夏に紡がれた甘いホラー
ホラーというにはあまりにアレな仕上がりです・・・ご了承を
ちりん、風鈴の音が涼しく響く。和風な家の縁側でその音を聞いていると不思議とまどろみを覚えるぼくは、そのまどろみの中でふと掛かってきた携帯電話の着信音に意識を移した。
「……はいはーい」
『あ、出た出たっ』
聞き覚えがないはずの軽く弾んだ同年代の女性の声を聴くと同時に、ぼくは小さく首を傾げた。
(誰だったか……? どこかで聞いたような声だな……)
相反する感覚だが、不思議と矛盾しない。いつでも聞きたいと思えるような声であり、愛おしさが胸に満ちた。
「はい、どちらさま?」
『わたしよ? わすれちゃった?』
「……悪い」
謝罪を込めた返事に帰ってきたのは、幾分落胆した溜息と割り切りを感じさせる微笑の気配だ。そして教えてくれた名前はやはり、どこかで聞いたような、聞き覚えがないような響きを持っていた。
ど忘れくらい誰にでもあるし、世の中には『気のせい』という言葉もある。多少の違和感など、この世界にはありふれているし、それら全てに答えを求めるだけの情熱はぼくにはない――そう考えて、ぼくは彼女を知り合いとして割り切ることにした。また、割り切ることに不満もなかった。
……ただ、この声がとても愛おしく感じられたのはなぜだろう? それほど大切な人ならば、忘れるはずはないのに。
「……ん。それで、どうしたんだ?
ぼくの率直な質問に、彼女は笑うように溌剌と告げる。
『あのね、また会いたいなって』
「会うって、どこで?」
『さぁ?』
さぁ、って……と呆れるぼくに、けれど彼女は楽しそうに告げた。
『きっとまた会えるよ!』
その言葉にぼくは何も言えず、ただ苦笑気味に「……そうか」と答えるだけだった。
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梅雨が明け、本格的な夏が到来した。名残のような、じめついた空気が町を覆う。だが、個人的には雨に打たれないことのほうが煩わしくない。
傾きかけた日の光は朱く彩られ、日中に温められたこの世界の熱が空に昇っていくありさまを眺めるようだ。そうして、昼間の名残は空へと昇り、夜の下地が完成するのだろう。
「はは」
今からイベントごとに参加するぼくは感傷的になりながら、少しはしゃぐように歩いていた。……彼女と出会ったのは、そんな時だ。
「あら」
「ん?」
見ず知らず――というわけでもない女性が一人、朱い世界にのまれるようにして道の真ん中に立っていた。そして、彼女はぼくに気が付くと往年の友人のごとく気軽に声をかけてくる。
その瞬間に、ぼくの胸には言い知れぬ充足感が去来した。恋愛というには熟しており、愛情というには精彩が濃い。
「久しぶり。また会ったわね」
「……だな。前に会ったのがいつだったか、覚えてないが」
一年以上見ていなかった気がする。以前会った季節さえも、定かではない。
「薄情ね」
そんなぼくの返答を冗談だと思ったのか、あるいは懐が大きいのか、彼女はからかうように「くすり」と笑いながらそう言った。
彼女のそんな仕草をみて、ぼくは昔の自分がここにいるような錯覚にとらわれる。
(……ああ、そうだ。彼女はこんな人だった)
以前会った時と、何も変わっていない。相も変わらず、ぼくの大好きな彼女のままだ。
そのことが懐かしく、そしてなぜかさみしかった。
(……?)
