これから その1
フォレさんに鷲掴みされぶら下げられた状態で、森の上を運ばれる。
眼下には森が広がっているが、横を見ると森は二つに分かれているのが見える。
「何か気になるものでも見えたのか?」
フォレさんが横をずっと見えている俺に気付いて聞いてきた。
「いや神樹からそれなりの距離を飛んできたけど、まだドラゴンが外に出るときに吐いた炎の痕が続いてて、正直すごいなぁと。
こんなことができたあのドラゴンより力が強かったんですし、やっぱり老いても勝てたんじゃないですか?」
「ノーリはまだ若いから老いた身体の不便さはわからんじゃろうからのう、そう思うのも無理はないが、やはり相打ちが精一杯じゃな。
それに、あやつが外に出るときにわしは魔法で扉を守ったが、破られたじゃろ。あれは混乱しているわしの意思をあやつが上回って魔力を吸収したのじゃ。木属性の魔力でもあるから、炎の魔法じゃとよく燃えてこれだけの被害が出たんじゃ。
それだけでも成長すればわしを倒すだけの力を秘めているということの証明じゃしな」
「でも、奪われたのってそのときだけじゃなかったですか?」
「奪われんようにするために、膨大な魔力を使って防御魔法を守っておったからの、普通に使うより余計に魔力を使わされておったんじゃよ。
それでも、成長していくあやつに奪われたかもしれんがの。
とにかく、老いた身体では長時間戦うこともできんし、あやつがわしより強くなる前に倒そうとなると全力の短期決戦をしなければならん。そうなると対消滅を狙ったほうが一番倒せる可能性が高かったんじゃよ」
若いというアドバンテージがあった黒緑竜も、自分が抜け出たことでフォレさんがまさか若返り優位がなくなるとは思わなかっただろう。
「そうなんですか。でも、そんなことにならなくて良かったです」
「そうじゃな、かなり長く生きておるが、なんだかんだといっても未練というものはあるからのう」
「やっぱりあるんですねぇ。例えばどんなことです?」
「そうじゃなー、……っと!」
フォレさんは急に停まる。
「どうしたんですか?」
「いやなに、結界があっただけじゃよ」
「結界?」
「この前話したじゃろ、エルフの村があると。
これからのことを話そうと思って向かっておったんじゃが、わしが死んだと思い、浸入警報程度の結界を強力にして入ってくるものを拒絶する結界に変えておる」
「それなら、早く村に行って無事な姿を見せてあげないと」
「そうなんじゃが、このまま突破してもわしはなんともないんじゃが、ノーリは結界で死ぬの。下手に結界を解くいたり防御魔法を使うと警戒されるし、ちょっと面倒じゃが歩いて行くかの」
そう言うとフォレさんは森の中に降下した。
俺は地面に立たされると、フォレさんが光を放つとと人間の姿になるのが見えた。
「なんで人間の姿になったんです?」
「その向きにわしはもうおらんぞ」
少し離れた場所からフォレさんの声が聞こえる。
元々光が入らない森の中なうえに、明るい場所から暗い場所に移りその直後にフォレさんが光を放ったのを見たのだ、何も見えるはずがない。
「しょうがないのう」
魔法陣が空中に描かれると、光の球が生まれた。
「ありがとうございます」
フォレさんのもとに駆け寄る。
「それでさっきの質問なんですけど、なんで人間の姿になって歩きで行くことにしたんですか?」
「それはノーリと歩きたかったからじゃよ」
「なんで俺と歩きたいと思ったんです?」
「女が男と歩きたいといえば、デートじゃろうに」
頬に手を当てて恥ずかしそうな仕草で言ってきたが、どうみても演技にしか見えなかった。
というか、こんな人だったか……。
「まあ、冗談はおいといて、どうしてです?」
「半分ほど本気なんじゃがのう。
残り半分は、身体を小さくすると余計な手間と魔力が省けての、ついでに魔力量が増えるんじゃよ」
「どういうことです?」
「とりあえず、まず先に結界を抜けるぞ」
そういうとフォレさんは俺に手を握った。
