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ご飯は大事です

 一瞬のホワイトアウトの後、俺とライアンとルークの3人は荒野に立っていた。


「死んだか?」


 ライアンの声が響くが、答えは返ってこない。

 俺はすぐに魔法を唱える。

 呪文をしっかり唱えて魔法を発動させる。

 思った通りにちゃんと発動する。

 数回繰り返して発動するものとしないものをはっきりさせる。


「ロイ。おい、ロイ!」

 ライアンに呼ばれて振り返ると、ルークは俺の作った結界の方を見て目を丸くして驚いていた。

 色なんて付いてないから見えないはずだけど、ルークも感じ取れるのだろうか?

 呪文を聞いて結界を張ったとわかっただけかな?

「ロイ。その、状況がわからないんだが、説明して貰えるか?」

 ライアンは自分のせいだという自覚でもあるのか、少し大人しくなっている。


 俺は冒険者になる為の試験で魔法を見せろと

言われ、覚えたての転移の魔法を使おうとした。

 距離や飛ばすものの大きさも関わってくるが、転移魔法とは見えている場所か、行ったことのある場所に一瞬で行ける便利な魔法だ。

 これが使えるだけで移動の効率は桁違いに上がるし、やりようによっては戦闘でも使える。

 それを使う直前にライアンが俺に触れたのだ。

 転移魔法がライアンごと運ぶなら問題ないが、俺よりも遥かに大きいライアンの分の魔力は用意していなかった。

 魔力不足で失敗するなら良いが、例えば、俺とライアンの半分ずつが転移したらどうなるか。

 あまり考えたくない質問だ。


 そこで、俺は咄嗟に全力で魔力を足した。

 そんなことが出来るかどうかはやったことがないのでわからなかったが、どうやらなんとか助かったようだ。

 しかし、そこで思ったよりも魔力を注ぎすぎたのだ。

 魔力操作も慣れているし一気に出せる魔力量も把握しているはずだったのだが、あの時咄嗟に出した魔力量は俺の思っていた限界を遥かに越えていた。

 そこでさっきまで結界魔法で出せる限界を試していたのだ。


「で?この結界はレベル何なんだ?」

 ライアンが結界を指差して質問する。

「レベル・・9」

『9!?』

 ルークはもちろんライアンも相当驚いたようだ。

 俺だって驚いている。

 元々俺の限界はレベル7だった。

 それが突然9に上がったのだ。

 転移直後は火事場の馬鹿力かと思っていたが、今でもレベル9の結界を出せたのだからどうやら違うらしい。


「つまり、俺達はレベル9の転移魔法で飛ばされたってことか?」

「元々の転移魔法にレベル9相当の魔力を追加したってことだろう。」

 ライアンの質問にルークが答えて俺が頷く。


 今思えば、元々転移魔法の為に用意していた魔力は自分とライアンを転移させてもまだ余るだけの量があったかもしれない。

 多過ぎても暴走する訳じゃないので、安全に使えるように多目にしているのだ。

 俺が慌てなければ・・いっそのこと少な目の魔力で実験とかしておくべきだったか?

 んな無茶な。


 そもそも、呪文の発動直前に術者の体に触れるなんて、普通の攻撃魔法だって下手したら死んでるぞ。

 突然自分に触れられたら相手に意識が向くのは当然だ。

 攻撃魔法を発動する時に意識が向いてる相手って攻撃対象になるんだぞ。

 死にたいのか?


 しかし、ルークは8才のガキがレベル9の魔法を使えることを疑問に思わないのだろうか?

 まぁ目の前でこれだけ見せられて疑うのはただの現実逃避か。

「そりゃ・・無茶苦茶だな。」

 そうだね、ルーク、俺もそう思うよ。


「よく生きてたもんだが、ここはどこなんだ?」

「僕にもわからないよ。魔力の制御で手一杯だったから、場所の指定なんてできなかったし。」

「レベル9の魔法でランダム転移か・・」

 地獄じゃないといいね。


「戻れそうか?」

 少し落ち着いたルークが一番大事な質問をしてくる。

 ライアンも俺の説明を聞いてさらに責任でも感じたのか、流石に緊張して答えを待っている。

 俺は少し悩んでから質問に答えた。

「わからない。転移の条件として、その場所に行ったことがあるか見えていること、大体の距離と方向が必要らしいんだけど、その大体がどれくらいの精度なのかすらわからないんだ。」

