16話
サファリ領から帰った翌日、今後の予定について、どの様にサファリ領内を変えて行きたいのかと、サイドルールとミナから聞かれたため、説明をしている。
「…まずは城の近くにあった崩れた丘の岩を砕いて、小河をちょっとした運河にしたい」
「その運河ってのは何ですか?」
ミナのその質問に対して、俺は皆に向けて自分がこの世界で作ろうと思っている運河について熱く語る!
その運河とはパナマ運河と同じ方式だ。
水槽の中に水を入れれば、船は水の浮力により浮き上がり、高い場所にでも船で行くことが出来る。
水槽の水を張り抜きするだけでいいという簡単な手法であるのに、数m程度の高さ位であれば、頑丈な基礎と土台を築き水槽を作ることで、この世界の文明でもそれは行うことが可能だ。
「….よく考えましたね。この方法なら高低差があっても高い場所に荷を大量に運ぶ事が可能ですね。すごい物流改革法です。まあ費用は掛かりそうですがやれないことはないですね」
方法が確実なのは前世で証明済みであった為、問題ないが費用となると別だ。俺の持っている金額は莫大なものであるが、限度がある為だ。
「…大体いくら位になりそう?」
「そんなの分かりませんよ。殿下の考えてる運河の構造は解りますが、まだ規模も何も決まってませんし、概算ですらそんなことは言えません」
そりゃそうか、なら何時概算が出せる様になるのだろうか?
えっ。俺が出す?無理無理、俺は頭良くないし、こんな雰囲気でとしか言えないわ。
「…そうですね、今日は実際に殿下がサファリで行いたいことを言って頂き、それが出来る出来ないに関係なく案として纏めましょう。ミナよ、纏めるのは任せたぞ」
俺のそんな困ったという雰囲気の顔を察したのか、サイドルールがそう助け舟を出してくれた。
確かにまずはやりたいことを、纏めた方が得策だな。
それにより予算がオーバーするなら、諦めないといけない物もあるだろう。
「…そうだろうとは思いましたけどね。アリアちゃん達にも手伝って貰って良いですか?」
サイドルールが纏めをミナに振ったことにより、ミナは…小さくそう溜息を吐きながら言う。
「あぁ、構わぬ。アリア、リナ、カトナよ、ミナを補佐してやりなさい」
『はい!』
サイドルールの指示により、アリア、リナ、カトナがミナの元へと行き、ミナと言葉を交わしている。
何やらミナが皆にやって欲しい事を頼んでいる様だが?
「…では殿下、他に何かしたい案などありますか?」
「あぁ、ある。ますば領内を一から作り直したい。具体的には地域ごとに、農業、牧場、工業、土木、商会、住居っという風に区分化したいんだ」
サイドルールに促されて、他にもやりたいことや、やってみたいことを皆に対して言っていく。
「都市では良くやっていることですね。何処に何を置くか、区分分けについては最初に決めておけば問題ないですね。…ただ完全に区分すると時間帯によって、人の居る場所と、全く居ない場所が出来ますので、それぞれの時間で手薄になり、盗みなどが起きそうですね。ですので人が居ない時間帯にそういう場所を見回る者が必要になりますね」
「そうか、なら治安を維持する為にもそういう部隊が欲しいな」
ミナの問題点により発覚した、人の居ない場所での犯罪の発生、確かに危惧しなければならないな。
そう思った俺は直ぐに治安を維持する為の部隊も欲しいと付け加えておく。
「人選が難しい所ですね。粗暴な輩が治安を維持する事が出来るはずがないですから…。少し人件費は高くても王都で専用の人を雇った方が良いかもしれませんね。因みにその場合は一人について年間で金貨2枚とお考え下さい」
「平民の2.5倍かよ!?高くないか?」
「高くありません。平均的、そして善良な見積りですよ。また、物は言い様で、王家より派遣される近衛兵を、皇子が居るので危険がないか探れと言えば断れないでしょうけど、ね」
やはり信用は金で買えない、という言葉は嘘なんだろうと思う。
そうか、ジオラルド宮殿に居た治安維持してる人達も金貨2枚も貰ってるのだろうか?
何百人と居たのだが……。
「…殿下、先ずはリスト作成を先行してお考え下さい」
そんな王家のお財布事情に驚いていると、再度、サイドルールにより促された為、考えを中断して続きを言う。
「あぁ、特に農業に力を入れたいんだ。今ある点在してる畑を一箇所に纏めて、領主が畑の持ち主となり、農夫を必要に応じて雇用する方式に変える」
「…まあ、領民がいないのでするのは簡単ですね。田畑や雇う農夫の規模や人数、そして何を作るかはまた後で、と」
そうだ、現在サファリ領内に民が1人も居ない為に出来ることだ。
だからこれは早く遣るべきことなのだ。
「それと工業について、何を作るかも決めてないが、取り敢えず規格を統一化して、同じ物を同じ品質で大量生産してバンバン売ってみたい。そう思ってる」
取り敢えずだ。俺も内政改革とかやってみたい。あいつすげぇー!?こんな方法がっ!?とか世間に思われたい。
だからやる!何かを同規格で同質で大量生産して売りまくって金持ちになる!