フォレさんは手を正面にかざすと目の前の空間に波紋が浮かび白い膜が現れる。
触っている膜の部分から穴が開いて、人が通れるだけの大きさになった。
派手さはないが綺麗な光景に思わず見とれてしまい、手を引っ張られ促されて中に入っていくと結界は一メートルほどの厚さがあった。
「なんじゃ、ノーリはこういう魔法のほうが好みかの?」
「これはこれで好きですけど、フォレさんの魔法も好きですよ。
というか、魔法自体今のところ嫌いなのはないですね」
「あやつの魔法もか?」
「いや不謹慎だとは思いますが、攻撃魔法は派手で格好いいんで」
「まあ、魔法が無い世界から来てるからのう、そう思うのもしょうがないかの」
フォレさんは興味深そうに頷いた。
「それで、手間とか魔力量が増えるとかどういうことです?」
「簡単な話じゃよ。
ドラゴンのままでは体が大きくての、ノーリと合わせると魔法の効果を広くせねばならんからの、魔法の操作が面倒なのじゃよ。
それと魔力量の増大じゃが、わしは魔力で構成されておる。ならば、活動に支障をきたさない必要最低限を残して身体の構成を解くとその分が魔法使用分の魔力になるということじゃ」
「なるほど」
「元々は魔力を使いすぎたときの緊急処置の一つなのじゃがな、当分この姿のままでいようと思っておる」
「どうしてです?」
「それは村に着いたときに話すから、ちょっと待つのじゃ」
「わかりました」
それにしても、フォレさんが手を離してくれない、さりげなく離そうとするが余計に力を入れてくる。
「えーと、それにしても強力な結界というわりには、簡単に抜けることができましたよね。抜けたあとも何もないし」
「そんなことはないぞ。
エルフは魔法に長けておるからの、並大抵の者ではあの結界は抜けることはできん。
それに抜けたあと何もないというが、強力な魔法を受けている最中じゃぞ? わしがこうして手を繋いで防いでおらねば、ノーリは死ぬまで森を歩き続けることになるじゃろうな」
フォレさんの言葉に、俺はとっさに両手でフォレさんの手を握る。
「そんなに強力な魔法なんですか?」
「視覚聴覚触覚それに平衡感覚かの、それら全てを狂わせる魔法じゃ、肉体の感覚を狂わせる魔法は力量が近い者じゃと効きが悪いからの、どんなモノが浸入してくるかも分からんからできるだけ強力な魔法を使っておる。
それと簡単な幻覚魔法も混ぜておるから、魔法の抵抗力が低いと歩いている幻覚を見せられて一歩も動いてないのにその場で餓死するじゃろな」
「そんな中歩いてて大丈夫なんですか?」
「わしを誰だと思っておる。
人間では余程の者でないと無理じゃろうが、弱っているとはいえわしとエルフとでは存在としての格が違う。
この程度ならば雑談の片手間で回避できる」
フォレさんの説明を聞いて、フォレさんが規格外なのがよくわかる。
今でも途方も無い力なのに全盛期のフォレさんの力なんか想像もつかない、違うとは言っているが神様と呼ばれるのは当然だと思う。
「あの、魔力から生まれた存在って、皆フォレさんみたいに凄いんですか?」
「んー? どうじゃろうな。
魔力から生まれる者もピンキリじゃからな、わし並なのはそうおらんはずじゃがのう。
ちなみにわしのように土地神や守護神と呼ばれる者は、総じて神獣と呼ばれておるから、他の土地で神獣と呼ばれる存在がいたら、わし並みの力の持ち者じゃから注意するんじゃぞ」
「そういう機会があったら、気をつけます」
「うむ。それにしても引きこもるときには全盛期のわしと同等の者は何体かいたが、今はどれだけ残っておるかの……」
フォレさんは若い外見からは想像もつかない悠久の時を生きてきた者だけができる遠い目で彼方を見て言った。
「その方たちが元気だといいですね」
「そうじゃな。
まあ、死んでいてもその土地の魔力から新しい神獣が生まれておるかもしれんし、悲観しすぎることではないかもしれんがの」
「そうだとしても、フォレさんに関わった人たちは悲しいと思いますよ。
当然俺もです」
「ありがとうじゃのう」
