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3話

転生初日、というか昨日、金髪の少女が部屋に備え付けのソファーで寝ている所を発見し、強制的に尻尾でベッドに連れて来て一緒に寝た。


ガチャ

「…きゃ!ジオラルド様?」


扉の開く音と共に目が覚めた俺は、朝、さも顔でも洗いに行ってくるとでもいう様な雰囲気で、扉の内鍵を外して、外に出て行こうとする彼女の姿を見て、今にも部屋から出ようとしている彼女の腰に尾を巻き付けることで引き止めた。


「ーー、ーーーー」


俺の突然の行為に彼女は驚いていたが、捕まえているのが俺の尾だと分かると溜息を吐き、何かを話しかけてくる。

ちなみにこっちは転生して二日目だ。そんな風に話し掛けられたところで、それが何を言っているのか理解できている筈もない。


此方が昨日と今日で分かったことと言えば、彼女が俺の名前の後に敬称を付けて読んでいるだろうということのみなのである。


まあ、身振り手振りでは大丈夫というような雰囲気を出してはいるが、昨日の今日だ。


俺が見ていない場所で何かあるといけない。


彼女が外に出るのならば、俺も外に一緒に行くべきであろう。

俺は彼女の腰に巻き付けている尾を支点にして、自身の身体を彼女の胸の前へと持っていく。


昨日と同じ状況に彼女は諦めたのか、俺を両手で胸に抱きかかえる。俺の性で彼女の両手が塞がっている為、俺が彼女に変わり扉を開けてやる。


扉を開けると、扉から少し離れた所にいた騎士が2人、此方へと向かい走ってくる。


ほら、言わんこっちゃないと思いつつ、迎撃の為に尻尾を俺を抱いている少女の周囲に伸ばす。


昨日、色々あった後。よく考えてみると自分の尻尾が、異様に遠くまで届いていることが分かったのだ。


試しに横になっているベッドから一番遠くにある棚、その棚上に置いてある花瓶を取ろうとすると、この尻尾は不思議なことに花瓶へと向かい伸びて行った。


そして分かった。ある程度の範囲であれば俺のこの尻尾は伸び縮みが可能であること、そして子供とはいえ15kg以上はあるだろう少女を軽々と持ち上げる力、騎士が振るう剣を容易く折るということから反応速度もあるだろう。


この尻尾があれば、俺に怖いもなどない。さぁ、掛かって来い!と尻尾を振るおうとした直後、金髪の少女により尻尾を掴まれた性で、騎士の接近を不用意に許してしまった。


タッタタタタ

「ミナッ?!ーーー、ーージオラルド様ーー!!」


「…ー、ーー、ーーー。ーー?」


「ーー?ーーー」


カチャン


2人の騎士の内、1人と数度言葉を交わした後、彼女は満足したのか先程まで居た部屋の中へと戻ってしまう。


どうやら俺が警戒していなくとも、もう彼女が襲われる事はなさそうである。まあ、俺が一緒に居たからということもあるかもしれないが、俺と彼女かわ部屋に入ったのを見届けた騎士達は、俺へと頭を一度深々と下げた後に顔を上げると無言で扉を閉めてしまう。


「ジオラルド様、ーーー」


金髪の少女が何かを言ってから俺の身体をベッドへと横たえると、彼女は部屋の窓を開けて、窓際にある重たそうな椅子を此方へと持って来ようとしている。


俺はその姿を見て、尻尾で彼女から椅子を奪うと、ベッドの前まで運んでやる。


「ーーーー、ーージオラルド様」


笑顔で恐らくは礼を言っているのだろう彼女は、その椅子に座ると自分を指差して言う。


「ー、ミリィーナ、ーー」


「……」


自己紹介をしているのだろうか?いや、もしかすると顔に何かついている?と、そう尋ねられているのやも…。


でもこの雰囲気で、顔に何かついてる?とか聞いて来るだろうか?…分からない、俺は彼女の性格も知らないのだ。天然な感じであれば、場の状況など考えずに聞いてくる人もいるだろう。


そう考えてみると、昨日の彼女の行動は少し天然っぽい気がしてくる。


「……ジオラルドなる、ニート」


黙っている俺に対して彼女は、今度は俺へと指を差してそう言った。


…俺の聞き間違いでなければ、ジオラルドなるニートと聞こえたのだが、まさかバカにされているのだろうか?


