の4人が何かを話し合っていた。
「でも普通有り得ないでしょ。」
「普通はな。」
「張り替えただけじゃないの?」
「聞けばいいだろ?」
咄嗟に結界のことだと思った俺はライアンとルークを起こして4人のところに連れていく。
「どうかしたか?」
突然起こされて少し不機嫌なライアンの代わりにルークが話しかける。
「いや、大したことじゃないんだが・・」
ガトエルが言葉を濁すが、マーシャが前に一歩踏み出す。
「あの、昨日の夜にロイ君が結界を抜けて出たように見えたんですが。」
ああ、トイレに行った時のことか。
一方通行の結界なので抜けるのは誰でも出来るけど、入ってくるのは術者が自分で出した結界を操って形を変えるか、一度解除してもう一度張り直す必用がある。
昨日はめんどくさかったので形を変えて戻ってきたのだ。
見られていたのか。
「それなら張り直しただけです。」
「お二人が起きてるようには見えなかったんですが・・」
張り直すには二人でやる必用がある。
二人で張ったことになってるのだから当然だ。
「結界を張るのに起き上がる必要はないからな。」
ルークはこれで押し通すみたいだ。
まぁ変形させて通る方が楽なんだけど俺が咄嗟に一度張り直したと言ってしまったし、言い直す訳にはいかない。
「もういいじゃない。張り直したって言ってるんだし、問題はないでしょ?」
シャサが話を終わらせる。
昨日に比べるとちょっと、いや、かなり空気が悪い。
交代で見張りをしてる横で朝まで熟睡されたら機嫌も悪くなるよね。
ということで、ここは俺の出番だな。
昨日釣った魚の中でも一番大きかった鮭を取り出すと、みんなに振る舞った。
ついでに昨日の鮭の分も合わせて残った骨で出汁を取って野菜の入ったスープも作る。
鍋は双子狼のメンバーが貸してくれた。
収納魔法等を使う時のためにライアンにそばにいてもらったけど、最後まで料理を手伝ってくれた。
昨日食べた鮭をかなり気に入ってくれたみたいだ。
俺とは手際が全然違うから、次からは全部ライアンに任せた方が美味しくなるだろう。
いや、任せよう。
悪くなった空気は一気に良くなった。
「本当にありがとうございます!」
「いやいや、鍋を借りたお礼ですよ。」
かなり苦しい言い訳だけど、まぁ理由なんて何でもいい。
それにしても鍋どころか俺達が持ってるのはナイフと肉が刺さっていた串だけだ。
皿すらない。
街に着いたら色々と買わなきゃな。
「じゃあ出発しましょうか。」
シャサが声をかけてみんなが立ち上がる。
「そういえばどっちに向かうんですか?」
「ああ、言ってませんでしたね。とりあえずしばらくは海沿いを南に向かいます。」
「やっぱり南ですか。」
昨日考えていた方向は間違ってなかったらしい。
「ええ。そうしたら街道に出ますから、それを辿って街に行けますよ。」
「街までは何日くらいで?」
「街道まではおそらく3日もあれば。街までは街道に着く時間にもよりますが、たぶんその日のうちに着きますよ。」
ということは、多少遅れても4日くらいあれば着くってことか。
しかし街道まで3日となると3人で歩いてたらちゃんと着いてたか怪しいな。
途中で諦めそうだ。
俺達は荷物なんてないけど、双子狼達はそれぞれ大きな荷物を背負っている。
「あの、荷物はそれだけですか?」
身軽な俺達をみんなが不思議そうに見ている。
「咄嗟の出来事で持ち出す余裕がなかったからな。」
ライアンが少し悔しそうに言うと、シャサは何かを悟ったのか申し訳なさそうな表情になる。
「そうでしたか。すみません・・」
ライアンが悪いんだから謝ることはないんだよ。
まぁいいか。
カルスト、ガトエル、ライアン、ルークが前を歩き、俺はシャサと歩いている。
マーシャは後ろから近付く魔物を警戒しながら付いてくる。
明らかに前衛が多いけど、こんなもんか?
