8話
「…殿下、未熟者なあたしですが、今日1日、宜しくお願いします」
「おう!カトナ、俺も頼んだ」
丁寧に深々と頭を下げてそう言ってくるカトナに、偉く生真面目な子供だよなこの子と、内心思いながら此方こそと思い返事を返す。
「はい、ではまずクイックステップがどの様なものか、簡単にあたしが1人で踊ってみますので、殿下は見ていてください」
「おう!俺は観察力には自信がある!」
「では、始めます」
そう言うとカトナは、無言で部屋の部屋の奥側の中央よりやや右側へと歩いて行き、ダンスのパートナーが居るだろう方へと手を翳すと、自分から歩み寄って行く。
カトナの翳している方の手があまり動いてない所を見ると、女性が近付いて来るのを男性が受け止めるといった感じだろうか…?
腕を組む様な仕草をすると、カトナは左腕を肘から曲げて男性と組み、右手は左手よりやや下の位置で真っ直ぐと伸びたままだ。
左手の肘の曲がり具合から言うと、相当男性と距離が近いのでは無いだろうか?
「…身体は出来るかぎり密着させた方が綺麗に見えます」
カトナは静かにそれだけ言うと、次はステップを開始した。緩やかであり流れる様に、大きく部屋の中を右向きに回っているのか?
動き方はどうなのだろうか、見ていると簡単に出来そうではあるが、大きくもなく小さくもない程度に足を進めて腰をゆっくりと下降、またその位置から足を進めて腰を上げる。身体の動きがとても柔らかで、何と言うか、優雅な動きとと思えば、大きく身体を左右に振ったりもするリズミカルなダンスだった。
「…この様なダンスとなります。殿下では早速、踊って頂いてもよろしいですか?」
「あ、あぁ、カトナと踊るのか?」
なんか、先程の踊っていた時のカトナを見ていたせいか、今からカトナと抱きしめ合って踊ると思うと緊張するな。
「いいえ、ダンスは身長差があり過ぎると一緒に踊るのは難しいですから、殿下だけで、先程のあたしの様に踊って下さい」
「…なんだそれ、じゃあ、俺が祝賀会までにダンスを覚える意味ってあるのか?」
今の調子の身長の伸び具合じゃ、10ヶ月後の祝賀会での身長は100cmを越えてるかどうかってところだろうしな。
踊らないダンスを今から覚えて何になるんだと、そう思ってカトナに聞くと、カトナは静かにその顔に俺の目を見つめてそう答える。
「殿下、ダンスは踊ることのがメインですが、それだけではないんですよ。観衆として見ている時の褒め方や見ているポイントでその殿方のダンスの技量が解るんですよ」
ジオラルド・ナルニート、8歳の魅惑の少女カトナに惚れた瞬間であった。
「はい、結構です。殿下」
「お、おぉう!でぇ?ど、どぉーだったぁよ。俺のこの第三皇子ジオラルド・ナルニートのダ、ダンんん、ダンスはよっ?」
駄目だ、カトナの顔を見るとまともに話せない。童貞拗らせること存在年数、しかも2週目な俺には、好きな女にどんな態度を取れば良いのか分からない!
取り敢えず花か?でもこの部屋に花なんかないし、なら物をやるか?この部屋にあるもの好きな物選ばせて、でも此処の物は俺のであって俺のでない。あぁ、何だ!何かプレゼントをやれる様なもんはないか!?
「はい、殿下の覚えがとても早くて驚かされました。この調子なら祝賀会までに十分踊れる様になりますよ」
部屋には何もない、こうなりゃ窓から外に出て花でも摘んでくるか?でも初めてのプレゼントだ。
少しの間は何か残る様な物にしたいし、いや、残る物にしたら逆にウザかられるか?!
ならアレだ。直ぐに枯れたりなくならなくて、ちょっと間持つ様なもんをやればいいんだ。
部屋にはそんなものはない。やはり外を探すべきだ。
そんな時だった。窓の外を飛行する小鳥を見つけたのは…。
あれだ!小鳥だ!餌をやれば当分は死なないし、要らなくなれば喰えばいい!何ていいのが中庭にいやがるんだ!
「…そ、そうか。な、なぁー?!カトナ?小鳥やるよ、待ってろ」
「はい、殿下。……え?小鳥ですか?」
良し、直ぐに取りに行こう!
