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ライアンのバカ野郎!

 冬の間にガラシャはかなり成長した。

 体ではない。

 魔力だ。

 もう魔力操作もかなりの早さで出来るし、試しに『纏い』をやらせてみたら一発で出来た。

 どうやら俺と同じ『纏い』じゃないようだったけど、教えた後しばらくたってから全身に纏ってるのを見せに走ってくるガラシャを見たときは流石にビビった。

 すげぇ早いし。

 まぁすぐに寝ちゃったけどね。

 やっぱり俺と比べると魔力量が増えるのが遅いみたいだけど、毎日使ってるから魔力量もかなり増えている。

 ガラシャが作った白の魔力石はもちろん女主人が買い取っているけど、ガラシャってここを卒業する頃には結構お金持ちになっているのではないだろうか?

 まぁそれはここの孤児院ではみんなそうかもしれないけど、ガラシャは飛び抜けてそうだ。

 そうゆう意味でも、ガラシャの将来は安泰だと思う。

 俺が冒険者になってももう、ガラシャは大丈夫だ。

 先生もいるからね。


 あと、ライアンもちゃっかり成長してるよ。

 この街では仕事が無くなるはずの冬に街に残ってどうやって生活してるのかわからないけど、雪かきで得る報酬以外は孤児院で食べていく飯で食い繋いでるんじゃないかと俺は考えている。




「ロイ!討伐へ行くぞ!」


 春の気持ちいい日差しを浴びながら庭で稽古をしていたら、ライアンが突然興奮して孤児院にやってきた。

 話を聞くと、街の近くにオークが出たらしい。

 オークとは、まぁ解りやすく言えばゴブリンが凄く大きく、強くなったやつだと思ってくれればいいと思う。

 魔物の生態は謎が多いけど、ゴブリンはレベルが上がると別の魔物、というか上位個体に進化するという説が有力らしい。

 オークはそうゆう意味ではゴブリンの2.3個先の進化個体だから、他の地域は知らないけどゴブリンでさえ稀に討伐依頼が出る程度のこの街では、かなりの大物だ。


「でも、俺まだゴブリンですら倒したことないよ?」

「大丈夫だ!今のお前ならオークなんて昔倒した熊ほども怖くねぇよ!」

「熊も十分怖かったけどなぁ。」

「いいんだよ!そんなこと!なんか持ってく物はあるか?」

「・・ない。」


 実は魔力注入で稼いだお金で買った本に収納魔法というものが載っていたので、最近自分の私物はその中にいれている。

 俺が持つ唯一の武器の木刀もその中だ。

 なんと中のものは腐らないそうなので食料も入れられるんだって。


「先生ー!ロイを借りてくぜー!立派な冒険者にしてやっからなー!」


 ライアンは大声で孤児院の建物に向かって叫んだ。

 先生が居ることを知っているのだろうか?

 いつも孤児院の中で俺がいる場所にもまっすぐ来るし、相変わらず凄いんだか凄くないんだかわからないやつだ。



 ライアンは俺を連れて街の東側の出口に向かっている。


「ギルドに寄らなくていいの?」

「あ?ああ、大丈夫だ。ちゃんと依頼は受けてきたからな。報酬は山分けでいいだろ?」

 それなら問題はないか。

 ライアンに頷くとオークの出た場所を聞く。


「目撃した商隊の話だと街の東側2キロってとこだが、ま、3キロは先だろうな。」

「なんで?」

「慌てて逃げた商隊が距離なんて覚えてねぇよ。追って来なかったらしいから2キロより近いことはないだろうし、ま、3キロだと思ってりゃそのどっかで見つかるだろ。」


 街に出入りする商隊が街との距離を覚えていないなんてことがあるだろうか?

 まぁあるかもしれないな。

 人がパニックになったら普段しないようなことをしたりするものだ。

 俺もたまにやっちゃうし。


 東の街道への出入口には兵士がたっている。

 普段から見張りは置いてあるが、今日はオークが出たということで人数がいつもの2人から4人に増えているようだ。

 でも、魔法がかけてあるから魔物は街には近付けないんじゃなかったか?

