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第11話:サンタさんはレールに乗って 


 季節は冬になっていた。

 海老名の街路は、農地から一挙に高層住宅地に変貌しつつあるが、その谷間に吹き付ける風は激しく冷たい。

 そんな街区の端、高校の放課後の部室に皆が集まっていた。

「今年のクリスマスは、鉄研のみんなと過ごせるね」

「中学ぐらいから、クリスマス、どんどんつらくなっていったなー」

「なんでだろうね」

「うーん」

「相変わらずこの部室寒いけど、でも冬の温かい麦茶って、美味しいね」

「うむ、麦茶の素は夏のレイアウト作りの時の残りであるが、温めてはちみつを入れればまた美味なのである」

「『放課後ティータイム』って感じ」

「でも、あれにくらべたら、どうにもどっか男くさいわよね。

 麦茶入れてるの、どでかいヤカンだし、沸かしてるの灯油ストーブだし」

「どっちかというと『特車二課』って感じ」

「知ってる人少ないわよ」

 (著者)すみません。

「でも、秋の大阪旅行と大阪駅見学、楽しかったね」

「さふである。まさに赫赫たる大戦果であった。

 途中のスカイライナーの山本寛斎デザインの澄んだ伸びやかなイメージ、ラピートの強く個性的な意匠、エアポートバスの利用状況など、それぞれ興味深かった。

 スカイライナーの豪速体験もなかなかであった。160キロは確実に出ていたな。

 関西の列車の発車合図がチリンチリンという路面電車風味の鈴の音なのも楽しい。

 あの新装なった大阪駅の大屋根とその下に駅構造物を配する設計は、欧州のターミナル駅からのモチーフであろうが、非常にモダンで開放感があり、狭さを感じさせなかった」

「時計塔や、大屋根の下のコンコースにあったトレインビューのカフェとか、ほんと、レイアウトに作ってみたくなったわ」

「阪急梅田駅の大ターミナルにズラリ並んだ自動改札も、南海難波駅も、狭いながら工夫した京阪淀屋橋駅も興味深かった」

「あの南海難波駅の羽車のレリーフ、ずっと前からじっくり見たかったんだー」

「大阪駅の駅ビルの噴水時計もね。YouTubeで見てたけど、実際見て嬉しかった。やっぱり実物を見ないとねえ」

「あと、阪急といえば宝塚歌劇。あの駅コンコースの階段、ぜったい宝塚歌劇の大階段をモチーフにしてるわよね」

「LCCにも慣れちゃったね」

「18切符も活用すべきだが、あえて東京大阪間の運輸交通機関の乗り比べもしたかったのだな」

「ピーチアビエーションといい、エアバスA320はLCC御用達ですね。見た感じ、小回りきくし、採算性もいいみたい」

「18切符はその名前から誤解されがちだが、利用者に年齢制限はないのであるな。

 そして、18切符活用術はもう人口に膾炙していて、今更我々が研究するまでもないのだ」

 鉄研の部室には、いつのまにかテレビを持ち込んであって、室内アンテナでテレビを受信できるようにしている。ひどい話であるが、それがこの鉄研なのである。

 テレビは昼の番組を流している。

「でも、それで部誌の編集が大変なのよ」

「あ、前の号の印税出たの?」

「実は」

「出なかった?」

「いや、ちょっぴり出た」

「すごーい!」

「でも、受取口座に受け取れるほどの額じゃないから、まだBCCKSの会社に預けて積立になってるの」

「とはいえ、私達の部誌をお金払って買いたいって人がいるってのはありがたいわね」

「うん、ほんと、すごいことよ」

「しかし、あのカオルちゃんの書いたダイヤ解説はすごかったなー。電鉄さんのダイヤ変遷史にも踏み入れてて。ついちょっとまえまで、大昔の荷物電車用のダイヤの名残があったとか。思いもよらなかったわ」

