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5話

転生4日目


朝、ミナに起こされてから、何時の間にやら用意されていた水で顔を洗い、微妙な柔らかさを持った木の枝で歯を磨く。


不思議な感触だ。最初に枝を噛み砕き、ある程度バラバラになった枝の先端で、歯茎と歯の間についている歯垢をとるというやり方をミナから教わった。


本当に綺麗に取れるのだろうか?と思っていたが、案外きれいに、そして歯磨き粉すらつけずに、爽快な磨き感があることに感心しつつも、ここ2日で生え揃った歯を鏡に写してみる。


「…犬歯が鋭過ぎないか、これ?」


「えっ?ジオラルド様、ーーーしたか?」


俺の日本語での独り言が聴こえたのか、ミナが朝食の準備を中断して此方へと歩み寄ってき、そう聞いてきた。


「ナニカ、イイマシタカ?」


ミナの話した部分で理解出来ない所を繰り返して言う。

昨日からこうやって分からない部分をミナへ聞き返すと、彼女はその言葉の意味を俺へ丁寧に教えてくれる。


「何か、言いましたか?…です」


するとミナは、口の前に片手を持っていくと、口の前で掌をグー、パーしつつ言葉を発してもいないのに口をパクパクと動かしている。


「……言ってない」


何かを話していたか?ということを聞いていたのかと納得しながら、言葉が理解できたため、ミナに先ほどの質問の返答をしておく。


「…そうですか、何かあれば呼んで下さいねッがぁ〜っつ?!?」


俺の返答にそう答えて朝食の準備に戻ろうとするミナが去り際に見せた笑顔、笑みをした際に僅かに見えた歯、その歯にも俺の犬歯と同様な大きくて鋭い歯が生えているのだろうか?


気になった為、尻尾でミナの両手を身体ごと縛り空中に持ち上げ、両手の指でミナの口を開けて見てみることにした。


「んーんん!じほはうどぉさっぁん?!!」


「…ない、ミナない。これ、ない?」


ミナの口を開けて覗き込んでみるも、俺と同じ様な犬歯はなく、一般的なと、この世界ではそうなのかは分からないが、人間と同じ歯並びをしていた。


「んっふん!…そうですよ、私とジオラルド様は、ーーーがーーますから!」


「…るーつがちがう?」


また解らない言葉が出て来たため、オウム返しして、ミナに理解出来ていないことを伝える。


「そうですルーツが違うんですよ。良いですか、これが私、これがジオラルド様のルーツです」


ミナは机の上に置いてあった紙とペンを取ると、1枚の紙に一羽のウサギと、一体の白いズングリとした姿の巨体のモンスターを描いて、それを俺に見せながら、ウサギを指差してから自分を再度指差し、もう一体の化け物を示してから、俺の方を指差した。


…うん、絵が上手いだけによく解る。つまりは何か?こいつ、俺が化け物の血筋とでも言いたいのか?


