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6話

転生5日目


久し振りの穏やかな朝、起きて水瓶で顔と歯を洗い、ミナの作ってくれた朝食を食べる。


朝食はシンプルに野菜炒めと、パン、そしてポトフの様なスープだ。


「あぐ、あぐあぐ。んまんま!」


ガツガツと食べ物を食う俺を見て、苦笑いしつつも俺の食事を見守るミナ、心なしか何かを言いたそうな表情に見えるが、特に何を言われることもない為、敢えて自分から聞いて藪蛇となっては敵わないため、黙々とだされた物を食べ切ることに集中する。


「ジオラルド様、サイドルール様のーーー行きますよ?」


「ミナ、サイドルール?」


朝食を食べ終わり、再び歯磨きをしていると、ミナがそう声を掛けて来た。

何時も通りに不明点のみを繰り返しえおく、どういった意味なのだろうか?


「あれ?ーーーーーーーーー?」


「ジオ、ミナに聞いた」


最初の言葉から考えると、知らなかったですか?と聞かれているのだろうと思ったので、知らないから聞いているという意味で返事を返す。


「うーん、そうですよね。まあ、ーーーー!行きますよ!」


結局、なんの答えも貰えぬまま、ミナに連れられて、ヨボヨボの爺さんの所へと来ていた。


どうやら、この爺さんの名前がサイドルールというらしい。


「…本当にーーーーーー。ーーーーーーーー」


サイドルールは俺が1人で立って歩行していることに余程驚いているのか、ミナに向かい何かを言っている。


「ーーーーーーー。ーーーーーーーーーーー」


まったく何をしているのか分からない。ただ無言でミナが俺の側を離れた。


そしてサイドルールが胸の前に両手を併せて、何かをモゴモゴと言い出すと、俺の立っている足下から赤色、橙色、黄色、緑色、青色、藍色、紫色の七色の光の玉が揺ら揺らと身体の周りを周回しながら、飛んでくる。


「…ーー、ーーーーーーー、ーーーー?」


「ーーーーー、ーーーーーーーーーーーーーーだ。ーーーーー」


離れた場所でミナとサイドルールが話し合っているのが聞こえるが、やはり何を言っているのかはわからない。


見た感じ、俺に危害を加えようとしている雰囲気ではないから、恐れる必要はないのだろうと考えて、今はこの不思議な光に意識を向けることにした。


それにしてもこういう現象が、種も仕掛けもなく起こると、本当に此処が地球ではない世界、つまり…。


「正に異世界って、感じだな」


『はれれ?それって日本語だよね?』


俺がそう独り言で呟いた瞬間、頭の中に声が直接響いてきた。


「なんだ?頭の中に声が響く?」


『日本が海に沈んでからぁー、えーとぉおおっ?んん、おぉ!10億年経ってるのに、単生物で話せるなんて凄いよ!君なにものだね、ん〜?』


「ジオラルド・ナルニートだ」


何やら良く分からない声、その声に名前を聞かれた為、取り敢えず名乗る。


『ナルニート?あぁ、シロクマくんの家系だね〜。セイウチくんとホオジロザメちゃんとは仲直りした?あれは〜勘違いってやつだよね、うん、1357年前は受けたなぁっはー!』


俺が名前を名乗ると何やら良く分からないことを言っているが、俺が以前から気になっていたシロクマというワードが出て来たため、聞きたいことは山程あるが、取り敢えずはシロクマについて聞いてみることにした。


「…シロクマを知っているのか?」


『シロクマは北極に居たんだよー。っあ、ズーランド大陸に住んでるんだ。此処はたしかぁ〜ユーラシア大陸の残りっカスだね。んん?ジオくんおっかしいー!獣人なのに獣人の言葉話せないんだ!でもどうして日本語は出来るのかなぁ?あれれぇ、ちぇっ、僕の権限じゃジオくんの全部見れないのかー』


