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11話

「はい、殿下。もういいよ〜!疲れたから終わり終わり!」


そんなリナの掛け声と共に、朝から行っていたダンスの練習が終わりを告げた。


「あぁ、了解だ。いいストレス解消になるな、ダンスってのは!」


昨日のアリア同様、リナも獣人化が俺の負担とならないのであれば、一緒に踊れた方が良いと言うので、今日も俺は戦闘の為ではなく、ダンスを踊る為に獣人化を行っていた。


「あはは!リナも久し振りに張り切って踊ったからお股が痛いよ」


「お前、すごく足上げたり下ろしたり開いてたりしてたもんな」


緩急をつけるタイミングなどで、俺にそれを伝える為か、大袈裟までの身振りで動いていた為に、リナの疲労は通常通りに踊るよりも激しいものとなったのだろう。


「…殿下に負けない様に体力つけなきゃ!」


「俺に負けないってのはチョット無理だろう。俺は獣人化してるしなぁ、まだまだ体力的には余裕あるぜ?」


そう言って俺と張り合おうとするリナに、俺が獣人化で上げ底していることを伝えると、頬を膨らましてそう答える。


「ぶぅーっ!ズルいよなぁ!それ!リナも獣人化したいよっ!教えてよ殿下!?」


「教えろって言われてもな、俺は普通に出来るからさ。って言うか前から思ってたんだけど、どうして獣人化って王族にしか出来ないんだ?」


教えろと言われたって興奮して気付いたら変身していたのだし、それ以降にしてみても、変身しようと思えば感覚的に獣人化になる為に、俺には誰かにその方法を教えることはできそうになかった。


というか、何故同じ獣人でありながらも、獣人化出来る出来ないがそもそもあるのだろうか?


そう思ってリナに尋ねてみることにした。


「へっ?何でだろうね?…神様、かな?」


「おいおい、獣人は神は信じないんだろ?」


獣人は基本、自身と自身より強いと思える者しか信じないらしい。

法力を使用できる者は、たまにマナを崇めていたりもするそうであるが…。


「そうだね、リナも信じてないし…。なら精霊?」


「…精霊ってことは、マナか?……あの変な声のヤツか、なんか関係してそうだな」


あの時の日本語を話すマナであれば、もしかすると獣人化出来る者と出来ない者の違いが分かるかもしれないな。


というか、あいつが関係してそうな気がする。


「変な声のヤツ?なにそれ?」


「…こっちの話だ。んー昼間ではまだ2時間位ありそうだけど、どうする?」


話を誤魔化す序でに、昼間での空き時間をどうするのかをリナに尋ねる。


「っあ、そうそう!リナやりたいことがあったの!殿下付き合ってくれない?」


明るくハニカミながらそう言うリナの表情が、昨日のアリアのそれと重なり、付き合ってくれという言葉の意味をそっちの方面のか?と、思ってしまい聞くことにした。


「何だ?まさかお前まで俺と踊りたいとか、好きですとか言うんじゃないだろな?」


「それ、ないない!」


「躊躇ないのな、お前!?」


すげなく断たれてから、リナに誘導されて訪れたのは、1月前に崩壊した俺の城跡であった。


「ジオラルド宮の跡か、…此処で何をするんだ?まだ瓦礫を退かしてないから危ないぞ?」


「お花をね、置いていこうと思って、日課なんだ、死んじゃった人に花とか贈るのを弔いって言うんだよ」


一瞬、リナが何を言っているのか分からなかった。ミナの話では瓦礫に埋れながらも持ち前の獣人特有の強靭な生命力で、全員軽症のみで死者は居なかったと聞いていたのだから当然だ。


「いや、此処で誰も死んでないだろ?皆、頑丈な獣人ばっかだったから助かったって聞いたぞ?」


「っあ、ごめんごめん殿下、違うよ。花を供えてるのは、リナの父さんと母さんにだよ!この瓦礫に埋れてもう何処にあるかも分からないけど、リナの使ってた部屋にね、両親の形見があったの」