「因みにアリアとカトナもウサギで、リナはチーターです」


突然、また絵を描き出したと思えば、チーターを描いていた様で、アリアとカトナも、ウサギであること、リナがチーターであることを指差しつつ教えてくれた。


…ルーツという言葉が祖先を指していることは朧げながらにも理解できた。どうやらこの世界のどれくらい昔かは解らないが、その過去の生態系は地球と似ていたのだろう。


その動物がどうやって人間の様に進化したのかは全く不明だが…。


一番気になる部分は、ミナにしてもリナにしても地球に存在している動物であったのに、俺の先祖だけが見たこともない化け物なのが気に掛かる。


「ミナ、アリア、カトナはウサギ、リナはチーター、ジオラルドは何?」


…まさか、本当にモンスターとかが先祖とかじゃないだろうな?と思い

、確認の意味を込めてミナに聞く。


「ジオラルド様は、シロクマですよ」


シロクマ、そんな生物の名称だけを聞いても俺には解らない生き物の名前だった。


また図鑑か何かがあれば、見せて貰って調べてみることにしよう。


コンコン

「ジオラルド様、ーーーー、ーー」


「…はい、クリーク様?」


「ミリィーナ、ジオラルド様のーーーーだ?ッツーーーー、ーー?!」


「…」


確かクリークだったか、…今日は剣を持って居らず、背中にはマントも装着していない様だった。


昨日、ミナに吹き飛ばしてはいけないと言われた為、今日は大人しくして、この男が何をしに来たのか観察しておくことにしよう。





side クリーク・フォロシーク


私には小さな頃から夢があった。

六獣王様に名を連ねる偉大なる王、ジークムント様にお仕えする、もしそれが叶わない場合は、ジークムント様の御子息に仕える。


その目標を持って今日までの20年間を切磋琢磨、己を磨き続けてきて漸く第三皇子ジークムント様にお仕えすることが出来る様になったのだ。


…だというのに、今のジークムント様と私の関係は、全くお互いに取って良いものとは言えない状況だ。


目が合い、近付いた瞬間、オーラバーストの一撃がジオラルド様の尾より放たれて、気付いた時にはジオラルド宮の医務室に運び込まれている。


オーラバースト、私でも扱うことが難しい技法を、生後1ヶ月と少しで完璧に扱えているジオラルド様は正に鬼才であろう。


初めてその一撃を身に受けた時、私は感銘を受けた。あぁ、この方が!この方こそが将来、第一皇子、第二皇子を抜いてこの国を背負う方になると…。


だからこそ今のままの関係ではいけないのだ。何とかまだ傷が浅い間にジオラルド様に私が殿下に害を成す者でないことお分かり頂き、真に信頼をおけるのは、このクリークであると分かって貰わねばならぬのだ。


…緊張する。果たして私は今までの人生の中で扉をノックし、部屋に入るだけでここまで緊張したことがあっただろうか、いや無いに違いない。


コンコン

「ジオラルド様、近衛隊長クリークです、中に入れて頂いても宜しいでしょうか?」


「…はい、クリーク様?」


カチャン

金属の擦れる小さな音と共に扉は開けられ、中から現れたのは田舎の商家の娘で、ジオラルド様の世話係として宮殿に配置された筈の女だった。


名前はミリィーナ・パロマウント。数日前までは私の方が立場が上であった。そう、あったという過去形、この女は何の努力もせずに偶々、ジオラルド様の寵愛を受け、今は一見して解らぬ様にその粗末な金色の髪で、その額に契りを受けた証左として刻まれたナルニート国の紋章を隠している。


その契りの証がある限り、このジオラルド宮殿の中でこの女はサイドルール様の次に高い位置に居るのだ。


「ミリィーナ、ジオラルド様の様子はどうだ?ッツ既に立って居られるだと!?いや、そんなことよりも何故!?何故この段階でバナナを食われているのだ?!ミルクはどうしたのだっ!?」


ジオラルド様はやはり、只者ではなかった。初めてお会いして4日で生後一ヶ月の赤ん坊だというのに、もう生後一ヶ月の赤ん坊ではなくなっていたのだ。


常識で考えるなら立てることは異常である。


常識で考えるならミルク、流動食を通り越して、固形物を食べるなど異常である。


常識で考えるならバナナを齧る際に見えた立派な犬歯は、生えている筈もなく、生えていれば異常である。


では、ここに来た初日は、何処からどう見ても普通の赤児であったジオラルド様を変えたのは何か?


答えは一つしかない、ミリィーナ・パロマウントしか、いない。


「えーっと、ジオラルド様はミルクが口に合わない様で「馬鹿なことを言うなっ!何処に生後一月で、ミルクが口に合わない赤子がいるかっ!」…わ、私もそうは思ったんですが…ジオラルド様の希望で!」


ジオラルド様が好みを言う?そんな馬鹿馬鹿しい嘘を平然と言ってのける胆力は褒めてやらんでもないが、赤児にそんな事が出来る筈がないと、断言している途中で、ミリィーナに言葉を遮られる。


「希望だと?話せもしない赤子に何の希望があると「ジオラルド様、リンゴも食べます?」何をしてッツ!!?」


「うん!ジオラルド、リンゴ、食べる。バナナも食べる」


私の言葉を遮ってまで言ったことが、ジオラルド様にリンゴはいるか?だと!?馬鹿にするのも良い加減にしろっ!そう思いそれを言葉に出そうとした時だった。


ジオラルド様が話したのだ。カタコトではあるが、ハッキリとした発音で、そして自分の希望を言ってのけたのだ。


「…ジオラルド様に何をしたのだ!?何故もう喋っているミリィーナよ?!」


余りにもあり得ない事が起き過ぎて、考えが追いつけなくなり、唯一、ジオラルド様の現状を淡々と、諦めたかの様な表情で受け止めているミリィーナに事情を聞くことにする。


「…私が何もかも悪いみたいな言い方やめてくださいよっ?!ジオラルド様は頭がとにかく、いいんですっ!だから教えれば教える程、覚えて行くんですよ!そして昨日には生えてなかった歯も、今日の朝には何故かバッチリ生え揃えていました!」


「…どうなってるんだ?」


本当にこのお方はどうなっているのだ?ズーランド大陸開墾以来、史実にこんな他を隔絶した成長速度をした獣人がいたか?


