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神殿探索

 

 三話っす。

 

 




 朝食を終え、軽く村長達と雑談をした後村長宅の前に行くとリオは既に待っていた。腰には鉈、左手には木の盾があった。それ以外は他の村人と変わらない装備だが小槌に半袖半ズボンの俺が言えた話ではない。話をしてみるとやはり素直な青年だった。好感が持てる。流石に恋愛対象にはならないが。


 リオの案内で森に入り、神殿を目指す。森の中に入るとやはり障気汚染の状態異常にかかる。俺もリオも。すぐに浄化してまた状態異常になり、浄化してと村にいた頃よりも早いペースで障気汚染にかかりやすくなっている。これは神殿で確定だろう。


 歩いているとスライムが現れた。相変わらずねっとりしているが小槌で叩いたら即死だ。足止めにもならない。それからもスライムが何匹か現れるが、結果は言うまでもない。むしろ障気汚染のほうが厄介だった。


 リオの話では普段はスライム以外の魔物もいるらしいが、今のところスライムオンリーのエンカウントバトルしかない。スライムキラーカイナ。ここに見参!……ないな。


 それからしばらくして、件の神殿に辿り着いた。封鎖されたとは言ってはいたがそこまで状態は悪くない。少しばかり雑草が生い茂っているが手入れをすればすぐにまた使えるだろう。思ったよりも状態がいいので少し中に入ってみようか。


「ちょっと見てくる」


「お供します」


 リオと一緒に中に入るとそこは、神々しい光に満ちた荘厳な石造りの通路が――、ない。毒々しい花が咲き誇り、荘厳な石造りの通路は禍々しく、黄泉路へと続いているかのよう。まるで魔王の住まう城の如き様相だが、ここで退いてはなんのために来たのか分からないので意を決して前に進む。


 神殿内通路は真っ暗闇ではなく、どこからか光が入っているのか少し暗い程度で注意して進めば問題はなさそうだ。通路の両端には水路があり、それが外に繋がっている。近付いて見てみるとやはり障気汚染水で、神殿の奥から流れてきているようだ。こうなると元を断たなければ意味がないな。めんどくせぇ。


 更に通路を進むと、通路の先に人影が見えた。今でも誰か出入りしているのか?


「誰かいるな」


「ええ、声をかけてみますか?」


「そうだな」


「おい!そこにいるのは誰だ!」


「……」


 リオが声をかけるが返事は返ってこない。何だ?まさか盗賊とかそういう類いの輩か?小槌を構える。リオも鉈を構えて人影を睨んだ。


 人影がひたひたとこちらに向かって歩いてくる。裸足?益々友好的な存在という線が消えてくる。というか人間ではない可能性が高い。


「……ゴブリン」


「ゴブリン?」


 はっきりと見える距離まで近付いてきてようやくその存在が何か理解する。リオの呟きを聞き、目を凝らすと確かにその人影はゴブリンだった。醜悪な小人のような魔物。手には荒削りの棍棒。およそ万人のイメージそのものの姿に俺はいつの間にか強く小槌を握り締めていた。


「一旦退きますか?」


「いいや、戦うぜ」


 俺の様子を見てリオが心配そうな顔でそう進言するが、ゴブリン如きに逃げたらこの先どう戦えばいい?当然その意見は受け入れられない。俺は威勢よく啖呵を切って小槌を構えた。


「ギギィィ!」


「よっと」


 奇声を発して突撃してくるゴブリンを余裕を持ってかわす。落ち着いて見ていれば十分対応出来る。初めての人型だが他のVRゲームでは何回も倒したモンスターだ。行動パターンが違っていようが出来ることは現実だろうとほとんど変わらない筈。


「っらああっ!」


「ギ」


 そして突撃攻撃なんて技を使ったら必ず隙が出来る。そこを俺は頭を狙い澄まして小槌を降り下ろす!


 嫌な感触が手のひらに伝わる。ゴブリンは声を上げることも出来ずに崩れ落ちた。何ともいえない感じだ。これからは人型の魔物とはあまり戦わないようにしよう。


「大丈夫ですか?」


「問題ない。次行くぞ」


「無理をなさらないよう。貴女様は私達の恩人なのですから」


「おう」


 リオの言葉を適当に聞き流して神殿探索を再開する。少なくともまだ終わるわけにはいかない。せめてもう少し奥まで様子を見てくる必要がある。俺はゴブリンの血が着いてしまった小槌に【浄化】を使う。一瞬で汚れがとれて綺麗になった武器を強く握り締め、俺は進む。





「……」


 それから一刻もしない内に俺達は帰路についていた。原因は単純明快。武器である小槌が壊れた。何匹目かのゴブリンをぶっ潰した時に柄がぽっきりと逝ってしまったのである。素材が木なのでいつか折れるだろうとは思ってはいたのだが、まさかこんなに早く壊れるとは思いもしなかった。その折れっぷりは見事の一言で、思わず感動してしまった。流石に武器もなしに魔物と戦おうとは思わないので、リオに言われるがまま村へと向かっている。代わりの武器のあてをリオに聞いてみたが、対魔物用の武器なんて村にはないと言われた。俺はこれからどうすればいいのだろうか。こんな時生産職のスキルでもあれば自分で作るものを。なんで俺のは建築家なんだよ。おかしいだろ。


