初めてのお風呂
……何話目だっけこれ?
村に着くや否や村長に話をつけ、俺は念願の風呂作成に取りかかった。作る場所は村長宅の裏口。そこに短い通路を繋げ、結構大きな長方形の建物を作り、その小屋を更に中で脱衣所と浴場の二つの空間に分ける。その時に床を五十センチ高く作り、通路を緩やかなスロープ状に修正。所々細かい部分を考えながらなので作ったり直したりしながらも概ね順調に作業は進む。材料はたっぷりあるので多少の無茶も問題ない。
脱衣所には壁一面に棚を作り、籠や桶などの小物類もついでに備え付ける。最後に休憩用のベンチを作り浴場の方へと移る。浴場となる部屋の真ん中の床を大きく四角く取り除き、そこに岩で作った浴槽をはめる。あらかじめ排水用の溝を掘り水路を用意してあるが、【浄化】があるので本当なら排水もその為の水路も必要はない。だが村人達の事を考えると必要になるだろう。別に作ったからといって専用にするわけでもないのだから。誰にでも使えるよう作るべきだ。そうなると水を入れるための仕掛けも必要だが、今日は俺が入るので今のところ風呂の水を入れ換える必要はない。後で暇な時にでも付け足そう。
石焼き風呂にしようと思っているので外で適当に【加工】で作成した石を焼く。浴室の方に扉を作り、開けたらそのまま焼いた石を入れられるようにした。一応、浴室に直接繋がる扉なので覗き防止の為に石を焼く場所と一緒に背の高い柵で囲んでおく。これで後は石がしっかりと焼き上がるのを待つだけだ。
夕食を終えると早速湯船に水を注ぎ、焼いた石を投入。お湯が丁度いい温度になったら湯船の底に簀の子を敷き、準備完了だ。一旦ラミを探しに村長宅に戻る。折角作った風呂だが一人で入っても意味はないのだ。皆で入らなければ。そう、皆で。具体的にいうと魅惑的な果実達と一緒に入ってこその風呂である。異論は認めない。
「ラミ。一緒に風呂に入ろう」
「お風呂、ですか?この家には無かったと思いますが」
「さっき作った。最初は女子供に入らせたいから手が空いている人達を呼んできて」
「分かりました。では集めるのでお風呂の場所を教えてもらえますか?」
「裏口に集めといて。そこで待ってるから」
そう言い残してその場を去る。どんなメンツが揃うか楽しみだが、俺が作ったと言ったら疑問に思うことすらないとか俺は一体どんなふうに見られているんだろうか。聞いたら立ち直れそうにないから聞かないようにしよう。うん。
「カイナ様。今動ける村人は大体集まりました」
「おう。じゃあ行こうか」
裏口でしばらく待っていると、ラミの他に数名の女性と子供達が若干浮わついた様子で集まってきた。皆初めてのお風呂に興奮を隠しきれてないようだ。俺もその果実を拝める瞬間を待ちきれなくて大興奮だ。
裏口の扉を開く。扉を開けばそのまま浴場に続く廊下があり、そこを進めば脱衣所。その後はいよいよ桃源郷である。しかし今失敗をすれば全てがパーだ。俺は猛る衝動をなんとか抑え、堂々とした態度でラミ達を案内する。そして脱衣所にて素早く脱衣。興奮と緊張に全身の感覚が鋭敏に高まり、もはや思考もまともに動いているのかどうかも分からなくなる。だが俺は足を止めない。ここで歩みを止めたら何のためのお風呂だったのか。ラスボスに挑む勇者の如き気迫を纏っているかのような気分で俺は扉を開いた。……いざ、理の果てへ――。
……満足だ。最早我が人生に一辺の悔いなし。ラミさん。意外に着痩せする質なんですね。ご婦人さんも中々ご立派で。正直バーストしかけましたよ。やりますね。いや本当に。こんな楽園を見てしまったらもう男の子に戻れないかもしれません。あちらの世界のお父さん、お母さん。私はこの世界で女として生きていこうと思います。息子は今日をもって娘に生まれ変わります。
「お風呂気持ちよかったです」
「そうだな……。本当に気持ちよかった……」
「またお風呂に入れてもらってもよろしいですか?」
「ああ。何度でも一緒に入ってやろう」