 気になったので門を抜けてからライアンに聞いてみた。


「あぁ、近付けないわけじゃないぞ。例えば捕まえた魔物とかは街に持ち込めるし、人を追いかけて街の近くまで来る魔物もいる。」

「そうなの?」

「魔物が嫌がる魔法ってだけだからな。だからあいつらはあそこで見張ってるんだろ。たぶん見える範囲くらいで襲われれば助けてくれるんじゃないか?まぁ、4人じゃ少ないけどな。」


 基本的にはのんびりと出入りする人を見張ってる門番だけど、今日に限っては緊張感があった。

 そりゃオークなんて現れたら4人いたって無傷で倒せるかわからないだろうからね。


 あれ?

 そういえば、討伐隊はライアンと俺だけ?

 大丈夫か?


 街を出て少し歩いた辺りで前から商隊が近付いてくるのが見えた。

 いやー街の東側は畑が広がってるから遠くまでよく見える。

 そう言えばちゃんと街から出たのも初めての経験だ。

 森か、街の入口近くにある孤児院の畑までしか出たこと無かったからな。

 急にワクワクして辺りを見回すが、特に珍しい物はなさそうだ。

 見渡す限り、畑だしね。




「なんかこっちに来るな・・」

「商隊でしょ?」

 ライアンよ。

 気付くのが遅くないか?


「その後ろだよ。馬車の後ろから何か付いてきてるだろ?」


 ライアンの位置からはそんなものまで見えるのか。

 俺だって大きくなったら見えるし!

 というか、ライアンって目が良いんだな。


「とりあえず急ぐか?目の前で襲われたら目覚めが悪いからな。」


 商隊を襲うということは、ライアンに見えたのは魔物なのか。

 まさかこのタイミングで盗賊とかではないと思うし。


 ライアンが商隊に向かって駆け足を始めたので俺もすぐ後に続く。

 しかし、決して全速力では走らない。

 たどり着いた所で戦う体力が無くなったら何の意味もないからだ。

 それでも向こうは全速力なのか、こちらと合わせてかなりの速度で近付いていく。

 こちらはそんなに走ってないけど、すぐに声が届く距離まできた。

 ここまで来れば魔物もはっきりと見えている。

 というかこれは・・


「た、助けてくれ~!」

 商隊から声が聞こえてきた。

 もう声もヘロヘロだが、ここで倒れたら命がないのでどうにか頑張っているようだ。

というか、馬車に乗ってるんだからしっかりしろ。

大変なのは馬の方だろうに。


「このまま街に逃げ込め!後ろのは引き受けた!」

 といってライアンが道をあけたのでそれに習う。

 ライアン格好いいな。

 商隊が横を通り過ぎるとまた道に戻り、前から来ているオークに対峙する。


「ねぇ、ライアン。」

「なんだ?」

「あのオークって小さくない?」


 オークはライアンと同じか少し小さいくらいの背丈しかない。

 実際に見たのが初めてなのでわからないが、モンスター図鑑ではオークは縦も横ももっと大きかったはずだ。

「あぁ、進化したてなんじゃないのか?レベルが高くなる前でラッキーだったな。」


 なるほど。

 確かに俺が読んだ本によるとこいつはオークで間違いなさそうだ。

 見分け方は2つ

 頭から生えてる角の数が3本なことと、武器だ。

 ゴブリンやホブゴブリンは武器にこん棒か木の棒に石をくくりつけただけの石斧なんかを使ってることが多いが、目の前のオークは多少錆びているが剣を持っている。

 なぜと聞かれても困るが、きっと殺した冒険者から奪った戦利品か何かじゃないだろうか?

 なぜ剣を持ってるとオークかって?

 それは、本にそう書いてあったからだ!