そんなこと聞いたことがない。これは教育や指導、況してや薬学を処方で何とかなるレベルではない。


人為的に起こせる変化ではない。ならば何故、こんな事が起きる?


「解らないです、ただ一年間習って来た育児の方法は、ジオラルド様には通じない事だけは、私も含め、アリア、リナ、カトナも分かってきました」


「そうか…、ミリィーナよ。良く気味悪く思わずに世話をしてくれていた感謝する」


私が彼女と同じ年の頃に、ジオラルド様に会っていた場合、ミリィーナと同じ様にジオラルド様に接していられた自信がなかった。


その為、正直な気持ちでミリィーナにジオラルド様に奇異なく接してくれている礼をと思い告げる。


「…クリーク様、ジオラルド様のこと気味悪く思ったのですか?」


「…….…そんなことはない。殿下に挨拶させて頂こう」


不信感を露わに此方を見てくるミリィーナを残し、私はジオラルド様の元へ歩いて行き、少し手前で止まり一度礼をしてから、その場に足を付き、臣下の礼をとる。


そして一拍、少しの間を置き自身の心を落ち着けてから、ゆっくりとジオラルド様に伝わる様に話す。


「ジオラルド様、先日は無礼を働いてしまい申し訳ありませんでした」


「…せんじつ、ぶれい、はたらいて、もうしわけありません?」


……何故だろうか?私が言った言葉をそのままジオラルド様が繰り返された。


どういう意味があるのだろうか?考えても仕方がない、そう結論し、ジオラルド様には失礼だが、離れた場所で私達の遣り取りを見ていたミリィーナに視線をやり、視線だけでどういうことなのかを問う。


「えっと、ジオラルド様は取り敢えず解らない言葉をオウムの様に繰り返すんです」


ジオラルド様をオウムに例えるとは、なんと不敬な輩だ。

少しは見直しつもりだったが、やはり貴族ではない商家の娘か…。


しかし、ジオラルド様に言葉を理解して頂けなければ謝る意味もないこと、私が意味をお伝えしても良いのだが、普段からミリィーナがそういったことの意味を教えているのならば、それに任せてしまった方が良いだろう。


「…そういうことか、ミリィーナ、ジオラルド様に説明して差し上げろ」


「わ、私がですか?…えーっと待ってくださいね!」


ミリィーナは直ぐにペンと紙を持ってくると、何やら紙に絵を描き始める。描いている絵を見てみると意外に上手く、悪者が金髪の少女に剣を振り上げて襲うところや、金髪の少女を縄で縛ろうとしている様子を描いている。


…この女、確実に先のことを根に持っている。


剣と縄を持っている男の絵は、そういう風に見てみると確かに私に似ていた。


絵が描き上がると、ミリィーナはジオラルド様にその絵を見せて、二言三言喋りながら、途中に絵と私の双方を交互に指を差して説明している。


「…ジオラルド、わかった」


ミリィーナの説明を早々に理解されたのか、ジオラルド様は私へとその紫色の瞳を向けられそう言った。


…と、その横に居たミリィーナがジオラルド様に耳打ちする。


「クリーク、赦す。…です、言えたらバナナあげますよ」


「クリーク、赦す!バナナ食べる!」


…聞こえているぞ、ミリィーナ。しかも殿下をバナナで釣るとは何事か、そしてバナナ1本で釣られてしまう殿下もどうしたものか…。


しかし、ミリィーナのお陰でジオラルド様との仲が改善されたのは事実、今回は私からは何も言うまい。


…大目に見てやろうミリィーナよ。


さあ今日からだ。今日からが私が真に信頼をおける臣下であると、ジオラルド様に示すのだ。


「…夢を、夢を諦めることなど簡単にはできないのだから、な」


そうか、あの出来事があってから、もう12年が経ったのか…。


私がまだ8歳だった頃に見た、英雄の血を引く王と、地中を這い土地を腐らせるという脅威の怪物、グラノドワームとの戦いを見たのは…。


ワーム種、生息している場所や、大小様々なサイズにより名称が異なり、その種類は優に500を超えるという害悪種だ。


その中でも危険として有名なのがグラノドワームである。


ワームという種自体が、地中の中に生息域をおき、地中の中にある養分や硬い鉱石などに含有するとある成分を食料とするそうなのだ。


その食性もワーム小さければ、精々が硬い地盤を耕すのに貢献してくれる我々に取っても良い生き物なのだが、大きさが違えば、それは圧倒的な脅威となる。


グラノドワームは全長20m以上のワームである。


そのワームが街の下の地盤を食い粗せば、その食い荒された後の土地は、本来地下にあった筈の硬い岩盤が無くなり、空洞、専門用語として言うところのワームホールが出来てしまう。