そんな俺の悩みなど知る筈もない彼女は、再び自分の方を指差して言う。


「ー、ミリィーナ、ーー。ミナ、ミナーー」


ふむ、どうやらら自己紹介をしてくれている様だ。この子の名前はミリィーナ、ミナと呼んでくださいと言っている。のだろうと思う。


「…みにゃ、みにゃ?」


これで良いのか?と思いつつ口に出して言ってみると、これが意外にも普通に話せた。昨日は声を出そうとしてもそのまま鳴き声しかでなかったのに…、この身体の成長速度が早いのか?


パン!

「ーー!ジオラルド様!!」


「?!」


俺がミナの名前を声に出して言うと、ミナは俺の目の前で両手を叩き喜ぶ。お互いの顔を指して名前を名乗っていたのだ。そんな赤ん坊の顔の至近距離で手を打たれれば、こっちは目がチカチカするし、耳鳴りもする。まあ、しばらくすれば治るだろうが…。


「ジオラルドなる、ニートーー。ジオラルドなる、ニートーー。ジオラルドなる、ニートーー」


驚いている俺を他所に、ミナは今度は俺の名前をとでも思ったのか、俺にしてみると余りにも嬉しくない事を繰り返しゆっくりと囁いてくる。


これでは俺がニートになる!と宣言している様ではないか、幸い、ジオラルドというのが名前であると俺は分かっている。ならば「なるニート」というのは目標ではなく、そんなことある筈もないが、苗字ではないのか?


だとすれば俺の名前はジオラルド・ナルニートということなのだろう。


「ジオラルドなる、ニートです」


未だに俺の名前を言い続ける彼女、あまりに繰り返し言われつづけると、今の自分が赤ん坊の身である為、これが要因で刷り込みされてしまって、将来、本当にニートを目指してしまうようかもしれない。そんな考えが頭に過ぎり、嫌な未来を想像してしまった俺は、直ぐにミナに理解しているということを知らせる為、自分の名前を言う。


「じおらるど・なるにーと」


「ーーです!ジオラルド様!ーーです」


再び打たれた不意打ちな猫騙しにより、若干脳が揺れたのか、いい具合に意識が飛んでいく。


転生二日目、自分の名前とミナ、そして品詞を少し理解が出来た。



転生三日目、極度の空腹と共に目が覚める。


考えてみるとこの3日間なにも口にしてないことを思い出した。


口の中は乾燥して喉が渇いている。

ミナに言って何か食べさせて貰おう。そう考えて辺りを見回してみるも、当の本人が見当たらなかった。


「…あいつ、勝手に、外に出やがったな!って、声が出る?」


ふと何の意識をしたわけでもなく、愚痴る様に声を出すと、自然と言葉になりそれが日本語として出てきた。


「…すごい、成長速度、だ」


そう自分で思い、またそれを口に出してみるも、喉に水分がなくカラカラなため、声は掠れてはいるが何の問題もなく喋れた。


やはり成長が人間と比べて早いな。尻から尻尾が生えていることから、人間では無いのだろうし、それも不思議ではない事なのだろう。


「…これ、歩けるんじゃないか?」


そうだ成長速度が早く、意識を持ってから3日で言葉を話せるだけの声帯が出来上がったのだ。


まさか声帯だけの成長速度が優れているということはないだろう。ならば普通とは言わないまでも、歩くことも出来るのではないか?いや、出来なかったとしても、ハイハイは確実に出来そうだ。