判断基準に体格なんて書いて無かったからね。


「おい何やってんだ?早くやっちまえよ。」

 オークを前にしてライアンが俺を急かす。

 商隊に言ったかっこいい言葉は何だったのか。


 それに、初心者に見本を見せてくれてもいいんじゃないのか?

 商隊を追っていたオークはとっくに俺たちの前にいる。

 が、襲ってきてはいない。

 俺とライアンを見ながら周りをウロウロしている。

 隙でも伺っているんだろうか?


「襲ってこないと戦いづらいなぁ。」

「何言ってんだ。商隊を襲ってただろ。」

「でも、俺達は襲ってこないよ?」


 すると、俺の言葉を聞いてライアンがオークから俺に目を向けた瞬間に剣を振りかぶって飛び掛かってきた。

 かなりの早さで近付いたオークの剣がライアンに当たる寸前に、体ごと俺の魔力球で吹き飛ばされる。


「あっぶねー!ロイ!襲ってきたぞ!早く倒せ!」


「自分でやれよ・・」


 俺は魔物なんて本以外で見たのは初めてなんだぞ。

 攻撃されて怒ったのか、オークは俺に向かって唸っている。

 最初からその気はないと思うけど、こうなったらライアンはもう手を出さないだろう。

 しょうがない、俺がやるか。


 幸い今いるのは街から離れた草原だ。

 畑も近くにはないし、魔法を使っても被害は少ない。


 やる気を出して呪文を唱え始めたところでオークが今度は俺に向かって突っ込んできた。

 俺はオークの振るう剣を避けて距離を取ろうと横に飛ぶが、オークが遅れて俺に付いてくる。

 着地したあとでオークが横に振った剣を避ける。

 動きはそれなりに早いが、避けられないほどではない。

 フェイントも何もない雑な剣だ。

 当然剣術の心得もないだろう。

 しかし、訓練でも慣れていない真剣が目の前にちらついて呪文を唱えるための集中が出来ない。


「くっ!」


 仕方なく後ろに飛んで距離を取った隙にこちらも剣を収納魔法から取り出す。

 剣と言っても木刀なんだけどね。

 オークは突然俺の手に出現した木刀を不思議がることもなくすぐに距離を詰めてくるが、オークの剣をこちらも木刀で凌いで呪文を唱える。

 オークの剣をまともに受けたら木刀がもたないので、剣筋を逸らすのが精一杯だ。

 オークの剣を凌いでいると、視界の隅にライアンがいるのがわかった。

 どうにか集中して呪文を完成させた風魔法をオークに向かって放つ。

 呪文が完成した時から警戒していたオークは飛んで避ける。


「やっぱり避けるよね。」


 避けられた魔法は地面を切り裂きながらライアンの横を通りすぎる。

 魔法に反応出来なかったライアンが冷や汗を垂らして固まっている。

 どうやら不意を突かれたらしい。


 再び距離を詰めてきたオークの剣を木刀で凌ぎながら次の魔法を唱える。

 このオークの戦い方はもうわかった。

 少なくとも剣を持ってるうちは、攻撃手段は剣だけみたいだ。

 だったら敗けはない。

 もしも木刀が折れても避けるだけならどうとでもなる。

 逃げ回るライアンを横目に完成した水魔法ー攻撃魔法なので氷ーが左手から飛び出す。

 また飛んで避けようとしたオークの動きを読んで、なんとか空中で足の先に当てると、下半身が一瞬で凍りついた。

 俺の魔法を避けるために高く飛んだオークは着地が出来ず、おまけに地面との衝突で凍った下半身が砕けてしまった。

 当然立ち上がれなくて、地面でもがいている。

 もしかしたら痛みはあまり感じないのかもしれないけど、見てて可哀想なのですぐに『纏い』で強化した木刀で首を切り落としてとどめをさした。


 すぐにライアンが近付いてくる。

「終わったか。」

 渋く決めたつもりかもしれないけど、見上げたライアンの横顔は走り回ったせいで少し汗をかいている。


「なんですぐ倒さなかったんだ?」

 やっぱりライアンにはわかっていたらしい。


「実践も真剣との戦いも初めてだし、呪文を唱える集中が出来なかったんだよ。」

「それだけならどうとでもなっただろ?ウサギみたいに魔力で直接倒しても良かったし、無詠唱でも『纏い』でも倒せただろ。」


 おや?