両親の形見から…。そう言えばリナはミナ達より1歳下になるんだったな。と言うことは幼い頃に両親を亡くしていたということか…。


「…そうなのか、因みに何処ら変だ?」


「北側に6階建ての塔が合ったでしょ、そこの3階だったよ?」


「…ふむ、あそこら辺か?雨が一度降ったけど瓦礫の下ってなら解るかも、しれないか」


匂いさえ残っていればある程度の捜索は俺でも可能であるし、もし残っている瓦礫が崩れたとしても、獣人化していれば傷一つ負わずに済む。


なら形見くらいなら探してやっても良いだろう。


そう考えると、俺は直ぐに自身を獣人化させる。


「へっ?殿下なんでまた獣人化すっ「スッー!スッー!!ハァーッ!良し覚えた」んっひゃぁあ!な、何するの殿下?!リナを犯す気ッ!?」


獣人化してたことに何事かと近寄って来たリナの肩を掴み、その首元の匂いを嗅ぎ、覚える。


「…な訳あるかっ!危ないから呼ぶまで待ってろよ!」


リナの言葉にそう返答してから、瓦礫の上を跳ねつつ移動して北側の塔が合った場所まで来ると、瓦礫を退けながら逐一匂いを嗅いでいく。


とん、とんとん、とん!

「スン、スンスン!…スン!」


「…まさか、リナの形見を探してくれてるの?」


「スンスン…、おっ?リナの匂いだ!」


そんな事を幾度か続けていると、瓦礫を数十退かした後に、漸くリナの匂いが付いた服が出て来た。


その場所を中心にある程度大きな瓦礫を退かしてから俺はリナを呼ぶことにした。


ガラガラッ!


「おぉーい、リナ!?ちょっとこっちこーい?」


「殿下!見つかったの?」


「いやっ、まだ見つかってないけど、この辺りにあるんじゃねぇーか?ほら、この服とか、お前のだろ?」


「っあ!ホントだっ!」


ガラ!ドーン!!