「シャサさん。」
「何でしょう?」
「海沿いを行くって言ってたけど、ちょっと遠くないですか?」
今俺達が歩いてるのは地形によっては海が見えなくもないという微妙な位置で、海沿いかと言われるとちょっと怪しい距離をおいて進んでいる。
「それはこれくらいの距離が一番安全だからですよ。」
シャサさんによると、海には強力な魔物が沢山いるため近付き過ぎると刺激してしまって危ないんだそうだ。
じゃあ内陸を進めばいいかというと、内陸は内陸で魔物の数が多い。
内陸の魔物は海には近付かない傾向にあるらしく、この中途半端な距離が一番安全なんだって。
「海の強力な魔物って何がいるの?」
「それなら水竜だな。」
後ろからマーシャが答えてくれる。
それなら見たことがあるな。
やっぱりあれは強いらしい。
「どれくらい強いの?」
「すごく強いですよ。A級冒険者グループでも勝てないこともあるくらいですから。」
なんだそれ?
「A級ってなに?」
「知らないですか?冒険者に限ったことじゃないですけど、人や魔物をランク分けした階級です。普通は個体ごとにランクは決まるんですけど、この冒険者カードっていうものを使うとチームでの大体の強さがわかるんです。」
シャサが見せてくれたのはルビィの街のギルドで冒険者が持ってたものと同じものみたいだ。
でも、メリンダが説明してくれた内容とは書いてあるものが違う。
試しにライアンにカードを貸してもらって比べたけど、やっぱり違う。
ライアンの方に書かれてるのは
『ライアン レベル17
所属 ルビィの街 』
これだけ。
でも、シャサさんのカードには
『シャサ レベル19 D-
所属 双子狼 C 』
と書かれている。
D-とはその個体の強さを表し、F-からSまで20段階あるらしい。
人間の限界はA-だと言われてるみたいで、古かった鑑定魔法の時代を合わせてもAクラスの人類はいないらしい。
Cと書いてあるのは所属しているチームの大体の強さがわかるもので、FからSまで7段階あるが、チームワークや連携は考慮されないため、大体の強さがわかるだけだ。
ルビィの街ってのは所属って意味ではあってるけど、これだとチーム名にした方が使い勝手が良さそうだ。
「あら、ライアンさんのは古いカードですね。」
「古い?」
「ええ。昔はみんなそのカードを使ってたらしいですけど、新しい鑑定魔法を使うようになってからは強さや持ってるスキルがわかって便利になったので、ギルドもこちらを発行してるはずですよ。」
シャサとマーシャによると古いカードでも仕事は受けられるらしい。
ベテラン冒険者の中でもスキルはともかく、強さを書かれるのを嫌がる人は古いカードをそのまま使ってる人もいるらしい。
そういえばメリンダがカードが新しくなるとか言ってたな。
ここは未来か?
まさかね。
「ねぇシャサ。今年って星歴何年?」
「134年ですけど・・?」
星歴はこの世界での暦だ。
日付とおまけに季節まで確認したけど、どうやらタイムスリップはしてなさそうだ。
当たり前のことばかり聞く俺をシャサはさすがに不審そうに見ている。
「気にしないで。」
下手な言い訳をするよりはこの方がいいだろう。
ライアンがチラチラとこっちを見ているから話は聞いてるはずだ。
話す手間が省けて助かる。
出来ればそのままルークにも話しておいて欲しい。
その日の夕方、そろそろ夜営場所を探す頃になってオークが出た。
一匹だけで彷徨いてるところだったみたいだ。
遭遇する少し前にライアンが突然後ろに下がってきてマーシャと話し出したからどうしたのかと思ったらこれだ。
ライアンは凄いやつだ。
悪い意味で。
オークは前衛の3人でさっさと倒してしまった。
そういえば人が戦ってるのを見たのは初めてだ。
カルストとガトエルが前から動きを止めて後ろに回り込んだルークがバッサリ。
あっけなく戦いは終わった。
みんな強いなぁ。
念のために全員集まる。
「怪我はないだろ?」
ライアン。
お前が言うな。
「ああ、大丈夫だ。」
全員無傷だった。
「この辺ってオークがよく出るの?」
こないだも朝起きたらオークがいっぱい集まっていたし、この辺にはオークの巣でもあるのだろうか?
「オークって?」
「え?・・いやこれ、オークでしょ?」
そう言って死んだオークを指差す。
「これはゴブリンよ?レベルが高いから大きいけどね。」
なんと。
俺達がオークだと思ってたのはゴブリンだったのか?
