表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

インテルセクト 3




 あれから三週間、クラージュのお店は大盛況だった。

 味もさるごとながら、フォレがクラージュに口八丁で可愛い服を着せフォレ自信も着ることで、男性客もゲットした。

 開店前日にしたクラージュとフォレによる路上試食が功を奏した感じだ。

 美人看板娘二人が経営するお菓子屋さんとして一気に流行る。

 俺も同じ店舗内で動物専門のマッサージ屋として宣伝したが、全く客は来ない。

 それにしても森に来た三ヶ月以上前にこんなことになるなんて、思いもしなかった。


「イツモヒマソウダナ」

「ほっといてくれ、マノワール」


 付喪神に名前が無いと不便ということで、フォレが名付けた。

 しかし予想していたとはいえ、全く客がこないのはきつい、冷やかしすらこない。

 無料で人間も肩もみぐらいのマッサージをすると看板を出しているが、資格を持っていないので保障無しの自己責任とも書いているので、誰も近づくことはなかった。

 あたりにも暇なので、お店の食事スペースを手伝おうとしたが、フォレとマノワールで片付けてしまう。

 それにしても、あの二人は凄いと思う、特にクラージュ。

 ここを借りてから、フォレによる修行が始まった。

 内容としては準備運動とストレッチとロードワークをしてからの、模擬戦だ。

 俺もロードワークまで参加しているが、いつも動けなくなってしまう。

 そこから二人だけ模擬戦をすのだが、本当に模擬戦なんだろうかと思うぐらい激しくやっている。

 と言ってもフォレいわく、身体を慣らしている途中で肉体の準備期間らしい、魔法と氣を使う本格的な模擬戦は来月からだと言っていた。

 それを週に一回だけ休みを入れて毎日やっている。

 それでも、毎朝早く起きて仕込みをおこない、俺達の朝食を作ってくれる。


「やばい、俺も店を開いてるはずなのに、ヒモかニートだ……」


 内心焦るが、客が来てくれなければどうしようもなく、商売なんてやったことがないから打開策が浮かばない。

 一応、お菓子屋のお持ち帰りのチラシにマッサージ屋のことも書いてもらっているが、効果はなかった。


「はぁ……、マジどうしよ」


 はぐれマッサージ師として、裏道的なところで客をとって人気になった人もいないことはないそうだが、色々な意味で危険らしく、そんな稀な例を目指す度胸はない。


「なんで、フォレはやることにしたんだろ。

 こうなることはわかってたはずなのに」


 俺がまだ知らない、この世界特有の何かがあるのだろうか。


「オイ、ダレカキタヨウダゾ」


 マノワール言われて入り口を見ると、理知的な青年が立っていた。


「えっと、無料肩もみを受けに来たんですか?」

「いえ、動物をマッサージする面白い人がいると聞いて来たのですが、貴方ですか?」


 まさかの客に、緊張する。


「は、はい!」

「僕は動物の生態を研究しているサペーレ・チェルカトーレという者です」

「えっと、自分はノーリア・ハーシモ・アルブヴェールです。

 よろしくお願いします」

「アルブヴェール?