「うむ、課金はこの資本主義の日本においては大事なのである。

 課金が多ければ作画崩壊も減り、2期の企画も進むというものである」

「よーくかんがえよー、お金は大事だよー」

「もう誰も覚えてません、アフラック保険のコマーシャルとか」

「うむ、課金さえあれば、あれほど言われた『艦これ』も2期のアニメが始まるのである。まさに弥栄である」

「しかしあれ、如月ちゃんが轟沈したままだったよね」

「しかもそのあと、空母と戦艦を駆逐艦が指揮するとか」

「うむ、そこは課金が足りなかったと各提督が猛反省すべき点であるな」

「いや、課金の問題じゃないから。それに艦これ話にいきなり突入しないで」

「ガールズ・アンド・パンツァーはそのすれすれでスポーツにしていたところが後味を良くしていたのだが、艦これはガチのバトル物にしてしまったのであるな。そのうえ敵の深海棲艦が袋叩きにあってもなかなか沈まずしぶといので、むしろ判官贔屓でそっちのほうに感情移入してしまうなり。そこもやはり課金が足りなかったと反省」

「そろそろクリスマスエクスプレスの通過時刻を気にしないと」

「あれ、『歩くダイヤ情報』のカオルちゃんがいないね」

「どうしちゃったんだろう。今日はまだ来てないみたいだけど」

「今日はこれからクリスマスエクスプレス撮りに行くのに」

「うむ、嫌な予感がするのだが」

「ケータイかけてみた?」

「なんか、カオルちゃんのケータイ、電源切られてるみたい」

「まさか、ね」

「忙しいのかな」

 その時、キラが目を見開いた。

「いや、これはおそらく、そのまさかであるのだ。

 総員、彼女の捜索にあたれ!」


「カオルが行きそうなところ、って、ねえ」

「朝は一緒に学校にきたのに」

「消えるとしたら部室か、あるいは保健室か」

「もう一年生で学校サボるのに慣れちゃってるとか、正直ヒドイ!」

「屋上は閉鎖されてるからねえ。普通、学校の屋上は危険防止のために、よくあるテレビドラマみたいに出られるようになってないし」

「プールもありえないし」

「じゃ、あと残るは……」

「あっ!」

「階段下!」


 彼女は、その薄暗がりで、座り込んで膝を抱え、ケータイ片手に、かたかたと震えていた。


「いた!」

「どうしたの?」


「ごめん」

 カオルは顔を歪ませたまま、言葉にした。

「体と心がグチャグチャになって、辛くて」

「辛い時こそ、言ってよ!」

「だって、みんな、優しいんだもの。

 ぼくなんかには、もったいないよ。

 ぼくは一人でこれを我慢すべきなんだ。

 ぼくは助けなんか呼んじゃダメなんだ」

「そんなことないよ!」

「ともかく、こんな寒いところいたら、余計具合悪くなるわ。

 歩ける? 無理だった肩貸すわ。

 とにかく部室行きましょう」


 カオルをいたわりながら、部室に移動する。

「うむ、心配をかけさせてくれるのは、また心配する側にとっては、幸せでもあるのだな。

 人はどうあろうと、互いに承認と心配をかけあってようやく生存できる、社会的動物なのだ。

 孤独は真に、死に至る病であるのだ。

 君は、我慢のしすぎだ。

 並外れた我慢は、体と心を壊してしまう。

 もう壊れかけているのであろうが、だからと言って、一人で壊れるのは、ワタクシ鉄研総裁として、断じて認めることはできないのだな。

 今は並外れて辛ければ、医療の力を借りることもできる。

 でも、絶対に自分を諦めてはならないのだ。

 先輩たち皇軍の好敵手、米海軍も『船を諦めるな!』と頑張り、それで太平洋戦線での死闘の末、現在に至るも日米はリスペクトし合っているのだな。

 辛い時は、それを分かち合う。

 それでこそ、仲間なのだ」

「だって、みんな幸せで、楽しそうで……」

「楽しい時、君が苦しいと言ったところで、我々はその場の興が削がれたと、嫌がると思うか?

 君が度外れた我慢して黙っている時に、ただ自分だけの楽しみに勝手に興じるような、浅薄で狭量な我が水雷戦隊ではないのだ。

 君も含めて、皆で支えあい、楽しみ、楽しくする。

 それが我々の水雷魂、テツ道であるな。

 みな、それぞれながら、それで一つの我々であるのだ」

「そうですわよ。私たちは仲間ですもの」

「さあ、涙をふくが良い。

 そして、電鉄の運転するクリスマスエクスプレスを撮りに行くのだ。

 通過時刻は」

「9981M、海老名通過時刻は16:22:30です」

 カオルは泣きながら、かろうじて答えた。

「それでこそカオルだ。斯様なダイヤの達人を、なぜ我々が邪魔扱いすると思う?

