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鮭に始まり鮭に終わる

 鮭が焼き上がる前に話し合いは済んだようだ。

 ライアンが結果を教えてくれる。


「とりあえず明日からは南に行ってみるぞ。」

「いいけど、ちなみに何で?」

「お前は釣りをしてたから見てないかもしれないが、海岸の北側には山が見えてた。南は比較的平坦に見えたから街を探すにはそっちの方が良さそうなんだよ。」


 なるほど、確かに見てない。

 平坦な土地の方が街はありそうだし、それがいいだろう。

「了解。もうすぐ焼けるから待ってて。」

「それ、食えるのか・・?」

 どうやらライアンは魚を食べたことがないらしい。

 なんて勿体ない!

 話し合いが終わったので、ルークもそばに来て俺の焼き鮭を見ている。

「魚は食べたことがあるが、海にもいるのだな。泥臭いのであまり好きではないのだが・・わがままも言ってられないか。」

 どうやらルークは川魚なら食べたことがあるらしい。

 泥臭いってことはナマズとか?

 ハーブとかがあれば臭くなくなると思うんだけどね。

 あと、泥抜きとかするんだっけ?


「大丈夫だから、楽しみにしててよ!」

「なんで元気なんだよ。」

「・・魚はそんなにいいものじゃないぞ?」


 ふっ!

 二人ともわかってないな。

 こんなに新鮮な鮭なんて日本でも食べたことがない。

 楽しみに決まってるだろ!

 醤油があったら刺身にするのに!


 その時、ライアンとルークの背後から植物の魔物が表れた。

 鮭に集中するあまり、まったく警戒してなかったようだ。

「ライアン!後ろ!」

 言う前に気付いたようでライアンは横に飛んで距離を取る。

 対してルークは俺を守るように前に立って腰に下げた剣を抜いた。

 ルーク!

 カッコいい!