「……えっと、規格の統一化とは?」
何故だろうか、皆の表情が固い気がするんだが…。まあ取り敢えずどんな物だけかでも説明してみよう。
「そうだな。例えばこの洋服棚に使われている蝶金具があるだろ?でも良く見てみるとさ、この棚についてる蝶金具は、一つ一つが大きさも違うし、形も歪だ。俺はそれをなくしたいんだ」
丁度良く部屋に置かれていた洋服棚、その棚の開き戸に取り付けられている蝶金具を指で差しつつ言う。
「…どうだ、ミナよ。殿下の言っていることは解っているか?」
今一、皆の理解が得られなかったのか、皆の表情がまだ堅い。
「はい、….つまり殿下は例えばその金具を100個作ったら100個が全く同じ品質で作れる様にしたいと、そう言われてるんですよね?」
「そう、それだよ。一度に大量に作りコストを下げれるだろ?」
人に何かを伝えるって大変だ。そう考えてどうやって伝え様かと、内心で考えていると、さっきから少しの間だけ黙っていたミナが、サイドルールに話しかけられた為か、俺を見つつ話出した。
そう、それが言いたかったんだ。
流石はミナ、俺の契りの人だ!
「……でも何を作るかは決めてない、と?考えは良いと思いますけどね、そもそもが、それを大量に作る手段と、手段があったとして買い手が居なけれは安く作って販売したところで意味がありません」
「そうだな、失敗しても損額が大きくならない物を作るべきだな」
言われてみると当然な事であるが、気付かなかったわ。とは言えない。多分、もう皆、俺の表情から考えて無かったことがバレてるぽっいし、皆の表情がやっぱり硬い。
なら作るなら、失敗しても損失が大きくなくて、手頃に始めれる物が良いな。
「其処で考えを改めない殿下にポッ!としそうですよ私、ああぁ、勿論、惚れたとかでなく、偏頭痛という意味で頭が熱くなってって事ですよ」
明らかに馬鹿にされている俺、部下が塩対応過ぎて困るやい。
っていうか馬鹿にし過ぎわ、俺のこと、何が偏頭痛だ!?俺がその頭をトンカチでぶん殴って矯正してやろうか!?いや、どうせトンカチを使うなら頭に刺してやろう。
ヘッドピアスみたいにして、…あぁ、釘だ。釘を作ろう。釘なら簡単だし、失敗とかしなさそうだ。
「……そうだな、安全を取って先ずは釘なんてどうだ?製法も簡単そうだしさ」
「そんなの何処の鍛冶屋でも毎日金槌叩いて作ってますよ。因みに1本でズー硬化3枚が平均です」
金槌で叩いて作ってるってことは鋳物で出来た釘はまだこの世界にないってことだよな!これは本当に行けるんじゃないか!?
「よしっ!なら2本当たりズー硬化3枚でつくろう!そしたら売れるだろう?もし売れなかった場合は領内でこれから使うから幾ら有っても損はない」
大量生産すれば多分、販売価格も下げれる筈だ。そうだよな?
材料の値段とかは置いといて、置いとけないかな?
「簡単に言いますけど、大量に作るなら規模の大きい炉が必要なので設備だけでも結構な金額になりますからね?」
「因みにおいくらくらい?」
駄目かもしれない、なら将来の為にどれくらい掛かるのか位は知っておいても良いだろからこの際に聞いておこう。
「一般的な鍛冶屋で開店資金がトータル金貨2枚ですので、その倍の金貨4枚と考えておいて下さい。で釘の方ですが、本当に2本3ズーの価格なら実家で買わせて貰いますよ」
「おお!買い手は解決したな!」
何だミナの実家が買い取ってくれるなら、良いじゃん。少し位の赤字は覚悟の上だ。
どうせたまたま得たお金なのだし、外で買い食い出来ない今の俺じゃ他に使い様もないことだしな。
「…自信満々ですね。それで製造方法には当てがあるのですか?」
「あぁ!一応あるぞ、今思っているのは………」
そうミナに問われた俺は、釘を鋳造して作る方法を覚えている範囲で伝える。
伝えると、そうは言っても溶かした鉄を予め作って置いた型へ流し、鯛焼きを焼く要領で挟み、後は放って置いて冷却してもいいし、水で一気に冷却してもいいという方法だ。
これなら型さえあれば大量生産も容易に出来るのではないかと思ってる。
まあ、やってみて駄目だったら、方法を改善すれば良い。
失敗は成功の元と言うしな。
『それは、凄い、ですね』
そう思って軽い気持ちで俺が釘について製造方法を語って聞かせた所、皆、驚いてそう一言だけハモって言うと黙り込んでしまった。
「……その方法なら釘だけでなく、アクセサリーや置物とかも作れそうです」
そうか、鋳物なら砂を削ったりすれば簡単に成型出来るし、アクセサリーとか置物も案外簡単に出来そうだよな。
「それだけじゃない、槍や盾、甲冑の様に決まった形で国に採用されている物に広く応用が可能だ」
「…え?なんかいけそう?」
何だクリーク、突然喋り出したと思ったら!何て良い案なんや!そういう規格品に鋳物は強いんやで!ヤバイ!内政改革とか、領地経営とか見えてきた!見えてきた気がするわ!