 もしかしてフィーユ・アルブヴェールのご家族の方ですか?」

「フィーユさんを知ってるんですか?」

「職業柄彼女の仕事にも関係することがあるので、名前だけですが知っているんですよ。

 ですが、彼女は結構有名ですから、知っている人は多いと思いますよ?」


 そうなのか、フィーユさんがどんな仕事をしているか知らないが、フォレの娘なんだし何か凄いことをしているのかも。


「それで、仕事の話なんですが。

 マッサージする動物は?」

「ああ、そうでした。

 今日は連れてきてないんですよ。

 まぁ大型で連れてくるのも色々と準備と手間がかかりますから、その前にどういうものか聞いてからにしようと思いまして」

「そうなんですか。

 まあ、動物をマッサージするとかどこにもありませんからね。

 イメージとしては人間と変わりませんよ。

 肉体を揉み解すことで、リラックスやコリを和らげるんです」

「本当に人間と変わらないんですね。

 もっと特殊なことをすると思っていましたが、逆にこれなら頼んでもいいかもしれない……。

 僕が保護し研究している動物が、最近身体の調子がよくないみたいで、ちょっと原因がわからなくて、困っていたんだ」

「えっと病院に行ったほうがいいんじゃ」

「その動物の専門家は僕だけでね。

 一通り調べてみたけど、異常は見当たらなかったんだ。

 まあ、調子がよくないと言っても、気だるそうで疲れやすくなっているんだけど」

「ただの運動不足じゃないですか?」

「いや、ストレスを溜めないようにするために、適度な運動をやらせているし、食べる物も気を使っているんだけど、一向によくならないんだ」


専門家がわからないと言うのなら、俺にもわかるはずもないので、とりあえず仕事のことだけを考えることにする。


「まあ、マッサージを受けることでその動物にどういう影響が出るかわかりませんが、よい影響が出るかもしれませんし、受けさせてみますか?」

「ああ、そうさせてもらうとするよ。

 ただ、さっきも言ったとおり大型の動物でね、広い場所はあるのでしょうか」

「もしよかったら、こちらから出向きましょうか?」

「そうしてもらうと助かるのですが、施設に部外者を入れることが、動物を出すより難しいので、僕が連れてきます」

「そうですか。

 なら庭の方に連れてきてもらいましょう。

 えっといつ連れてこられるのでしょうか?」

「早くても明後日にでも」

「それなら、直接庭の方に連れてきてください。

 マノワール、チェルカトーレ様を覚えたな?

 明後日、この方がきたら庭に案内してくれ」

「アア、ワカッタ」

「では、明後日に」

「はい、ご来店楽しみにお待ちします」


 チェルカトーレさんは店をあとにした。




 その夜、夕食を食べながらその話をする。

「ほう、案外早かったの。

 物好きというか冷やかしが来るにしても、もうちょっと先だと思っておったが」

「考え付いた俺がこういっちゃなんだけど、よくそんなのをしようと思ったな……」

「わしの考えている客層とノーリが考えている客層が違うからの」

「客層が違う?

 フォレはどんな客層を考えているんだ?」

「それは来てのお楽しみじゃな」


 どうもフォレははぐらかそうとしてくる。


「……まあいいけど。

 そういえば、フィーユさんってなんの仕事をしてるんだ?」

「どうしたいきなり?」

「いや、チェルカトーレさんがフィーユさんのことを仕事柄知っているって言ってたから、俺はフィーユさんがどんな仕事をしてるか知らないなと思って」

「ふむ。

 チェルカトーレという者は、部外者が入ることができない施設で動物を保護研究をしていて、仕事柄わしの娘のことを知っているということか。

 これは明後日が楽しみになってきたの。

 クラージュ、明後日は店を休業するぞ」

「わかりました」


 クラージュは理由を聞くこうとすらすることなく了承する。


「えっ?