俺は気恥ずかしくなり黙ると、フォレさんもそうなのか沈黙してしまって、静寂のなか森を歩く。
十数分後、フォレさんが立ち止まる。
「ここが最終防衛結界で、すぐ目の前が村じゃ」
「ここですか?」
フォレさんがそう言う場所を見るが、今まで歩いてきた森の景色と変わらなかった。
「幻覚とか見えなくしているんですか?」
「ここまでこられたら、幻覚とか意味が無いじゃろ。
しかし、わしらが目の前まで来ても、誰も来ないということは……」
結界があるらしい場所にフォレさんは手を伸ばしたが、何も起きなかった。
「あの?」
「この結界は空間魔法での、正方形の結界で村を取り囲んでいる。能力としては結界の外周から外周への瞬間移動じゃ」
「ええと?」
「つまりここから村の反対側に繋がっておるのじゃ、ここから前に進むと村を飛び越えて反対側に出るのじゃよ。今見えている景色も数キロメートル先の景色ということじゃな」
「ああ、なるほど」
木ばかりの変わり映えしない光景で距離感もわからなくなる暗い森の中で、一瞬で数キロ移動したとしても誰も気付かない。
それに感覚を狂わす魔法があることで、この空間魔法に気付かれる可能性も低くなっていて、ここにそういう魔法があると知らない限り、一生見つけることはできないはずだ。
フォレさんが最終防衛結界と言うだけはある。
「それにの、この結界はエルフしか入ることができないようにしておる。
例えばエルフがこの村に来たい者に捕まったとする。捕まえた者はエルフに案内させるじゃろう。それで捕まえられたままここを通るとエルフだけ中に入ることができて、捕まえた者だけ村の反対側に出ることになり、人質など救い出せれるようになっておるのじゃ。
その効果はわしより弱いモノ全てに適用される」
「完璧な守りですね」
「そうじゃろ。
なんせわしが創って与えた魔法じゃからの」
「おお、さすがフォレさん」
素直に賞賛するとフォレさんは得意げに胸を反らした。
「でもこれだけ凄いなら、一番最初の結界もこれでよかったんじゃ」
「いやそれがな、強力ということは魔法は複雑になるし魔力も多くかかる。エルフが維持しようと思ったら村の周り限界じゃったんじゃよ。
というか、結界を維持できる範囲内に村を作ったというべきかの」
さすがに少しやりすぎたと反省する。
「あ、でも、それほど強力な結界ならフォレさんでも入れるんですか?」
「入れるぞ、わしが創った物じゃからの、それに維持はエルフがしておるが技量はわしのほうが上じゃからの。少し手間じゃが気付かれんで入ることもできる」
フォレさんは何もないように見える空間に手を突っ込んで横に動かすと、横にスライドする扉のように森の景色が動いた。
そこから家が見える。
「あ、日光が射してる」
太陽の光が眩しくて腕で遮りながら村の入り口を見る。
「この結界に自信はあるが、絶対という訳ではないから、見張りをつけるように言っておったのじゃが、やはり誰もいないか。
村の中では話し合いの真っ最中か、わしの葬儀でもしておるのかのう」
本当にそうなっててもおかしくはなかったので、とりあえず愛想笑いで適当に流す。
「それでこれからどうするんですか?」
「そうじゃな、とりあえず声がするほうに行くかの。
様子をみて驚かせないために、話し合いをしておるなら姿を消して村長のところまで行き、葬儀をしておるのなら姿を消してワッと驚かせてみるかの」
「……驚かせたいんですよね?」
「さぁ、どうじゃろなー」
とりえず、声が聞こえるというフォレさんについて行く。
エルフの村と聞いて、綺麗な場所かと想像を膨らませていたが。
「中世ヨーロッパの村なイメージだなぁ。でもレンガじゃなくて木造なのはここが森の中からな」
「この森の木はわしの加護を与えることができるからな。何かあったときに守れるように森の木を使って建てているのじゃ。
わしの領域内でもないし、無意味にしないのなら数本木を切っていいといったのじゃが、三本しか切らんかったが、その三本だけで必要な建物が全てそろったそうじゃ」