「おい、さっきからどういう事だ?ちゃんと意味を説明しろっ!俺が理解出来る様に!?」


そうだ、こいつは何故日本語を話せているんだ?そういえば最初に日本が沈んだとか言っていた。

一体どういうことなんだ?そう思い、それを説明してもらうために、再び声を掛ける。


『駄目だよ〜、日本語とか英語はマナに影響が大きいから〜、気を付けてえーっとぅ、ふむん、言葉をインする事は出来そうだぁ。いっれちゃえーっ!!』


「んんっがッツ?!??かっ!は?!!???!!!」


『日本語を話せることは秘密だよ〜。闇の者に殺されたくなかったらねぇー。また会おうなぁ〜ジオくぅん』


俺の呼び掛けは聞き届けられず、その代わりに頭の割れる様な偏頭痛が与えられた。


あまりの痛さに、頭を抱えてその場に倒れこんだ。


…意識が吹き飛ぶ瞬間、光の中を金髪の少女が走り寄ってくるのが見えた。



転生7日目


苦しいくて息ができない。

此処はどこだ?


「ゴボッゴボゴボッ!」


身動きした際に息を吐き出した時、息が気泡となったかの様な感じに違和感を覚えて、目を開けると、そこは暗い暗い水の中にいる様だった。


上の方には薄っすらと、小さな光が見える。


その光に向かい身体を動かし、向かおうとするも、沈んでいく速さの方が優っているためか、俺の身体はどんどんと奥深くに沈んでいく。


息ができない、このままでは死んでしまう!!と思った時だった。


誰かが俺に手を伸ばし、暗い水の中より救い上げてくれたのは…。


「っはぁ!?ここは!!?」


「ジオラルド様!意識が戻って良かったです!もう2日間も意識不明だったんですよ!ミナは心底心配しました!」


目を覚まし、大きく息を吸った瞬間

、ミナの顔が視界いっぱいに見えたことに驚いた。


ベッドに横になっていた身体を起こそうと、手を動かすと、手に抵抗を感じてそちらへ目をやると、俺の手をミナが握ってくれていた様だった。


「2日間もか、ミナ、サイドルールは!?2日前に居た彼処にいるのか?」


「ジ、ジオラルド様、言葉が!?前より話せてないですか?」


驚いた様にそう聞いてくるミナの言葉に、そういえばと、気づく。

先程から一切、会話に詰まることなくミナと会話出来ていた。


「あっ、あぁ、これがインとかいうモノの結果か?…いや今はそんな事どうでもいい、サイドルールは何処だ?何処にいるっ!?」


これがあの声の正体の能力か…。

もう一度、サイドルールに言って呼び出して話を聞く必要があるな。

もしかすれば、俺がこの世界に来た理由も分かるかもしれない。


そう考えると、直ぐに俺はミナにそれを確認する。


「えーっと、サイドルール様は、今は地下の部屋に閉じ込められて「直ぐに案内しろっ!」っは、はい!直ぐに、って会う気ですかっ?!」


「…なんでそんなに驚く、いや、そもそもサイドルールは何故、地下の部屋に軟禁されているんだ?」


サイドルールが地下に軟禁されていることに驚きつつ、理由をミナに確認する。


「それはジオラルド様を、法力で亡き者にしようとしたからじゃないですか!?」


「違うっ!あれはあの変なヤツがっ!ミナには頭に直接、声が聞こえてはこなかったのか?」


「何も、ただジオラルド様が何かと話しているような雰囲気は感じましたけど…」


そうか、あの声は俺にしか聞こえていなかったのか…。


「…俺にしか聞こえなかった?いや聴こえさせなかったのか?取り敢えずサイドルールに会うぞ」


その性でサイドルールに変な疑いを掛けてしまったのは申し訳ないことをしたな。


サイドルールに会うために、ミナに連れられて地下へと降りてきた時、牢屋の格子越しにサイドルールが見えた。


サイドルールの方も俺が来たことに気付いた様で、慌ててその場に立ち上がると、格子の側まで寄って来て俺に声を掛けてくれる。


「ジ、ジオラルド様!ご無事で!申し訳ありま-ガッキン!-な、何をしておいでで?」


俺のことを心配して姿を良く見ようとしているサイドルール、そんな彼が俺を亡き者にしようと考えていたという素振りは見えない。


「サイドルール、もう一度あのマナとやらを呼び出せ」


俺は尻尾で格子の鍵を破壊すると、扉を開けてサイドルールに外へ出てくる様に促しつつそう言った。


「な、な、なな何を言っているんですか!?ジオラルド様!また危険な目に合ったどうするつもりなんですか!折角、体に問題なく、意識不明だけだったのみで助かったのに!いけませんよっ!?」