ガシャーン!!!
「ッツキャ?!…何が起き、殿下?」
窓の硝子を突き破り外に出る!後でミナにドヤされるかもしれないが、今の早漏気味の体内時間、体感時間じゃ、窓を開けてる時間すら行く億年に感じられるだろうから仕方がない!
プレゼント渡すんだ!良しっ掴んだ!逃がさないぞ!しっかり掴んでペチャ…
「….あむっ!あぐあぐ。次だ」
やはりプレゼントするなら小鳥からだろ。その方が育て甲斐もあるだろうし、食べるのも若い内の方が骨が小さくて食べやすしな!
よし、今度こそちゃんと捕まえたぞ!潰さない様にカトナにプレゼントしなくちゃ!!
タン
「ピーっピーっ!ピー」
無事に木から部屋の窓の前へと辿り着くと、部屋の中にカトナは居らずに、廊下側から泡てて外に出てくるカトナが見えた。
何か、あたふたと動揺している様だった。
「あ、あの殿下?」
「ここここ、こ、こ、これ!っカトナにぃ、やるよ。プレゼントだ」
不安気な眼差しで、俺を見てくるカトナに、動悸が激しくなり、自分の耳にも心音が聞こえる程だ。
心臓が激しく動悸を打つ振動で危うく雛鳥を握り潰してしまいそうだ。
「…ありがとうございます。でも親鳥が居たのでは?」
カトナの疑問も勿論だ。
雛鳥が居るということは、その親鳥も居る。
当然のことだろう。
だがその事については心配ない、何故なら親鳥は既に俺が1番最初に握り潰して食べてしまったのだから…。
「あぁ、食った。潰しちゃったからな。どうだカトナ、嬉しいか?要らないなら俺が食べるけど…」
「……う、嬉しいです!だから食べなくて大丈夫ですからね!」
笑顔で俺から勢い良く、雛鳥を取る。どうやらカトナは、俺からのプレゼントを余程気に入ってくれたらしい。
こんなに喜んでくれるなら…。
「殿下、1羽で十分なので、もう狩りに行かなくていいです。この子を大事にしますから、ね!っね?!」
こんなに喜んでくれるならもう1羽取ってこようかな?そう思って中庭にあるもう一本の木へと駆け出そうとする直前で、カトナに制されてそれを阻止される。
「…そ、そうか?喜んでくれて良かったよ」
side カトナ・レールスペーサ
あたしは小さい頃から御伽噺が大好きだった。
御伽噺の様な人生を、愛した人と歩む、そんな素敵な人生を夢に見ていた。
だけどあたしは貴族、現実のあたしの人生は、産まれた瞬間から定められた馬車道のルートを、決められた道順通りに進むというものだった。
あたしの産まれた家、レールスペーサ家は家系図が矢鱈と長いだけの、領地もない、ただ小さな町の通交権利を所持することで生活を行っている。ただ昔からあるというだけの男爵家だ。
通交権利さえ持っていれば、贅沢をせずに生活していれば、生きるのに困らないだけの収入が入る。
さらに父が王国騎士団に所属しており、あたしが5歳の時に使える者が少ないオーラバーストという技法を会得したことにより要職を得た。
あたしはその時、自分の人生に満足していた。例え決められた道の上を進むしかないといえ、平民の様に日々の食べる物には困らない生活が出来るのだから当然といえば当然だろう。
兄が4人もいるレールスペーサ家では、女のあたしは成人すれば何処かの家へ嫁に出される。
それは解っていたこと、だから相手を選べるとは期待していなかった。
母も父とはそうして結婚したと聞いていたから、例え選ばれた相手とはいえ、二人の姿を見ていたあたしは、結婚して一緒に過ごしていれば、自然と愛しあえる様になるのだと考えていた。
そんな風に思い、代わり映えのしない日々を淡々と過ごしていたある日。
その男が家に訪ずれた。
父は王国騎士団に所属しているため、滅多なことでは家に戻って来ることはなく、その日も留守だった。
その日は母も友人と家でお茶会ということで家には居らず、家に居たのは10歳離れた兄の1人と、あたしだけであった。
メイドから兄は仕度に時間が掛かると聞いたあたしは、務まるかは不安であったが、訪ずれたお客様を長時間待たせるのは駄目だと考え、直ぐにそれに対応するために家の正門てと向かった。