 みな、それぞれに、それぞれかけがえのない役割があるのだ。

 そして、みんな、それぞれに互いを必要としあっているのだ」

「ぼく、本当に、必要ですか」

 キラが、さっと振り返った。仕草で流れる長い髪をまとめた動輪のバレッタがきらめく。

「必要に決まっているのであるな」


「何があったのだ?」

 歩きながら聞く。

「詩音ちゃんのお父さんの予想通りです。

 辛かった思い出が忘れられなくて、後から後から思い出されて止まらなくなって。

 いじめられたことから、大昔のつまんない小さな諍いのことまで。 

 忘れられたらいいのに、ぜんぜん忘れられない。

 それが、突然、頭のなかで暴れだすんです。

 ようやく、みんなに出会えて、それがようやく暴れなくなったと思ったのに。

 なんで……なんでこんなことが。

 もう、あの頃に戻りたくなんかないのに」

 カオルは完全記憶体質なのだが、その弊害が今、出ているのだ。

「うむ、これには医療の力も必要そうであるのだな」

「通院しているんだけど」

「そこはさらにお医者さんと相談すべし」

「今も辛い? 無理することないわよ」

「いや、もう大丈夫です」

「無理することないよ。来年だってクリスマスは来るんだから。

 クリスマスエクスプレスも、来年だってきっと走るわ。

 それより、今はあなたと一緒にいることが、大事だもの」


 みんなは彼女とともに、いつもの撮影ポイントへ移動したのだった。

 途中、他の列車を撮影して練習する。

「あと3分ぐらいです」

 レールを銀色に光らせながら、純白のロマンスカーが静々と走ってくる。

「しっかりひきつけて!」

 シャッターを切る。

「うむ、会心の一枚である」

「みんな、撮ったねー!」

「あ、よく見たら、あのロマンスカーの運転士、オトンだった」

「ええっ!!」

 皆でカメラの液晶ファインダーをのぞく。

「うん、私のお父さん、運転士なの」

「いいなあ」

「みんなのお父さんも、みんな、それぞれに立派だと思うわ」


「じゃあ、シメは鉄道寿司にゆくのである」

「え、そんなの、あったっけ?」


 みなは海老名の、クリスマスイルミネーションの輝くショッピングモールに移動した。

 そのなかに、目指す寿司店があった。

「わー、すごい! 回転寿しなのに鉄道みたい!

 予約品の接近放送が鳴るとか、すごい!」

「さふである。本日はこのお寿司屋さんの、鉄道ファンの子供向けサービス営業日なのであるな」

「これ、どうやってお皿の位置検出してるんだろう。フォトカプラーじゃなさそうだし」

「タイマーかなあ。そのわりにはすごく正確にいってるけど」

「まず、頭がしんどい時は、基本、糖分の補給が優先である。

 飲みと食いが足りないのが大概のトラブルの原因なのだな」

「それはキラの場合だけでしょ」

「心外なり。そもそも地球上の生物の原始の姿は腸の構造の元となったチューブワームであったらしい。生命は腸から生まれた。それを効率化するために他の器官が生まれたとの説があるな。