「…ミナ、少し黙ってて、サイドルール、早くしろ!それともあの場所でなければ出来ないのか?!」


俺に突っかかるミナを尻尾で押し返しながら、サイドルールにマナの召喚場所に関係あるかを確認する。


「いえ場所は関係ありませんが、宜しいのですか?ジオラルド様とマナは相性が良くなかった様ですが…」


「構わん!命令だやれ!」


俺を心配してか、マナを召喚することに躊躇いを感じているサイドルールに、命令という形で指示を出す。


「御意、このサイドルール、ジオラルド様が意のままに…。古き時代より存在せし不滅の存在よ。今此方へ渡り力を示したまへ」


俺の命令に従い、サイドルールは直ぐにその場で、マナや召喚する準備にはいる。


「ミナ、念の為に離れて、るんだな既に……、しかも偉く遠くまで」


2日前の様な事があれば、近くにいるミナにも危険が及ぶかもと思い、離れる様に言おうと、ミナの方へ顔を向けると、彼女は既に俺から大分離れた場所へと移動していた。


「はい、ミナはジオラルド様のお側におりますよっ!」


いや居ねぇーじゃねぇか、寧ろ側というか遠くだろそれ、大声出さないと声が聞こえない距離を近くと言うのか?


サイドルールが呪文を言い終わり、少しの時差があった後、2日前と同じ様に俺の周りを7色の淡い光が漂う様に飛行し、その軌跡を飛行機雲の代わりに淡い光線の筋が残っていく。


幻想的な光景であるが、呼び出す相手は昨日のよく解らない存在。


僅か数秒で俺に獣人の言葉をマスターさせた能力、その他にも異世界から来た俺でなければ知らない様な日本という国やユーラシア大陸という地名のワードを知っているのは何故か?


サイドルールへと視線を向けると、丁度同じタイミングで彼も此方をみやり言う。


「ジオラルド様、準備が整いましたぞ!ここからどうすれば良いですか?」


「あぁ、一先ずはこの状況を維持してくれ」


サイドルールからの問いかけに、この状況を維持する様に頼みつつ、俺は2日前と同じく、日本語で話した出あのマナへと問い掛ける。


【マナ、この間の続きだ!出てこい!俺は何故この世界に来たんだ?】


無反応、前の様に彼、いや彼女かもしれないが、取り敢えず彼と呼称することにしつつも、彼は出てくる気配を一向みせない。


だが俺の声は聴こえてはいる筈だ。

2日前、ボヤく様に小さく言った日本語すらマナは聞き取ったのだ。


俺の声は届いている筈、ならば聞きたいことを勝手に質問させてもらおう。答えられることと、答えられないことがあるのかもしれない。


その場合、答えられることについては解答があられるかもしれない。


【確か言っていたな、日本語を話していて見つかると危ない者とは何だ?日本が沈んだというのは本当か?……此処は地球だったのか?】


「…んぬっ、何だこれは?ジオラルド様!集めていたマナが勝手に解放されていきます!もう維持できそうにありませんぞ!こんな事初めてた!?」


「…やはり聴こえてはいるのか!だが話すつもりはない、か」


霧散していく光を名残惜しく見てから、あのマナが強制的に何かをして召喚を強制終了させたのだろう。


「…ジオラルド様、大丈夫ですかっ!!?もうそっちに行っても?」


マナの光が完全に消えてから少しして、ミナが遠くから声を張り上げながらそう聞いて来た。


「お前は俺の身を心配して聞いてるのか、それとも自分が此処へ来ても安全なのか心配してるのか、どっちなんだ?」


「……両方です!」


…後者だった様だな。


「ジオラルド様、お役に立てましたかな?」


「あぁ、サイドルール。それでもう一つ頼みがある。俺に法力の事について教えてくれないか?」


サイドルールに話し掛けられたため、それに応えて礼を言いながら、あのマナについて考える。


マナに声が届くことは確認できた。

法力について詳しく知れば、相手が拒んでいる状態でも話を聞くことが可能かもしれない。そして何か他にも分かることも出てくるかもしれない。


そう考えて俺はサイドルールに法力を教えて貰える様に頼んだのだった。


「…しかしジオラルド様、法力には才能が必要です。自然にマナを感じられなければ、法力の使用は難しいのです。そして残念ですが、私は後数日もすれば城から来た役人に囚われ、処刑されることでしょう」