 迷惑にも愚痴をぶつぶつとリオにぶちまけながら村に戻ると、なにやら村が騒がしい。思わず目の前を通った微妙に覚えているような覚えていないような村人に声をかける。というか何故外にいるのだろうか。


「おい。何があった」


「ああ?何がって……。カイナ様!それにリオも!よくぞ帰って来てくれました!」


「ん?」


「また呪いにかかった村人がいるんです!」


「まさか外に出たのか?」


 昨日の内に村長と雑談しているついでに注意していた筈なんだが。状態異常を治したとはいえ外に出れば元の木阿弥なのに。


「それがどうしても外に出なければならない用事がそれぞれありまして……。深くお詫び申し上げたい」


「分かった。なら呪いにかかった奴も今日外に出た奴も皆集めろ」


「はい!すぐに集めます!」


 村人はそのまま村長宅に走っていく。俺達はその後ろ姿を見送り、疲れが一気に返ってきたような気分でどちらともなく歩き始めた。


 夕食の席で村長を問いただす。今日のは流石に容認できない。外は危ないのに、それも俺がいない間に外出させるとはどういう了見だ。


「それがですね……」


 村長の言い分はこう。村人の中でも回復の早い奴らが長い間空けていた家が心配になって外に出たのが半分。村長の家にある窓を塞いだり壊れた箇所の修理で残り半分だそうだ。前半はともかく後半は俺に言えよ!持ちたくはなかったが建築家のスキルを持ってんだからさ。……そう言えば持っていることを一言も言ってなかったか。なら仕方ないのか。とりあえず俺が家の修理をすると強引に決定し、何か武器はないかと聞くもリオの時と同じくいい答えは返ってこなかった。ちくしょう。


 夕食を終えると、早速村長宅の修理を始めた。建材に変えるスキル【建材化】、建材を加工するスキル【加工】、特殊な加工をするスキル【特殊加工】、サイズを測るスキル【計測】、設計するスキル【設計】、高度な計算を高速で処理するスキル【演算】。まず【計測】で破損箇所を測り、【設計】と【演算】で設計図を作り上げる。【建材化】で木材を建材にし、【加工】を使って設計図通りに形を加工する。そして組み立てて完成である。


 まるでパズルのような感覚であっという間に修理が終わってしまった。初めて建築家のスキルを使ってみたが、この手応えから他にも材料さえあれば建材以外も何か作れそうだ。後で村長から余った木材を貰って色々試してみよう。





 次の日。村長から貰った木材でスキルの練習をした後、ついでに壊れた小槌の代わりになる武器を作成した。丸太のような大きさの叩く部分に一メートルはある柄。見た目は壊れた小槌を巨大化して柄を長くした木槌だ。重量は高い筋力のせいかまだまだ軽いぐらいだが、威力は昨日の小槌とは比べるべくもないだろう。


 昨日と同じようにリオに案内を頼み、神殿探索をする。新しい武器である木槌が頼もしい。神殿内の魔物を狩り尽くす勢いで戦闘を繰り返す。ゴブリンの相手はもう慣れた。今ではポコポコゲーム感覚でいける。流石に直視は無理だが。


 今更だが神殿内は迷路のようでとても入り組んでいる。昨日探索した通路を進んでいる筈がいつの間にか見覚えのない場所に来ていたりと頻繁に迷ってしまう。リオがいうには信者の修行の場でもあったらしく、この迷路はその時からあったものらしい。迷惑な。


「今日はもう帰ろうか」


「そうですね」


 リオに声をかけ、今日の神殿探索は終わることにした。迷路ですっかり集中力が切れてしまった。これ以上は無理だろう。


「ん?」


「どうしました?」


 通路の帰り道。ふと壁を見るとブロックが崩れて地肌を晒している箇所を見つけた。妙に気になって近づいてみると石のブロックが幾つか通路に散乱している。


「管理する者がいないので壊れたままなんでしょう」


「ふむ……」


 ブロックを手に取ってみると意外に軽い。ステータスの恩恵だろう。じっくり観察していると、ある事を閃いた。


「カイナ様?」


「……【建材化】」


 建築家のスキルを発動する。するとスキルはあっさりと成功し、石のブロックは建材アイテムになった。他のブロックにも試してみると、全て建材アイテムに出来た。


「これは……」


 まさか。そんな確信にも似た疑惑を胸にまだ壊れていない壁にスキル【建材化】を発動する。するとどうだろう。壁はあっさりと建材化してしまう。


 それを見て俺は思わず黒い笑みを浮かべた。


「いいこと思いついた」


「え?」


「なんでもない」


 怪訝そうなリオにおざなりに返し、俺はウィンドウを開いた。やはりログアウトの項目が存在しないが、今は別の機能に用がある。ウィンドウメニューの中からその項目を選択する。


「アイテムボックス」


 容量は無限だが一度に入れられるアイテムの重量は筋力のステータスに依存する。俺はそこに建材アイテムにしたブロックとしていないブロックを入れる。すると建材アイテムではないほうのブロックが弾かれて通路に落ちた。アイテムボックスの中を見てみると石のブロックが一つ確認出来る。これなら、十分アレが出来る。


「リオ」


「はい」


「この神殿ぶっ壊していい?」







 

 次回。神殿崩壊

 

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