 確かにフォレには手伝って欲しいけど、なにもお店を休むことはないんじゃ」

「まあ、一応念のためじゃよ。

 予想が正しけれ明後日は面白いものが見れるぞ、クラージュ」


 クラージュに言った辺り、何か嫌な予感がして仕方がない。


「なに、心配せんでもよいよ。

 どんな動物であろうと、わしがおる限り何も起こさせんよ」


 そのことは心配してないが、やっぱり嫌な予感しかしなかった。




 二日後、チェルカトーレさんがいつでも来ていいように庭で待機する。

 来店時間を聞いていなかったことを失敗したと反省しつつ、暇なのでハーブティーを飲みながらシャボン玉で昨日新しく刻んでもらった魔法陣の練習をする。

 昨日はフィールドワークを終えると、クラージュの訓練には移行せず、俺に新しい魔法の練習になった。

 その魔法は、氣に俺の力と連動する力場を発生させるもので、氣を拡げると手で直接触っていない部分でも俺の力が掛かるというものだ。

 これのおかげで、多少大きい動物にマッサージする場合でも手間が少なくなる。

 ただ、三つの魔法を同時に使う状態になるので、ちょっと負担が増える。

 それにあくまで触る範囲を拡げるものなので、その魔法にいくら氣を注入しようが力場が強くなることは無い。

 なので氣の使用量で力場の強さを変える仕様にしてもらうようにフォレに頼んでみたが、シャボン玉を氣で触って壊さないようになったら、改良してやるといわれた。

 そんな無茶なと言ったら、目の前でクラージュが同じ魔法を使って氣でシャボン玉を触るのを見せられて、納得するしかなかった。

「それぐらい繊細なコントロールをできるようにならんと、間接的に力場の強弱を扱うのは難しいんじゃよ」


 俺が氣で筋力の強化をできるようにしているのは、身体で直接扱うからだとも言っていた。

 ちなみに、魔法陣を刻むときに、一つ判明したことがあった。

 フォレが俺に魔法陣を刻むのを見ていたクラージュが、


「アルブヴェール、それって呪いじゃないですか?」


 と聞いてきた。


「そうじゃが」


 フォレはそれをあっさりと肯定した。


「これって呪いなのかよ?!」

「これというか、ノーリに刻んだ魔法陣は全部呪いじゃよ。

 魔法陣を刻むには呪いのほうが適しておったからの」

「私はてっきり加護なのかと思ってました」

「恨みを込めて刻んでるというわけじゃないからのう、ノーリが使用しているときに見る分では呪いには見えんじゃろうな。

 加護と呪いは紙一重じゃからの」

「どうして加護ではなく呪いとして魔法陣を刻んだのですか?」

「加護というのは、力がある者が他者を護ろうとする意思のもとに力を与えるものじゃからの。

 力がある者の意思があり続ける限り継続されていくが、もしその意思を失ったとしたら、与えられた力は無くなってしまう。

 ノーリと出会ったころは、可能性は低かったが、わしが死んでしまうこともありえたからの」

「でもなんで刻むのに呪いになるんだ?」

「呪いはかけるときの思いの強さによって、存在の強度が変わってくるからの、強い思いで一度かけると誰かに解呪してもらわない限りは、死ぬまでそのままじゃ。

 普通に生きていく限りでは、神獣の呪いを解ける者はそう出てこんしな。

 むしろ、わしの呪いは同じ神獣でも解呪できない自信はある」


 まあ、たまたま今の状況になっただけで、もとはこの世界で一人で生きていけるようにするためだったものだ、できるだけ不安要素を消しておきたかったのだろう。


「さて、たいして難しい魔法ではないが、一通り練習するぞ」


 とまあ、こんなことが昨日あった。

 力の加減がわからない力場に悪戦苦闘していると、頭上を影が通り過ぎていった。

 鳥にしては影が大きく、なんだ? と思って空をみると、家が一軒入りそうなほどの大きなコンテナを持った巨大な鳥が降りてきた。


「は……」


 思いもよらない物が降りてきて開いた口がふさがらない。


「カテリーナ!

 運んでくれてありがとう!」


 中が見えないコンテナの中からチェルカトーレさんが出てきて巨大な鳥に向かって言った。

 よく見ると鳥に女性が乗っている。


「サペーレ、礼はいいから頼んだのお願いね!」

「ああ、わかった!」


 二人はそうやり取りして、巨大な鳥は空の彼方に飛んでいった。


「えーと……」


 俺があっけに取られながら見ていると、視線に気付いたのかチェルカトーレさんが俺に向いた。


「おはようございます、ノーリアさん」

「おはようございます、チェルカトーレさん……」

「来るのを待っていてくれたんですか?」

「ええ、まあ、おこしになる時間帯を聞くのを忘れていたので……」

「なるほどそうでしたか。

 もしかしてこの時間はご迷惑でしたか?」

「いえ、自分はいつも暇しているので、お気になさらないでください。

 それに今日はお菓子屋のほうは休みなので」

「休みなのですか?!」

「ええ、店長が今日は休みにすると。

 どうかしましたか?」

「あ、いや。先程の彼女に、ここまで運んでもらう報酬として、このお店のスイーツを買ってあげる約束をしていたので。

 マッサージにどの程度の時間がかかるかわかりませんが、今日中に帰らないといけなくて」

「ああ、なるほど。

 なら頼んで作ってもらいましょうか」

「いいのですか?」

「そのぐらい、大丈夫ですよ」

「よかった」


 安心するチェルカトーレさんを見ながら、ここからが本題だと気合を入れる。

 家が入りそうなコンテナの中身など見たくもないが、覚悟を決めるしかない。


「それでマッサージを受ける動物なんですが……」

「はい。

 コンテナから出す前に、結界を張っていいですか?