そうだった。俺が倒れた原因はサイドルールにあるということになっているんだったな。


「…あぁ、俺を手を掛けようとしたとかでか?知らないとでも突っぱねれば良いだろう」


「そうは行きません、第三皇子とい立場はそんなに軽いものではないのです。既に陛下へも連絡してしまっているので、そんな理由だけでは役人は納得して引き下がれません。彼等は王城へ帰ってから陛下へ、事の次第を報告せねばならぬのですから…」


「納得するしないじゃない、させろ。見た医者が後から只の風邪かもしれないと言ってきたとでも言え」


適当にそれらしい理由を付けて説明でもしておけば、その理由があまりにも突飛な内容でもなければ、役人も強制的にサイドルールという立場のある者を連れて行くことは出来ずに、城に引き返していくことしかできないだろうしな。


「ふむ、それならば難しいかもしれませんが、話をつける事は出来そうですが…。しかしそれではミナに責が及ぶ事になりますが?」


「ええっ!?私にですかっ?どうしてです!このじじッルール様っ!?」


自分に火の粉が降りかかる事に驚いたのか、ミナが慌ててサイドルールに詰め寄っていく。


「……ごほん!それは確認もせずにジオラルド宮殿の最高責任者である儂を落とし入れ様と寡作したともらとれるしな」


そんなミナにサイドルールは、粛々と考えられるであろうことを言う。

案外、ミナによって地下牢へ入れられたことを根に持っている様だ。


「そんなことしてません!考えてません!有りのまま遇ったことを言っただけですよ!?」


「…その辺も軽い罰で済む様にサイドルールが話を付けろ」


このままでは話が何時まで経っても終わらないので、2人の掛け合いに割ってはいり、ミナにとって不都合が無い様に頼んでおく。


「最悪それで難癖付けるとしても、俺の側にいる限りは手は出させん」


しかし、未だにミナの顔に不安の色があったため、その場合は俺が守るということをミナに確約してやるためにも、口に出して言っておく。


「はい、分かりました。では私は自室へ戻らせて貰い、準備をさせて頂きます。あれから2日、王城から役人がそろそろ来る頃合いですので…」


サイドルールはそのまま踵を返すと、地下牢から地上階に向けて去って行ったが、直ぐにクリークによって拘束されて地下牢へと戻ってきた。


「ジオラルド様っ?!目覚めておられたので?」


サイドルールを片手で拘束しつつ、俺が地下牢へ居たことに驚きの声をあげるクリークに、顔を赤面させて此方を伺ってくる爺い…。


そして……。


「ジオラルド様!本当に守ってくれるんでしょうね!?ちゃんと守ってくれないとバナナもリンゴも、クッキーも食べさせてあげませんからね!」


「ヤダ!ジオ、バナナ、リンゴ、食べる!」


俺に本当にしっかりと守ってくれるのかと詰め寄ってくるミナ。


そんなミナのご褒美に釣られてしまう俺。


まさに終息がつかないとはこのことだろう。


「って!何を言わせる!?というかなんだこれ、俄然ミナを守ろうという気が起きてきたんだか!?」


「…良かったです」


餌付けによる退行現象による幼児化から抜け出して直ぐに俺がミナに文句を言うと、ミナは俺の顔を見てニッコリと微笑みながらそう言った。


「あぁ、そうか2日も意識を失っていたからな。心配「…餌付けを頑張ったかいがありました!」そっちかよ?!」


