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エピローグ

 

 長らくお待たせしてすいませんした!


 

 




 目を覚ますとそこは村長宅の一室だった。あの時と同じような言い回しだが、しかし今回は違う。前回が敗北の結果ならば今回は勝利の結果である。ウィンドウを開いて見てみれば、レベルが一気に2レベル上がっている。夢じゃない。俺はあの黒い花を倒したのだ。……ついでにあの結晶も。村長に怒られるだろうなあ。呪い解いたから怒らないでほしいなあ。


「目が覚めたのですか?」


「ん?ラミか」


 うんうん唸っているとラミが部屋に入ってきた。手には桶と清潔な布。気を失っている間彼女が看病してくれていたようだ。


「どこか痛みませんか?」


「いや、むしろ調子がいいぐらいだ」


「それはよかったです。では父を呼んできますね。呪いを解いてくださったカイナ様にお話があるそうですから。まだお休みになりたいのでしたら明日にしますが、どうしますか?」


「構わないよ。呼んで来て」


「分かりました」


 ラミが部屋を出ていく。……ヤバいな。村長が話とか。内容は結晶壊した事だろうなあ。どうしよう。そういえばリオは無事なのだろうか。俺が結晶砕いた時も倒れてたし。生きてるのか死んでいるのか。でもそれだと俺をここに運んできたのは誰だ?村人か?俺達の帰りが遅いから探しに来たのか?


「おはようございます。カイナ様」


「体の具合はどうですか?」


 その疑問の答えはすぐに分かった。ラミが出ていってからしばらくして、村長とリオが入ってきた。リオを見る。特にひどい怪我をしているようには見えない。ピンピンしていた。


「おはよう。体は大丈夫。それよりもリオ。お前は大丈夫だったのか?」


「あ、はい。何故か知りませんが体の痛みが消えてて……。気が付いたらカイナ様も倒れてるし結晶も壊れてるしであの後。一体何があったんですか?」


 リオの問いに、俺は答えられない。自分もあの黒い花を倒した後すぐに気を失ったので彼が知る以上の事は何も知らなかったからだ。


 なので、リオの問いには曖昧に返し、なにか言いたげにしていた横に立つ村長に話しかけた。結晶を壊した事で怒られるのは仕方ないと腹を括り、村長の言葉を待つ。


「私達の村を救ってくださり、本当にありがとうございました。最早どうこのご恩を返せばいいのか分かりません。本当に、ありがとうございました」


 号泣だった。いきなり頭を下げられて号泣だった。もし子供達がいなければ床に這いつくばっていたかもしれない勢いだった。俺は予想外の事態に何も口にすることが出来ない。村長の言葉にはあまりにも感情が籠っており、偶然手に入れたスキルで簡単に……いや、一度死にかけたがなんとか村を救った身としては素直に受け止めきれない重さだった。


「……それで、カイナ様」


「うん?」


 それからしばらくして、一通り感謝の言葉を重ねてようやく落ち着いた様子の村長が声のトーンを変えた。


「壊した結晶の事ですが」


「う……、うん」


「私達は咎めません。村を救ってくださった貴女様を非難など出来ません」


「それは」


 それは無罪という事ですか裁判長!などと内心でふざける俺とは対照的に、村長はより声のトーンを下げて言葉の続きを口にした。


「私達は、ですが。注意してくださいね。神に仕える敬虔なる信徒が知れば、貴女様を神の名の下に処罰しようとするかもしれません。……くれぐれも、自ら結晶を壊したなどと公言しないでください」


「おおう……」


 なんということでしょう。あちらの世界のお母さん、お父さん。俺はどうやら前科者になってしまったようです。親不孝な元息子現娘をお許しください。いや、神殿壊した時点でアウトなんだろうけども。アレは後で直すからノーカンで。


「話は以上です。何かあれば遠慮なく言ってください。貴女様はこの村の英雄なのですから。皆喜んで応えてくれることでしょう」


「分かった」


 村長が部屋を出ていく。リオはその後を追わず、俺に向かって深々と頭を下げた。


「私からもお礼を言わせてください。……村を救ってくださり、本当にありがとうございました」


「ああ」


 それでは。と、リオは今度こそ部屋から出ていった。部屋に残されたのは俺一人。俺は向けられた感謝の言葉を反芻しつつ、ウィンドウを開いた。


「俺の力じゃないんだけどな」


 ステータスウィンドウが開かれる。そこにはレベルアップしたステータスと所有するスキルの一覧が表示された。この世界に来て手に入れた力であり、姿。以前の俺としての要素はこの記憶と精神のみ。そんな俺が成した事は純粋に俺のお蔭と言えるのかどうか。正直それを素直に受け止められるほど俺は単純じゃないし、また堂々とも出来ない。はっきりしないな。俺も。


「……ん?」


 ふと、ステータスに違和感を感じてウィンドウを動かすのを止めた。なんだこれは。こんなスキルを持っていたか?