「フォレさんの加護ですか。凄そうですね」
「不意打ちでなければ、あやつの攻撃でも後先考えなければ無傷で守ってみせるがの」
自信たっぷりにフォレさんは言ったが、確かにフォレさんと同等の存在が数少ないことを考えると、ほぼ完璧な守りと言える。
フォレさんさえも穢れで死んでしまうのは先のことだと考えていたのだ、当然エルフも同じ考えだったに違いない、それが予期せず来てしまって、絶対的な守護者を失いその恐怖は計り知れない、見張りなどしないで村全体での話し合いをするのも当然だと思う。
「どうでもいいのじゃが、一つ気がかりがある」
「どうしたんですいきなり」
「若返ったわしをわかる者はおるじゃろうか?」
「ええーと……」
「エルフは長寿じゃからの、わしの若い姿を見たことがある者もおる。
じゃがそれよりも若くなってしまったからのう、一応面影はあるはずじゃが、若い姿をしておったのも数百年前じゃしなー」
「そのときは普通にドラゴンの姿に戻ればいいんじゃないですか」
「わしとしてはこの姿でわかってほしいんじゃがな。しょうがないかのう」
「ちなみに全盛期の外見年齢っていくつだったんですか?」
「二十歳か二十一歳ぐらいじゃな」
「五歳差ぐらいですし、それぐらいなら大丈夫じゃないですか?」
「じゃといいのう」
大勢の声がする場所につくと、そこは大きな広場だった。
「とりあえず姿を隠して何をしておるか様子を見てみるかの」
エルフたちはざわついていると、広場の中央から声が聞こえると静かになる。
するとフォレさが俺を掴んでジャンプした。
人垣を越えて、音もなく中央に着地するとそこには三人の男性エルフがいた。
「だからそれはダメだと言っておるだろう」
「しかし、我らの力ではこの広大な森を守ることはできません」
「そうだ。それに駄目と言うなら他に案を出してもらわなければ」
右から長老のようなエルフ、一番若くみえるエルフ、そして厳ついエルフが意見を言い合っていた。
「右から村長のイエール、若い世代のリーダー格のドゥマン、警備長のブークリエじゃ」
「解説どうもです」
「さて、何を話し合っておるのかのう?」
フォレさんは興味深そうに、子供の成長を楽しむかのような目で三人を見る。
「……それはまだ無い。
それでも、神樹ユグシルは樹森竜様が生まれる前から不可侵と決まっておる。
それは樹森竜様がお亡くなりになったあとでも変わらん」
「ジュシンリュウ?」
「わしの呼称じゃな、昔はそう呼ばれておったんじゃよ。
別に不便なことはなかったんじゃが、数年前に名前をつける機会があっての、わしはいらんと拒否したんじゃが、どうしてもと断れんでの、フィレ=アルブヴェールと名乗るようにしたのじゃ」
「へぇ、そんなことが。
それにしても数千年以上生きてきて名前が無かったがビックリですけどね」
「名前が無くて困ることがなかったからのう。
それよりも神樹の力を使うじゃと」
フォレさんの声が苛立ち始めていた。
「それはわかっています。
ですが、アルブヴェール様が生まれた頃と今の森では規模が桁違いに違うと聞きます。
昔の森ならばどうにかできていたかもしれませんが、今の森では無理です。
まだ、アルブヴェール様がお亡くなりになったという話が広がっていないうちに、森を守れるようにしておかないと、アルブヴェール様が生まれたころの規模になるまで奪われるかもしれません」
「それはそうだがな……」
「村長、村のしきたりが大事なのもわかるが、しきたりよりもドゥマンが言っていることのほうが今は大事だろう。
それに、ずっと御力を借りると言っているのではない。新しい樹森竜が生まれるまでの間だけ使わせてもらうのだ」
神樹はフォレさんの住処以上の意味があって、力を借りることすら憚れるかなり大事な物であるらしいが、今の優先順位を考えると背に腹はかえらないのはわかる。
もし優先順位を間違えると森は侵略にあったときに、それこそ大事な神樹を守れないかもしれないのだ。