 研究所から出す条件の一つなんですよ」

「マノワール、いいか?」

「チッ、ショウガナイ」


 お願いだから、お客の前で舌打ちするのやめてくれ、というかわざとだろコイツ……。

 チェルカトーレさんは結界を張りに庭の隅に向かう。


「来たようじゃのう」

「フォレ、こうなるとわかっていたのか?」

「まぁの。

 じゃが、予想以上の大物がきたの、これは楽しみじゃな」


 なんだろうフォレが楽しみにするだけのものがまだあるというのか。


「まぁいいや……。

 それよりクラージュ、何かお菓子作ってもらってもいい?」

「それはいいですけど」


 そう言ってコンテナをちらりと見た後にフォレさんを見る。


「こっちのことは気にせんでいいぞ」

「わかりました。

 何かありましたら、呼んでください」


 クラージュは店の中に入って行った。


 立ち代るようにチェルカトーレさんが結界を張り終わって戻ってきた。


「すいません、おわりました」

「あ、はい」

「そちらに方は?」

「わしはフォレ=アルブヴェールじゃ。

 お菓子屋の店長兼ノーリの助手じゃ」

「そうですか、よろしくお願いします。

 アルブヴェールということは兄妹ですか?」

「いや、夫婦じゃよ」

「あ、それはそれは」

「それより、中の者を出してやったらどうじゃ?」

「ああ、そうだった、彼を早く出してやらないと」


 チェルカトーレさんはコンテナを空けると、中からドラゴンが出てきた。


「え、ドラゴン? モンスター……」

「え? ああ、ドラゴンの中でも更に稀少な種ですからね、そう思うのはしょうがないですが、昔から確認されていて頭もよくて大人しいので大丈夫ですよ」

「いや、そういう問題じゃ……、動物って……」

「ええ、動物ですけど?」


 チェルカトーレさんと話が噛み合わない。

 どうしたものかと悩んでいると、フォレが俺の服を引っ張ってきた。


「ちょっとすまんが、場を離れさせてもらうぞ、すぐに戻る。

 ノーリこっちにくるのじゃ」


 そう言ってフォレは俺を店の中に入れた。


「フォレさん!