「粗方、瓦礫は退かしたし、この床がもし崩れても、俺が何とかしてやるから、形見とかどうしても必要なもんだけは探して持ってけよ」


「うん!探すね!………合った!!このペンダントだよ!パパとママの形見!」


それから直ぐにリナの両親の形見というペンダントが見つかった。


「案外、簡単に見つかったな!じゃあ危ないし、部屋に戻るか」


「うん!ありがと!殿下に付き合って貰って良かったよ!もう諦めてたから!」


「こんな事で良いなら何時でも付き合ってやるよ」


瓦礫を何十枚と移動させた性か、腹が減っている。

木を眺めると其処には小鳥がいた。


「おっ、ちょっと待てよ!……ほれ、この小鳥も供えとくか?」


「…ううん、それはいいよ」


リナの両親のお供えになればと思い捕まえたのだが、要らないと言うのなら俺が食うか、と思って口を開けて入れようとすると、直ぐにリナに止められた。


「…そうか、なら俺があーっ「食べちゃダメ!」げっほぉッツ!?!ぁあ!俺の小鳥が??!リナ!恩を仇で返すなよっ!」


「…小鳥は食べ物じゃないよ!」


「うめぇーのに?!」


「美味くても!」


おやつに丁度いいのに、と内心で思いつつも、リナを怒らせる訳にもいかないので、小鳥を空へ逃がしてやる。


「ん?そういや腹減ったと思ってたけど、何時の間にか太陽がえらく高くまで昇ってるな」


飛び去って行く鳥を名残惜しく眺めていたことで、気付いた。


太陽の位置が随分と高くなっていることに…。


「あわわっ?!大変だよ殿下!昼食に遅れてるっ!直ぐに戻って準備しないと!行くこっ!!」


そう言って俺の背中を押して第一皇子の城へと戻って来ると、俺の部屋の扉の前で、ミナとサイドルールが腕組みして待っていた。


「「殿下ぁあ?!」」


そして案の定、怒っていた。


「よ、よう!ミナにサイドルール!待たせたな!直ぐに着替えて来るよ!」


そう言うだけ言って部屋の中に入ろうとするが、そこはミナが扉の前へ移動したことで断念した。


「もう!何処に行ってたの!心配したんですよ殿下!?」


「そうです殿下、リナ、お前も一緒に居たのなら殿下をお諌めしないか!」


そして空かさず始まるサイドルールとミナからのダブルお説教、昼食の時間が押している割りには余裕のお二人である。


「申し訳ありません、私がっ「ごめん!じゃあ直ぐに正装に着替えて来るから、その話はまた後でな!ほらっリナ手伝え」っえ?あ、あ!はい!」


そんな二人の身体を尾で扉の前から退かしつつ、リナの手を引いて部屋に入ってしまう。


そして扉の締め際にそれだけ言うと、扉を閉めてリナに着替えを手伝って貰う。


「…うっし!じゃあ飯を食いに行くか!」


「あっ!殿下!?」


直ぐに着替え終わり、部屋の扉から出ようとしている俺をリナが呼び止めて来た。


「ん?」


「リナの大事なペンダント見つけてくれて、ありがとうございました!」


そう言ってまた頭を下げて来たリナに、片手を上げて言う。


「おう!良いってことよっ!「良くない!着替え終わってるなら早く出て来てくださいよ!」ッツ!辛辣!辛辣!?頭を叩くな!さっきのとこ俺決めてたのに!?」


去り際にカッコ良く台詞を残して部屋を出ようとしていた俺の頭にミナのゲンコツが落ちてきた。


「決めるとか、それ以前に時間を守ってくださいっ!ほれっ!外でサイドルール様がお待ちかねですよ!」


サイドルールと食堂に着くと、そこにはメルノーラ様がまだ居り、扉から慌ただしく入ってきた俺を睨み付けて言う。


「…随分と待たせてくれたわね、ジオラルド?一刻半も遅れるなんて本当に礼儀を知らないんですのね!ジオジークは稽古があるので先に食べさせましたよ!さっ、早く席にお着きなさい!!」


「…まさか待っててくれたのか?メルノーラ様!?」


食べずに待っていた事に、俺が驚きながらそう言うと、彼女は心底、分からないといった風な雰囲気で答えた。


「…おかしな子、子供より親が先に食べてどうするのですかっ!つまらないことを言わずに早く着席しなさい!では、今日もジオラルドの作法を見てくれる様、頼みますよサイドルール」