ライアンも驚いているようだ。
「待てよ。角が3本あるのはオークじゃないのか?」
「確かにオークは角が3本あるが、それは種族とは関係ないぞ。ゴブリンだってレベルが上がれば角が増える。」
ライアンの言葉をカルストが否定する。
なんだそりゃ。
じゃあ俺が倒したのもゴブリンか?
「鑑定魔法をかければすぐにわかる。」
もう呪文を唱え始めていたシャサが呪文を発動させる。
「やはりゴブリンです。」
俺達には見えないけど、種族がわかるらしい。
鑑定魔法ってメリンダが言ってた魔法と同じかな?
結局メリンダも知らなかったから教えてもらってないんだよね。
「シャサさん、鑑定魔法っていうの教えてくれる?」
「いいですが・・」
と言ってシャサがライアンの方を見る。
「大丈夫だ。ロイは魔法が使える。」
どうやら双子狼を信頼した上で俺に丸投げするつもりらしい。
魔法を使うなと言って丸1日か。
ライアンにしてはもった方なのかもしれない。
元々ライアンは俺に魔力操作を習ってた。
同じ孤児院で育ってもいるし、ただの9才じゃないことは十分にわかってる。
俺が力を隠さなくていいなら特に魔法関係のことは俺に任せた方が早いんだろう。
・・他のことも任せてきたらちゃんと断ろう。
シャサさんに鑑定魔法を教わると、とりあえずゴブリンにかけてみる。
ゴブリンの上に『ゴブリン』と文字が浮かんで見えた。
次にライアンにかけたら
『人
レベル17 D-』
と出た。
新しい方の鑑定魔法だったようだ。
D-とかシャサさんと一緒でやんの。
戦闘サボるなよ。
俺に鑑定魔法をかけられたライアンが何故かモゾモゾしている。
「なんか気持ち悪いな。」
「敏感な人は鑑定魔法をかけられると不快感を感じます。それと、生きてる者にはレベルとランクも一緒に出ます。」
確かにゴブリンは名前だけだったな。
足下の石にもかけてみる。
「石って・・」
「この鑑定魔法は物にはほとんど意味がないぞ。」
カルストが教えてくれた。
「この鑑定魔法は、って言うと?」
「食べ物や道具の鑑定魔法もあるってことだ。」
マジか!
そりゃすごい!
それがあれば冒険者になって仕事を受けたものの獲物や採集物がわからない、なんてことがなくなる。
「とりあえず夜営の準備をしませんか?」
こちらにある魔法を色々と問い詰めているとマーシャから申し出があった。
確かに早く準備をしないと日が沈んでしまう。
さすがにゴブリンの死体の横で眠りたくはないので、寝やすい場所を探してもう少し進んだところで夜営を始めた。
「しかし、その年で魔法が使えるなんて凄いですね。」
「使えるっつーか、昨日の結界もこいつだぜ?」
「はっ?」
双子狼が夜営の準備をしてる間に話し合った結果、双子狼には俺のことを隠さないことにした。
「調度いいから結界張っちまえよ。」
「いいよ。」
俺は呪文をみんなに聞こえるように唱える。
「おい!」
「ダメです!」
双子狼達が慌てて止めに入る。
呪文を理解している者なら唱えてる呪文のレベルはすぐにわかる。
呪文にはレベルを示す場所があって、そこを変えるだけでレベルを変えられる。
一生唱えることのない高レベルの呪文でも、数字くらいは把握しているだろう。
俺が唱えてるのはもちろんレベル9の結界魔法だから、子供どころか一流の魔術師が唱えても即死級の自殺行為だ。
だが、双子狼の心配をよそに結界は完成する。
「バカな!」
「どうゆうことだ?」
シャサとマーシャは絶句して周りと俺を見ている。
「こーゆーこと。」
呪文は意味がわかってなくても自動的に魔力を消費して魔法を発動させる。
唱えきって生きていることが、俺の能力を示す何よりの証拠になる。
まぁレベル10の魔法を唱えても、今の俺じゃレベルは9止まりなんだけどね。
体が小さいせいなのか、魔力が出てこないんだからしょうがない。
一々説明なんかしないけどさ。
「信じられない・・」
信じてください。