 確かに食の満足と睡眠は何よりもの良薬であるのだ」

「まあ、食べて寝れば大概のことは忘れられるもんね」

「これ、新幹線レーンとか作って、連携運輸したら面白いよね」

「通常レーンも退避待ち合わせとか」

「特急列車を待たせて普通列車が先発するHENTAI退避もー」

「HENTAI言わないの!」

「もはやそうなると回転寿司ではなくなるのである」

「『1番レーン、お客様の予約品お取り間違いに付き、現在全線で運転を休止しております』とか」

「『28番卓でお客様のご案内中です』とか」

「そこまでやったら完全に混乱するわよ」

「あ、穴子!」

 レーンの上の穴子の皿をスパッと6人が一斉に取る。

「穴子、うまし!」

「美味しいねえー」

 それを何度も繰り返す。

「でもこれやってると、私たちの下流の方に穴子が1つもいかないわよね」

「『もう穴子が届かねえ』」

「なに『水曜どうでしょう』ネタなんですか!」

「『もう実がならねえ』」

「小説だと酔虎体にならないし、古すぎて覚えてる人がいません!」


 そこに、男性が現れた。

「おー、やってるようだな」

「おとん! 古川さん!」

「勤務があけたんでな。みんなにプレゼント用意しようかと思ったが、どうにもいいものが思いつかなくてな」

「クリスマスエクスプレスの乗務お疲れ様です!」

「ありがとう。まあ、特別なことは何もない、それゆえに良い乗務だが、ついでにちょっと、友人を連れてきた」

「誰?」

 来たのは、鉄道雑誌でしか見たことのない男性だった。

「あっ!」

「来島主席運転士!」

「いや、ども。非番なんで来ちゃったよ」

「すごい! 北急運転甲組、電鉄のスター!」

「そうでもないよ」と来島は照れた。

「今日は鉄道車輌の運転について、なんでも聞いていいよ。話せる範囲で答えるから。

 これがプレゼントの代わり、かな」


「作動時に音の鳴る開閉器はもう、LSEしかないからね。

 うちの電鉄の初めてのワンハンドルマスコンだからね。昔はなかなかなれなかったけど、いまじゃ、多くがそれになってしまって」

「VSEの発車時の運転士による案内、あれ、トチると嫌なんで、ちゃんと練習しているんだ」

「そういや、展望席付ロマンスカーの新車はまだ出ないんですか? LSE2本とVSE2本だけでは心もとないと思うんですが」

「うーん、それはちょっと答えにくいなあ」

「あ、ショートケーキが流れてきた!」

「これをクリスマスケーキにしましょう」

「集めて丸くして、ホールケーキみたいにしない?」

「そこまでする?」

「せっかくだから、してみたいじゃない!」


 楽しい宴は終わった。

「すごく素敵なクリスマスになったわね」

「ほんと。予想外」

「しかし、カオル」

 キラは改めて、言った。

「君がいない状態では、絶対にこの楽しさはなかったのだ。

 困難といっても、それは仲間と分割、仲間と共有すれば、楽しむことすらできるものにすぎぬ。

 君がいるから、我々は楽しいのだ」

「そうなんでしょうか」

「そうなのだ。それが我々のテツ道でもある」

 

 クリスマスの夜が過ぎた。


「さて、もう2学期もおわりね」

「寒い。足元から凍えそう。今日、雪降るんじゃない?」

 みんながストーブにあたっているその時、部室に持ち込んだテレビが騒ぎ始めた。

「えっ、構内脱線事故?」

「なんか見慣れた電車だなあ」

「あ、これ、電鉄さんですよ!」

「間違いないわ。社紋が入っています」

「そういや電鉄、地味に脱線事故多いよね」

 テレビの画面がヘリコプターからの空撮の画像になる。

「ありゃ、KATOの4番分岐器で泣き別れしちゃったみたいに脱線してる」

「模型と実物をごっちゃにしちゃダメよ。たしかにKATOユニトラックの4番分岐は構造的に狂い出来やすくて弱いけど」

「でも、私、ペーパーの模型車体作ってると、試運転して思わぬ脱線が起きることがありますわ。

 補強を入れる前までは問題なかったのに、入れた途端に脱線頻発とか」

「それはボディ剛性の強化で足回りとの調和が崩れたんだね」

「まだまだ鉄道にはわからないことがあるのかなと思いましたわ」

「けが人出てないかな。心配だなあ」

「あ、ツバメちゃん」

「お父さん、詰め所に出勤した」

「でも、ツバメちゃんのお父さんは今日、非番で関係ないでしょ」

「どれだけ辛いか、わかるからこそ、行かなくてはいけないの。

 行かずにはいられないの!」

 悲痛な声だった。

「そうなのだな。これが鉄道の怖さであるな。決して枯れた技術ではないからな」

「それでも、皆、運転し、乗らなくては、生きていけない」

「まあ、事故調査委員会の結果が出るであろう。ともあれけが人が出なくてよかった。不幸中の幸いであるな」

 みんな、そこで言葉が途切れた。

「鉄道事故って、ほんと、嫌なものね」

「うん。心が痛むわ。けが人が出ず、車両が壊れなくても、言葉に出来ないほど嫌なものだわ」

「関係者さん、大変だろうなあ」

「ツバメちゃんのお父さんも、苦しいでしょうね」

「同僚の事故の痛みは想像しただけでも」

 ツバメは複雑な顔で俯いている。


 そこで、御波が口を開いた。

「私は、ツバメも、ツバメのお父さんも、その仲間も、みんな好きだもん!

