17話
とある日の回想録。
今日のオヤツは殿下の好きなバナナを使ったパンケーキです。
さて、ぱっぱっと切って作って持って行ってあげますかね。
このバナナは少し硬いですからね。力を入れて!よい、しょっ!
すかーーーん!
「…何てことでしょう、まな板ごとテーブルが真っ二つです」
最近、成長期なんですかね。
こんな風に力を少し入れただけで、物が壊れてしまったりすることが良くあります。
「ミリィーナ、おめぇ、またやりやがったな!?」
マークさんが肩を怒らせて、私の元へと迫って来ます。
「…前から邪魔だと思ってたんだろ。気にすんなっ!さーびすだよ」
このジオジーク宮殿に来た初日に、厨房の作りが悪い、作業しにくいと言ってましたからね。
私でも少し、マークさんのお力になれたってことですね。
がしっ!
「…邪魔とか思ったこともねぇ、寧ろなきゃ困るんだよ、こりゃーな!何処で野菜切るんだよ、こんなんてよ!」
しかし、それも2個、3個となると、スペースが広くなり過ぎて逆に使い難いですよね。わかります。
がしっ!
「地ベタに這いつくばって切りなっ!って嘘、うそうそ!だから放してくださいよ」
マークさんに頭を掴まれて、厨房の扉の外側へと放り出されてしまいました。
ぼいっ!
「…当分、厨房立ち入り禁止な」
マークさんはそう言うと、勢い良く厨房の扉を閉めてしまい、更に内鍵まで掛けてしまいました。
「そ、そんなぁ!唯一の私の趣味がぁああ?!まな板の一つや二つ、成長期なんですから、たまには切っちゃうこともありますって!まーくぅさん!入れでぇ〜ぇええガッコン!?おぉっ、入れて、くれた?」
何だかんだ言ってマークさんも子供には甘いんですよね。
何時の間にか鍵を開けてくれたのか、扉は外れていました。何処からかというと、枠から金具ごとです。
「入れてねぇ!テメェが!扉ごともぎ取ってんだよぉおお!どおすんだ!此処は人様の家だぞ!ジオラルド宮殿じゃないんだぞ!」
「錆びてたんですかね?」
女の子の私がこんな分厚い蝶番の金具や枠からもげる筈がありませんしね。きっと錆びていたんでしょう。
「…ミナよ」
背後から突然声を掛けられて、驚き振り向くと、其処にはクリーク様が眉間に皺を寄せ、私を見ていました。
「クリーク様?何ですか?…いま扉の腐食について、原因を」
何か用が有るのかと思いましたが、私も厨房の扉の腐食について、色々と上に報告しに行きたいのですけど、ってもうあんな所に行ってしまってる!?
「…着いて来い」
どんだけ硬派なんだこの人!そう思いながら、腐食していた扉をマークさんに託して、私は慌ててクリーク様を追いかけます。
「え?ぇえ?何処に?ってちょっと待って下さいっ、あっ、マークさんこれお願いします」
「お願いじゃねぇーからっ!こんな金具ごともげたのお願いされても困るからっ!!?」
背後からマークさんのら慌てる声と、その後に重っ!!?という叫びが聞こえた後に大きな音が聞こえてきました。
マークさん怪我してないと良いですけど…。
「ミナ、いつからだ?何時から始まった?」
何故かクリーク様に連れられて訓練場に来たと思えば、着いた早々に私へと振り返り、そんな質問をして来ます。
はて、始まった?何が私に始まったんで…っあ、そういう意味ですか?!
「始まってませんっ!何ですか!まだ産めませんよ!!クリーク様!まさか私に手をだそぉーってんじゃないですよね!?」
クリーク様、まさかあんたも殿下と同じて私のちっぱい信者だとは思ってもみませんでしたよ。
「…違う、オーラバーストが発現したことだ」
そんなにどうでも良さそうに言われると逆に心外ですね。
「……あっ、やっぱりそうです?いや、まさか私にこんな才能あると思わなくて、勘違いだと恥ずかしいから黙ってたんですけど」
でもこれで最近の怪力が出る原因が判明しましたね。まさか私にこんな才能があるだなんて、驚きですよ。
「その通りだ、お前には才能がない。だからオーラバーストが暴走している。オーラバーストの力とは何だと思う?」
一瞬で夢を希望も未来も弾け飛びましたね。
「…体細胞を一時的に強制興奮状態へ陥らせる事で発現するシックスセンスって聞いたことがあります」
それを任意に起こせる様になることで、オーラバーストを会得したことになります。
「そうだ、お前の場合。それがコントロール出来ていない。つまりは常に中途半端な状態で体細胞を活性化させている。そして稀に起こるあの怪力は、細胞疲労による痙攣が原因だ」
細胞疲労による痙攣ですか、筋肉痛の細胞版ってことなんでしょうか?
