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23話


ズーランド大陸には六獣王達が治める6つの国がある。


大陸中央部西側にあるエルファニカ国は、その6つの国の中で最大の領土を誇っている。


その領土の広さはその他の国と比較すると1.5〜2倍以上にもなる程だ。


何故、エルファニカ国の領土が、同時期に建国した国の中にありながらも、他の国よりも領土を大きく持てたのか?


それは単に大きさ、エルファニカ国に属する獣人達のルーツが大型の獣にあるためだ。


エルファニカ国の王族、そのルーツはアフリカゾウ、生命力、体力、筋力、そのどれもが圧倒的。


その身は生涯を通じて成長し続け、年月を費やせば費やす程に強く逞しくなっていく。


その姿はまさに絶対王者、そのものである。


しかし近年、六獣王国家にて等しく完全獣人化が出来なくなりつつあった。


長く続く平安な時代、各国の獣王達も戦いのない今の世の中では、もう必要の無いもの、そう認識し部分獣人化のみで良しとするなか、このエルファニカ国だけは、違った。


数代世代前の王が言った。


「…永遠の平和などあり得はしない」


「必ず、また戦いの時は来る」


「その時に力なく、何を護れるか」


「使わざるとも、力、それは持つべきもの」


「故に、我は過去の力をエルファニカへ取り戻す」


「薄れた血を、また在りし日の血統へ、ルーツへと近づける」


その言葉から、エルファニカ国では血統を優先し次代を残して行くことで、15年前遂にその宿願を成し遂げる。


「…遂に成った、先祖代々の宿願を!」


王族だけでなく、ゾウのルーツを持つ貴族達にも行なわせた優秀な血統を持つ者同士の重婚、そしてその子等による近親婚により、遂にその赤児は誕生した。


その赤児は赤児で有りながら、母体の腹を突き破らんかの勢いで産まれ、その際に意図せずにしろ赤児は自身の母を殺めた。


そして母が絶命したと同時に赤児は産声をあげた。


その身体は赤児でありながら巨体、特徴的な大きな耳、湾曲しつつも天高く伸びる背、地を踏み締める強靭な長い足、そしてアフリカゾウをルーツとする物だけに現れる筈だった物、長らく王族よりも失われていた誇り、産まれる際に母を殺める要因となった牙が、その両肘に白く、そして赤く、その存在を主張していた。


「今迄にない事例ですので、早急に対応が必要であると考える所存であります」


何時もと代わり映えのない日、既に習慣となった部屋で、無駄に大きな椅子へと座り、代わる代わる訪れる奴等、そいつらのおべっかたっぷりの聴くことすら不快な話声を、これまた無駄に広く大きな、そして高い吹き抜けの天を仰ぎながら聞く。


「…で、つまるところだ。お前は俺に何を言ってる?」


王となり、おべっかばかり宣う貴族ばかりの相手をしてきた少年は、既にこの部屋へと来る者について、使えるか、使えないかを見分ける事も酷く億劫になっていた。


だから少年は問う。

至極真面目そうな身形をした貴族であり、話す事もおべっかを使う事なく、事実を有りのままに伝えてきた貴族に…。


「ぃ、え?ですから、地下深くに居るかもしれないワーム種の早期発見と討伐を」


だんっ

「…で、それは俺が言わなきゃ、お前達には出来ないことか?」


少年は立ち上がると、跪き此方を窺う貴族の顔面を片手で掴むと、腕のみの力でその貴族の男を空中へと持ち上げる。


突然の事に為す術もない貴族の男は、戸惑いながらも、少年のその瞳を見て言う。


「しかし、王のご決断がなければ、動けぬこともっ?!!ぐぅがぁ!?」


男以外にも部屋に控えている貴族は居るが、少年を止める者は誰もいない。皆が固唾を呑み、少年の行動を見ていた。


『………』


誰も俺を止め様ともしない、自分の身に火の粉が降りかかるのが恐ろしいのか?


それで何がノブレス・オブリージュか…、嗤わせやがる。


王の決断、詰まらない。

そんなものなくとも、治世など文官がやっていればいい。


確か、この貴族の男が言っていた。

ナルニート国の地下、数百メートル下の地中より、グラノドワームが発見されたと、もし発見が遅れていれば巨大なワームホールが発生することとなり、ナルニート国の王都は滅んでいた筈だったと、エルファニカ国でもそうならない様に、至急対応が必要と…。


解せない、何故、至急対応する必要が有る件だというのなら、態々、俺に窺いをたてに来る必要がある。


同じだ。何奴も此奴も結局は、王の評価が得たいだけの、褒賞が欲しいだけの、何らおべっか使いの貴族と変わらない、低劣な屑だ。


「なんだ、その言い方だと、貴様は俺の命令なら、………何であれ従うのか?」


命令が欲しい、か…。欲しいならくれてやってもいい。そう思い少年は口を開いた。


「ぉ、王、手をッ!…っ、……めい、れいならばッツ」


チャンスは何度も与えやしない。

ズーランド大陸、いやエルファニカ国は弱肉強食こそが国教、弱者は強者に虐げられても文句は言えない。


「ふーん、……なら死ね」


俺の命令に従い異論ねーなら、死ね。


そう内心で言ったと同時に、少年は男の顔面を掴んでいる掌で握り潰した。


ざぁっしゃーっん

「ぐぎぃい??!」


男の断末魔が部屋に短く響いた。


『ぉ、王よ!何ということをっ!?』


今更、それを言うのか貴様達は、異論あるなら何故、男が死ぬ前に言わず語らなかった。


いや…考えるだけ無駄だ。


「つまらねー話だ。…他にも死にたいのがいるのか?くだらないことばかり囀りやがる。屑はやることやってりゃいい。用があれば俺が声を掛ける。それでも文句のあるやつは、俺に言ってみろ」