「ジオラルド様、早く部屋に戻って顔洗って朝ご飯食べますよ」


ミナに振り回されている。

悪い感じはしないが、思わず文句が口をついて出てしまう。


「言葉を理解して初めてわかったが、…なんか、俺の想い描いてたミナと大分、落差がある。悪い方に…」


「…何ですかその言い方は、こっちは2日マルっと起きて看病してやったんですよ?そんなこと言うなら、朝食は抜きです!」


「ジオ、食べる!食べる!バナナ!」


「…腹の居所が悪いので、昼食も抜きです!」


朝食だけでなく、まさかの昼食抜き宣言までがミナの口から放たれ、俺の心に瀕死のダメージを穿った。


「ガァアアーン!!」


朝からサイドルールとの件がありバタバタしつつも、噂をすればなんとやら、王城から来た役人は、俺の元気な姿とすっとボケるサイドルールの顔を見て、サイドルールを労わり、ミナに嫌味を長々と言ってから王城へと帰っていった。


それを見送った後、ミナは取り敢えず自分に罰が何もなく、注意だけで終わったことに、胸をホッと撫で下ろしながら喜んでいた。


「…じゃあ、ジオラルド様、夜にまた部屋へ来させて頂くので、それまで部屋で大人しく、反省してて下さいね」


「ミ、ミナ、俺のご飯…」


そう言ってから本当にそのまま部屋の扉から出て行こうとするミナに、思わず声を掛けて引き止める。


「抜きですよ、言いましたよね?」


「お昼、も…?」


「言いましたよね?」


せめて朝食抜きだけにならないか、そう考えて再度、確認も含めて聞くもミナから返ってきた返答は冷たい眼差しと言葉であった。


「…ジオ、部屋で大人しく待って晩御飯食べる」


仕方なく両方を諦めて、ミナに了解した事を伝える。


「はい、私は他にも仕事があるので、ジオラルド様は一人で部屋に戻って下さいね」


「…わかった」


がっくりと肩を落としながら、そう返事を返す俺を見てから、ミナは地下牢から上へ続く階段へと上がって行ってしまった。


「ふむ、胃袋を掴まれるとは正にこのことですな、殿下」


クリークに拘束された状況で言うことでもないだろう。とは思いつつ、サイドルールに返答する。


「掴んで欲しくはないけどね、また教育とかの方針が決まったら連絡頼むよサイドルール」


「はい、畏まりました殿下。…あのぉ、それで申し訳ありませんがクリークを」


申し訳ないという様に話して来るサイドルールに、俺はクリークに向かい声を掛ける。


「クリーク」


「はい、殿下!?」


俺が名前を呼ぶと、抱えていたサイドルールを床に放り出し敬礼する。


「サイドルールは無罪だ。だから解放してやってくれ」


俺はそれだけ言い残すと、返答を聞かないまま、ミナが上がって行った階段を上がり、部屋へ戻ることにした。


「畜生、ミナの奴、本当にこの育ち盛りの赤児の飯を、朝食も昼食も抜くなんて信じられない!…このままじゃ俺、発育不良の未熟児になっちまうぞ」


自室に戻り、暫くはベッドに横になり、ぼーっと窓の外を眺めたりして居たのだか、やはり腹が空いている為か、落ち着かない。


「…食べれる物はなさそうだなぁ。っていうからまだ朝、太陽の高さからして午前10時位だろ?晩御飯が17時として、…嘘だろ、後7時間も空腹に耐えないといけないのか?!」