 俺、動物ってきいてたんですけど、いや確かに家ほどあるコンテナの時点でおかしかったけど!」

「まあ、そう慌てふためくなノーリ。

 そんなことより、素だとまだ敬語じゃのう」

「俺の素の反応とかどうでもいいです。

 いやだって、モンスターですよ?!」

「そうは言うが、まだまだわからないことが多くて生態調査はおこなっているが昔から確認されているし、大人しく危険がないそうじゃぞ」

「でもモンスターですよ、動物とは違いますって」

「落ち着けノーリ。

 予想通り面白いのが見れたし、ネタバレとしてちゃんと説明してやるかの」

「もしかして、面白いのが見れるって俺の慌てふためいた状態のことを言ってたんですか?」

「そうじゃよ。

 ノーリ、なかなかいい反応じゃったぞ」


 フォレの言葉に盛大に溜息が出た。


「さてノーリ、モンスターとはなんじゃ?」

「えっと、動物とは違う形をしていて、強暴で人を襲ったり魔法を使ったりする生物」

「ふむ、そうじゃな。

 わしらの世界でもモンスターとは、未確認の正体がつかめないもしくは常識を超えた能力を持った人を襲う生物のことをさす言葉じゃ。

 じゃがなノーリ、常識とはなんじゃ?」

「えっ?」

「ノーリがいた世界の常識とこの世界の常識が一緒だと思うのかの?」

「えっ、いや……」

「ノーリの世界ではドラゴンは存在しなかった。

 しかし、この世界では珍しいとはいえ、いるのは当然の存在じゃ。

 なら人を襲うから? ノーリのいう動物だって人を襲うことはあったじゃろ。

 人を襲うことがモンスターの条件にならない、さらに動物の条件が常識内の生物というならば、一般的に知られているドラゴンはこの世界では動物ということじゃ。

 まあ、人を襲う動物をモンスターということはあるが、あのドラゴンは襲わないらしいからの、やはり動物なんじゃよ。

 ちなみに魔法が使える動物を魔物と呼んでおる。

 じゃから大雑把に言うとわしも魔物じゃな、当然あのドラゴンもじゃ」


 普通なら納得できなかっただろうが、ここは異世界だ。

 納得するしかない。

 ようはこの世界のモンスターは元いた世界でいうとUMAみたいなものなんだろう。


「……問題しかないっていうのはこういうことだったんですか」

「稼ぎ難いとかも含めてじゃがな」

「わかっていたなら、教えてくださいよ」

「いや、だっていつまでも仕事が決まりそうになかったしの。

 それに面白そうだったからの、色々。

 まあ、わしがいるんじゃ悪いようにはならんよ」

「……よろしくおねがいします」


 とりあえず理解したので、チェルカトーレさんの元に戻る。


「あの、もしかしてドラゴンは駄目でしたか?」

「いや、初めての施術動物がドラゴンじゃったから、ちょっと驚いただけじゃよ。

 のう、ノーリ?」

「はい」

「さてと、とりあえず、どんな感じか見るかの」


 コンテナから出ているドラゴンは、気持ちよさそうに日向ぼっこをしている。

 簡単に観察した限りではたしかにどこか悪そうなところはない。

 ふと、強烈なプレッシャーを感じて、プレッシャーが来るほうを見てみるとドラゴンが凄い睨んでいた。

 まさに蛇に睨まれた蛙であまりの怖さに動けないでいると、俺とドラゴンの視線の間にフォレが割り込んできた。


「さて、どうじゃノーリ、悪そうなところはあるかの?」

「見た限りなさそうだけど。

 チェルカトーレさんはなんかダルそうに見えるってことだったけど、病気とかなら俺にはわからないけど、チェルカトーレさんは違うっていってたし。

 運動不足じゃないってことらしいし、全然わからない」

「今どういう環境にいるかわからんが、わしも運動不足の類とは思うんじゃがのう。

 おぬしはどう思っておる?」


 ドラゴンに問いかけた。

 そうするとドラゴンが溜息のような短い鳴き声を出した。


『わからぬからといって、我の言葉などわからぬだろうに聞くとは、気持ちの問題なのだろうが、人間とは愚かな』


 ドラゴンの言葉が理解出来てしまって、驚きで身体が固まってしまった。


『一応答えてやるが、このダルさの原因は我にもわからん』


 意外に律儀な人で、別の意味で驚いてしまったが、フォレの翻訳魔法はドラゴンにも適用できることに驚愕する。

 いやまあ、フォレもドラゴンではあるんだが、まさかといったところだ。


(そうかわからぬか)


 次にフォレの声が頭に響いてきた。

 俺がフォレを見ると、ドラゴンも驚いた眼差しでフォレを見る。


『ま、まさかな』

(まさかじゃないぞ。

 おぬしに聞けば原因もわかると思ったが、まあ元々そういう理由できてもらったわけでもないしの、ノーリとりあえずマッサージをするのじゃ)


 え? と頭の中で思うと、


(え、ではない。

 それが仕事なんじゃから、なにを呆けておる)


 いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど、マッサージが終わったら後で説明してもらおうと、思いながら氣を発動させる。

 突然ドラゴンが威嚇するように唸り声を上げた。


『貴様何者だ。

 答えによっては容赦はせぬぞ』

(何者もなにも、おぬしと同じドラゴンじゃよ、根本は違うがの)

『貴様がドラゴンだと、嘘を言うな。

 全てにおいて人間ではないか、我とて数百年を生きるドラゴンだぞ、魔法で姿を変えているかどうかぐらいは見分けが付く』

(ふむ、しょうがないのう。

 まあ、おぬしほどのドラゴンならこの程度見せればわかるじゃろ)


 ドラゴンが何を見たかわからないが、驚愕で目が見開かれる。


『貴様は……、いえ貴女様は』

(神樹の森の樹森竜といえばわかるかの? 無明の森でもいいが)


 ドラゴンが起き上がろうとする。


(そのままでおれ、おぬしは客としてきておるんじゃからの。

 変に図に乗るような態度にならなければ良いよ)