お風呂の後、しばらくふわふわとした気分でいたがようやく頭がしっかりとしてきたようだ。頭を占めていたおかしな思考をクリアにし、ラミとまたお風呂に入る約束をして部屋に戻る。明日に備えて横になるがお風呂での光景を思い出すと今日はもう眠れそうにない。ギンギンだ。明日の神殿解体に差し支えるかもしれない。そう思っていていたが、いつの間にか俺は朝日を浴びていた。どうやら眠っていたらしい。軽く体を動かしてみるが体調に問題はないようだ。
それからしばらくして、呼びに来たラミを見て昨夜の光景がフラッシュバックするが意思の力でねじ伏せ、澄ました顔で対応する。朝食の席で村長とリオにもお風呂を勧めてみると意外にも喜ばれた。どうやらお風呂で喜ぶのは女性だけではないようだ。
朝食を終えたら村長宅の前でリオと合流し、神殿へと向かう。もう慣れたルーチンワークだ。森の中をサクサク進み、神殿に着く。地下の迷路への入り口を前にしばらくどうするか考える。普通に攻略する気はないので正確にはどう破壊するかを考えている。昨日の破壊兵器では横にしか打てないので真下への破壊は難しい。高い塔でも作ってそれを高所から叩き込むか。はたまた入り口を埋めて物理的に障気を閉じ込めてしまうか。一体どうしたらいいのだろうか。
結局、太陽が真上に来た頃にようやく妙案を思いついた。俺は早速とばかりに昨日と同じような巨大な破壊兵器を作り出す。しかし昨日の物とは違い、巨大な滑り台の先をねじ曲げながら伸ばす。丁度ジェットコースターの宙返りするコースを中途半端に再現した形だ。あまりに巨大になり過ぎて一つ作るのも容易ではなくなってきたが、それでも相応の威力が見込めるのである程度の苦労は仕方ないだろう。リオと一緒に滑り台の天辺に立ち、弾丸を生成する。
そして石槌を構え、弾丸を押した。加速する弾丸。神殿地上部分ほぼ全ての石材を使った兵器は途轍もない力を生む。頂点から底辺へと移動した弾はピークに達した運動エネルギーをそのままコースを進む力へと変える。そう、中途半端に再現したコースを。宙を舞うかのような勢いで弾丸はコースを進み、そして宙返りの頂点から底辺の丁度真ん中の高さで直線コースになっている部分を通り、膨大なエネルギーを抱えたまま猛進する。すなわち、真下へと。
どごおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
地を貫く巨岩。地下への入り口があった場所は弾丸により完膚なきまで破壊される。その影響は周囲にもおよび、破壊兵器の射出部分が地面の崩壊に巻き込まれて倒壊した。巻き添えを防ぐために【加工】を使用し、巻き込まれた射出部分を切り離して事なきを得る。大分後になってようやく崩壊が収まると、俺は直ぐ様滑り台を滑って現場に向かう。
崩壊の影響が周囲にも及んでいるので注意をしながら回収を開始する。地下入り口部分はどうやら完全に崩壊しており、階段も瓦礫の山に変わっていた。破壊の痕跡からここにもう一度破壊兵器を使ってもあまり効果は望めそうにない。ここより更に深い階層が存在しないようなのでこれ以上は横に範囲を広げて破壊していくしかないようだ。
破壊兵器の射出部分を再構築する。今度はまた普通の滑り台タイプに戻し、滑り台の先はぽっかりと空洞を晒す穴の中に作り出す。地下なので地上部分のように上手くはいかないだろうが、それでも効果は少なくないだろう。滑り台を四苦八苦しながら登り、頂点に着いたら再び弾丸を生成する。そして発射。さっきので地盤が脆くなっていたのだろう。意外にも弾丸は予想以上の効果を発揮して地下を蹂躙する。地下の規模は分からないが、仮に地上部分と同じ面積ならかなり削る事が出来た。これなら後何回かこれを発射すればそれで神殿解体作業は終わりだろう。ただし、今の規模の破壊兵器を一々場所を変えてしなければいけないので一日では到底無理だろうが。
破壊兵器を回収したらもう今日の作業は終わりにしよう。時間もあまり残っていないし、村に帰ったら野郎共の為に風呂を用意しなきゃならんしな。自分で言っといてなんだが本当に面倒だ。
次回。呪いの元凶。