「……」


沈黙、異論はねー訳だな。

本当にくだらない、詰まらない、退屈な場所だ。


無言で静かに部屋から出て行く貴族共、此処で何か意見でも言えば、まだ救いもあっただろうにな。


これが、こんな屑みたいな国が、先祖代々求めてきた強国ってものなのか…、だとしたら徒労だったな。


潰してやるこんな国、屑みたいなもんならあっても仕方ないだろうしな。


「はぁーっ、つまらね。向かって来ないか、親父を殺して王になんてなるもんじゃねーな。……なんだ、ナルニート国の書?」


懐から出したハンカチで手に着いた血を拭き、汚れたそれをその場へ放って王座へと戻る際に、王座の脚元に一枚の書が転がっていることに気付いた。


少年は、それを拾い上げると粗雑に封を解き、書の内容を見る。


其処には、少年の暇と国を潰すという目的を達成出来そうな相手が居ることを示唆していた。


「…くっくくく、なんだ面白そうなのが近くにいるんだな」


ナルニート国の皇子、産まれて1ヶ月余りでありながら、獣人化、それも完全獣人化を扱えるらしい、そして何でもオーラバーストすら会得していると、書には書いてあった。


「…確か、6ヶ月後にお披露目があったな…、くっくく、会いに行くか」


実際に見て、それで使えそうなら、上手く扱って、この退屈な時間を早々に終わらせてやろう。


「エルファズ様の暴挙、もう耐える事は出来ん!!なんだ!あれは!国を思い注言した者を!どうして殺す必要があるか!」


先程、王の間から出て行った貴族達は、憤慨していた。

自分達を侮られた事に、自分達の存在を歯牙にも掛けない事に、その高過ぎるプライドを傷付けられた為だ。


「…そうだ、このままでは我等も、いつかあの様に!立ち上がらなければ成らん!」


だからだろう。普段であれば城内では決して言わないだろう。

叛乱という言葉を勢いに任せ、言ってしまう。


「…しかし、エルファズ様に我々が敵おう筈もない。王族とは力、特にエルファズ様はその王族の中でも別格の力を持たれている!我々に勝ち目など」


一度言い出してしまっては止まらない。それ程に少年の、エルファズ・エルファニカという王に不満が蓄積していたからだ。


「ならば勝てる者、いや勝てなくとも弱らせる事が出来る者をぶつければいいっ!後は我々がそこを突けば終わる」


兼ねてならば、与えられていた利権、それがエルファズが王となって直ぐに行った改正により、利益は男達から世間へと流れてしまった。


その際に何度も忠言したに関わらずにだ。


「…しかし弱らせるなどと簡単に言うが、相手は王族、しかも完全獣人化まで会得している化け物だぞ!?六獣王でも当てない限り、その様なことは!」


止まらない、今迄に溜め込み蓄積していた不満が原動力となり、彼等は計画を建て始める。


「いや、居るぞ!ナルニート国のジークムント王の御子息に、今年産まれたばかりにも限らず、獣人化を会得し、グラノドワームを屠ったという強者が!!」


男達には情報だけは、事欠かなかった。故に王を落とし得ると思える手段は直ぐに見つかった。


「しかしっ、相手は他国の皇子だぞ、容易く、そうだ、容易く戦い合わせることなど可能か!?」


男達の中でも気の弱い者が、そう言うと、その横に居たまた別の男が、その男の肩へ手を置き言う。


「方法など、時間を掛ければ如何様にもなろう。隣国と戦になる様に仕向ける。我々に出来ないことではないだろう?」


「…これ迄の2年間も耐えた、後数年、準備に掛かろうともそれは同じか、ならば耐え、その時が来れば必ずや、エルファズを討ってみせ様ではないか」


また別の男がそれに同調して言う。


『そうだ!やってやろう!!!』


その場に居た男達、全員の意志は今、一つに纏まり結束した。


だが男達は気付かない、それが既にエルファズに知られてしまっていることを…。


「…等しく愚かだ、面白味もない。城内に居る内に謀叛の相談とは、な」


少年は王座に座り、自身の無駄に良い聴力の為、聞かずともよい、それこそどうでもいい相談ごとの話を聴かされていた。


「…直ぐに始末してもいいが、向こうから場を誂えてくれるというなら、それを利用する方が面倒がなくていい」


自身の無駄に退屈な惰性な日々、それが此処から数年間で、どうやってあの屑達が変化させるのか、その数年の間に何処迄、屑達が期待するナルニート国の皇子が成長するのか、6ヶ月後の祝賀会で見極めてやろう。


「…がっかりさせるなよ、ジオラルド」


エルファズ・エルファニカ、エルファニカ国の王に、齢12の時に先代王をその手で殺め即位。


その後、齢13にて完全獣人化に至る。


エルファニカ国に作られし、鬼才は今、その牙をジオラルドへと向け進撃を開始した。

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