 言われたとおり、ドラゴンは元の体勢に戻る。


「ほれノーリ、早く始めんか」

「あ、はい」


 どうにかよじ登り、首元から背骨に沿って押していこうと力を入れてみたが、びくともしない。

 エネルギーに注ぐ氣の量を増やしてみたが、全く意味がなかった。


「フォレ、俺の力じゃびくともしないんだけど」

「そうか、ならこうしよう」


 そういうとフォレは俺を中心に魔法陣を描いた。


「筋力強化の魔法じゃ。

 わしが様子を見ながら調節するから、思いっきりやれ」

「わかった」


 ちゃんとした手応えが返ってきた。

 これなら施術できると、マッサージを始める。


「さてと、しばらく時間がかかるので、チェルカトーレさまはお茶でも飲んで待ってもらろうかの」

「いえ、ここで観察したいんですが」

「なら、椅子を持ってこさせよう。

 マノワール」


 フォレがマノワールにテーブルと椅子、それに日陰になるような物を持ってこさせて、自分はお茶を淹れに行った。




 フォレとチェルカトーレさんが見守るなか数十分経過する。

 その時間でさっきから、マッサージをする感触に違和感がある。

 適度に運動をさせているということもあって極端にこってはいないし、ドラゴンの姿をしたものを初めてマッサージするから、確かなことはいえないが歪んでいるわけでもない。

 それでも何か違和感があって、何かわからずもやもやする。


「どうしたノーリ」

「いや、なんかさっきから違和感があって。

 フォレみたいに引き篭もってたわけでもないから、肉体的にはなんもなさそうなんだけどな」

「うるさい。

 しかし、違和感か、どんな感じかの?」

「なんていうか、澱んでる感じ?」

「なんで、肉体的感触でその表現が出るかわからんが、全体的にか?」

「いたるところで感じてはいるな」

「氣の点やラインじゃないのか?」

「いや、これといって歪んでるところはないし、穢れが付いてるって感じでもないんだよな」

「ふむ、ちょっと教えてもらえるかの」


 俺は特に違和感があった翼の関節部分や腕や脚の箇所を指でなぞって教える。


「これはもしかして魔力が原因かの」

「魔力が?」

「ノーリこの魔法を試してみてくれんかの」


 フォレは俺の目と手に魔法をかける。


「これが見えるかの」


 フォレが掌を上にして前に出してくると、手の上に光の玉が現れた。


「光る玉が見える」

「うむ、これは魔力じゃ。

 次にわしの手を触ってみろ」


 言われた通りにすると、氣のライン同様に、フォレに流れる魔力の流れが見えた。


「見えたようじゃな。

 ならそれで気になった箇所を触ってみるのじゃ」


 言われて触ってみると、黒く澱んだ魔力が見えた。


「うわっ!」

「どうなっておったかの?」

「なんか何回も使った油のようなものが見えた」

「なるほど、大体わかったぞ」

「どうしたんですか一体?」


 俺の様子を見てチェルカトーレさんが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「ノーリのおかげでこのドラゴンがダルそうにしている理由がわかったのじゃ」

「本当ですか?

 原因はなったんですか?」

「運動不足じゃな」

「いえそれはないかと、適度な運動はさせていますし」

「適度な運動じゃろ。

 これは全力での運動をさせておらんかったせいじゃよ」

「全力で運動させてなかったから?」

「そうじゃ。

 魔物には身体機能を魔力によって強化するものがおる。

 そのなかには身体が魔法そのものになっているものもおるんじゃ」

「それは知っています。

 魔法筋肉ですよね。ドラゴンなどの高位魔物には巨体なものが多く自身の身体を自由に動かすためにできた物ですね」

「そう、そこに使われなくなった魔力が貯まっておるんじゃよ」

「適度な魔力発散もさせてますが」

「魔力の発散と魔力筋肉を使うのは同じではない。

 むしろ魔力を発散させるために身体に魔力を巡らせることで使用しない魔力が貯まって悪くなっていってるはずじゃ。

 チェルカトーレさまならわかるじゃろうが、発動させない魔法にずっと魔力を流し込んでいる状態じゃ。

 強いドラゴンじゃから大して影響が出ていないように見えるが、並みの魔物じゃったら魔力が暴走しておるところじゃぞ」

「そ、それは……。

 改善させるにはどうしたら」

「簡単な話、全力で運動させればいいんじゃよ。

 ただし、ここでするのは駄目じゃな。

 下手に全力で動かしたら、魔力が暴走してここら一帯が吹き飛んでしまうほどの魔力爆発が起こる。

 魔法筋肉も使ってないから大分鈍っているじゃろうし、ノーリにそこもマッサージさせて帰ったら何もない広い場所で徐々に力を出しながら運動させればいいじゃろ

 まあ、すぐにでも出来ないのなら、一回全力の魔法を撃てば今の状態よりはマシになるじゃろうて」

「それはここでやってはいけないのですか」

「言ったじゃろ、ここら一帯が吹き飛ぶと」

「僕が施した結界は彼が普段おこなっている魔力放出の数十倍を想定して作ってあります。なので大丈夫だと」

「ふう。

 おぬし、本気で魔力を放出してみろ」


 フォレがドラゴンに言うと、ドラゴンは立ち上がって魔力を出した。

 その瞬間、チェルカトーレさんの結界が発動したが、一分もたたず砕け散った。


「なっ……!」


 チェルカトーレさんの驚きの声が聞こえる。


「マノワール!」


 フォレの掛け声に応じて新しい結界ができると、さらにフォレさんが魔法陣を出して結界を補強した。


「やめるんじゃ!」


 魔力の放出が収まる。


「今ので大体四割ほどの出力かのう。

 あのまま出し続けていたらマノワールの結界でも駄目じゃったろ。

 わしもノーリたちを護ることができても、周りの被害までは抑えることができんかったじゃろうな」


 本当にできないのかは、個人的には疑問だが、フォレがそう言っているのだから、多分そうなんだろう。


「とりあえず、あやつに溜まっている魔力の量はわかったな?