力がないのならばやむをえないと思うが、フォレさんは不機嫌そうな表情をしていた。
それでもすぐに止めないのは、言っていることは正しいと思っているからなのだろう。
「しかし……」
「木の神獣はアルブヴェール様だけではありません。他の神獣だって神樹の力を魅力的に思っているはずです。
神樹を守るのもこの村の使命ならば、我々の力だけで守れるようになるまでの間でも御力を借りるべきではないでしょうか」
「俺も同意見だ」
イエールさんは苦悶の表情を見せていたが、諦めたように肩の力が抜ける。
「樹森竜様がお亡くなりになる前に、森を守るための魔法を完成させようと研究していたが、予想以上の速さで穢化してしまい間に合わなかった。
魔法ができるめどがない以上は、神樹の力を借りるのもやむをえなしか」
イエールさんもとうとう神樹の力を借りることに賛成した。
「それではプリエールを呼びましょう」
ドゥマンさんが近くにいたエルフに呼んでくるように頼む。
「プリエールさん?」
「この村の所謂巫女での、わしの世話をする係りじゃ」
解説はしてくれるが、完全に機嫌を損ねたらしい。
「まぁ、そんなに怒られなくても、嫌なのはわかりますがこの場合はしかたがないでしょう」
「わかっておる。
じゃなかったらここにいる者を全て吹き飛ばしておるところじゃ」
思った以上の怒りに若干引いていると、真っ白な衣装の女エルフがきた。
頭を下げて三人に挨拶する。
「知らせを聞いてまいりました。
やはり、神樹様の御力を借りることになりましたか」
「プリエール、忙しいのに呼び出してすまんな。
聞いた通りだ。この村だけならどうにでもなったが、この森ひいては神樹を守るためには、我々は力不足だ。
だからやむをえんが御力を借りることになった」
「はい、フォレ様もわかってくれると思います、怒るでしょうが」
フォレさんの世話係というだけあって、よくわかっている。
というか、多分ここにいる全員はわかっていると思う。
もしかしたら、あえて言うことで防護以外で力を使わないように釘を刺したのかもしれない。
「それでは、フォレ様の鎮魂の儀と神樹様に御力を借りる儀式を同時におこなえるように準備をしてきます。
「異議あり!」
プリエールさんが来たときと同じように頭を下げて行こうといたとき、反対の意思を持つ者が声を上げた。
俺の横で。
一斉に俺たちに視線が集まる。
「何者だ貴様ら!」
剣に手をかけたブークリエさんが声を上げる。
本物の戦士に威圧されて、本気で怖くてちょっと涙目になってしまった。
「ふむ、少し若返っただけでわしが誰だかわからないとは、悲しいものじゃのう」
言葉とは裏腹に、怒りでフォレさんはブークリエさんを威圧する。
俺にも圧力が感じて、俺がわからないだけで圧倒するために魔力を出しているのかもしれない。
もしフォレさん側ではなかったら、泣いて土下座している。
それにしても、この怒りの一割は若返った自分に気付いてもらえなかったものなんじゃないだろうか。
だが、すぐにプリエールさんが跪いた。
「フォレ様、生きていらしたのですね」
そう言うとプリエールさんは体を震わせて涙をながした。
感涙とか初めて見た。
周りのエルフたちも慌てて跪く。
「心労をかけてすまんの、プリエール。力の大半を失ってしまっているが、こうして元気じゃよ。
さて、色々と話をしておったようじゃが、わしからも話があるのじゃがいいかの?」
「もちろんでございます」
イエールさんが皆を代表して答える。
「わしは皆の者に幾つか謝罪をせねばならん。
まず最初にもう一人のわしとも言える穢れのドラゴンが森に被害を与えたこと。
二つ目にあやつを倒すためにわしが森に被害を出してしまったこと」
フォレさんと黒緑竜の戦いを思い出す。
色々と凄かったが、一番迫力があったのはフォレさんがクレーターを作ったときだと思う。
「それは樹森竜様のせいでは……。しかたがなかったことです」
「そう言ってもらえると、心が少し楽になるの。
次にある意味自分可愛さに穢れのドラゴンに罰を与えなかったことじゃ」