「トレントか?」

 横からライアンの声が聞こえてくる。

 冒険者にはかなり一般的な木の魔物で、見た目は枯れ木。

 実際には動く枯れ木。


 目も口もなく、動きもトロい。

 たまに襲っては来るものの、ほとんどは歩いてるだけだし周りが見えないせいか攻撃も大雑把。

 攻撃されても痛いくらいで、大型のトロントに踏み潰されない限りはまず死んだりもしない。

 ただし木なので、大きなトレントは一撃で倒すのは難しい。

 そのため、ゴブリンよりは討伐難易度は高い。

 高さが20メートルを越えるトレントもいるらしいから、ゴブリンより上なのも納得だ。

 それでも切り取った枝がよく燃えるので、冒険者には薪として重宝される便利な魔物らしい。

 この世界では魔獣といえば獣に限るけど、こいつは木が魔獣化したものなんだと思う。


「デカいな。こんなに要らないぞ。」

 今目の前にいるのは5メートルくらいのトレントだ。

 大きさは普通といったところだけど、まだ他の冒険者と遭遇していないのか、無傷なので枝がいっぱいだ。

「どうする?燃やしちゃう?」

「それじゃ勿体ないだろ。」

 ライアンの言葉にルークも頷く。

 もはや完全に薪扱いだ。


「じゃあ収納魔法に入れちゃうから調度いい大きさにしよう。」

 そう言って風魔法を連打する。

 みるみるトレントが解体されて薪の山になる。

「やはり前衛は要らないのでは・・」

 ルークが何やら不安になってるようだけど、今はそっとしておこう。


 薪の山を見ながらライアンが困った顔をしている。

「こんなに入るのか?」


 バカにしてもらっちゃ困る。

 だがライアンの疑問ももっともだ。

 普通、収納魔法でしまえる量は意外に少ない。

 冒険者レベルで言えば、使える者でも大きめのカバンくらいが一般的だ。

 いちいち呪文を唱えるのも面倒だし、貴重品くらいしか普通は入れない。

「大丈夫だよ。」

 さっさとほとんどの薪を収納してしまう。

 残りは今から薪として燃やす分だ。

 満杯にしたことはないけど、元々俺の収納魔法の容量は大きな馬車を丸々入れても余るくらいはあったと思う。

 でもレベル9の魔法が使えるようになったので、収納空間は作り直した。

 今は一軒家を丸ごと収納してもまだまだ余る。


「収納魔法って容量増やせたのか・・」

「一軒家だと・・」

 説明したら驚かれた。

 作り直せることも知らなかったらしい。


「さて、そろそろ焼けるよー。」

 調度説明が終わる頃に鮭が焼き上がった。


「あのー」


 そこに戦士風の女の人が話しかけてきた。

 突然話し掛けられて俺とライアンとルークはかなり驚いた。

 さっき魔物に襲われたばかりなのだ。

 流石に警戒を解いたつもりはない。


「すみません。脅かすつもりはなかったんですけど、近くを通りかかったものですから。良かったら夜営をご一緒しませんか?」

 振り返った俺達の前には全員大きな荷物を持った4人の若い男女が立っていた。

 今度話しかけてきたのは魔術師風の女の人だ。

 この人が一番若く、恐らく二十歳にもいっていない。

 フードは後ろに下げてあるけど、ローブの内側に魔力石の付いた杖がちらりと見えている。


「ご迷惑でしたか?」

「いやいや、実は道に迷ってまして。助かりました。俺はライアンです。」

 ライアンがすっと前に立って話し出した。

 この女好きが!

 と思ったが「ほら、お前も挨拶しろ」と言いながら俺に近付いた時に「魔法は使うな」と言われたので何か考えがあるのかもしれない。

 突然話しかけられたので怪しく感じるが、冒険者に限らず商隊なんかでも魔物の襲撃に備えて夜営をする時は近くを通りかかった者と近くで眠ることはよくあるそうだ。

 結界を張ってしまう俺達にはあまり関係ないが、人数が多ければ見張りも減らせるので積極的に人を探す冒険者もいるらしい。


 お互いに少し離れたところで夜営の準備を済ませて、情報が知りたい俺達は一緒に夕飯を食べてもらうことにした。


 2番目に話しかけてきた魔術師風の女の人はシャサと言うらしい。

 やはり魔術師だった。

 他に最初に声をかけてきたマーシャという女剣士と、カルストとガトエルというどちらがどちらかわからない双子の男戦士の4人組だ。

 ここにはいないけどあと2人いて、6人で双子狼というチームで活動しているらしい。

 チーム名とかあるんだな。


「さっきも言ったが俺はライアンだ。こっちの戦士がルーク、んでこのちっこいのがロイだ。」

 ちっこいとは失礼な。

 これでも結構大きくなってきたんだぞ。

 まぁまだちっこいけど・・


「子供連れですか?」

 双子の一人、カルストが呟くように聞いてくる。

「見ればわかると思うが、俺達の子供じゃないぜ?ちょっと訳ありでな。ルビィの街に戻る途中なんだけど、道がわかんなくてよ。良かったら教えてもらえないか?」


 カルスト達はお互いに見つめ合うと、代表してシャサが答える。

「すみませんが、聞いたことのない街です。どこの国にあるんですか?」

「ライクス王国だ。」

 今度はルークが答える。


「すみません。やはり、聞いたことがありません。」

 残りの3人も首を横に振っている。

「私達は仕事を終えて街に帰るところなのですが、良かったらご一緒しますか?街に行けば知っている人もいると思いますが」

「そりゃ助かる!」

「では、そうしましょう。」

 シャサはそう言って微笑んだ。

 いい人だ。


 話が終わったのでやっと夕飯にする。

 くそっ

 絶対焼きすぎだ。

 話し合っている間に薪に切り替えてある火からは遠火にしておいたけど、流石に水分がかなり飛んでしまっている。

 折角の鮭が・・

 よし、こうなったらもう一匹焼こう。

 俺はみんなから隠れて鮭をもう一匹『収納』から取り出すと、手早くさばいた。

 焼く時間がかかるので、さっきよりも少しだけ小さく切って串に刺して焼く。


「あの・・それはもしかして、鮭ですか?」

 串に刺した鮭の位置を調整していると、シャサがおずおずと話しかけてくる。

 どうやら焼き終わった鮭を見ているようだ。

「そうだけど・・ちょっと焼きすぎちゃって・・」

 溜息混じりに答えるが、なぜか後ろに続く双子狼の面々も目をキラキラさせて見ている。

「良かったら・・食べます?」

「いいんですか?!」

「いや、しかし金が!」

「今回の依頼料でどうにかなるんじゃない?」

「今いくら持ってる?!」

「これじゃ足りないだろ!」


 なんかすごいテンション高いな・・。

 つーか失敗作だし、金とかいらないぞ?