 じゃから、帰ってからやってほしいんじゃが」

「帰ってからやるのは、無理なんです」

「どういうことじゃ?」

「僕がどういうところで働いているか察しがついていると思いますが。

 動物の生態を調査するのと同時に軍事利用の研究もされているんです。

 ドラゴンだがら、元々強いですがそれでも対抗策はあるんです。

 ですがそれが通用しないほどの力をもっているとなると、どう利用されるかわかったものではないんです。

 狩り出される危険もありますし。

 だから、できるだけ実力を隠したいと思っているんです」

「長年の生活の結果こうなったから、それを発散することができれば元の状態に戻るからの、力を溜め込む方法さえ見つからなければ、大丈夫ということじゃな」

「はい」

「なら、帰る途中で適当な場所で発散させてしまえばいいんじゃ」

「いえ、あれだけの力だと、どうしても痕跡は残ります。

 それを辿られて見つかる可能性があるので」

「なら空に向かって撃つとか」

「それじゃと、空に棲むものに当たるかもしれんし、撃った余波だけでも街に大分被害が出るぞ」

「じゃあ、飛べるだけ高く飛んで、そこから更に空に向かって撃てばいいんじゃないですか?」

「それがこの国に入国するときに、飛ぶことは許可されていないんですよ」


 八方塞りだ。


「あ、今の大丈夫でしたかね。

 周りのご迷惑になっていないでしょうか」

「マノワール。

 どうじゃ、上手く防げたかの?」

「アア、アルジガツクッタ、マホウデ、ボウフウ、ボウオンモロモロ、アト、カモフラージュモ、バッチリダ」

「よし、上手くいったようじゃな。

 心配せんでも周りには全部知られておらん」


 いつの間にそんな魔法をと思ったが、俺が動物のマッサージをすると言った日にはもう創ってたんだろう。


「じゃあ、その魔法を使って空まで飛んでいけばいいんじゃないか」

「それがな、固定された空間だからできる魔法でな、マノワールを柱とすることで維持しておるんじゃ。

 まあ、移動もできんことはないが、面倒でのう」

「できないことはないんですね?」

「そうじゃが、まあ、この魔法陣を見てもらうとわかると思うが、かなり難しい」


 フォレが空中に魔法陣を描くと、チェルカトーレさんが呻いた。


「これをこやつほどの大きさの物が移動するとなると、さらにこう付け加えねばならん」


 魔法陣の数が増えて、さらに複雑な絵柄になる。

 それを見たチェルカトーレさんは言葉を失った。


「なんか難しそうなのはわかったけど、音と姿を消せればいいんだから、別にここに使っている魔法じゃなくてもいいんじゃないのか?」

「無理じゃろうなー。

 こやつを国にいれるときの制約を厳守すると馬鹿正直に信じる奴はおらん、もし守っていても何が起こるかわからんからな、恐らく監視されとるはずじゃ。

 本来なら今の魔力放出で騎士団に踏み込まれてもおかしくはないのを、魔法で隠している状態じゃ。

 監視してる者は優秀な者じゃろうから、ちょっとやそっとな魔法じゃすぐ見破れるじゃろう」

「ではどうすれば……。

 今のままでは彼はいずれ弱って死んでしまうかもしれない。

 面倒でもどうにか、やってくれませんか?

 なんでもしますから」

「ほう?