「はっ、畏まりました」


サイドルールにテーブルマナーを見てもらいつつ、昼食を完食した後に、メルノーラ様と一緒に食堂の扉を出たところで話し掛けられた。


「…まあ、まずまずでしたわね。ですが少しナイフの使い方が荒い気もしましたわ。サイドルール、夕食の時はそこを見てあげてくれるかしら?」


「はい、畏まりました」


どうやら彼女も俺の食べ方に問題が無いか、きちんと見ていてくれたみたいだ。


「ふんっ!早くジオジークの様に美しく食べれる様になることね!そのままではナルニートの品位が疑われますわ!!!」


そう一見嫌味にも取れる台詞を残し、鼻を鳴らしてから早歩きで去って行ってしまうメルノーラ様を見送ってから、俺はサイドルールにまた思ったこと告げてみる。


「…いや、ホントいい人な。プリムローズ様」


「…ですな。私も正直歓迎はされていないと考えておりましたが、そうでもないご様子」


如何やらサイドルールもそう思っていた様で、俺の言への同意を返してきた。


「…まあ、部屋に戻るわ」


「はい、殿下。私も王家へ書を書かねば成らぬため、此処で失礼させて頂きます。ではまた夕食時に部屋にお迎えに参りますので…」


「あぁ、じゃあな!」


サイドルールと別れてから自室へと戻る道をゆっくりと歩いていると、廊下の曲がり角のところで、ジオジークが腕組みをして俺を待っていた様だった。


「…待っていたぞ、ジオラルド」


「……ジオジーク」


またか、まさか毎日絡んでくる気ではないだろうな?と内心呆れながらも彼の名前を呼ぶ。


「ふん!兄である私を呼び捨てにするか?随分と付け上がっている様だな?」


すると、俺に名前を呼び付けされた事が気に食わなかったのか、メルノーラ様と似た感じで鼻を鳴らすと、俺を睨みつけながら言う。


「…何なんだお前、文句を言うために俺を待っていたのか?」


「…ふん、お前と一緒にするな!私はお前の様にダンスだけを習っているという訳ではない。私が習っているのはジオラルド、貴様には必要のない帝王学だ」


「そいつは凄いな。では失礼」


あぁ、文句ではなく。自慢を言う為に呼び止めたのかと、内心で思いながらも、これ以上付き合っているのも面倒な為、軽く流してその場から去ろうとする。


「…誰が行って良いと許可した?話は終わっておらんぞ」


「だからなんだよ!用があるならとっとと言え!終いに「殿下、此方に居たのッ!すいません!お話中でしたか?」ッリナか、もう終わるよ。そうだろジオジーク?」


用があるならはっきりと言え!そう言おうとしたところで、リナが俺に声を掛けてきた。


そして俺がリナを連れて部屋の中に入ろうと、廊下の角を曲がろうとした時、ジオジークが俺ではなく、今度はリナを引き止めた。


「…待て!そこのメイド!もしやリナか?リナ・チターノか?!」


「……はい、第一皇子殿下。チターノは私の家名です」


ジオジークの質問に恭しく、そう答えるリナ、その答えを聞いたジオジークは驚きながら、更にリナに質問を問い掛ける。


「何故だ!何故、侯爵令嬢の貴方がジオラルドの世話役などについている?!」


「…何だ、どういうことだ?リナ、お前はジオジークと知り合いだったのか?」


「父と母が亡くなって、チターノ家は私の叔父が跡を継ぎました」


リナの両親が死んでいたことは知っていたが、彼女が侯爵令嬢だったとは知らなかった。


「そうだったのか、通りで婚約が突然解消されてしまった訳だ。だがまた会えて良かったよ。どうだろうかリナ、君が仕えるにはジオラルドでは役不足だ。もし君さえ良ければ直ぐに、僕の臣下へ加える様に手配を行うつもりだ」


「…あのっ、第一皇子殿下、それは…」


リナがジオジークの婚約者だったことに驚きつつ、こんな態度の悪い奴にリナをやれるか!と思った俺は強制的に話を中断させる。


「誰がやるか!リナは俺の世話役だ!行くぞ、リナ!」


「待てジオラルド!私は貴様に聞いていない!リナへ聞いたのだ!」


「お断りだって言ってんだよ!ほらっ、リナ来い!」


今度こそリナの手を引いてジオジークの横を通り過ぎると、ジオジークが怒鳴ながらそう言うも、俺はそれを無視して部屋へと戻る廊下を進んで行く。


「殿、殿下!?い、良いんですかっ!?あんな態度を第一皇子殿下に取ってしまって!!?」


「…たられば言ってもな、もうしてしまったしな。まあ、成る様に為る、それで良いだろ?」


やってしまった事に今更後悔しても遅い、どうせ結局は何時かこうなっていたことだろうし、それが早いか遅いかの差だけと思い返事を返す。


「そんな簡単なことではないです!貴族同士でもら仲違いすれば問題が起きます!王族が起こせば最悪、国が割れます!!?」


「……そこまでは考えてなかった件」


国が割れるとまでは、俺の想像力は働かなかった。


「…分かりました!私が第一皇子殿下の下に行き、取り計らってもらえる様に具申をッ「だから駄目だって、あいつは人を物としか見てない。そんな奴に知り合いを任せられるかよ!?」なら、どうするおつもりですかっ!」