「なるほど。ルーク、ここがどの辺りだか大体でもわかるか?」

「わからないな。こんな場所は見たこともない。」


 冒険者だって移動は街道を使う。

 街道を外れれば見たこともない場所になってしまうのはしょうがないだろう。


「じゃあとりあえず街道を探すか。」

「そうだな。それでダメならどこかの街まで行って情報収集すればいい。」


 今後の方針は決まったものの、俺達はまだ動けなかった。

 そもそもどちらに進めばいいのかわからなかったのだ。

 遠くに見えている山すら見覚えがないことから、二人が普段から活動しているライクス王国ではないのではないかという予測は出来た。

 しかし、じゃあどちらに進めばいいのか、誰にもわからない。

 ルビィの街からは東西に街道が延びているので出来ればそこに出たい。

 だが話し合った結果、今いるのは恐らく気温、地理等を考慮してもルビィの街からは西になりそうだと思われる。

 まぁ東と北の方角に離れれば海しかないので、2択なんだけどね。


 というか、『東だけはない』。

 というのが冒険者二人の出した結論だ。


 それではここから東に向かえばいいかと言われれば、もしもルビィの街から少しでも南にいた場合、そこにはかなりの距離を進まないと街道がない。

 色々と話し合った結果、俺達は西に向かうことになった。

 たぶんルビィの街からは遠ざかるはずだが、今いる場所さえわかれば俺の転移で戻れるはずだ。

 街道や近隣の街を探す方が手っ取り早い。

 話し合いで向かう方向が決まる頃にはもう太陽が沈みかけていた。


「こりゃ動くのは明日にした方がいいか?」

「そうだな。結界もあることだし、ロイ君には休憩が必要だろう。ここで夜営した方が良い。」


 結界なんて張り直せばいいし休憩はもうしたから別に要らないのだが、二人はレベル9の結界を大事にしたいようだ。

 別に貴重品でもなんでもないんだけどね。

 もしかして結界から動きたくないから長々と話し合いをしてたんじゃないだろうな?

 まぁ魔力は流石にかなり減ってるからいいけどさ。


 その日はそのまま結界の中で眠ることになった。




 次の日

「なんじゃこりゃ・・」

 起きた俺達の前には魔物がいた。

 というか、半球状の結界の周りは様々な魔物や魔獣がぐるりと囲んでいる。

「見たことない魔物ばっかりだな・・」

 孤児院で読んだ魔物図鑑には載っていない種類の魔物が多い。

 いや、正確にいうと載ってはいた。

 ゴブリンを大きくした見た目で角が3本生えた魔物とか。

 オークだと思うよ。

 持ってるのはこん棒だけど、角はあるし。

 その昨日戦ったのと同じようなオークが10匹以上いる。

 他に大きな蜘蛛の魔物が3匹とちゃんと剣を持ったデカいオークにデカい蛇の魔物が1匹ずつ。

 控え目に言って強そう。

 はっきり言って餌になった気分だ。


「どうだ、ルーク。勝てそうか?」

「・・・勝てるわけがないだろう。そもそも数が多すぎる。」

「それじゃあご飯にしよっか。」


 俺の言葉を聞いた二人がバカにしたような顔で見てくる。

 なんてやつらだ。

 ご飯あげないぞ!


 結界にはかなり自信があるのでここを出る前に腹ごしらえは済ますべきだと思ったのだが、何か間違っただろうか?