 そういえばノーリはマッサージ料金の話をしてなかったようじゃなぁ?」


 フォレのまさかの発言にちょっと引いてしまった。

 まあ、商売としては間違ってないけど。


「まー、こちらも動物相手のマッサージじゃし他に前例もないしの、それほど多くのお金は取る気はないが、魔力放出の手伝いになると話は違ってくる。

 完全にお門違いの話じゃからな」

「そ、それはわかります」

「じゃとて、料金を吹っかけようというわけではないよ。

 あまりめちゃくちゃな金額を言っては、後々商売ができなくなるからの。

 だからこういうのはどうじゃろう、魔法を使うにはクラージュ―― あのエルフの力が必要じゃ。

 わかるじゃろ?」

「はい」

「わしとクラージュは実は冒険者での、ランクはマルス上級じゃ。

 あれの平均報奨金を二人分でどうじゃろうか」


 フォレは冒険者としての証拠として、証を見せる。

 そう提案されたチェルカトーレさんの表情が一瞬葛藤するように見えたが、コクリと頷いた。

 さすがフォレ、冒険者の成功報酬がどれ程なのかわからないがチェルカトーレさんの反応を見る限り高額なのは間違いなかった。

 それを魔法の有効性を示してからの料金交渉で納得させるとか、さすがとしか言いようがない。


「交渉成立じゃな。

 ノーリ、わしはクラージュと準備をするから、その間この魔法を使ってこやつをマッサージしておいてくれ。

 いきなり全力の魔法を撃つのは身体に悪いからの、マッサージでほぐすぐらいしておかんとな」


 そう言うと俺の手に魔法陣を付けた。


「魔法筋肉には氣が効きにくいかもしれん、じゃからこの魔法で魔力を氣と似た性質に変化させる。

 多分これで効果が出るはずじゃ。

 光の点とラインと感覚がちがうじゃろうから、やるなら血の流れを良くするようなイメージでやってくれ」

「わかった」


 フォレが中に入っていくのを見送って、ドラゴンをマッサージする。

 魔法をかけてもらったおかげか、さっきまであまり反応がなったドラゴンの様子が、マッサージを受けている中年男性のような反応をしていた。

 魔法筋肉と呼ばれるところを、揉むと澱んでいた魔力が段々と動きが生じて、少しずつ流れが早くなっていく。

 なんというか、テレビで見る血糖コレステロールのようだ。

 段々とドラゴンの身体が温かくなってきている気がする。

 それにしても、ドラゴンって恒温動物なんだろうか変温動物なんだろうか。

 なんかどんな過酷な環境にもいるイメージがあってわからない。

 折角だから、チェルカトーレさんに聞こうと見ると、ドラゴンの肌を撫でていた。


「このドラゴンが凄く大事なんですね」

「え、ええ。

 実家の別荘近くの山で山岳の主と言われていて、守護神として崇められている種なんですよ。

 あ、神獣とかではないんですけどね」

「あー……、そうなんですか」


 まさか本物の神獣が近くにいるとは思うまい。


「それで子供のころから憧れていまして」

「なるほど」


 研究対象にしても珍しいにしても、過剰に大切にしている感じがしたが、そういう理由だったのか。

 大分時間がたって、フォレとクラージュが出てきた。


「ふむ、大分魔力の流れが良くなったみたいじゃのう。

 こうしてみると、先程の状態は不健康そのものじゃったの」

「フォレ、準備はいいのか?」

「うむ。

 さて、素早く終わらせるとするかの、クラージュ、マノワールやるぞ。

 外の者達に見えないようにするためのカモフラージュはもうできとるの?」

「バッチリダ」

「よし。

 クラージュ、手順はさっき説明したとおりじゃ」

「少し自信がありませんが、頑張らさせてもらいます。

 失礼」


 クラージュがドラゴンの背中に乗る。

 そして身体が輝くとフォレが見せた魔法陣がドラゴンを中心に描かれた。


「魔法発動、これを維持します」


 ドラゴンの姿が消えたが、なんとなく空間が揺らいで見える。


「マノワール、空間魔法の固定補助するのじゃ」


 フォレの指示にドラゴンがいる場所を光が覆うと揺らぎが無くなり完全に消えた。


「じゃ、わしは魔法のサポートするために一緒に空に行ってくる。

 ノーリ達はここで待っておるんじゃ」

「僕も一緒にいってはいけませんか?」

「かなり危険じゃぞ?」

「自分の身ぐらいなら、どうにか守れます」

「いや、無理じゃろう。

 が、まあ、そこもわしがサポートしてやろう」

「じゃあ、俺もついていっていいか?」

「……ダメ」

「えっ? ちょっ、なんで?!」

「駄目なものは、ダメじゃ。

 さ、早く行かんとクラージュがもたん」


 フォレとチェルカトーレさんの姿が消える。

 俺もせめて理由を聞こうと後を追おうとしたが、


「イッタナ」


 マノワールがそう言ったので、見えない姿を空を見上げて見送った。

 十分ぐらいたった頃、一瞬だけ空に星が生まれた。

 ぞれから、更に二十分たって、フォレ達は帰ってくる。

 マノワールに言われて出迎えると魔法が消えて、同時にクラージュがぶっ倒れた。

 力量以上の魔法行使だったらしく、さすがのフォレも頑張りさせすぎたと反省していた。

 クラージュを部屋に運んで、俺はドラゴンの運動後のマッサージをした。

 夕方前にあの巨大な鳥がきて、ドラゴンとチェルカトーレさんを連れて帰って行った。

 そのときに、チェルカトーレさんには何回も感謝された。




 後日、完全にダウンしてしまったクラージュの代わりに数日間はフォレがお菓子を作り、その期間は十%オフで販売した。

 その間は、俺もマッサージを休みにしてお店の手伝いをしたが、複合体の強みでほとんどマノワールがこなした。

 俺の存在意義について考えてしまったが、まあ、うん頑張ろう。

 だが今回の仕事のおかげで、一回分の旅費が稼ぐことができた。





多少未練があるので、まだ続きます、で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