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小話  作者:
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犬とわたし

-12年前エルフォーゲン領・メイドのマリア-



その年の雪は、本当にひどくてエルフォーゲン様の屋敷の屋根がいつ抜けてもおかしくないと思わせた。


「ゆーきやこんこ、あーられやこんこ。」


そんな中、積雪の憂鬱を吹き飛ばす、可愛らしい軽快な歌声が屋敷から聞こえる。

エルフォーゲン子爵の末姫エリーゼ様。

病で子供の頃に亡くなった記憶をお持ちになって生まれになった、愛らしくも賢いお譲様。

多大な期待を神殿に向けられていた為、病でそうそうに亡くなった前世と知られると、見向きもされなくなってしまったお可哀想なお方。


「ふってもふってもまーだふーりやまぬー、いーにゅ・・はよろこび・・・・。」


おそらく異国の童謡でしょうか、初めて耳にする歌を歌いながら、窓のから雪を眺めてらっしゃいますが、

ふと歌がやみ、くるりとこちらを振りかえられました。


「ねぇーまりやぁー。」

「はい、なんでございましょう。」

「(いぬ)っていう、どうぶちゅ・・は、いますか?・・・ぅ、どうぶつ。」

「(いぬ)でございますか?」


ちなみに、エリーゼ様の目下の悩みは舌が回らないこと、なんともお可愛らしいものです。

さて(いぬ)ですか?


「マリアはこの年まで生きておりますが、存知ませんねぇ。どんななりなのでしょう?」

「んーとね」


一指し指を立て顎に沿えて斜め上をご覧になって考え事のポーズ、本当になんて愛らしいんでしょう!

5歳のお体で12歳のお心ですから、どこかチグハグなお嬢様、でもそれが時にとっても可愛らしい風情を生み出すのでございます。これを目に出来るのが、ハウスメイドとして通いで来ている私の特権なのです!