地下にワームホールが作られてしまった場合の街としての末路は見えている。


次に雨が降った際に地盤の重さを支えきれず、地下崩落、街は一夜にして唐突に滅ぶのだ。


だからこそ我々に取ってワーム種、取り分けてグラノドワームは危険な存在として認識されている。


グラノドワームが地を移動すると、その巨体が動く影響で僅な地揺れが数十秒間続くのだ。


その僅な地揺れを確認すると国は、直ぐに討伐隊を組織し、その地へと派遣する。


しかしグラノドワームは如何に屈強な身体を持っている獣人といえども、簡単に倒せる訳ではない。


倒すことが困難な一番の要因はワーム自体が地中におり、地上に姿を見せないことだろう。


これは長年の経験により、モグラ系の獣人が数十の穴を掘り、ワームを発見、発見と同時に攻撃を幾度となく当てて挑発して、地上にお引き出すのことで解決する術は一応はある。


しかし、地上に引き出してからも倒すのはそう簡単にはいかない。何故ならばグラノドワームは地中ある硬い鉱石を食すことで、その皮膚が鉱石と同等の硬さを持つ様になるのだ。


その硬い表皮はオーラバーストを使用可能な獣人ですら深手を与えるのが困難な程に硬い、そしてその皮膚に傷をつけれたとしても、その表皮は厚い皮膚の鎧で覆われている為に、その身体に剣が届かないのだ。


そんな脅威と言える存在が我が父が領主を務めるフォロシーク領に現れた。


直ぐに父は国に討伐隊の要請と、ワームが街に入って来ない様に、モグラ系の獣人に指示をしワームの撹乱に当たらせた。


その判断は功を奏し、度重なる挑発により怒りに狂ったワームが、地上へと現れたのは、街から数km離れた荒野だった。


父が率いる領主軍で、なんとかグラノドワームを他の地へとやろうとするが、何か思惑でもあるのか、ワームは我として街の方向へと針路を進めようとする。


その度に幾人ものモグラの獣人が、怪我を負いながらそれを阻止する。


そして地上にいる間に攻撃力のある獣人や、法力を使用できる獣人達がワームへ攻撃する。


そんなことを幾度となく続けても、ワームの表皮は少しの傷が付くだけという状況だった。


誰もがこのままでは、此方の方が先に戦闘を継続することが出来なくなる。


何処かで見切りを付けなければならないだろうと、…つまりは街を一つ落とされる覚悟をしなければいけないという考えが、その場に居た全員の脳裏に過ぎった時だった。


空から一羽の小型のワイバーンが急降下してくると、その背に乗っていた者が、其処から飛び降り、ワームの口の正面へと向かって飛び掛かっていったのだ。


「…あれは、ジークムント様のワイバーンかっ!?まさか陛下自らが?!!」


父の驚きの声が、当時見習いとして戦闘に連れて来てもらっていた俺の耳に届いたのと時を同じくして、ワイバーンから飛び降りた男と、ワームの口が交差した!



ドォン!

『グロォロロローン!?』


片手を振り抜いた状態で地に着地する男と、殴られて地に叩き付けられれ、苦痛に鳴くグラノドワーム。


誰もがその目を疑っていた。自分達が幾度となく協力して、擦り傷程度しか付けれなかったワーム。


そのワームを拳の一振りだけで、沈黙させてしまった男、目を凝らせてその姿を見てみると、そのワームを殴った右腕は、白い毛並みに覆われており、そしてアンバランスなまでに右腕だけが盛り上がっていた。


「…やはり陛下か、獣人化をされているのか、如何、この好機みすみす逃してはおれん!皆の者!陛下の作ってくださった好機を逃すなっ!持ち得る限りの力を使い!グラノドワームに追撃せよっ!!!」