「…あまり良い話ではなさそうですね」
「そうだ、このまま放っておけばお前は死ぬ」
「…えっ」
あまりにも予想外だった為に思わず聞き返します。
「このまま放っておけば死ぬと言っている」
「いや、聞こえてますけど、それなら殿下は?常にオーラバーストで身体覆ってるってクリークさんが言ってたじゃないですかっ?殿下が死んじゃうんですかっ!?」
オーラバーストを常に発現してる状態で死ぬのならまず常時、それをやっている殿下から死んで貰いたいものです。
「落ち着け、死ぬのはお前だ。ミナ、お前だけだ」
もう一回言わなくとも聞こえとるわ!っていうか自分が死ぬなら余計に落ち着かないですよ。
「なおのことっ!落ち着けねぇーわっ!!何ですか?殿下が死なないのにどーして私だけが死ぬことになるんですか!?」
「才能だ」
一体どんな理由が有るのかと思えば、才能って、もうどうしようもないじゃないですかっ!!?
「容赦ねぇーわあんたっ!なんだ!じゃ、私は才能もないのにオーラバースト発現して、才能ないからコントロール出来ずに死ぬのっ?!」
「そうだ」
いや、本当に容赦なさ過ぎません?やっぱりまだ私が殿下の契りの証を受けたの恨んでますよね?
だからそんなに私に容赦ないんでしょ!クリーク様!!?
「ホント容赦ねぇーわこいつっ!?8歳の少女の精神をフォローする様にオブラートに包んで言えよなっ!そういうことはさ!!」
「………ミナ、大丈夫だ」
流石に私が8歳の少女ということを言うと、心に迷いが出来たのか、数秒の沈黙の後にそう言ってくれました。
「間がなげぇーんだよ!」
本当に間があり過ぎたのが、リアリティーあってムカつきました。
思わず拳を全力でクリーク様に振り抜いてしまったのも悪くないと思います。
どがーん!!!パラパラパラ
「…何ですか!何で避けんですかっ!!」
クリーク様が避けたことにより、私の拳は地に当たり、その衝撃で周囲の土砂を巻き上げてしまいます。
「俺は死ぬ訳にはいかない、殿下をお守りする為にもな」
「私も死ねないよっ!まだチューだってしてねぇーですよ!!」
「………」
「無視すんなっぁあああ!!!」
何だその私は死んで貰いたい良いみたいな雰囲気は!?しかも乙女の秘密を教えた事に対する回答が無視とか、あり得ませんからね。
そこは私の唇を奪って欲しい所です。クリーク様イケメンですし、最初の相手にはランク高いです。
だから歓迎なんですけど、ね。
「…クリーク、何時まで続ける気?ミナを死なせない為に呼んだんだよね?」
怒る私、逃げるクリーク様。そんな二人の関係に終止符を売ったのは、これまたイケメンのハロルド様でした。
あっ、私はハロルド様でも可です。
イケメン好きですからね!
「ハロルドさん、私に熱い接吻を施してください」
「いや、突然だね。けど遠慮しておくよ」
私の一世一代の告白は、すげなく断わられ、唇を無駄に宙へと突き出したのみという残念な結果に終わりました。
「…ミナ、これから毎日修練していけば、取り敢えずは直ぐに死にはしない」
クリーク様がそう言ってくれますが、取り敢えずということは、延長しているに過ぎないってことですよね。
「それでも危険なことは、…変わらないんですね?」
死ぬのは嫌です。何度も言いますがチューくらいはしたいので…。
「殿下の契りの証の影響だから、ね。殿下がこれ以上強くならない内にある程度、制御出来る様にならないと、本当に干からびて死ぬよ」
「…やっぱりこれの性ですか」
殿下と居ると本当に碌な目に合わない私。
「そうだ、殿下が完全獣人化を会得され、更に力を得られたこと、その影響により、証がお前に更なる力を与えたのだろう」
「これって殿下が強くなれば、強くなるほどに力が増すんですか?本当に?」
殿下が強くなると、何もしなくても私も強くなるってこと?理由が今一飲み込めません。
「ジークムント様のワイバーンが他のワイバーンより3倍早く飛ぶ理由と言えば、信じるか?」
「あのワイバーンは体格的には、他のワイバーンより劣っている。それでも3倍なんだよ」
クリーク様がそう言った後に、ハロルド様がそう補足する様に教えてくれました。
そうですか、体格的には劣るのに、他の3倍速く飛ぶのですか、そしてその理由が契りの証という訳ですか、いやっ、本当に殿下って私にとって疫病神じゃないですかっ!!?
「…あんまり長く生きられそうにないんですね、私」
あの殿下の事です、ほって置いたとしても勝手に順調に逞しく強くなって行きそうですからね。
10歳まで生きれますかね、私。