「ベイルノ伯爵様、遠いところをお越しくださりありがとうございます。カトス・レールスペーサの娘のカトナと申します」
家の扉をメイドが開け、あたしは事前にメイドから伝え聞いていた男の名と爵位を間違えない様に言い、家へ招き入れ様と頭を下げたのだが、その下げた頭は、男の肉でぶよぶよとした感触の手により力ずくで上げられた。
「んんっ?!……?」
男が何をしているのか、あたしには意味が理解できなかった。
いくら爵位が高いからといって、家の当主が居ない時に連絡もなく訪ねて来て、家の者が挨拶している途中にこの態度だ。
不躾にも程がある!内心で今直ぐにあたしの顎を掴んでいる手を払いのけてしまいたい衝動に駆られるも、
尊敬する父にとって、この男は大事なお客様なのかもしれない。そう考えると、あたしは我慢する他にとる行動がなかった。
「………ほぅ、これがお前の妹か、カイルよ。髪と瞳の色は土を連想させられるが、まあなんと噂通りに綺麗な顔立ちをしておるな」
数秒か数十秒程、あたしの顔を眺めていた男は顎から手を放すと、何時の間にか来ていた兄へと話し掛けた。
「………兄様?」
どうして来ていたのなら、この男の不躾な行動を咎めてはくれなかったの?そう思いながら兄へと声を掛けるも、兄の顔と視線はあたしには向けられて居らずに、ベイルノ伯爵に向けられていた。
「ベイルノ伯爵、妹をお褒め頂きありがとうございます。もし伯爵が気に入られたのなら成人した暁には、妹を…」
「…ほほほ、ほ。うむ、側室として迎えてやろう。だが成人までなどと、長くは待てぬぞ。そうだな来年の春先より、先ずは奉公として当家に入らせよう」
「…なにを言ってるの、兄様?」
一瞬、兄が何を言っているのか解らなかった。
何故、この家の当主である父に連絡もなしに勝手にあたしの縁談を決めるのか、あからさまにベイルノ伯爵とあたしは年が離れ過ぎているのに、貴族間の婚姻に年の差があることは多い、けどそれは大体が親と子までの年齢差だ。
「カトナ、お前は黙っていろ」
兄の片手で端に退けられ、家の壁に背を持たれさせながら愕然とする。
獣人の寿命は190年程度、ベイルノ伯爵はどう見てみても、既に150歳は越えているだろう。
これではあたしの身体が子が作れる様になる前に、彼が子を成せなくなる方が早いと誰もが分かり得ることだ。
「…はい、そのように父に連絡して、妹にも準備をさせておきます」
「うむ、そうすればカイル、貴様に貸した金貨20枚は無かったことにしてやろう」
兄とベイルノ伯爵を聞いて直ぐにあたしは察した。あたしは兄がベイルノ伯爵に借りた金貨20枚の代わりに、ベイルノ伯爵の元へと行くことになるのだと、そしてその金貨20枚が、それがあたしの価値であるのだということを知った。
それからの兄の行動は早かった。
来年の春先、つまりはあたしが7歳になる頃にはベイルノ伯爵家へとあたしを奉公に出さねば成らぬのだから、直ぐに父へと文を書き、了承を得た様だった。
「この事を父上や母上に話せば、父上は無理をしてでも金貨を工面する。それこそ通交権利を売ってでもなそれでカトナ、お前の奉公の話は消える。…けどその後の生活が今まで通りに出来ないことはわかるな?」
この件を父か母に相談するべきかと悩んでいた時に、あたしの部屋を訪ずれたカイル兄様がそれだけを言って部屋から出て行ってしまった。
「…仕方ないよね、どうせ何時かはこうなるのだし、それが早いか遅いだけだもん」
初めから解っていたことだ。
あたしの人生は、産まれた時から決められていて、その筋書き通りに歩ばねばならないことは…。
あたしは小さい頃から御伽噺が大好きだったけど、現実は酷く残酷だった。
それだけのことなのだ、御伽噺の様に此処からあたしを救ってくれる皇子様は現れはしない。
その数週間後、ナルニート国の第三王妃が御懐妊したと発表され、ジークムント王自らが、国中の人々に皇子の身の廻りを世話する者として、血筋、家柄の関係なく5歳から10歳までの優秀な子供を探している。希望者、推薦者はその子供と共に王宮へ来るようにと発表された。