足と手を動かしてみると、タイムラグなどなく思い通りに簡単に動かすことが出来る。


「…とりあ…えず、水」


喋る度に喉が痛くて叶わない。取り敢えず当分は話さないでおこう。最も話せた所で、俺の言葉は日本語である為、この世界の住人には通じないのだが…。


部屋のベッドから足を下にして、念の為、近くの棚に尻尾を掛けて支えにして、二本の足で床に立つ。


尻尾に掛けている自重を少しづつ両足に移して行くも、全然問題もなく余裕で立ててしまった。


そのまま扉へ向かって一歩、二歩三歩と歩むも、倒れる事もなく普通に歩けた。


やはりこの種族は人間でないだけあって成長速度が異様に早い様だ。

身長が伸びていないのが悩むべき所かもしれないが…。


昨日見た連中を見る限りは、背の低い種族という訳でもなさそうなため、心配することはないだろう。


そんな事をつらつらと考えている内に扉の前まで着く。


身長がまだ足りない為、手でノブを回す事は出来ないが、そらは得意の尻尾で難なく開けることが出来た。


扉を開けて外に出ると、扉の前に居た2人の騎士が俺を見て絶句し固まっている。


出会いが悪かったのだ。


彼等と俺の出会いは、俺に強い第一の印象を根付かせた。それは俺に優しくしてくれている天然な少女を襲ってくる危険な奴と認識されていた。


だから、だから彼等と俺の目があった瞬間に、俺の尻尾が彼等の腹を強かに殴ってしまったことについては、俺は悪くない。…悪くないと思いたい。


「……」


意識を失い壁に背を持たれたまま、ズルズルと腰を廊下に着いた彼等に手を併せてから、俺は水と食べ物を探しに、左右共に廊下の長さが20m以上と長い道を見てから、廊下の一番端の方に、陽がさしているのが見える左手の方へと針路を向けた。


「…」


眩しい、空腹の今の状態だと、暖かい日光の陽射しに逆に体力が奪われるな。


それにしても水か何か食い物はないのか?


スンスン

「………」


何か少しでも食べ物の情報をと思い、鼻から周囲の空気を吸い込み、匂いを嗅ぐ。


…これは、水の匂いか?

匂いがする方から、確かに水音もしているし、井戸でも有るんだろう。


出来れば綺麗な水が良いが、背に腹は変えられない。このままでは俺は干からびてしまう。


そう決断すると、俺は水の匂いと水が落ちる音が聞こえる方へと足を向けた。


side ミリィーナ・パロマウント


今朝早く、ジオラルド様の部屋に来たクリーク様から、殿下の臣下となるのであれば、ちゃんと身なりを整えろと言われ、無言で新しい服を押し付けられ、直ぐに風呂に入って、その生臭い銅硬貨にこびり付いた手垢の匂いを落としてこい!との命令により、果実湯に入れてもらえることになった。


風呂に向かう際、ジオラルド様は近衛兵の方が見ていてくれるとのことであったため、直ぐにお風呂へと向かったのだが、風呂に向かってみると、私の風呂の介助役として、共にジオラルド様の世話係りとして、この宮殿に来た少女達がいた。


チャポン

「えーっとこれからミナのこと様付けで呼んだ方がいい?」


赤髪の少女、アリアが湯の中に浮いていた果実を手で転がして遊びながら私にそう聞いてくる。


「えっ?どうして!?」


私のその率直な疑問に答えたのは、アリアではなく、茶髪の少女、カトナだった。


「そりゃあんた、只の世話役の私達と違ってミリィーナ様は、ジオラルド様の第一臣下であられるからでありますよ」


「…そうだよ、今、この果実湯のお風呂に入れてるのも、ミナがジオラルド様の第一臣下になったからだからね。感謝しなくちゃ!きっもちぃーな!」


カトナに続く様に青髪の少女のリナが言う。


「も、もう!皆でからかわないでよ!サイドルール様にクリーク様、それにハロルド様に睨まれたことないから、皆そんなこと言えるんだよ!?ほんっとに!こわかったんだからっ!っていうか一番恐ろしいのはジオラルド様っ!」


「…まぁ、あれは確かに怖かったね。物凄い音がして行ってみたらクリーク様が壁に叩き付けられて気を失ってるんだもん」


リナがその時の状況を思い出したのか、両手で肩を抱きながら身を震わせてそう言う。


「オーラバーストって騎士様でも強い人達にしか使えないんだよね?」


アリアが思い出した様にそうカトナに向かって確認する。

そうか、カトナのお父さんは王国騎士団の部隊長だったから詳しい筈だよね。


「ええ、父様も使える様になったのは30歳を越えた辺りだって、でもね、それでも凄く早い方だって聞いたわよ。…というか王族なら獣人化が出来るわよね。それとオーラバースト合わせて使えば魔王だって単身で倒せるわよ」


そ、そんなに凄いんだ。魔王、確か世界を支配していた闇の王たる存在、遠い地で精霊に力を借りた勇者に封印されたって聞いたことがある様な気がする。私は人間の歴史って得意じゃないし、関係もないからあまり勉強してないんだけど、カトナちゃんはハマってたもんな。


そっかジオラルド様も、多分、獣人化を使えるんだよね。

今まで王家の血を引く人で使えなかった人は居ないっていうし…。


ホントに将来が末恐ろしいと思う。


「ん、獣人化ってなんだっけ?」


いや、アリアちゃん本気で言ってる?王家の事はこの一年間で暗記で言える位に皆で勉強したよね?