自分が不意に抱いた『さみしさ』の原因が分からず、ぼくは感情を持て余す。どうしてぼくはさみしいなどと感じたのか。
結局納得のいく理由も見いだせぬままに、その疑念を思考の底に沈めて彼女と言葉を交わす。
「この前、電話で言ってた通りになったな」
「そうね」
彼女は適当に言ったことが偶然起こったことような、楽しそうな笑顔を見せる。
ひょうたんから独楽だったのか? と素直に尋ねると、彼女は首を左右に振った。
「虫の知らせというやつよ」
「たしかに、最近虫が活性化してきたな。虫の知らせも起こりやすくなるか」
……夏だから、と鬱陶しさを隠そうともせず苦笑で答えると、彼女も苦笑で答えた。
そんな意味じゃあないんだけどなぁ……と言っているように見えるのは、きっと気のせいではない。
「……つまらないジョークを挟んだな」
「ジョーク、ね……まあ、頑張ってね」
センスがないと言いたいのだろう。自覚はしている
「来世に期待ねっ!」
――自覚しているが、ここまでぐっさり言われると、さすがに沈む。
ぼくの反応から余計なことを言ったと気をもんだらしい彼女に向けて、気を取り直して話を進める。
「……まあ、いい。ぼくは今から友達の誘いで肝試しに行くんだけど、一緒に行くか?」
「あら、いいの?」
彼女が目を軽く見開いて確認してくる――というのも、彼女とは偶然に近い個人的な知り合いでしかなく、ぼくの友人と彼女は例外なく初対面なのだ。
そのことを気に病んでいるのだろうと思いつつ、気に病むというには楽しそうな光が爛々としていることをうれしく思いつつ、ぼくは気負いなく答えた。
「ああ、かまわない」
もともと何かの集まりというわけでもないし、この話を持ちかけたの友人は心に広い門戸の持っている。問題ないだろうし、あってもねじ込めるだろう。
そう結論付けて、ぼくは彼女を連れ立って合流地点へと赴いた。
「んじゃ、行くか。墓地に」
急にできたお供を連れて、道連れとばかりに『肝試し』に向かった。そこには、まだ見ぬ恐怖が待っているはずだ。
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集合場所である墓地についたのは、すでに地平に太陽が沈んだ後だ。十分以上余裕をもって到着した現地にいたのは、二十近い男女だった。
そして、ここにはいないが、他にも驚かせる役の人たちが多数いるはずだ。そして彼ら彼女らはすでに持ち場についているのだろう。
「ん? おう、きたか!」
その中で一人、今回の肝試しを企画した代表が目ざとくぼくを見つけて近づいてくる。そして、当然のようにぼくの背後にいる彼女にも気が付いた。
「んっ? 急な参加者か? 友達少ないお前にしてはめずらしいな?」
「うるさい」
軽くからかいを含んだ挨拶に、そっけなく反発してそっぽを向く。
その反応に満足したらしい代表は、そのまま何も言わない。
「……で、参加できるよな?」
少ししてから、ぼくは折れたように彼に尋ねた。尋ねる、というより確認だったが。
そして帰ってきた答えは、当然のごとく「おーけー!」という了承だった。
「くく、お前が女連れてくるとはなぁ」
「うるさい」
すでに定型としたやり取りを済ませて、時間を待つ。
その間に代表は参加者のペアやソロメンバー、グループを整え、それぞれにペンライトを渡していた。むろん、ぼくも持っている。
墓地の場所は山のふもとにあり、通路を少しそれると森の中に入る。3つあるチェックポイントのいくつかは、そういった奥まった場所にあると事前に知らされ、各組ペンライト1本の所持を許可されていた。
「……暗くなったな」
そうひとりごちるほどに、闇は深くなっている。
そして夕日の名残さえもなくなってすぐに、イベント――肝試しは敢行された。
「れでぃーすえーんっじぇ……」
――と、ここまで言ってすぐに飽きたのか、開始のあいさつをしていた代表は「にやり」とわざわざ口で言ってまで笑うと――