「カトナ!大変よっ!貴方に召集が来たっから直ぐにカトスの所へ来る様にと書いてあるわ!」
母と4人の兄達と昼食を取っている時のことだった。
執事から母へ、父からの手紙が着た知らせが入り、母が食堂から退室してから暫く、残りの家族で昼食をとっていると、母が食堂の扉を大きな音を立て開けると、走ってあたしの元へ駆けてきてそう言った。
「…召集状だって!?そんなの駄目だ!カトナはベイルノ伯爵家に行くことに決まってるんだからっ!」
「カイル、まだ召集されるだけだから、受かったとは限らないけど…。念の為、今回はカトスからベイルノ伯爵にお断りさせて貰うと、書いてあるわ」
母がそう言い終わった途端、兄がテーブルを叩きつつ立ち上がると、母に向けてそう叫んで言い募るが、母は呆れた表情で兄に答えた。
それから色々あった。
ベイルノ伯爵から兄がお金を借りていたこと、その借金を取り消す代わりのあたしの奉公と、成人した際の婚姻話等々が、ベイルノ伯爵から父に伝わり、兄は絶縁を言い渡されて家を追い出された。
兄が借りていた借金は、家にあったもしもの為にと置いてあった資金から返したそうだ。
王都の父の元へ出向いた際に、父から謝られると同時に怒られた。
何でも父はカイルに手紙で「本人が了承しているのなら、少し早い気もするが、勉強の為に行って来るのも良いだろう」と返答していたそうだ。
「あまり我儘を聞いてやることは、出来なかったし、立場的に聞けないこともあるが、…カトナ、お前は我儘を言わなさすぎる。相談くらいして来い」
「…はい、すいません父さん」
あたしが謝ると同時に父はあたしを抱きしめた。
その後、王都に召集されて2ヶ月が経った頃、あたしは見事に殿下の世話係として抜擢され、1年間の教育を受けることになった。
そして今、あたしは殿下にダンスをお教えすることとなった。
「…殿下、未熟者なあたしですが、今日1日、宜しくお願いします」
「おう!カトナ、俺も頼んだ」
あたしがそう頭を下げると、殿下はハニカミながらそう答えてくれる。
殿下の成長は途轍もない程に速い、その中でも特に目を見張るべきなのが精神の成長度合、言葉を覚えるのに5日間しか掛かっていないのだ。
そしてそれは今後更に加速することは確実だろう。
ジークムント陛下が他の殿下達よりもジオラルド様にマナーの教育をと急がれるのもそれが要因であることは間違いない。
変な癖が出来てしまってからでは、矯正に時間が掛かるものだからだ。
そしてダンスは身体のバランスを鍛えるのに激し過ぎず、軽過ぎすちょうど良いものだ。
「はい、ではまずクイックステップがどの様なものか、簡単にあたしが1人で踊ってみますので、殿下は見ていてください」
「おう!俺は観察力には自信がある!」
「では、始めます」
殿下の返答を聞いてから、あたしはスタート位置に着くと気持ちを落ち着ける。
人に教えられることはあっても、人に教えるの始めてのことだ。
殿下に伝わりやすい様に、分かりやすい様に努めないと…。
「…身体は出来るかぎり密着させた方が綺麗に見えます」
パートナーが実際に居ることをイメージして身体を動かす。
あたしにダンスを教えてくれた先生方の言葉と指導を思い出しながら、ダンスを開始する。
「…この様なダンスとなります。殿下では早速、踊って頂いてもよろしいですか?」
「あ、あぁ、カトナと踊るのか?」
一通り踊り終わると、あたしは殿下の元へと戻り、早速、殿下に実地で練習して頂くことにする。
その際、殿下からあたしと一緒に踊るのか?と聞かれるが、あたしと殿下の身長差を見る限りそれは無理、そう判断して、率直にそのことを殿下へお伝えする。
「いいえ、ダンスは身長差があり過ぎると一緒に踊るのは難しいですから、殿下だけで、先程のあたしの様に踊って下さい」
「…なんだそれ、じゃあ、俺が祝賀会までにダンスを覚える意味ってあるのか?」
