5:シーナの答え
「私の夢……叶うの? まさか、魔法で?」
「もちろんよ。どう? 興味あるでしょ。」
魔女はにんまりと笑顔になりました。
あの憧れの歌手になれる。どんなに毎日夢見たことでしょう。どんなにつらいときでもその夢があったから、シーナは今までずっと笑顔で毎日をすごしていられたのです。
ちゃんと、シーナにもチャンスの女神は微笑んでくれました。
こんなチャンス、きっともう二度とめぐってきません。ですが、初対面で強引に話を進める魔女を、信じていいのでしょうか。シーナは今すぐにでも魔女についてきたい衝動に駆られましたが、目の前を大切な家族の姿がよぎります。もし私がこの家を離れたら、まだ自分で服さえ満足に着ることの出来ない弟や妹たちはどうなるのでしょう、そして家を任せて働きに出ている両親はどう思うのでしょう。
「あなたが悩むのは分かるわ。自分の夢か、愛する家族か。どちらかを選ぶということは、同時にどちらかを捨てなければいけないってことだもの。少なくとも、今のあなたにとってはそうね。」
魔女は優しい笑顔になり、シーナをいたわるように、そして誘うようにゆっくりと話します。
「だけど、あなたは分かっているはずよ。いままでさんざん人のために働いてきたんだもの。少しくらい、わがまま言っても構わないわ。さあ、“一人の人間”として、答えを出して。」
再び、魔女が近づいてきます。一歩一歩と距離が縮まるその姿から、シーナは目を離すことが出来ません。魔女の目は、よくみると美しいサファイア色をしています。吸い込まれてしまいそうな――
(綺麗……)
シーナは魔女の目を見て言いました。
「私、歌手になりたい。私を、世界中の人を幸せに出来るような歌手にして!」