「それは……、あのドラゴンがまだ生きているということですか?」
「そうじゃ、と言っても今後皆に危害を与えることはないし、きちんとどこにいるかも把握しておる。そのことで迷惑をかけないことを約束しよう」
「今、あのドラゴンはどこにいるのですか」
「わしの力をもって別の形にしてあの人間に渡しておる」
フォレさんの説明に、全員が俺を不振そうに見てきて怖い。
「では最後にこれが一番の謝罪なんじゃが、三つの罪をもってわしは約百年間ほどこの森を離れる」
エルフたちはざわめいて、俺も驚いてフォレさんをみる。
「それは、私たちが神樹の力をつかおうとしたからですか?」
「それは関係ない、言ったじゃろわしの罪だと。
あとそこの人間に命を助けられたのでな、世話をしてやろうと思っての。
死が二人を別つまで……添い遂げようと思っての」
フォレさんが凄い不穏なことを言ったような気がする。
いや、この世界の言い回しが、俺の元いた世界の言い回しと同じではないはずだ、きっとそうだ。
「それは、あの人間と結婚するということですか?!」
プリエールさんが声を荒げていった。
そして、俺の希望が打ち砕かれた。
「ちょっ、何を言ってるんですか、フォレさん!」
それにしても、プリエールさんが俺を呪い殺してきそうなほどに睨んでくる。
魔法に長けてるエルフだし、実際に呪い殺されるんじゃないだろうか。
「何をと言われてものう。
生き長らえさせてもらったお礼に、ノーリの一生を一緒にいて世話をすると言っているだけじゃが」
「それなら、別に結婚とかじゃなくて守護とか加護とか神様的な、そういうのでよくないですか?」
「しかし、男女が死ぬまで一緒にいるのじゃから、結婚といっても間違いではないじゃろ?
それに……」
「それに?」
「ノーリの体から出たモノがわしの体の中に入って、その結果新しい命が生まれたのじゃし」
その瞬間、エルフ全員が殺気を放った。
「なに言ってんだ、あんた! 実際確かにそうだけど、違うだろ!」
エルフたちがふらりと立ち上がり始める。
「いやわかっておる、ノーリよ。
人間であるノーリはいつか人間の女と愛し合ってその者を選ぶじゃろう。
そのときにわしがいては都合が悪いからの、そのことを心配しておるんじゃろう。
しかし、そのときになったらわしはきちんと身を引いて、その後は守護神として見守っていこうぞ」
涙を拭う演技をして、健気そうに見える笑顔でフォレさんは言った。
目の前に次々と魔法陣が浮かび、呪文が聞こえてくる。
一番凄そうな魔法陣を出しているのはプリエールさんだった。
「フォレさん、あんたそんな人だったか……?!」
もう色々と諦めて膝をつく。
「人間の少年よ。
元々樹森竜様はあんな方だ。初対面の者には一般的なドラゴンのイメージで接してくるが、気心がしれると素を出してあんな風になる」
イエールさんがポンッと肩を叩いて慰めてくれるが、なんだろう目が微妙に笑ってない。
「そういうことじゃから、しばらくの間わしは森を出る。
一応百年とは言ったが、それはノーリ次第じゃし、ときどき帰ってもくるし、何かあればすぐにでも駆けつけよう」
「とりあえず、話はわかりましたが、森を出て行く必要はないのでは?」
森から出て欲しくないイエールさんはそう言ったが。
「じゃがここにいると、ノーリが穀潰しになるからのう」
「え、いや、ちゃんと働きますよ?」
「ノーリ、ここは人間の上位互換がいるエルフの村じゃぞ。
全てのことで人間以上の成果を出すんじゃぞ、そのなかで役に立てることがあると思うか?」
「……思いません」
「それにノーリには頼みたいことがあっての、ここでは少し不便じゃからな」
「頼みたいこと?」
「それはまた後で話そう。
さて、わしがこの森を離れるには森を守る術がなければいかん。
それを明日から準備していく、それでこの話は終わりじゃ、いいな?」
フォレさんが森を離れることにまだ不満がありそうだったが、エルフたちは跪いて頭を下げ了承の意を示した。