部屋の中に何か食物でもないかと、棚の中や、机の上を探してみるもやはり何もなかった。


こんな時に限ってハロルドもクッキーを持って来ないし、アリア、リナ、カトナも来ていない。


「………」


駄目だ、腹が減って来て、また思考がボヤけて来たな。


何か食わないと、また風呂の湯に置いてある果実でも食ってしまいそうだ。


「…よしっ、中庭で鳥を食おう」


この時点で既に思考が退化傾向にあることに気付くべきなのだが、この時の俺はまったくそれを可笑しな選択とは思わず、最適な選択だと思っていた。


「あの小鳥なら生でも美味そうだ」


スペックの高いこの身体ならば、本気で狩りに行けば小鳥の1羽や2羽程度簡単に捕らえる事ができるだろう。


「…よしっ、さて鳥はっと!居た!」


早速中庭に出て、庭に植えてある木々に視界を合わせて行くと、トータルで数十羽の小鳥がいる様だ。


そして上手い具合に数本の木のてっぺんの方にある枝に巣があるのが見て取れた。


「こいつは卵も食べれそうだ。うまっそー!」


そう言うと俺は庭の中央で、背伸びをし、一度深く深呼吸を行う。


スンスン

「ん、この匂いは…、クッキーの匂いか?」


深呼吸をし鼻から胃に掛けて外気を取り込むと、外気と共に香しい甘い匂いが漂って来ていることに気付いた。


スンスン、スンスン

「…この塀の向こうから匂いがしてる。塀の向こうに行けばクッキーとか分けて貰えるかな?」


そう自分で口に出して言ったとほぼ同時に、俺の身体は本能の赴くままに尻尾と両手両足、中庭の木々を巧みに利用して、中庭の10mは超えている塀を飛び越していた。


塀の向こう側に降り立った俺を待っていたのは、数人の騎士達と、その騎士達が居る場所から少し離れた場所にあるテラス、其処でティータイムをしていたのだろう2人の男女と、7、8歳位の子供だった。


背後からした物音に、騎士達の1人が俺へと振り向き、驚き声をあげた!


「ッ!?何者だ貴様?!」


「子供?いや、亜人なのか?!」


6人の騎士達が全員、俺へと向き直り警戒してか、剣の柄に手を添え何時でも抜剣できるように構えている。


其処で騎士達の装着している刺繍されているマントの紋章が、微妙にハロルドやクリークと違うことに気付く。


「答えぬか、ならばこの第一皇子近衛兵隊長タノール・エタが、貴様の体に直接聞いてやろう!」


「…第一皇子、近衛兵隊長」


「ふん!今更此処が何処か解ったのか?そして貴様が対峙している男が誰か解ったか?…そう俺こそは王国騎士隊全ての中で最強の男、タノール様なんだぜ?」


「…クッキーくれ、腹減った」


「馬鹿にしやがって!剣の錆にしてやるぜ!」


敵意はないことを示すために、身構えずに顔に笑顔を作りそう言った。


近衛兵隊長ということはハロルドやクリークと同じ立場の獣人、それが俺か、向こうのテラスに居る第一皇子付きかという違いだけで、俺より身分は下だろう。


だから間違っても襲われることはない。そう思ってタノールと名乗った騎士にゆっくりと歩いて近寄っていた時、あろうことかタノールが抜剣して襲い掛かってきた。


ドン

「…がっは?!な、何が起き」


バタン

『タノール様がっ!やられた?!総員で一斉に掛かるぞ!行けっ』


タノールの溝内に尾を打ち込み、意識を奪った直後、残りの騎士5人も俺へと向かい抜剣し、切り掛かってきた。


ズッゴァン!

『ーーー!ーー?!』


まずいことにらなったなぁ、とは一瞬考えるも、良い加減説明も面倒で

、何よりも空腹には勝てずに尻尾を一閃させる事で、数日前のクリーク達同様に其処ら辺に吹き飛ばしておく。


騎士達を吹き飛ばした勢いのまま、歩みを止めずにテラスまで来ると、此方を面白そうな物でも見る様な視線を向けて来る白い髪をした男がいることに気付いた。瞳は紫色で、心なしか自分と似ているなと思った。


「…ジオジーク、此方へ来なさい」


俺がテラスの入り口から中に入ると、女性が席から立ち上がり、子供を自分の元へと呼び寄せた。


それを見送ってから再度、男へと視線を移す、その頭に王冠みたいのを装着している。ここは恐らく第一皇子の宮殿、その宮殿におり、皇子と一緒に紅茶を飲んでいるということは、この男は皇子の父親、つまりは王なんだろう。


そういえばこの男は俺と同じ色合いの瞳をしている。


第一皇子の父ということは、つまりは今世の俺の父という訳か、ならばその横に座っていた、今では俺を警戒してか、テラスの端の方へと移動し、背に子供を隠す様にして警戒している女性、彼女は俺の母親だろうか?