「(おーかみ)っているでしょう?あれのーおとなしい子なの。よく人になちゅいてくれて、狩りをするときに、いっしょにつれていったりー。」

「狼に似ていて、大人しい・・・、さぁマリアは見たことがないですねぇ。」

「まぁ、しょうなの・・・。」


どこか、しょんぼりとなさって外をご覧になった。

おそらく、前世のお国にいたのでしょう思い出して寂しくなってしまわれたのでしょうか。


「私はご領を出た事がございませんので、若い頃にはお国を周られた子爵様はご存知ではないでしょうか?」

「まぁ!そうね。父様きょうは、ゆきで休んでらっちゃ・・るものね!きいてくるわ!」


嬉しげにパンッと両手をならすと、「まりあ、ありがとうー」と出ていかれた。

また、メイドにお礼などおっしゃって・・・、このお屋敷の方は誰もそうですが、貴賎のない物言を好まれ

私達にさえ、お礼や謝罪を平気でなさる。こんな方にお使えできる私は幸せ者でございます。



-エルフォーゲン子爵-


異例の積雪の量に、今後の領内の被害に頭を悩ませる。

ただでさえ貧しい領だというのに、家屋の壊れた者がでるか?食料はどうか?更に雪解けの頃も気をはらねば・・・、予想される課題だらけで頭が痛い。

大量の積雪で今日は出るに出られないが、そのうちそうも言っていられなくなるだろうと、今日は机上で事前策をねる事にした。

そんな私に、軽快な愛らしい歌声が聞こえる。

末娘のエリーゼだ。


まったく、何をやっても可愛らしいことだと眉が下がる。

どこの家でも、家庭を持った同期の奴らも末っ子はどこも、可愛いいものらしい。

歌声はどんどん近くなり、書斎のドアのノックになった。やにさがる顔を引き締め「どうぞ」と許可すれば


「しちゅ・・れいします。」


とキチンと淑女の礼で入ってきた。

もはや、引き締めた顔が戻りそうで困る。


「エリーゼ、どうしたんだい?」

「はい、お父様に、おききしたいことがありゅのです。・・・あるのです!」

「さて、何んだろうな。」


おいでと膝を叩けば、いいのーと遠慮する、が乗せる!娘が膝に乗れる期間などわずかだ、逃すか。

聞けば、(いぬ)という狼似の動物がいるのか?という。

はて?(いぬ)とな、狼はよく冬場に領民と狩りにゆくが、(いぬ)は知らぬなと言えば、悄然と肩を落とした、とたん萎れる花の様さまの娘に慌てる。


「(いぬ)とやらが、欲しいのか?前世で飼っておったのか?」

「んーん、にゃこ・・・ねこがいるのに、いぬがいないのは、ちゅまらないなと思っただけよ。」

「そ、そうか、そういうものだったのだな、前世の国では?」

「ええ。わんしぇっとなのよ。」

「わ、わんしぇっとか、そうか。」

「ううん、わ・ん・しぇっ・と、・・・あれ?、わんせっと!よ!」

「わんせっと、な」


(わんせっと)とは解らないが、猫といぬと言うからには、愛玩する動物でも欲しいのだろうか。

春になれば、なにがしか子が生まれるだろうから、森に入ったさいに連れてこようか?と問うてみる。


「だめでしゅよ!エリーなら父様と母様から、はなされて、さらわれたら悲しくてないてしまうわ。」

「・・・そうか、そうだな。」


優さしい良い子で、父様うれしいです。

膝の上の小さなぬくもりをぎゅっと抱きしめ、子爵は思う。

あー、嫁にやりたくねぇ、と。


そこへ、ドカドカと荒々しく廊下を歩く者が、こちらへ向かっていた。

・・・妹にくらべ、なんと騒がしいことか。

子爵がため息をつくと、ノックのない扉がガンッと開いた。


「エリー!ここにいたのか!」

「にいさま。」


エリーが3才になるまでの、こいつは賢児であると鼻が高いばかりだったというのに、エリーに名を付けた日から、妹命の阿呆になってしまった長男ラクリオ。

外にいたのか、雪まみれでぐっちょりである。


「おまえが、欲しがっていたガイゼルの葉を取ってきたぞ!」

「えぇー!でも、おそとはゆきよ?おにいさま!」

「雪なんぞ、お前の願いがあれば俺は平気だ!。」


ふんす!胸をはり、雪の下で眠っているはずの草をだす。スタスタと雪解け水と泥が床に落ちた。


・・・・・頭が痛い。

この大雪の中、たった12歳で山深くいかねばない草を取りにいったというのか・・・この馬鹿息子が。


「はるになったら、あるのにねって、いったじゃない!むちゃして!」

「心配ない、おまえの願いなら俺はどこまでも行ける!」

「いける!じゃありまちぇん!!この、のうきん!!どうして、にいしゃまはそうなの!」

「いや、だから」

「いいわけは、ききまちぇん!」


雪と泥まみれの兄を前にして、小さな腰に手をあて、エリーはおかんむり。

しまいには、兄を引っ張り「しちゅれいしまちゅ!」と浴室へと消えていった。怒りすぎて、滑舌はどうでもいいらしい。


雪の憂鬱が末娘の愛らしさで癒されていたのに、別の問題に頭を悩ませるはめになった。



-エリーゼ-


「なんどいったら、わかるのかちら!にいさまは、ちゃんとはなしを、ききなしゃい!!」


くっそおおおおお!興奮して滑舌が、5歳児クオリティー全開だよ!!


寒くなり、メイドのマリアがよい年なので、腰が痛いのかトントンとよく叩いていた、ボソリとお灸でもあればね。と呟いた時、隣に兄がいた。

お灸とやらが欲しいのかというので、この国にはないけど、草は生えてるので春になったら作ってみるといったのに。

それから、事あるごとに、どの草か?この草かと質問攻め。

父の部屋から図鑑を出して、これに載っているか?というので、ヨモギを探して指さした。


・・・のが、3日前。

まさか、この大雪の日に出るなんて!

12歳の子供に自殺行為以外の何者でもない!というか探して帰ってきた兄は何者だ!びしょぬれの体を浴室に放り込み、マリアに湯をもらう。

暖まってから出ないと、今後抱っこさせない!と宣言して戻った。


部屋へ入ると、マリアがガイゼル(ヨモギ)の葉を洗って机に置いていてくれた。

小さい体で、わめいて兄を浴室に放り込んでとやれば、思いっきり疲れる。


ふぅーっと、息をついてベットへ座り込んだ。

机の上のヨモギをチラと見て、兄が無事で良かったとしみじみ思う。余計な事を言うもんじゃないなと、改めて気をひきしめる。


「もうすぐ、湯から上がって着替えてらっしゃいますよ。」

「ありがとう、マリア。ごめんね、よけいなおしごと、させちゃったわ。」


兄の湯を用意してくれたマリアに感謝する。「いいえ、そんなこと」というと


「そういえば、(いぬ)とやら、いましたか?」

「ああ・・・、すっかりわすれてた、見たことないしょうよ。」

「左様ですか、残念ですねぇ。」


と気の毒そうな顔をされるが・・・。

もう一度、机の上のヨモギを見る。


にたようなの・・・・・・がいりゅから、もーいいの・・・。」


そういって、シーツに体を投げ出した。「あらまぁ」とマリアがヨモギを見ながら苦笑いした。

なんとなく、解ったらしい(笑)

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