 頭の中で詠唱して魔法を使うのには通常の魔法よりももっと集中が必要だ。

 無詠唱で、というか俺の場合は魔力操作で魔法を使えるということをライアンには言ってないと思うけど・・

 いや、さっき収納魔法から木刀を取り出した時にバレたのか。

 相変わらず凄いんだか凄くないんだかわからないやつだ。


「経験を積みたかっただけだよ。」

「・・相変わらず貪欲なやつだな。」

 そう言ってライアンは苦笑いしている。


 魔物は敵、等と決めつけるつもりはないけど、今回のオークが標準的な魔物なら人間と共存することは出来そうにない。

 本の知識を信じるなら魔物にとって人間は獲物であり、餌だ。

 人間側から話し合いを試みた者は数多くいるらしいけど、成功者はいまだに現れていない。



 商隊が呼んだのか、街から兵士が団体で向かって来ているのが見えた。

「こりゃついてるな。後片付けはあいつらに任せるか。」

 ライアンがそう言ったあと、オークの頭から角を切り取って残りの処理を兵士に頼んで街に戻った。

 角をギルドに提出して報酬を受けとるらしい。


「さっきの魔法はレベル何だったんだ?」

 ギルドに向かう途中でライアンが聞いてきた。

「2だけど?」

「そりゃまた随分手加減したな。」

「レベル2の魔法が使えれば十分じゃないの?」


 少なくとも、俺はレベル2の魔法を使えれば魔術師としては一人前だと聞いている。


「普通はな。でもお前はレベル3の魔法が使えるし、結果的にはレベル3だったらとどめは要らなかっただろ?今は魔力の節約なんて考えなくて良かったし、倒せる時に倒さないといらない反撃を受けるかもしれなかったんだぞ?油断には気を付けろよ?」

 戦わなかったライアンにダメ出しを受けるとは・・

 まぁお互い新人とはいえ冒険者としては先輩だから、正しいのはきっとライアンなんだろう。


「それとな、魔法を使う時は仲間に合図を送れ!これは絶対だ!」

 あら、やっぱり怒ってた。


「まぁあれは俺の場所を確認してから放った上に避けられるようにしてあったから努力はわかるけどな、もっと接戦だったりすると仲間の位置を確認出来ないこともある。仲間に当てないためにも魔法の合図は癖にしておけ。」