髪の色は男と同じく白い髪をしており、金色の瞳を持っている。その子供も同じ様な姿をしている。この子供が第一皇子と言うならば、この女性は王妃だろが、彼女と俺はあまり似てはいない。


王族なら世継ぎの事を考えて、数人の妻を娶ると聞いたことがあるし、この世界でもそれは同じだろうから、俺の母親ということはないだろう。


大体状況も把握できたし、俺が少し位無礼を働いたとしてもこの男は動じなさそうであるので、警戒する必要もないか、なら本来の目的である物を貰おうとするか。


「…クッキー頂戴?」


「なんだお前、これが欲しくて来たのか?」


俺が王へと向かい、そう頼むと、王は意外そうな顔をしてそう言いながら、クッキーを一つ手で取ってから渡してくれる。


「うん、腹減ってる。だから食べる」


「っな!陛下になんて口の聞き方をっ!!」


「まぁ、待てメルノーラ」


未だ警戒しながら俺の事を見ていた王妃は、王に対する俺の態度が腹に据えかねたのか、そんな風に怒ってくるも、それは王の手による静止と言葉でとめられた。


「しかし陛下、この亜人は侵入者ですわ!気を許して万が一、陛下の御身に何があれば…」


「そんなこと心配要らん」


「いいえ、陛下がお強いことは存じていますが、何事も警戒が「美味い!」っつ!何時の間に?!」


止められたかの様に思えたが、止めれなかった様で、彼女は王へと詰め寄り始めた。


俺はというと、その好きに乗じてまた一つ、今度は先程と色が違うクッキーを手に取り、口へと頬張る。


どうやらチョコ味だった様だ。

その感想を素直に口に出して言うと、王妃は驚いてしまったが、王はというと顔をニヤけさせると、俺の脇の下に手を回して抱えると、自分の膝の上に俺を座らせた。


「そうか、美味いか、よしっ此処に座れ、ほらケーキはもう食えるのか?流石に早いか?」


「陛下!?何を考えているのです!侵入者を膝の上に座らせるなど?!警戒心がなさ過ぎますわよ!」


再度、王妃に文句を言われるが、王はそれを気にしないことにしたのか、王妃の声を無視してケーキを俺に勧めてくれた。


「食べる、早くない!」


「そうか、ほら取ってやろう!」


「あむぅ、あぐぁむぅ!もっと食べる!ごっほ!ごほっ!!」


決して俺が食いしん坊になったから、何でも食えれば美味しく感じるとは考えたくはないが、王から貰ったケーキの味は、前世で生きている頃に食べたケーキとは全く別格な美味さであった。


あまりにもの美味しさに、食べる勢いが増して、呑み切れてない状態で残りのケーキを口に含んだからか、俺は喉を詰まらせてしまう。


「はっはは!俺のカップでよければ茶も飲め」


「ありがとう!んが!んがんが!ごきゅん!」


喉を詰まらせて飲み物を探してた俺は、手近にあったティーポットを尻尾で取り、そのノズルを口に咥えて紅茶を飲もうとしたところを、王に止められて、代わりに彼のカップを渡される。


それを貰うのと代わりに、ティーポットを王へと渡して、カップの中に入っていた紅茶を一気に飲み干した。


さて、次は何を食うかな?

そう考えてテーブルの上にある菓子やパン、ケーキを見ている時だった。


「ジオラルド様ぁあっ!!ジオラルド様ぁあっ!ミナですっ!何処にいるんですかっ!?」


俺の越えて来た塀の向こう側より、ミナの俺を心配する声が聞こえてきた。


まずい、そうだ。部屋で反省する様に言われていたのだった。


正直、ケーキはまだ欲しいが、ミナにもあまり迷惑を掛ける訳にもいかない。というか、これ以上怒らせると晩飯も抜かれてしまいそうだ。


ミナが作る料理は美味い。

この世界に来てから初めて食べた手料理だからかもしれないが、凄く好きなのだ。


それが三食共に抜かれてしまっては堪ったものではない。名残り惜しいが、ここは直ぐに戻った方が良いだろう。


「ん、帰るのか?まだ食べたいなら俺が後から伝えておくから、居ても良いんだぞ?」


王がそう声を掛けて来てくれた為、少し悩むも、脳裏に怒るミナの顔が浮かびあがったため、やはり今から戻ることにした。


最後にもう一度パンケーキに目をやってから、越えて来た塀に向かって走りだし、今度は尻尾を使わずに脚力だけで、その塀を飛び越えた。


「は、ははは!あれでは獣人か猿か区別がつかんな。サイドルールから聞いてはいたが、まさか彼処までとは…。法力の勉強よりもまずはマナーの教育を先にさせようにと言っておくか」