「……今日は恐怖のどん底まで突き落としてやるぜぇ」
『シャレにならんっ!』
――非常に低くしわがれた声の宣誓で、参加者の恐怖をあおった。ご丁寧に、小さなペンライトで闇から顔を浮かび上がらせたうえで、だ。
「ともかく、始めるぜ! 一緒のやつはすでに決まっているな? てめえらの武器はそのペンライトひとつ! 役立たずにもほどがあると知れぇ!!」
『役に立たないのかっ』
一同の驚愕はそのままに、演説は勝手に締め切られ、間もなく初めのペアがスタートした――1分後。
『きゃああああああああ!!』
『!?』
まるで絹を裂いたような悲鳴が、闇の中をこだました。
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肝試し開催から15分後。すでに5組がスタートし、相応の数の悲鳴が上がっていた。
「さぁて……何があるのかな?」
ペンライトで順路を照らしながら歩く。ちなみにこのペンライト、指向性がとても強く設定されており、人ひとり分の足場を照らせるかどうかといったところだ。
「わたしはともかく、あなたは我慢できないんじゃないかしら」
大丈夫だろ、と気軽に答えたところで、歩くために照らした地面につぶれた顔が浮かんだ――
「ひっ」
すぐさまずらしたライトは照準を失い、乱雑に墓の間を照らし上げ、何かが一瞬浮かび上がる。
「…………」
一瞬浮かび上がった何かを無視して、まじまじと、通路の中心に落ちていた顔を改めて観察する。どうやらそれはシリコン製か何かの作り物を地面に、灰褐色のシートを敷いた上で塗料を塗った代物のようだ。即興品とは思えない、かなりの完成度だ。
真実を確かめると、ようやく落ち着いてきたぼくだが、落ち着いてくると次は先ほど見た『何か』が気になる。
ごくりと息をのむ音が自分の中に響き、それでも怖いもの見たさからか『何か』が浮かんだあたりを照らしだす。
「……っ」
――それは、千羽鶴のように折り重なった、卵大の血濡れの生首だった。
……そして、温度のないひんやりとした感触が首筋を撫でる。
「うひゃっ!」
「わっ!」
この時になって初めて隣で悲鳴が上がった。……悲鳴というにはあまりにつつましいものであったが。
急いで振り返ると、宙を舞う2つの……しらたき? その先を追うと、脅かす役らしき数人が釣竿をもって親指をサムズアップさせる……くっ、してやられたっ!
「……いくか」
「そうね。みっともなく声を上げていたものね」
「くっ……」
隣で余裕の表情を崩さない相方に、何も言い返せない。
……彼女の言った通りになったなぁ。
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第1チェックポイントは、散発的に並べられた電灯の真下で、そこには簡素な机とともに白装束の女性がいた。
「あ、ちょっと待ってねっ」
「……ええ」
幽霊役とは思えないほど明るく応対したかと思うと、チェックシートを受け取り、机に散らばる朱い水滴の様なものに親指を押さえつけて拇印を押した。
「んじゃ、がんばってっ」
快活に差し出された手を見てしばし逡巡したが、仕方なく握ると、ごとりとありえない感触が手に残った。
「……あれっ? 驚かないね?」
「虫の知らせというやつですよ」
「……それ、わたしの専売特許」
そんな何気ないやり取りをしたのち、再び通路を歩こうと前を向く……視界に浮かび上がるのは、青白い生首だ。
「うっ」
すぐさまライトで照らすが、その前に首筋を舐めるように何かがふれた。
あわてて振り返ると、チェックポイントの女性が至近距離に移動していた。
「う~ら~め~し~やぁ~……」
「~~っ」
言葉にならない悲鳴がのどをせり上がり、重ねて背後を責められて動揺を隠せない。
結局、生首の正体は、陰に隠れた黒色の服で白く化粧した顔を、ペンライトで浮かび上がらせたという単純なものだ。意識をチェックポイントに向けていたのが、あだになった。