「行けますよ!当然じゃないですか!?これは大儲けできますよ!!これは私に任せといて下さい、殿下!!?」
「えっ、うん任せたよ」
気持ち悪いくらい、突然にやる気だしたなミナ、何か身体からオーラバーストが視認できる程に迸ってるけど、生命活動に異常はないのか?
「後は何かありますか、殿下」
サイドルールに三度、促される。
他に何かしてみたいことあったかなぁ?
あった様な、もう無かった様な、思い出したらまた言う事にするか…。
「後か、取り敢えずはこんなもんかな。後は実際にやってみて改善して行く方向で頼む」
『分かりました!』
部屋から出て行く時の皆の表情が明るくなってて良かった。
「あれ、ってか今日は勉強ないのか?」
俺はこの時知る由もなかった。
まさか皆が領地経営にノリノリ過ぎて10ヶ月後の祝賀会の事を忘れてしまっていたということを…。
side ミリィーナ・パロマウント
殿下の部屋から出た私は、アリアやクリーク様達と別れて、サイドルール様と二人で今後の話を詰める為に、サイドルール様の部屋に来ていました。
其処で先程、殿下が提案した内容について、アリア達に書いて貰っていた内容を見つつ、サイドルール様と討議しています。
えっ?私ってただの世話係じゃありませんでしたっけ?いつの間にこのポジションに落ち着いてしまったのか、自分でも不思議ですね。
もうこんな事には慣れてしまいましたがね。あの馬鹿殿下と一緒にいる性で、そうですあの馬鹿殿下が、こんな事を考えて居たなんて、ホントに馬鹿と天才は紙一重なことです。
「まさか、あの馬鹿殿下が此処まで考えているとは思いませんでしたね」
「これ、ミナよ。口が過ぎるぞ」
私の独り言を聞かれたのか、サイドルール様が私を嗜めます。
「すいません」
「まあ、彼処まで考えて居られるとは思わなかったがな、運河か…」
そうです。まずは運河の建設、最初は何言ってんだこの馬鹿、と思っていましたが…。高低差を関係なく船を運行出来る方法とは、何処でどう思いついたのか検討も付きません。
しかも、方法までそれらしい、とは本当に紙一重です。
「…殿下は本当に色々と、規格外な方だな」
サイドルール様が先程の話を思い出しているのか、そう言って顔をにやけさせています。
その次が農業、工業の一本化でしょうか、どちらも大量生産、大量販売で多売薄利にはなりますが、それは量の多さで利益を十分にカバー出来そうです。
「最優先するべきことは、先ずは運河の建設と領内の区分化ですかね。その他については、慎重に計画する必要がありますね」
運河の規模が決まらないと、区分しても無駄になりますからね。
「そうだな、特に鍛冶屋の方は、最初にやってしまった者が儲かる話だ。漏らさない様にしなくては、な」
サイドルール様の言うとおりです。あんな簡単に出来る大量生産方法、先に作って販売ラインを作ってしまつまった人の一人勝ちになりますもんね。
此処で私がやることは簡単です。大量生産する商品を殿下が言った値段で各商会に買い付け依頼を出し、通常より2分の1の値段で売る代わりに、数年間の一定定期購入の手形を交わすこと!それだけで天下が取れます。まあ所詮は釘ですから多売薄利ですがね。
特に国へ卸す武器や防具などは、各商会が這いずり回って作る所を探してますから、大量購入を定期的にさせるには持ってこいです。
此方の方は値段を少し安くするだけで買い手は付く筈ですよ。くっひっひひ!こっちで多売暴利を貪りましょう!
