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破壊建築家

 

 ボス戦ッス。


 八話目。

 

 





 次の日。俺とリオはあの神殿地下の広間に繋がる階段の前にいた。互いに気合いは十分。俺にいたっては下準備も終えている。逸る気持ちを抑え、俺達は武器を構えて慎重に階段を下りた。


 門の前にある広間に無事辿り着くと、俺は昨日作っておいた秘密兵器を取り出した。それは光を反射し、広間を地上のように明るく照らす。……鏡だ。といっても、普通の鏡ではない。光を反射しているのはおよそ鏡の役割は果たさぬ木で出来た板。それが今回の要にして昨日発見した力の実験作だった。


 【特殊加工】


 形状以外の性質を加工する事に特化したスキル。性質とはその素材を構成する様々な要素を指し、それを本来の性質とは違う要素に作り変えるのがこのスキルの効果だった。例えば、岩の『重たい』という要素を『軽い』という真逆の要素に変えたり、木の『燃える』という要素を『燃えない』という要素に作り変えられる。これだけ聞くとメリットしかないように思えるが、当然そんなうまい話は存在しない。まず性質を変えるためにはその要素があり、かつ強い要素でなければならない。岩一つ取っても、『重い』という要素を更に強めるならまだしも、『軽い』という真逆の要素にするのは困難であり、『固い』を『柔らかい』にするのも大変困難だ。また、あまり強い要素ではないものを変えるのも同様。元から存在しない要素を素材に加えるのは想像を絶する。


 昨夜の内にスキル【特殊加工】で生み出したものは木の鏡。木にある要素の内、光を反射する要素を鏡として使えるレベルまで強化したものだ。どうやらこのスキル。何度でも重ね掛け出来るようで、やろうと思えば木の剣+99みたいなものも作れるだろう。凄まじく面倒だからしないが。【加工】スキルとは違って疲れるんだよ、これ。


 鏡の位置を調整し、光を泉にまで届かせるように軌道を修正する。間違って調整中に光を当てて失敗しないよう鏡には光を遮るための布を被せている。不完全な形で光を当てて手痛い反撃を受けないためだ。リオにも手伝ってもらい、さほど時間もかからず鏡の設置は完了した。後は鏡を覆っている布を取ればそれだけで黒い花は倒れる。


「行くぜ」


「はい」


 互いに頷き合い、二人で鏡を覆う布を引き剥がした。それは声無き絶叫だった。軋むような、掻き毟るような、聞くに耐えない悲鳴。しかしそんな末期の声も小さくなっていく。呆気ないものだ。そう思った俺の油断を嘲笑うかのように、泉から何かが飛んできた。否、伸びてきた。それは紫色の花弁を撒き散らし、焼き散らかしながら向かってくる。焼かれながらも牙を剥く敵に一瞬不意を突かれたものの、しかし俺は事前に考えていた『もしも』の準備に感謝していた。


「さっさと……」


 アイテムボックスから石の槍を取り出し、体を目一杯反らせてポーズを取る。


 そして、


「くたばれ雑草が!!」


 投擲。


 あまり投げるのは上手くはないが、あちらから当たりに来るようなこの状況なら問題はない。石槍は紫の花弁に囲まれた無数の目の中心を貫き、黒い花に止めを刺した。これで呪いは解かれた。そう、終われば良かったのだが……。石槍は花を貫いて尚勢いを止めず、そのまま泉へと直進し、ずん。という音を響かせて結晶に突き刺さった。


「あちゃあ……」


「え、あ、え……!」


 慌てて近寄ってみるが、石槍が結晶に突き刺さった事実は変わらない。


「なんて事をしたんですか!?」


「いやあ、ごめんね?」


「ごめんで済む話じゃないですよ!どうするんですか!なんで槍なんて使ったんですか!その手に持ってる槌で良かったじゃないですか!」


「つい、気持ち悪くて……」


 あの造型の花を直接叩き潰すなんて考えただけで背筋がぞわっとする。ぞわっと。あんな気持ち悪いのなんて視界にも入れたくないし触れたくもない。そんな物体が近付いてくるのだ。普通に恐怖だ。例えるなら黒い悪魔Gが顔面に向かってくるような恐怖だ。漏らさなかっただけ良かったと思える。それに、その結晶は直せるかもしれない。俺のスキルであればなんとか。


「まあまあ、とにかく抜こうぜソレ」


「あなたが刺したんでしょうが……」


「あはは」


 リオが槍に手を触れる。そして、その後の展開は俺の予想を超えていた。リオが黒い鞭に叩き飛ばされて壁に叩きつけられる。思わず硬直する体を、黒い嵐が跳ね上げる。何故。既に元凶は倒した筈。結晶には、いつの間にか黒い根が絡みついていた。