「アリアちゃん、忘れちゃったの?」


「アリア、あんたねぇ。それでも殿下の世話役のらつもりなの?」


リナちゃんもカトナちゃんも、流石にアリアちゃんに対して呆れているみたい。


獣人化、それは六獣王様がズーランド大陸から闇の者を退ける為に作ったと言われる一つの技法。


獣人の中に眠る古代の獣になるという禁忌の技法。

その力は獣人化した者の身に流れる血が濃いければ濃い程に強くなる。

だけど血が濃い過ぎると制御が難しく、一旦、制御を誤ると只の獣になってしまう力、でもその力を制御出来るのならその力は絶大と言われている。


私も実際に見たことがないから分からないけど、近年は血が混ざり過ぎて完全な獣人化は六獣王様達の中でもアフリカゾウの血を引くエルファズ様にしかできないだろうと聞いたことがある。


他の六獣王様は部位変化のみ、もっとも部位変化のみでも、他の獣人達とは異なるレベルの強さに至れるのだから獣人化が出来ること自体が凄いんだよね。


「….ねぇミナ、あたしの勘違いかも、その知れないんだけどね」


「え、なに?どうしたのカトナちゃん?」


私が獣人化について考えている時に、正面からカトナちゃんが話しかけて来ると、私の背後を指差しつつ、何故か分からないけど、何処となく震えを持った声で言う。


「うん、彼処でお風呂の水をがぶ飲みされてるのってジオラルド様じゃないの?…っていうかそうだよね?」


「もうカトナちゃん!そんな不敬なこと言ってることが、ばれ…え?」


「ホントだ。ジオラルド様必死っ!あはは!必死にお風呂の水飲んでる!」


カトナちゃん言われ、アリアちゃんとリナちゃん、それと私が同時に背後を振り向きながらそちらを見やると、お風呂の湯に顔潜らせて水を飲まれている殿下の姿があった。


リナちゃんは途中まで笑っていたけど、それを見た瞬間にフリーズした。アリアちゃんは無邪気に殿下を見て笑っている。


カトナちゃんは少し前から震えたまま、つまりは私が止めるしか無い訳で…。


そんなことを考えている間も息の続かん限り飲む!とでも考えている様な勢いで水を飲む音だけが響く。


「ちょーぉっ!!ジオラルド様っ!なんで水を飲んでやがるんですかっ!しかもそんなガブガブと?!」


慌ててジオラルド様が風呂の水を飲んでいる場所まで走る。湯の中を走っている為か、速度が上がらない、風呂場が無意味に広いことが悔やまれる。


私がジオラルド様の元へ辿り着く前に、ジオラルド様は水を飲んで満足したのか、その場で一度大きくゲップされると、湯の中に浮いている果実を手に取り、匂いを嗅ぎ始めた。


「んぐぅ、っぷっはーぁ!…ふんふん?」


「イヤイヤ、イヤァアア!!食べちゃ駄目よぉーそんなのキタナイでしょー!!」


まさか、まさか!湯の中に浮いていた果実を食べる気なのか!?そう言えば私がジオラルド様の面倒を見だしてから、彼に水や飲み物を与えたことがなかったことに気付く。


「でも、でもでも!ミルクも離乳食も通り越して、固形を口に入れたら駄目ぇー!!」


そんな私の叫び声も虚しく、ジオラルド様は無表情に黙々と湯に浮いていた果実を咀嚼し始めてしまった。


あぁーこれがサイドルール様に暴露たら一族丸っと滅ぼされる訳ね。


「…あむぅ、うぐ、うぐぅ!」


美味しそうに果物を咀嚼するジオラルド様を見て、なんとも言えない気分になりながらも、今食べている実くらいは黙って食べさせてあげようと、そう思うのであった。


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