 何があっても! ずっと、ずっと。

 だって、それがほんとうの友達だから!」

 みな、頷いた。

「さふである。

 事故は責任追及よりもまず原因解明、そして再発防止。

 それが大原則である。

 ヒューマンエラーと早計に言う前に、それを起こしかねない工学上の問題はかならずあるものだ。

 それを解決しないことには、事故はなんどでも繰り返される。

 そして同じ事故を繰り返すのは、人間として、人類として最低なのだな。

 故に、今は慎みて、原因の究明を待つべきであるのだ」

 みな、頷いた。

「そして、真実を受け入れはしても、真実に負けてはいけないのだ。

 だからこそ、こういう時こそ、コールなのだな」

 キラの声で、みんなが気がついた。

 円陣を組み、手を合わせる。

「せえの!」

「ゼロ災でいこう、ヨシ!」



 その数日後、事故調査委員会は、脱線の原因についての調査報告を発表した。

 その事故調査委員会に、詩音の父、武者小路教授が参加していたのは言うまでもない。

 脱線は、複合的な要因で起きたが、主な原因は車輪と軌道の摩擦抵抗のバランスが崩れたためによるとの結論であった。

 しかも、そのバランスの崩れは、これまでの検査項目になかったものだった。

 結局、誰の責任ということはなかったのだが、それゆえに、新たに対策を取るとしても、皆の気持ちは沈んだままだった。



 深夜。

 武者小路邸。

「お父様」

 詩音が、ぬいぐるみをだいたまま、研究室にやってきて、作業をしている武者小路教授に聞いた。

 傍らには、オーバーホール中の5インチゲージの蒸気機関車が佇んでいる。

「不安かい?」

 父である教授は、優しくそう言った。

「でも、人間はそもそも、不安を感じるからこそ、ここまで生き延びれたんだよ。

 いい加減な憶測で不安を押し殺しても、結果はいいことにならない。

 不安ってのは、実は、大事なものなんだ。

 そして、僕らには、今、その不安に対抗できる武器がある」

「武器?」

「文明だよ。闇を払い、謎をとき、深い谷に橋をかけ、地を駆け空を飛ぶ力だよ」

「でも、それがまた新たな闇を生み出してしまう」

「そういうこともある。でも、闇は光には最終的に勝てないんだよ。

 ココロが弱ってしまうと、ついそれを忘れてしまうんだが」

「お父様」

「ああ。不安は理屈ではない。対抗する武器があっても、その武器すら疑ってしまう。

 だからこそ、仲間もいる。友情もあるし、努力をする余地もあるんだ」

 教授は、目の前のPCのモニタを見つめながら、答える。

「君たちの総裁、キラくんも、それをわかっている。

 それに前向きなツバメくん、優しい御波くん、明るい華子くん、そして頭脳明晰なカオルくん。

 ほんとうに、いい友達たちだよ。ボクにとっても羨ましいぐらいだ」

「いい友だちです」

「そうだ。だから、今日は、眠るんだ。

 明日になれば、また彼女たちと会うんだろう?

 詩音も、明日になれば、心の力が回復して、笑えるようになるよ」

「本当ですか」

「信じて、眠るんだ。もう時間が遅い」

「お父様は」

「もう少し運動解析の結果を見て、寝るよ」

「あまり遅くならないで。お先に、おやすみなさいませ」

「ああ。おやすみ」

 詩音は、部屋に戻っていった。


 教授は、息を吐いた。

「長原キラ。

 真実に、負けちゃいけない、か。

 それを学んだのは、実は、私の方だ」



「11話でクリスマスやって…あれ? 計算が合わなくない?」

「もうそういうのはあてにならない作者だってのは周知済みでしょ!」

「でも、今更友情、努力、勝利と言っても、私達どうなっちゃうの?」

「わかんないわよ!」

「うむ、ゼーレのシナリオ通り。仕組まれた子どもたちは」

「キラは余計なこと言って、話ややこしくしないの! でも次回は、『トモダチだから』、って、何?」

「わあああ、ほんと、大丈夫なの、この話!」

 お た の し み に。


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