タン

「キャッ?!殿下っ!….というか今何処から?」


「…カトナか、驚かすなよ。ミナに早速見つかったかと思ったぞ」


塀を飛び越えて着地した場所の直ぐ近くに、たまたま居たカトナをミナかと勘違いし驚く。


直ぐにミナでなくカトナと解った為、驚かすなよと思い声を掛けると、カトナは自分の横を指差しながら言った。


「え、ミナなら其処に居ますけど…」


「…ジオラルドさぁーまっ?折角、お腹を空かせていては可哀想かなと思って、昼食を作ってきたのに、何方へ行かれていたんですか?」


プルプルと震えだす身体を両手で抱きしめつつ、カトナの指差す方へと顔を向けると、絶対零度の微笑みを携えたミナが居た。


「木、木に登って空を見てた」


「知りませんでした私、木の上にはクリームがあるんですかっ?口についてますよ!!何処から盗ったんですか!物を盗むなんて!ジオラルド様はちょっと常識がなさ過ぎます!やっぱり昼食は、ううん!晩御飯も抜きです!」


口にクリームが残って居たのか?!と思い服の袖で拭うと、確かに其処には白いクリームが残っていた。


「おぉ?ぉおおっ、待ってくれミナ!待ってくれ!盗ってない!壁の向こう側で貰ったんだ!」


「壁の向こう側?!第一皇子殿下の宮殿から盗んできたんですかっ!大変!サイドルール様に報告して、直ぐに謝罪してもらわないとっ!!」


「いやっ、違うようミナ!盗ってないって!」


壁の向こうと聞いて、直ぐに第一皇子の宮殿と解ったらしいミナは、顔に冷や汗をら浮かべながら、吐き気を抑える様に口に両手で抑える。


「ジオラルド様は今度こそ部屋へ戻って、ジッとして其処で待っていてください!!」


そう言い残すと、ミナはサイドルールが居るだろう場所へと向かい、走り出して行ってしまおうとする。


俺の昼飯だろうバケットを持ったまま!!


「ちがーっう!って言ってるだろ!?待てって」


ミナの腰に尻尾を巻付けて引き止めると、ミナに向けてそう言い募る。


「待ってられません!責任問題になっちゃいますもん!ただでさえ、今日の一件で目を付けられてるのに!これ以上何かあって、わたしの家族が、家がっ、一家離散になったらどぉーしてくれんの!?取り敢えずアンタは待っとけば良いのよっ」


しかしミナは待ってはくれずに、俺の顔面に手に持っていたバケットを投げ付けてきた際に、緩んだ尻尾を払って外すと、今度こそサイドルールの元へと走り出して行ってしまった。


ゴン!

「へっごぉ?!……俺のご飯がっ」


下手に尾で迎撃すると、ご飯をブチまけてしまう可能性がある為、俺は甘んじてそれを受け入れる。


「で、殿下、大丈夫ですか?」


カトナが心配そうに声を掛けてくれるが、俺はそれどころではない。


バケットの中にある筈のご飯の無事を確かめねば成らぬからだ。


「おぉ!サンドウィッチか!?少し崩れてるけど食えそうだ!あぐあぐ。うーん!美味いっ!!」


「あは、はは、大丈夫そうですね」


地面に座り込んだままバケットを開き、中に入っていたサンドウィッチを食べ始める俺をカトナは直ぐ側に屈んでその様子を眺めていた。


この時、サンドウィッチを食べた事が後でミナにばれてしまい。晩御飯を少し減らされたのは言うまでもないことだろう。

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