 LV  5(+2)


・体力 10(+2)


・魔力 8(+2)


・筋力 21(+4)


・頑丈 9(+2)


・敏捷 9(+2)


・知力 7(+2)


・器用 11(+2)


・運  5(+0)



・所持スキル


【固定化】


【浄化】


【癒しの欠片】


【建材化】


【加工】


【特殊加工】


【計測】


【設計】


【演算】





 ……【癒しの欠片】?ウィンドウを操作してスキルの詳細を表示する。




 【癒しの欠片】


 女神の力の一片。強い治癒の力を得る。




 ふむ。回復スキル、か?どうして手に入ったのだろうか。レベルアップしたからか?それともあの黒い花を倒したからか?いや、まさか結晶を壊したから?……考えたら思い当たる節が多過ぎる。何やってるんだろうか俺は。


「……まあ、いいか」


 これ以上考えてもいい答えは出ないと判断し思考を断ち切る。それに理由など知らずとも回復スキルは役に立つ。今はありがたく思っておこう。そう結論づけたところで、ラミが部屋に戻ってきた。丁度いいところに。


「ラミ。頼みがある」


「はい。なんでしょう」


 ラミの献身的な笑みにミジンコ並みの良心が痛む。しかし痛むといえどミジンコ並みである。その先に得るものを思い浮かべれば遥か彼方に消え失せる程度だ。


「風呂に入りたい」


 俺は堂々と告げた。実は黒い花との死闘を終えて色々精神的にキツかったのだ。だから潤いが欲しかった。更にいうなら桃が欲しかった。ぱふぱふしたりはむはむしたかった。尚あくまでも精神の安定を図る為である。





「はふぅ……」


 俺がいなくても村人達だけでお風呂に入れるよう排水等の水回りを作り直していたお陰か、風呂場に着いてすぐにお湯に浸かれた。体の芯まで染み渡るようだ。


「カイナ様。お体を洗いますね」


「頼む」


 当然のように村の若い女性達も一緒である。さっきまで意識を失っていたからか自然と労るように数人がかりで体を洗ってもらえる。ここが天国か。男の無骨なそれでなく女性特有の繊細なタッチによる浄化。まさに至福。次第に体が痺れたようになってきて、ふわふわとした気分になってくる。これは凄い。前回は周りの桃にばかり目が向いていたが、こんな楽しみ方もあったのか。自分の体は視覚的に素晴らしいものとは分かっていたが、まさか触れられるだけでこうも気持ちよいものとは知らなかった。


「カイナ様」


「……んぁ?」


「これ以上は逆上せてしまいます。そろそろ上がりましょう」


「そう、だな……」


 名残惜しいが仕方ない。続きはまた明日にでもしよう。この気持ちよさを一回で終わりとかあり得ない。明日も存分に味わう所存である。


 風呂から上がるとラミに丁寧に体を拭かれ、子供用であろうワンピースを着せられる。似合うから別に構わないのだが男心は少々複雑だった。今更だが。


 そのまま一階の居間に行き、用意されていた朝食をいただく。相変わらずなんなのか分からない食材が使われているが美味しいので問題はない。


 食事を終えたら丁度リオに遭遇した。先程のしめっぽい感じがすっかり無くなっていて会ってもそこまで気不味くは感じない。


「もう歩いても大丈夫なんですか?」


「ああ。問題ない。それよりも神殿の事なんだが」


「神殿を作り直すんでしたよね?」


「うん。明日から始めようと思う。また案内を頼めるか?」


「はい。喜んで」


 眩しいぐらいのいい笑顔を貰う。明日からまたリオと神殿に行くのが楽しみだ。それから軽い雑談をし、俺はラミと一緒に部屋に戻って早めに寝る事にした。早起きは三文の得というが、早寝は何文なんだろうか。


 そんなくだらない事を考えながら眠りにつこうとしていた俺の耳に、唐突にあの聞き慣れた機械音声の無機質な声が届いた。




『新しい称号を取得しました』




 ……ふむん?そういうのもあったのか?





『取得した称号は【聖女】です。効果は……』





 まあ、いいや。


 眠いし。詳細は明日でいいや。


 ――次の日。俺はそれを今すぐ確認しなかったのを後悔する事になる。


 後悔先に立たず。


 先人は本当に為になる言葉を残したものだと俺は拍手を送りたい。





 




 

 読了ありがとうございます。


 

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