その後、突き進むと看板が立ち、森の中にチェックポイントがあるという……といっても、すぐそこで、ペンライトで照らせる程度の距離だ。
そこにたどり着くまでの最短ルートのわきには、何人かが無言で、まるで生きていないかのようにたたずんで恐怖を煽ったけれど、特に何もなく次のチェックポイントへとたどり着く。
「きうっ」
そして、手をついたテーブルクロスの下は、スライムの水たまりだった。ぬめりとした手ごたえと、つるつるのテーブルクロスの肌触りが、背筋を泡立てるようなミスマッチを引き起こす。
「ふふっ……かわいい声ね」
「嬉しくねえっ!」
余裕を崩さない相方とは裏腹に、ぼくの精神はかなり摩耗している。
摩耗した精神のまま、再びチェックポイントでは握手を求められた。彼は先ほどの女性とは違い、手袋をしていた。
「……ひっ」
どうせまた手首が落ちるのだろうと、何気なく握った掌は、形容しがたくぬめぬめしていた。
種明かしとして、中にスライムを詰めているのだと彼は語る。体を張ってるなぁ。
……と、そこまで感心して、次へ向かおうとすると、ふと気が付いたように第2チェックポイントの彼はぼくたちに連絡した。
「……あ、ここから先は脅かす役いないから。気を付けてね」
「え、そうなの?」
「はい。一本道なので、迷うこともないでしょうけど。この先の慰霊碑の前にあるスタンプを押して、そこにある人形を持って来れば終わりです」
わかった、というと彼は「気を付けて」と優しげに見送る。
「…………」
隣に目を向けると、彼女は第3チェックポイントの方を、ガラス玉のように映していた。
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5分ほども歩くと、件の慰霊碑が見えてきた。
その前には話通りに机があり、そこにスタンプと悪趣味なドクロの人形がある。
「……っと、よし。これで終わりっ」
背後の彼女にも聞こえるように声を上げたが、何の反応もない。
先ほど――第2チェックポイントを通過して――から、彼女の口数は目に見えて少なくなっていた。
ついには気になり、ぼくは「どうしたんだ?」と彼女に尋ねた。
「……ここで、終わりなのね」
「ん? そうだけど……名残惜しいのか?」
惜しむように、感慨にふけったような口調でつぶやく彼女に、ぼくは尋ねる。
「名残惜しい……そう、ね」
ただ、彼女のつぶやきからは、名残惜しさは感じられない。どちらかといえば、悔しさ……だろうか。悔恨の念が伝わるようだった。それでも彼女はぼくの言葉にうなずいた。
「きっと、そう。名残惜しいのね」
「……まぁ、始まれば終わるのは自然の通りだ。仕方がないさ」
「……アハ」
「……っ?」
ひどく乾いた笑い声が彼女の口から洩れた。
そのあまりの味のなさ……いや、味をなくすほどの虚ろな笑い声に、僕は思わずぎょっとする。
「終わりよ、終わり! ここで終わりっ!」
「お、おい……? っ?」
彼女がぼくの手を握る。
両手で包み込むように。まるで枷をはめるように。
「アハ、アハハ!」
そのまま歪んだ笑いはこぼれ続け、狂ったように虚ろな笑いが場を閉ざす。
「おい……どうしたんだよ?」
ただぼくは何ができるわけでもなく、そう尋ね続けることしかできなかった。
……そして、1分ほどして虚ろな笑い声がやむと、彼女は狂気に歪んだ三日月形の笑みを浮かべて答えた。
「わたしはね、ここにいるの」
「ああ?」
慰霊碑を指さす彼女は、狂った笑顔を浮かべたままだ。狂った笑顔を、ぼくに向けている。
……なぜかぼくは、その笑顔に魅入られたかのように、目を離すことができなかった。
「もう、死んでるの」
あっけなくいわれたその言葉を、ぼくは理解し損ねた。それに気づいた彼女は、にぃっと笑って補足する。
「この慰霊碑は、昔あった災害の死者の慰霊碑……その災害で、わたしは死んでるの!」
高らかに声を上げる。絶望のない狂気の声を。
