3:不思議な魔女
つばの広いとんがり帽子に、ぽうっと光る星の付いたステッキ、腰まで伸びるまっすぐな黒髪。絵本からそのまま飛び出てきたような、誰がどこから見ても魔女と思ってしまうような風貌です。
「あなたがもう12歳だなんて、早いものね。」
魔女は昔からシーナをよく知っているかのような口ぶりで、ぺちゃくちゃとしゃべり続けます。
「あなたが生まれたときも、今日みたいに冷たい風が吹く肌寒い夜だったわ。あなたが生まれて私はどんなに喜んだことか。12年たった今もその興奮は冷めないの。……あなたはすべての人に望まれて生まれてきたのよ。」
シーナはパニックになった頭を懸命に働かせて、いろいろな考えをめぐらせました。何でここに魔女がいるのか、この人はいつからいたのか、もしかしたら魔女の衣装を着たママなんじゃないのか。
シーナがその答えを確かめようとする時間を与えようとせず、魔女の真っ赤な唇は動き続けます。
ひとしきりしゃべった後、魔女は一呼吸おいてシーナに近寄り、目を覗き込みました。マントと床がこすれる音と魔女の硬いヒールの音が、暗い家に響きます。
透き通った青色の、奥の奥のずっと奥を覗き込むようにして、まるで心のおくまで探られそうで、シーナは一歩下がりました。
窓枠に手がつき、かかとが壁につくくらい下がっても、魔女はその目をそらそうとせず、もっと追い詰めようとじりじりと近づきます。
魔女が現れてからずっと黙っていたシーナが、ようやくぐるぐると回っていた疑問を口にしました。
「あの、どちらさまですか? 少なくとも私の知り合いにこんな格好をした人はいません。」
いつもは優しいシーナの声も、このときばかりはきつく魔女を問い詰めました。
魔女は呆れたように、
「そんなの当たり前じゃないの。私があなたの前に姿を現したのは、今このときが始めてなんだもの。」
「それよりも。」
あと1ミリで鼻と鼻がくっつくというところまで顔を近づけ、魔女は続けます。
「シーナ、あなたやっぱりいい声をしているわ。怒った声も素敵よ。この声は、私のおかげといっても過言ではないわ。」
「質問に答えてもらっていません。」
「あら、こわいわね。そんなに問い詰めなくてもそれくらい答えてあげるわよ。私は……魔女よ。」
「ああ、やっぱり。……って、そういうことを聞きたいんじゃなくて。」
「そうね。一言じゃ言い表せない複雑な人物よ、私。」
「適当なことばかり言わないでください。」
魔女はいつの間にかシーナと少し距離を開け、怒っているシーナを楽しむように周りをゆっくりと歩いています。
「ところで、シーナ。」
ふいに魔女は立ち止まり、ひらりとマントを翻してその場で一回転しました。手に持ったステッキでシーナを指し、突如走った緊張感にシーナはごくりと生唾を飲み込みました。
「――歌手に、なりたいでしょう?」