 すごいな。

 避けられるようにしたことまでわかるのか。

 まぁ見えないはずの風魔法を地面をえぐりながら使ったら風の長所が台無しだ。

 そりゃわかるか。


「合図って『打ちまーす』とか言えばいいの?」

「なんだそりゃ。まぁそれでもいいけど、一般的には魔法の名前を叫ぶな。風ならウィンドエッジとウィンド、火ならファイアボールとファイア、とかだ。」

 それぞれ普通の攻撃魔法と広範囲魔法の名前だ。

 レベルは言わなくていいらしい。

 ということは水ならアイスブレッドとブリザード、土ならロックショットとサンドストームか。

 たしかに魔法が仲間に当たるのは洒落にならない。

 自分が放った魔法なら本人は怪我しないけど、仲間に当たったら下手したら死んでしまう。

 今後は気を付けよう。



 ギルドに着くと、早速俺達は受付カウンターで討伐依頼の報酬を受け取った。

「ほら。分け前だ。」

 そう言ってライアンが俺に渡してきたのは銀貨20枚だった。

「こんなに?」

「大物だったからな。」

 ライアンは山分けって言ってたから全部で銀貨40枚。

 大金だな。


 普段は猪とか熊の討伐依頼ばっかりで、たまにゴブリンの依頼が出る程度らしい。

 まぁ熊や猪はゴブリンと違って素材が売れるから、それなりに美味しい獲物なんだけどね。


「さっ、ついでだからお前も冒険者登録しちまえよ。」

 ライアンがそう行った時に、ちょうどギルドの入口が開いた。

 入ってきたのは当然冒険者であろう、大きめの荷物を担いだ戦士風の男だ。


「ライアンか。元気そうだな。」

「ルークじゃねぇか。帰ってきてたのか?」

「あぁ。雪が溶けたからな。」


 ライアンと親しげに話し始めた冒険者には見覚えがあった。

「・・む?そこにいるのはあの時の少年か?」

 ギルドに入ってきたのはなんといつかの冒険者Aだった。

 傷物の魔力石を抱えて困っていたのを助けたきり一度も会ってなかったけど、どうやら俺のことを覚えていたらしい。


「久しぶり。」

「ああ。元気にしてたようだな。」

 といって冒険者A、じゃなくて、ルークは微笑んだ。

「ライアンの知り合いなのか?」

「ああ、孤児院の後輩だよ。今日から冒険者だ。」

「孤児院、ということは先生の・・。なるほどな。」

 ルークが何やら納得している。

 たぶんあの時の魔力石に魔力を込めたのが先生だと勘違いしたんじゃないかな。


「しかし、冒険者には早いだろう。まだ10才にもなってないんじゃないのか?」

「今年で9才だよ。でも早くはないな。むしろ遅いくらいだ。さっきも二人でオークを討伐してきたんだぜ?」

 二人でってのは嘘ではないけど、ライアンにはアドバイスすら貰ってないぞ。


「それが本当なら凄いが、ライアンがほとんどやったんじゃないのか?」

 ライアンはニヤッと笑う。

「ウソだと思うなら試験に付き合え。良いもんが見れるぞ。」

 とライアンが誇らしげに言う。


「試験ってなに?」

「お?言ってなかったか?冒険者でも街の外での討伐や採集を請け負うには試験があるんだよ。まぁ別に筆記試験とかじゃないから安心しろ。」


 なるほど、全く聞いてないな。

 まぁいいけどね。

「じゃあ見せてもらおうか」

 ルークがそう言うと、ライアンは頷いてカウンターに向かって行った。


 試験はメリンダがやってくれるらしい。

「ルーキーの試験だけよ。初級以上に上がる試験はちゃんと試験官がやるわ。」

 そう言って案内されたのはギルド内にある運動場のような部屋だ。

 まぁまぁの広さがあって、よく見ると壁や天井からは微かに魔力が見える。

 きっと魔法で保護してるんだろう。


「じゃあ始めるわよ。」

「もう上級の試験でいいんじゃねぇか?」

「ライアン。うるさくするなら出ていきなさい。」

 恒例のライアン弄りか?

 孤児院ではいつもこうだったけど、卒業してからもこの二人はずっと変わらないんだな。


「まずはゴブリンとの戦闘よ。」

 そう言ってメリンダが魔方陣が描かれたスクロールを使ってゴブリンを召喚する。

「ロイ。さっさとやっちゃいなさい。」

 メリンダもゴブリンはザコ扱いか・・戦ったことないのにな。

 俺はゴブリンに体を向ける。


「ファイアボール!」

 発声は忘れない。

 注意されたばっかりだからね!