「お前よくこの状況で飯とか言えるな。」

「そもそも旅の支度もしてないだろう。俺も保存食がほんの少しあるだけだ。これを分け合うのは構わないが・・。今の状況を脱するのが先じゃないのか?」


 二人ともわかってないな。

「こいつらがいつからいたのか知らないけど結界は破れないみたいだし、出るのは見える範囲に転移すればいいでしょ。そしたら少しは走ることになるだろうから、ご飯は安全な今取るべきだと思うけど?」


 そう言って俺の自慢の収納魔法から肉を取り出す。

 既に串に刺さってるのであとは焼くだけだ。

「塩味でいいかな?」

 燃やすものがないので、生活魔法で肉を焼きながら二人に聞くと今度は呆れた顔をされた。


「収納魔法に何入れてんだよ。」

「本当に9才か?なぜ魔物を前にして料理をする気になる・・」

「あぁロイ!味付けはいいからお前は火加減だけ調節しろ。」

 どうやら味付けはライアンがやってくれるらしいので、串に刺さった肉をあと二本取り出してライアンに渡す。。

 孤児院で料理はやってなかったと思うけど、結構手付きが慣れてるので冒険者をやる内に覚えたのかもしれない。

「見張りは・・必要ないだろうな。」

 俺はともかくルークは本当にやることがないので暇そうだ。

 どうやら普通は見張りも必要らしいね。


 大きめの串焼きだったけど、ちょっと物足りなかったので果物も出したら今度は断られた。

 いつ街にたどり着くかわからないので節約するべきだと言われてしまった。

 なるほど。

 そりゃそうだ。


「じゃあ行くよ。」

 食べ終わったので脱出する。

「頼んだ。」

「今度はミスるなよ。」

 誰のせいだ!



「あっ、失敗した。」

「おい!」

「冗談だよ。」


 二人がちゃんと掴まってるのを確認してから見える範囲で一番遠くに転移する。

 さすがに遠くの山までは飛べない。

 地面だってわかってても認識できないし。

 ということで精々200メートルの転移だ。

 少しの浮遊感と足下の感覚の変化が気持ち悪い。

視界がぐにゃっとして元に戻ると場所が変わっている。

「うお!こりゃ慣れねぇな。」

「距離は十分だな。行こう。」

 後ろを振り返ったルークが先導して先を急ぐ。

 追い付かれたくないからみんな駆け足だ。

今回は足の早そうな魔物がいなかったのが救いかな。


 距離をかなり取ったところで徒歩に切り替える。

「もういいだろう。ライアン。代わってくれ。」

「あぁ」


 ん?どうゆうこと?

 不思議な顔をしていたら、ルークが説明してくれる。

「俺は前衛だが、探知や捜索はライアンの方が得意なんだ。安全に進むためにはライアンに任せた方がいい。」

 なるほど。

 ライアンって盗賊系だったのかな?

 いや、斥候っていうのか?

 まぁ、だからって戦闘をしなくていいわけじゃないけどね。


 戦闘を、というより生き物の気配を避けながら進んでそろそろ昼過ぎになろうかという時に、ついてしまった。

 いや、途中からみんなわかってたんだけどね。

 だって少し前から見えてたし。

 ザバーン!

 ってさ、音込みで。


 砂浜ではなく小さい崖のようになった岩場に波が打ち寄せている光景は、なんとなく日本のサスペンスドラマを思い出す光景だ。

 しかし、日本の海と違って水がかなり綺麗だ。

 汚す人がいないんだろう。

 かなり深いのか遠くの海底はよく見えないけど、沖の方の海は南国のような澄んだ色をしている。

 ライアンとルークは海を見るのが初めてなのか、感動していいのか絶望していいのかわからない微妙な表情をしている。

「これ、海だよな?」

「見たのは初めてだが、海だろう。」

「釣りでもする?」


 あっ

 また呆れてる。

 魚食べさせてあげないぞ!