っと、返答を返さない私をサイドルール様が怪しむ様な目で見てます。気を付けなければ、真面目に、真面目に、です。
「ですね。…最初にすべきことは、先ずは現状の地図の作成、それと作り直す都市の計画図ですね」
直ぐに使えなくなる地図ですが、これから大規模に工事をして行くなら必須ですからね。
「…現状の地図については、既に王家より殿下を守護する意味でも必要となっていたので、サファリ城の改修工事と共に領内の地図化がされて居るはずだ。3ヶ月もあればどちらも完了するだろう」
それはいいですね、王家のお陰で費用と手間が省けました。なら今出来ることは少ないですね。
何処に何を分けるかは、地図が出来てからになりますから、今出来るのは人材の準備くらいでしょうか?
「…では区分化だけある程度殿下に、決めてもらったので、それを確認しつつ、仮として運河の場所だけでも大体の位置を決めますか?」
「そうだな、そうしよう。運河については、大型船が往来できる幅と深さ、将来的にはサファリ領外とはなるが、クタナ湖まで延長し、王都へと繋げた方がいいだろう。今の内にそちら迄の運河のルートと土地を購入しておこう。今ならば二束三文で手に入る」
おいおい、何ですか、そんな事が全て上手く行けば私、大金持ちじゃないですか!!?そうか陸路でなく運河での貨物の移動ですか、警備の人員削減にもなるし、良いですね。
「それは良い考えですね。クタナ湖なら、王都は元よりエルファニカにも通じていますし…、エルファニカとも貿易できますからね」
「そうだな、この際だ。専属の建築士を数人雇うか…、その物達に設計させよう」
其処までの規模を行うなら当然、専門家が必要ですね。
「建築士となると年間1人が金貨1枚ですね、何人位必要でしょうか?」
「まだ計画段階であるから、まずは15人程だな。足りなければ都度、補充するようにしよう」
やはり専門家は金が掛かりますね。かと言ってサイドルール様と私が全て出来る訳でもないですし、仕方ない出費ですね。
「わかりました。予算として上げておきます。運河の建設要員として、建築士15人っと、それと運河の建設に使用する岩を切り出す人手が要りますね。これは今からでも雇って直ぐに現地へ行ってやらせる方が良いですよね?」
設計が出来てから石を切り出して居るのでは遅いですしね。
「…そうだな、ならば作業員様に宿泊場所も必要か、大工も雇うとしよう、どうせこれから多くなるのだ30人雇い、大工と石切り達を共に現地へ向かわせて、領地の南側に簡易な住居を建てさせよう。石切りについても同じく30人雇うことにする。…これも不足があれば都度補充させることにする」
そうか住む場所と食事の事を考えると宿泊場所も必要ですね。
そうか、食事だ。サファリの現状だと食べ物を食べる場所もない。そう考えると家事手伝いも必須ですね。
「そうですね、後は食事を3食提供することにして、少し賃金を抑えめにして、家事をする物を雇いましょう。それと大工と石切りには道具は自分達で極力持ってきてもらい、必要な物があれば購入する形にしましょう」
「…一先ずの手配はこれ位か、後は建築士の手配が済み次第、運河の設計だな」
サイドルール様の一言により、今日の討議は一先ず終了しました。
現状出来る限りの手配は完了しましたし、取り敢えず後は殿下のサインでも貰って来て、早速お金を使わせて貰いましょう!
「これが取り敢えずの人員で、足りなければ都度補充を検討させてもらいますが、こういう感じですよ。
建築士15人
年間一人当たり銀貨80枚
30×80=2400枚 金貨24枚
石切り30人
年間一人当たり銀貨60枚
30×60=1800枚 金貨18枚
大工30人
年間一人当たり銀貨60枚
30×60=1800枚 金貨18枚
家事手伝い30人
年間一人当たり銀貨50枚
30×50=1500枚 金貨15枚
食料品及びその他
金貨2枚
合計金額、金貨77枚と、なります」
「高いのか安いのか、分からないけど分かったよ」
つまり俺の残りの資産は、金貨923枚ってことだ。
「はい、では此方にサインをお願いします」
「….いや、俺は文字まだ習ってないんだけど」
お前達があれから、忙しそうにしてるから、今日は飯の度にジオジークに絡まれて我慢、メルノーラ様にツンデレされ萌える。
その他の時間、部屋で寝る。
しかしてないんだ、文字を覚える事なんか出来やしねぇや。
「そうでした。取り敢えず私の真似して書いてもらっていいですか、時間ないので」
「おう、分かったよ」
ミナに言われるがまま、自分の名前を書類に書いてしまったが、一体に何に金貨77枚も使ったのだろうか?
明細書の文字が読めない俺では、その用途は使途不明であった。