そして、彼女の掌に包まれたぼくは、その熱に浮かされるように――あるいは、その冷たさに引き寄せられるように、ぼうっとぼやける頭を自覚した。
ぼやける頭で、ぼくは「どうして」と疑問を挟んだ。
「きみは、どうして、ここに……いるの?」
死者であるなら、どうしてぼくの目の前にいるのか。
何がその奇跡を起こしているのか、ぼくはそれが聞きたかった。
「あなたが好き」
……そして、答えは明瞭だった。
「愛してる」
愛の言葉が、すぅっと心に溶け込んでいく。
「だから、いっしょに……帰りましょう?」
まるで兄妹で家に帰るように、気軽な調子で彼女は誘う。
ぼくはその誘惑に勝てる気がしない……勝とうとも、しない。
「……ごめん」
けれど、ぼくは断った。
どうして、と彼女は尋ねた。
優しく、甘く。真実の愛を囁くように、魅惑的に。
「ぼくは……まだ、生きているから」
だから、死ねない。死を望むことは罪だから。裏切りだから。
だから、死ねない。甘い死でさえ、受け入れられない。
「……そう」
彼女はわずかに残念そうな声を出した。
まるで、軽くお茶に誘って、それを無碍にされたような気軽さだ。
「……ごめん」
ぼくはその理由を知らない。彼女の心までは見えない。
死んでいる彼女が何を望んでぼくを死に誘ったのか、それを断られて彼女の胸に何が去来したのか。
……だけど、それはすぐに見えた。
「残念ね……今回もまた、終われなかった」
「え……?」
慰霊碑が淡く光り、光は強さを増し、彼女を呑み込もうとしていた。
彼女の体が光に溶け始め、そしてぼくの体もまた、光に溶け始めた。
「……え?」
呆けた声を上げるぼくに、彼女がいたずらに笑いかける。
「もう、あなたは生きていないの。わたしがあなたを愛したから。あなたがわたしを愛したから。……だからあなたは、ここにいる」
――その笑顔は、狂気に歪んでいた。そんな彼女すらも、ぼくには愛おしい。
彼女とぼくは、溶け合うように同じ光に溶けていく。いまだ状況が呑み込めないぼくに、彼女は言葉を補足する。
「……ここはわたしの夢の中」
謡うように言葉を紡ぐ。
「あなたもわたしの一部なの」
甘く、とろけるように甘く、彼女の言葉は耳朶を打つ。
「……生きていたあなたは、もうとっくの昔に死んでしまった。だからわたしは、あなたの魂を拾って、わたしたちをやり直しているの。何度も何度も、工夫しながら」
――それは、ぼくがここにはいないと。本当のぼくはここにはいなくて、ぼくは彼女の作ったぼくであると、そういっているも同然だった。
「…………」
ぼくは、だれだ……? 思い出せない。両親の名前は? 友人の名前は? 住んでいた町の名前は? ……思い出せない。
何もわからないまま、ただ彼女の声が優しく響く。……その彼女の名前も、ぼくは知らない。
「絶対、あなたを振り向かせてみせる……っ!」
「…………」
……いつだったか、彼女を悲しませたことだけが、ぼんやりと霞む記憶をよぎった。
けれど、霞む意識の中、自分という存在さえ消えかかっている今、そのことは大した痛みを僕に与えることはなかった。
「だから、また……もう一度、夢で逢いましょう? 今度は、すべてを投げ出せるほど、わたしを好きにしてみせるから」
――だけど、彼女がさまざまな理不尽を踏み倒して、ぼくと彼女のために頑張っているのは、なぜだか理解ができて……嬉しさに、胸があふれた。
「……あり、が……と、う」
その言葉に、彼女は少し驚いたようだ。その表情を見て、ぼくの頬はわずかに緩んだ。
……そして、ぼくは消えていく。彼女の中に、溶けていく。
「ふふ……おやすみなさい」
かすかな狂気さえもない、安らかな微笑みが――消えた。
――きみの夢で、また会おう。本当のぼくは、もういないのかもしれないけれど。
……そんな夢で、けなげに何度も頑張っているきみを見るのは、少し『さみしい』のだけれど。
彼らの「過去」「結末」などは、希望があれば書くやもしれませぬ
・・・どうしてホラーを書いていたら、こんな作品になったのか・・・っ