「あの・・これで足りますか?」

 シャサがそういって手渡してきたのは銀貨5枚だった。

 どーゆー計算でこうなるんだ?


 ・・あれ?

 よく見たらこの銀貨おかしくないか?

 銀貨をジロジロ見ていると、シャサが申し訳なさそうに話しかけてくる。

「あの、切れ端でもいいので・・」

 いやいや、切れ端に銀貨5枚とかおかしいだろ。


「ライアン。この銀貨見て。」

 何事かと様子を見ていたライアンとルークがそばに来る。

「ん?これは・・」

 ルークは気が付いたようだ。

 懐から銀貨を取り出してシャサに手渡す。

「シャサさん、この銀貨を見たことはありますか?」

「えっ?・・いえ、ありませんけど・・。これも銀貨なんですか?」

 銀貨の大きさや色は全く同じだけど、模様が全然違うのだ。

 金貨から石貨まで全ての貨幣の模様は一種類だけで、同じ銀貨なら全て変わらないはずだ。


 全員でお互いの銀貨をよく見て観察している。

 しばらく観察したあとライアンがボソッと呟く。

「こりゃ、そーとー遠くに来ちまったみたいだな。」


 少なくとも俺は違う通貨があるなんて聞いたことがない。

 それは他のみんなも同じみたいだ。

 シャサが渡してきた銀貨からも魔力を感じるので、きっとこれにも偽造防止の魔法がかかってるんだろう。

 偽物ではなさそうだ。


「僕達はこちらの相場とかわからないので、これで結構ですからどうぞ食べてください。」

 いつまでもお金を見ててもしょうがないし、せめて温め直してから鮭を渡した。

「ありがとうございます!」

「まさか鮭が食べられるとは・・」

「早く食べましょうよ!」

「待て!ちゃんと分けてからだ!」


 テンションおかしいって・・

 まぁ日本でも時代によって高級魚が違ったりしたらしいから、色々とあるんだろう。

 しかし、こちらの銀貨の価値がわからんな・・

 いや、それは元々か。

 ルビィの街でもあんまりわかってなかったもんな。


 聞きたいことは山ほどあるので、鮭を美味しそうに食べてる4人に話しかける。

「あの、良かったら色々と聞かせてもらってもいいですか?こちらのこととか全然わからなくて。」

「もちろん!良いですよ!」

 だからテンション・・元気なだけか?


 主にライアンとルークに聞いて貰ったけど、物価はそこまで違いは無さそうだ。

 貨幣の価値もほとんど違わない。

 ってことはさっきの失敗料理に銀貨5枚・・最低でも5万円!?

 凄いな。

 そこまでレアってことはあの水竜が関係してるんだろう。

 たぶん、釣りに命をかけるやつは少ない。

 水竜と戦って釣ってこれるやつも少ないだろうし、たぶんそれで高いんだろう。

 シャサに確認したら、やっぱり海産物は高いらしい。

「普通は魚といえば川でとれる魚のことを指しますし、海魚は貴重ですよ。まぁこの辺りには川もあまりないので、魚自体が貴重ですけどね。」

 鮭って川で取れるよな?

 こっちでは違うのか?

 いや、川にも魔物がいるってことか。


 とりあえず、魚を釣って売ったら儲かるらしい。

 水竜がいるから難しいか?

 今持ってるお金はほとんど使えないと思った方が良さそうだし、稼ぐ方法も考えないと俺はともかくとして、ライアンとルークを無事に帰すことも難しいな。

 そもそも生活ができなきゃ旅はキツいだろ。


「それで、ここはエンマークのどの辺りなんだ?」

 ライアンが主導して質問を重ねていく。

「エンマークとは何ですか?」

 双子狼はほとんどの質問はシャサが答えてくれる。


「えっと、この大陸ってエンマーク大陸だよな?」

「はぁ・・大陸に名前があるとは知りませんでした。」

 他の3人も知らなかったようだ。

 ルークも4人の方を向いて意外そうな顔をしているので、たぶん知ってたんだろう。

「まぁ名前で呼ぶことも珍しいか。東の大陸って呼ぶことが多いか?」

「東?西にも大陸があるんですか?」


 なんか要領を得ない会話が続く。

 女の人が地理に疎いのはおそらく全世界共通だろう。

 しかし、カルストとガトエルまで知らないとは。

 いや、こいつら双子だし、知らないことも被ってそうだから一人換算でいいのかもしれない。

 これは偏見か?