「えっ?ちょ!」

 メリンダが慌てるが、ゴブリンは俺の放ったファイアボールに飲まれてチリとなって消えた。

 レベル3の攻撃魔法だとゴブリンには強すぎたらしい。

 放ったファイアボールはゴブリンを燃やした時点で消したけど、ゴブリンの後ろにいたメリンダは腰が抜けたのか座り込んでいる。

 別に貫通系の魔法じゃないんだから、ちゃんと当たれば周りへの影響はほとんどないんだけどね。

 今回みたいに強すぎなければ・・


 あっ、ゴブリンが避けてたら建物が大変な事になってたのか・・

 攻撃魔法は使いなれてないから加減が難しいな。

 使う相手による適正な魔力量、レベルがわからない。

 魔力球だったら慣れてるからまだ楽なんだけどね。


「ああもう!色々と非常識なことをするわね!」

 メリンダが地面に座り込んだままプンスカしている。

 無詠唱と一度放った魔法の解除のことだろう。

 魔法の解除は実戦ではあんまり使い道はなさそうだけどね。

「本当に非常識だな・・」

 ルークが目を丸くして驚いている。

 いやぁ期待の新人なもんで。

 まだ非常識だけどね。


「どうだ?一緒に組まないか?あんなに強い後衛はなかなかいないだろ。」

「私は構わないが・・あのスピードで魔法を放てるなら前衛はいらないんじゃないのか?」

 ライアンが勝手に勧誘を始めた。

 俺はライアンと組むなんて一度も言ってないんだけどな。


「じゃあさっさと終わらせるわよ。まぁもう済んだようなもんだけど、ロイは魔術師だから何か魔法を使って見せて。・・壁は壊さないようにね。」

 メリンダの説明にライアンが口を挟む。

「さっき使ったじゃねぇか。」

「うるさいわね!あんたもやったでしょうが!決まりなのよ!後で正式な試験を通ってないとか言われたくないでしょ!」

 そりゃそうだ。

 しかし、ライアンはメリンダに嫌われるようなことでもしたのか?

 俺と態度が全然違うんだけど。


「攻撃魔法じゃなくてもいいの?」

「いいけど、生活魔法はダメよ。仕事に使える魔法じゃなきゃ。」

 仕事ね。

 何がいいかな。

「おい、ロイ。メリンダに最高レベルのファイアボールでもぶちこんでやれよ。壁さえ壊さなきゃいいらしいぞ。」

 俺の肩を叩きながらライアンが囁くが、メリンダに睨まれて俺の陰に隠れる。

 子供を盾にするなよ・・


「ロイ?何でもいいのよ?」

 メリンダはそう言うが、何でもいいと言われると余計に悩んでしまう。

 ここはとっておきの魔法でも披露するべきか?

 しかし、室内で派手な魔法を使うと被害者が出そうだ。


 最近覚えた魔法を思い出しながら少し悩んで答えをだす。

「うん、あれにしよう。」

「よし!一思いにやってしまえ!」

 ライアンがまた俺の陰に隠れる。

 何がしたいんだこいつは。

 メリンダと喧嘩でもしてるのか?

 いや、昔からこうだからメリンダとじゃれてるんだろうけどさ。



 ライアンが自分から離れたのを確認すると、意識を集中させていく。

 この魔法は何度か実験してみたけど、わざと変な使い方でもしない限りは特に危険はないはずだ。

 かなり魔力を使うから一気に魔力を引き出すと、それを思い通りに操っていく。

 少し魔力が多かったかもしれないけど、まぁ多い分には問題ない。

 魔力操作で魔力に立体的な流れを作り、魔法を作り上げていく。

 難易度の高い魔法なので少し複雑ではあるけど、魔法はすぐに完成する。


 その時

「さぁやっちまえ。」

 ライアンがそう言って俺の肩に手を置いた。


 なんてことをしやがる!


 俺は自分のために練っていた魔力がライアンにも流れていくのを感じて、咄嗟に全力で魔力を継ぎ足した。

 魔法はほぼ完成しているのだ。

 今魔力が足りなくなったらどうなるかわからない。

 失敗するのはいいが、一部だけ発動とか洒落にならない。

 今回は呪文や魔方陣で発動してる訳じゃないので、必用なだけ勝手に魔力を持っていってくれるわけじゃないのだ。

 突然爆発的に増えた魔力に自分自身が驚いて制御を手放しそうになるが、なんとか堪えていると


「ライアン!離れろ!」


 異常に気が付いたルークがライアンの腕を掴んだ。

 そのせいで更に魔力の流れが乱れた。


 あぁ、もうダメかもしれない。


 そう思った瞬間に、俺の魔法が完成した。


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