「それを考えるのが、サイドルールのお仕事だ」


「そんな人任せな、こと」


俺の言に呆れながらそう答えるリナに、話を変えようと考える。


「っていうか、話変わるけど、リナって侯爵令嬢だったのな!?俺、内心ですごく驚いたぞ」


「…元が付きますけど、ね。今の私の身分は子爵位をチターノ侯爵家から拝命しています」


「…そうなのか、ミナは商家でカトナの家は男爵だったし、リナは子爵、ならアリアはなんなんだ?」


「アリアの家も子爵ですよ、殿下。…本当に良いの、今ならまだ間に合うと思うよ?」


「良いからっ!気にすんな!どうとでもする!最悪、皇子辞めても良いしな!」


「…もう聞かなかったことにします」


俺の投げやりな感じの言い方に、深々と溜息を吐きながら、リナは片手を額を当てて上を見やっていた。




side ジオジーク・ナルニート


初めてソイツを見たのは、父上と母上との3人でテラスで紅茶を飲んでいる時だった。


父上と母上がお二人で話されている間、視線をテラスの外へと向けた時だ。ソイツが10m近くはある壁を飛び越えて私の自宮へと降り立ったのは、最初は獣が迷い混んで来たのかと思いもしたが、良く見るとそれが人型の形を成していた事に気付き、侵入者だと悟った。


「っあ、あの父上、母上」


「どうしましたジオジーク?」


「ん、あれは…。そうか、もうあんなに成長していたのか!」


「陛下!侵入者です!御避難を願います!!」


「構わん、もしもの時は俺が対処する。お前達は其処で待機していろ」


「はっ!畏まりました!!」


背後からした物音に気付いた騎士の1人がソイツへと振り向き、驚きの声を上げると同時に警戒の体制を取った。


私はそれを見て安心した。

近衛兵達に囲まれてしまえば、もう逃げ様もないと判断したからだ。


後は粛々と侵入者が処分されるのを此処で高見の見物をしていよう。


「ッ!?何者だ貴様?!」


「子供?いや、亜人なのか?!」


6人の騎士達がソイツへと向き直り、警戒しつつ、何時でも剣を抜剣できるように構えている。


そしてその中央にて居るのが、私の直属の近衛兵隊長であるタノール・エタだ。


「答えぬか、ならばこの第一皇子近衛兵隊長タノール・エタが、貴様の体に直接聞いてやろう!」


「…第一皇子、近衛兵隊長」


タノールの言に然程の驚きをも表情に表さず、静かにそう繰り返すソイツ。


「ふん!今更此処が何処か解ったのか?そして貴様が対峙している男が誰か解ったか?…そう俺こそは王国騎士隊全ての中で最強の男、タノール様なんだぜ?」


「…クッキーくれ、腹減った」


自身が相対しているのが、王国騎士団でも最強と言われてるタノールであった事に怖気づいているのだろう。と思っていた私の考えは、次の刹那の間にタノールと一緒に吹き飛ばされた。


「馬鹿にしやがって!剣の錆にしてやるぜ!」


すれ違う様な自然さで行き違ったソイツとタノールの身体は、一泊置いてからその場に崩れ落ちて倒れ込んだタノールに驚きを隠せないでいた。


ドン

「…がっは?!な、何が起き」


バタン

『タノール様がっ!やられた?!総員で一斉に掛かるぞ!行けっ』


タノールが意識を失い倒れた直後、残りの騎士5人もソイツへと向かい抜剣して切り掛かって行った。


ズッゴァン!

『ーーー!ーー?!』


ソイツはそれを尾の一振りで騎士達を全員を吹き飛ばしたまま、歩みを止めずに私の居るテラスへと来る。


「……」


自然とソイツと目が合った時、その瞬間で私は悟った。


自分の力ではこいつには勝てないと、背筋に脂汗が滲む。


これが産まれて初めて体験した恐怖という感情であったことに、私はそれから数刻後に気付くことになる。


父上は何をしているのか?