『おおおおおおお!!!!!』


その後、そのグラノドワームを倒すことこそ出来はしなかったが、無事に山の奥へと退ける事ができた。


戦いが終わった後、遠くから父が陛下に礼を言っている所を見て思った。


あれが陛下、ナルニート国の王であり、六獣王に名を連ねるお方、あれが王族のみが使用できるという技法、獣人化……。


なんて、なんて強く、気高い方なのだ。


憧れなど抱くことすら烏滸がましい。だが抱いてしまう!尊敬してしまう!この全身、血肉全てを持ってお仕えしたい、そう本能から思った初めての人だった。


「あぁ…。ジークムント陛下ぁぁ、ぁ」




SIDE OUT


「………」


近衛兵隊長クリーク、その男を見て俺は数分前の自分の判断が間違っていたと認めざる得なかった。


この状態を見ると、部屋に入れたこと、それを後悔せずにはいられない。


…取り敢えず、この人の前で、いや俺の前で違う世界にトリップしている様な表情を浮かべているクリークは信頼出来そうにないことは、今ハッキリと分かり断言できる。


こいつは使えねぇーと、そして今後、こいつとは距離を置かせてもらう事にしようと、そう心に決めた。


カチャ

「…殿下、クッキーいるかい?」


俺がそんな事を内心で考えていると、なんの合図もなく部屋の扉が開かれて、ある男が部屋に堂々と入って来た。


身長はクリークと同じ程度であり、名前をハロルドと言う。初対面こそ、ミナに斬りかかるというとんでもないことをする危険な奴という感じではあったが、昨日の晩に焼き菓子を持って俺の部屋へ来て、ミナに謝っていたため、今では危険はないという認識に落ち着いている。


このハロルドは、一応、其処でトリップしているクリークの同僚であり、二人で俺の身の回りの警護を担当してくれているとのことだった。


「ハロルド!ジオラルド、クッキー、食べる!食べる!」


「そっか、そっか、なら一緒に食べようよ、殿下」


笑顔で声を掛けてくれるハロルドに促されて、クリークの前から机の椅子へと一瞬でジャンプして座る。


そしてハロルドがくれるクッキーを一つ口に放り込み舌鼓や打つ。


昨日の晩も思ったが、本当に格別な旨さだな、このクッキーは!!


「もっと食べる!いい、ハロルド?」


昨日の晩は寝る前ということもあり、ミナが一枚しか食べさせてくれず、残りは全てミナが食べてしまったので、俺に取ってはこのクッキーは転生して異世界で2枚目に食べるクッキーということになる。


「いいよー、ドンドン食べな殿下」


何となく感慨深い思いを醸し出しながら、口の中に残っていた分を全て咀嚼し、もう1枚と思いハロルドに貰っていいかと聞くと、返事は軽く良いとのことだった。


ミナを一瞬でチラ見すると、俺の方を見ているがクッキーを食べることを止めることはしなさそうだ。


よしっ、一杯食べてやろう!そう思いクッキーを食うことだけに集中することにした。


「ハロルド様、完全にジオラルド様を餌付けしてますよね?」


「…君には負けるよ。ミリィーナ。……ん、クリーク?何してるのあんな所で?」


ミリィーナの言葉に両手を左右に広げ肩を反らし、ハロルドは答えた。

ハロルドはしっかりと見ていたのだ。


ジオラルドがクッキーを再び食べ様と動き出した時に、本の一瞬だけだがミリィーナの様子を伺っていたことを、もしその時にミリィーナが、自分が持って来ていたクッキーについて、食べて欲しくないという様な表情をしていた場合、ハロルドが了承していたとしてもジオラルドは、そのクッキーに手を付けることはなかっただろうことが、其処から伺えた。


…本当に上手いこと餌付けしてるとハロルドは内心思う。この女が殿下に付いてまだ4日、それだけでここまで信頼を得ているんだから、この女の手腕には驚かされる。


8歳の少女がそれを行う。…普通ではない。その証拠に他の3人の世話役の少女達に、殿下は一切確認の視線を向けない事から、ミリィーナにのみ気を遣っていることは明らかだ。


もっとも一番普通ではないのは、皆の思惑が絡み合う中心にいるジオラルド様なのだけど…。


俺達もしっかりとしないと、これは本当に将来、この少女にナルニート国を好きな様にされてしまうかもしれない。


そうハロルドが決意を新たにしている所で、ふと何時まで経っても惚けたままのクリークが視界に入ったため、ミリィーナにその理由を知らないかを聞く。


「分からないです、突然、あんな感じになっちゃって…、ジオラルド様も気味悪がられてました」


どうやら俺は1人で頑張らねば成らぬ様だと、クリークの姿を見てハロルドは嘆息を吐いた。


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