「ぐぅっ!」


 それがなんであるのか。理解した瞬間に俺は武器を結晶に向けて投擲していた。即座に根に弾かれてあらぬ方向へと飛んでいく石槌。飛ばされた石槌への未練をあっさりと断ち切り、俺はアイテムボックスから新たな武器を取り出すと上段に構えたまま落下する。


「ッハアアアアア!」


 覇気に満ちた声が喉から漏れる。手に握る武器の重さに引きずられるように、俺は武器を結晶に降り下ろす。内心の混乱など全く感じさせない一撃。しかし、やはり黒い根に弾かれて結晶には届かない。


 なんだ今の動きは。火事場の馬鹿力。又は生存本能に突き動かされた攻撃本能。とにかくその一瞬の攻防は本来の俺では到底不可能な動きだった。半ば無意識に行った行動だったせいか次同じ事をやれと言われても無理としか言えないが、アレは確かに、正しく戦う者の動き。元は一般的な高校生だった筈の、生死をかけた戦いなど知らぬ筈の俺がしてしまった生存闘争。


 思わず俺は自分がやった事に呆然としかけたが、すぐに我に返ると復活した黒い花から距離を取る。今ゆっくり悩む暇はない。それを考えるのは後だ。


 黒い花を見る。やはり完全に復活したようだ。何故復活したのかは分からないが、多分あの結晶から力を得たのだろう。ゲーム的には見慣れたパターンだ。……そうなると、あの結晶を破壊するか再生限界を迎えるまで倒し続けるかしか取れる選択肢がない。リオを見る。彼は飛ばされた後ピクリとも動かない。死んだのか。それともまだ生きているのか。どちらにせよ、彼を助ける余裕はない。


 黒い根が薙ぎはらうように振り回される。俺はアイテムボックスに今持っている武器の石槌を戻すと新しく石斧を取り出して根に向かって力一杯振るう。ズバン。黒い根が半ばから切断される。が、しかし、次の瞬間には再生する。……切断してもすぐに回復するのか。俺は石斧をアイテムボックスに仕舞い、石槌に持ち変える。ならこれはどうだろうか。再び振るわれる根に石槌を降り下ろす。


「ふむ、予想通り。かな」


 根をピンポイントで狙い打ちし、そのまま石槌のピッケル部分で地面に縫いつける。床を砕くほどの力で叩いたお陰か根がどれほど暴れようがびくともしない。こういう感じで倒す敵か。なるほど。


 感覚が麻痺してきたのだろうか。ゲームのような感覚と、肌に感じる殺意。冷静な思考とみなぎる活力。それぞれが絶妙に体を動かして、俺はまるでゲームの主人公のように戦闘・・をする。


「……ふぅ」


 次々に根を地面に縫いつけていく。なんだ。こんなものか。現実の死を見せつけられて動揺していたから見えなかった動きが、今は簡単に捉えられる。根が四方八方から迫ろうと、上から雨のように降ろうが、よく見ていれば対処出来る。なんだこのぬるげーは。なんだこの雑魚は。なんだこの世界は。俺を馬鹿にするのもいい加減にしろ!


「……なあ、お前は分かるか?」


 根を全て地に縫いつけられた黒い花に俺は問いかける。答えは当然ない。俺は、手に握る石槌に【加工】を発動する。スキルによって石槌の姿は普通の、サイズ以外は普通の石槌へと変貌する。それを俺は持ち上げ、まるで野球選手のバッターのように構えた。


「こんな世界に連れてこられて、名前を消されて、こんなちんまい体になって、死にかけたりして、小便チビった俺の気持ちがさあ」


 黒い花の目を射抜くように睨み、俺は渾身の力で石槌を振り抜いた。


「ふざけんじゃねぇよ!!」


 石槌が狙うのは結晶。そこに突き刺さる石槍の石突き。それを釘を打つ要領でぶっ叩く。結晶に亀裂が走り、石槍が結晶を砕いた。澄んだ音を響かせて砕け散るのに合わせて、黒い花も焼け落ち、灰に帰す。そういえばまだ光は花に当たっていたのだったか。大方焼けるそばから結晶の力で再生していたが、結晶が砕けて消えた事で再生が出来なくなり、あっという間に消し炭になったという事らしい。結晶を砕いて正解だったな。ホント。


『レベルアップ!』


 唐突に視界にそう表示されるが、ウィンドウを開く気力が湧かないので無視する。というか、体が動かない。軋むような、千切れるような痛みが全身を走っている。なんだこれ。どうして。何が。俺は訳も分からず地に崩れ落ち、泉に身を投げ出した。






 

 

 次回、エピローグ。


 ※完結しません。

 

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