祝賀会までに覚えないといけない。そう言われていたにも関わらず、実際の祝賀会でご自身が踊れないことを知って、殿下はダンスを練習する意味を分かり兼ねたのか、あたしへと聞いてきたため、確かにそう思うわよね。と内心思いながら答える。
「殿下、ダンスは踊ることのがメインですが、それだけではないんですよ。観衆として見ている時の褒め方や見ているポイントでその殿方のダンスの技量が解るんですよ」
少し拗ねた様な顔で此方を上目遣いで見ている殿下の表情に、あたしは自然に顔に微笑を浮かべてそう答えていた。
「はい、結構です。殿下」
「お、おぉう!でぇ?ど、どぉーだったぁよ。俺のこの第三皇子ジオラルド・ナルニートのダ、ダンんん、ダンスはよっ?」
殿下の覚えが早いため、ダンスの練習に熱が入り、気が付けばお昼間際まで練習してしまっていた。
その為か殿下の息も上がってしまっている。次からは殿下の体調の事も考慮しなければと思う。
「はい、殿下の覚えがとても早くて驚かされました。この調子なら祝賀会までに十分踊れる様になりますよ」
殿下も何処かで手応えを感じられたのか、あたしへ自分のダンスの出来はどうだったかと確認してくる。
「…そ、そうか。な、なぁー?!カトナ?小鳥やるよ、待ってろ」
「はい、殿下。……え?小鳥ですか?」
え、小鳥ですか?ダンスの話ではなく?小鳥?何処でどうしてそんな内容へと話が変わってしまったのか、殿下はあたしに待ってろ!と言うと窓に向けて物凄い勢いで走り出して行ってしまう。
ガシャーン!!!
「ッツキャ?!…何が起き、殿下?」
当然、窓を開けていなかった為、殿下は窓の硝子を突き破り外に出ることとなった訳だが…。
「…一体なんなのこれ?どういうことなワケ?」
殿下が飛び出して行ってしまった。
って何処に?まさかまた第一皇子の宮殿に行こうとしてるのでは?!
またそんな事すれば、今度こそ大問題になる!そう考えたら居ても立って居られず、殿下を追ってあたしも中庭へと駆けだす!
部屋の扉から廊下を周り、漸く中庭に辿り着いた時、幸いにしてまだ殿下は中庭に居られた。
「はぁはぁ、はぁ…。良かった居てくれて」
息を整えながら殿下の元へ歩みよると、殿下は身体の至る所に葉っぱや枝に蜘蛛の巣、それに口周りに白い羽を付けられた状態で、両手に真っ赤に染まった雛鳥を持たれていた。
タン
「ピーっピーっ!ピー」
雛鳥があたしに助けてくれと、そう言う様に鳴き喚いている様な気がするのは気の所為だろうか?
一体これはどういう事なのだろうか?そう思い殿下に尋ねる。
「あ、あの殿下?」
「これ、カトナにやるよ。プレゼントだ」
身体をブルブルと脈動させながら、その脈動により掌をビクビクとさせながら殿下は、あたしへと雛鳥を差し出して来る。
「…ありがとうございます。でも親鳥が居たのでは?」
…その答えは殿下の口周りに付着している羽と血の様な物から理解せざる終えないのだろうが、まさか、そんな筈はない筈だ。そう自分を信じ込ませる様に思いながら尋ねる。
「あぁ、食った。潰しちゃったからな。どうだカトナ、嬉しいか?要らないなら俺が食べるけど…」
「……う、嬉しいです!だから食べなくて大丈夫です」
そうギラギラとした目付きで答えた殿下の手から、あたしは笑顔で雛鳥が握り潰されない内に、殿下に食べられてしまわない内に、その手から奪う様に掴み取る。
「殿下、1羽で十分なので、もう狩りに行かなくていいです。この子を大事にしますから、ね」
あたしが笑顔で言ってしまった為なのか、殿下が再度、片足を後ろ側へズラしながら中庭の木々を見ていることに気付き、殿下はまた鳥を捕まえに行く気だと判断したあたしは、直ぐに殿下を言葉で静止する。
「…そ、そうか?喜んでくれて良かったよ」
あたしは小さい頃から御伽噺が大好きだったけど、現実は酷く残酷だった。
御伽噺の様にあたしを救ってくれる皇子様は現れはしない。けど、あたしの人生を変えてくれた皇子は此処にいる。