どうしてソイツを野放しにしているのか?そう考えて父上へと視線を向けると、其処には面白そうな物でも見る様な視線をソイツに向けていた。


「…ジオジーク、此方へ来なさい」


ソイツがテラスの入り口から、此方の中に入ると、母上が席から立ち上がり、私を自分の元へと呼び寄せた。


私が母上の元へと移動する間、ソイツの視線は私を追う様に付いて来たが、私が母上の背へと隠れると、興味をなくした様に、その視線を父上へと戻す。


「………」


無言で視線を合わせあっている父上とソイツの瞳の色が、同じ色合いの瞳をしていることに私は気付いた。


「…クッキー頂戴?」


「なんだお前、これが欲しくて来たのか?」


ソイツが父上へと向かい、そう頼むと、父上は意外そうな顔をしてそう言いながら、クッキーを一つ手に掴み取ってからソイツへと渡す。


「うん、腹減ってる。だから食べる」


「っな!陛下になんて口の聞き方をっ!!」


「まぁ、待てメルノーラ」


母上は未だ警戒しながらも、ソイツの父上に対する態度が腹に据えかねたのか、そんな風に怒ってくる。


それは父上の手による静止と言葉でとめられた。


「しかし陛下、この亜人は侵入者ですわ!気を許して万が一、陛下の御身に何があれば…」


「そんなこと心配要らん」


「いいえ、陛下がお強いことは存じていますが、何事も警戒が「美味い!」っつ!何時の間に?!」


ソイツは何の音も気配もさせずに、何時の間にか私と母上の前へと来て、テーブルの上に合ったクッキーを手に取り口へと頬張っていた。


そんなソイツの様子を見て父上はというと、顔を楽し気にニヤけさせると、あろうことかソイツを両腕へと抱え持ち上げると、自分の膝の上に座らせてしまった。


「そうか、美味いか、よしっ此処に座れ、ほらケーキはもう食えるのか?流石に早いか?」


「陛下!?何を考えているのです!侵入者を膝の上に座らせるなど?!警戒心がなさ過ぎますわよ!」


再度、母上にそう苦言を言われたにも関わらず、父上はそれを気にしないことにしたのか、母上の声を無視してケーキをソイツに勧め始めてしまう。


「食べる、早くない!」


「そうか、ほら取ってやろう!」


「あむぅ、あぐぁむぅ!もっと食べる!ごっほ!ごほっ!!」


美味しさの欠片もない醜い食べ方、そして異様な程の喰らいつき方で食べている性か、口に入れた物をソイツは喉を詰まらせてしまう。


「はっはは!俺のカップでよければ茶も飲め」


「ありがとう!んが!んがんが!ごきゅん!」


喉を詰まらせて飲み物を飲もうとしたのか、ソイツは手近にあったティーポットを尻尾で取ると、そのノズルを口に咥えて紅茶を飲もうとした。


しかし、それは父上に止められ、代わりに父上が使用していたカップを渡されると、ソイツはティーポットを父上に押し付けると、カップの中に入っていた紅茶を一気に飲み干した。


「ジオラルド様ぁあっ!!ジオラルド様ぁあっ!ミナですっ!何処にいるんですかっ!?」


そんな時だった、近頃塀の向こうからよく聞こえて来るはしたない女の声がしたのは…。


また私の弟が何か悪さをしたのだろうか?内心でそう思うも、今はそんな状況ではない為、直ぐに意識を切り換えてソイツに視線を向ける。


するとソイツも、あの女の声に反応していたのか、ジオラルド宮殿の方へと視線を向けていた。


「ん、帰るのか?まだ食べたいなら俺が後から伝えておくから、居ても良いんだぞ?」


父上がそんな声をソイツにかける。どうやら父上はこの亜人の正体を知っている様だと、其処で始めて気付いた。


ソイツは父上の言に少し悩む様な表情を見せるも、突然、左右に首を振ると、父上の膝の上から飛び降りると、そのままジオラルド宮殿のある方の壁へと行ってしまった。


「は、ははは!あれでは獣人か猿か区別がつかんな。サイドルールから聞いてはいたが、まさか彼処までとは…。法力の勉強よりもまずはマナーの教育を先にさせようにと言っておくか」


その後、母上が父上にソイツの正体を訪ねた事で、あの亜人の正体が私の弟だと知った。


そしてさの更に数日後、繰り返し聞こえて来る破砕音の後に、ジオラルド宮殿が破壊され、グラノドワームが王都に現れたと知らされ、母上と共に城から王城へと避難した。


王城に着いたと同時にグラノドワームが討伐されたと知り、母上と共に避難しなくても良かったと話ながらも、安全の為に一夜を王城で過ごすことになった。


それからまた数日後、グラノドワームが完全獣人化をした第三皇子ジオラルドにより倒された事が分かり、周囲の貴族達がこれで次代も国が安泰だと語っているのを聞き、初めて自分の置かれている状況を悟った。


「…父上の跡を継ぐのはこの私だ!!」

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