 どうやら俺と残り二人との間に考え方の違いがありそうだ。

 正直に言えば俺はそこまで頑張って帰ろうとはしていない。

 いっそのこと、このまま見付けた街で冒険者をやってもいいとさえ思っている。

 元々ルビィの街にそんなに愛着とかないし、あえて帰る理由を探すなら先生とガラシャに会いたいってくらいだ。

 それだって旅に出ることを告げずにこんなことになったからであって、先生とかに挨拶をしたらまた冒険者かハンターでもやると思う。

 まぁ俺はこの世界がホームじゃないからね。

 元々知らない世界に転移してきたようなもんだし、あんまり今と感覚は変わらない。

元々孤児院を出ることを検討してたからこそ、私物は全て『収納』にしまってある。

 それに対してライアンとルークはルビィの街が地元なんだろう。

 帰りたいのが当然だ。

 俺と違ってちゃんと地元に帰れるからね。


 でも、ライアンは罪悪感から、ルークは責任感から俺を無事に帰そうとしてくれてるのも伝わってくるのだ。

 だから俺はのほほんと過ごそうと思う。

 流石に街がないのは困るけど、今のところは食料と調味料はあるから大丈夫。

 転移が使えないからって俺が焦ってたら二人がかわいそうだ。

 特にルークが。


 とか考えながら釣りを始めたら早速得物がかかった。

 入れ食いか!?

 釣り上げてみると、結構な大物だった。

 鮭かな?

 大きい魚は大歓迎だ。

 釣った魚はとりあえずシメてから収納魔法に入れておく。

 シメてからっていってもやり方がわからないから適当だけどね。

 釣りとかそんなに詳しくないし。

 使ってる道具ですら釣り用の道具は何一つない。

 ルビィの街には釣りをする場所なんてないんだから当然だ。


 収納魔法に突っ込んでおけば魚の鮮度は落ちない。

 しかし、釣り針とか自作だし餌もつけてないんだけど、次々にかかる。

 こりゃ面白い!

 しばらく飯は鮭だ!

 この世界に来て以来、俺は魚を食べていない。

 日本人としてはもうずっと前から食べたくて仕方なくなっている。

 元々肉派だった俺としては出来れば白米の方が食べたいんだけど、魚も捨てがたい。

 ということで、釣れるだけ釣ってやる!


 しばらく釣りを続けていると

「おぉ?」

 この手応えは大物だな!

 釣竿代わりの木刀から自作の釣針までは壊れないように『纏い』で強化してある。

 どんな大物だってドンと来い!


 そして大物のわりに静かに水面から表れた得物は・・



 えーと、水竜さんかな?


 全身を頑丈そうな鱗に覆われた水色のドラゴンが釣れた。

 俺の10倍くらいはありそうな巨体をまっすぐ俺に向けている。

 俺を軽く丸飲みしそうな大きな口に、俺の木刀から糸が延びているのが見えた。

 ドラゴンを釣るなんて、俺は天才か!


「こんにちわー」

 とりあえず挨拶をしてみる。

『シャァァ!』

 通じなかったらしい。


 俺に食らいつこうとしてくる水竜さんの牙を紙一重でかわす。

 やることは一つだ。

「逃げろー!」

 俺は一目散に逃げ出した。

 いきなりルビィの街に帰りたくなってきちゃったな。

 これがホームシックってやつだろうか?


 ライアンとルークも当然水竜さんには気が付いているので、俺の声を聞いて一緒に逃げる。

「急げ!こっちだ!」

「バカヤロー!こっちくんなー!」

 ライアンは言ってることは酷いけど、一緒に逃げてくれる辺りに優しさを感じる。

 あれ?

 水竜さんは怒ってるみたいだけど、陸までは追ってこないみたいだ。

 俺達はどこまで逃げるんだろ?


 かなり本気で死ぬ思いをしたあとで十分に水竜さんから離れて、次にどこに向かうか話し合うことにした。

 いや、話し合ってるのはライアンとルークだ。

 俺は釣った鮭を使って夕食の準備だ。

 といっても俺は料理が苦手なので、小さめの鮭の内蔵を取り出してかなり適当な三枚おろしにしたあとは軽く塩をすり込んで焼くだけなんだけどね。

 そういえば魚をさばいたのって初めてかもしれない。

 包丁なんてないから、前に街でライアンに選んでもらった魔物の素材を切り取る用のハンティングナイフを使っている。

 まだ新品だけど念のために鮭と一緒に解毒魔法をかけておいた。

 しかしこの鮭、色がちょっと違うような?

 形や身の色は鮭なんだけど、表面の色が銀色だ。

 鮭ってもっと黒くなかったっけ?

 銀鮭ってやつか?

 まぁ解毒魔法もかけたし、たぶん食えるだろ。


 三枚におろしても身がデカいので、じっくり火を通す必要がある。

 まだしばらくかかりそうだ。


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