「ところで、魚を売っていただいたお礼といいますか・・今日の見張りは私達でやろうと思うのですが。」

 マーシャも頷いている。


「ああ、見張りは要らないぜ?」

「はい?しかし、見張り無しでは・・」

「結界を張るから大丈夫だろ。」

 シャサ達は驚いたような意外そうな顔をしている。

 ライアンが言うからいいんだろうけど、魔法はダメって言ってたよな?

 鮭を食べてご機嫌みたいだけど、調子に乗ったわけじゃないよな?

 夕飯を食べ終わったあと、念のために見張りをしたいというシャサに好きにすればいいと告げたら双子狼の人達はマーシャを残して自分の毛布に潜って行った。

 残ったマーシャは気を使ったのか、俺たちから離れた位置で見張りをしている。


 ライアンが言うまですっかり忘れていたが、結界を張っていなかった。

 今朝の魔物の数を考えると早く張りたい。

 今にして思うと、シャサ以外の3人は無口なんじゃなくて話にあまり入らずに周りを警戒していたんだろう。

鮭に関する会話以外は・・・。


「ライアン。結界張っていいの?」

「ああ、いいぞ。」

 ライアンが軽く答える。

「魔法はダメって言ってたのは?」

「どうやら悪人じゃなさそうだしな。それに何日も夜営するのに結界を使わずに寝ずの番は辛いだろ。何よりも、今朝集まってた魔物と見張りの時に戦いたくない。」

 もっともな理由だけど、冒険者としてはダメダメな発言だな。

 いや、無駄を嫌うのは冒険者としては大事なことかな?


「まぁ念のためにロイは魔法を使えない設定でいくか。目立ちすぎるからな。」

「わかった。」

「魔法を使う時は俺かルークが使ってるように見せかける。できるよな?」

「近くにいれば出来るよ。」

 ルークが呆れた顔をしているが、まぁほっとこう。

「とりあえず結界は俺とルークの二人で張ってるってことにする。あとは・・何かあったか?」

「ここってさ、エンマークじゃないよね?」

「・・たぶんな。まぁ街に行けばわかるだろ。」


 そりゃそうか。

 ここでいくら考えても情報が足りないから答えは出ない。

「私もいいか?結界だが、今朝みたいに魔物が集まってきたらどうする?」

「あぁそうか。転移は見せたくねぇな。」

「結界を一方通行にすれば中からは攻撃できるよ。その代わり外に出たらもう中には入れないから気を付けてね。」

 ライアンもその辺は先生に習ってるはずだ。

「あぁ?そういえばそんなことも出来るんだったか。確か剣とか槍で攻撃したら中には戻せなくなるんだよな?」

「外に出たかの基準は曖昧らしいけど、戻せないと思った方が良いね。あと、強度が普通の結界より落ちるみたい。」

 物理限定とか魔法限定の結界は強度が増す。

 それ以外の条件付き結界は大抵強度が落ちる。

 あと、形を変に変えることでも強度が落ちるらしい。

「落ちたって構わねぇよ。水竜でも来なきゃ問題にならないだろ。」

「じゃあ張っちゃうよ?」

「待て待て。あちらさんにも言っておこう。」

 そう言ってライアンはマーシャさんを呼んで結界を張ることとその特性を説明した。


「わかった。」

 その一言でマーシャさんは見張りに戻っていく。

 剣士らしくピシッとして見える。

 鮭の時とえらい違いだけど、見張りを真面目にこなしているだけだろう。

 見張りが気を抜くと仲間が全滅しかねないからね。

「張っていいぞ。」

 ライアンのゴーサインが出たので、呪文を小声で唱える。

「あいよ。」

 結界が発動した。

 一方通行の向きが間違ってたら洒落にならないので、試しに足下の石を外に向かって投げる。

 無事に結界を通り抜けた。

 次に上に向かって石を投げる。

 一度通り抜けた石が半球状の結界の上に落ちて弾かれる。

「完璧。」


 結界は張ったので俺達もさっさと眠りについた。

 鮭、旨かったなー。



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