友情に笑顔を
連載「初恋に願いを」の番外です。
幼少期なので言葉が平仮名だったりして分かりずらいかもしれませんがご了承ください。
玲、という名前が大嫌いだった。男なのにそんな名前をつけた祖父が嫌いで、時折文句を言っては家族を困らせていた。
そんな玲が覚えている最初の記憶は、まだ3歳くらいの時だ。
当時、柚子は体があまり丈夫ではなく、しょっちゅう風邪をひいていた。生まれた時から傍にはいたが、遊んだことは皆無に等しい。だから、最初に浮かぶのは柚子の寝顔だ。
『えっと・・・はじめまして。きさらぎ ゆずっていーます』
少し舌っ足らずな柚子が使ったのは、「はじめまして」だった。
あんなに、傍にいたのに。
ずっと、見守ってたのに。
無性に泣きたくなった。ずっと寝ていた柚子にとって玲は殆ど初対面だと頭では分かっているのに、どうしても感情が追いつかない。ここで泣くのを堪えているだけでも3歳児としては十分だが。
『きみは?おなまえ、なに?』
『・・・かんざき れい』
口に出すことすら嫌がっていた筈の名前が、すんなりと出てきた。
すると、柚子はニパッと笑って。
『すてきな、なまえだねっ!』
世界が、色を変えた。
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玲は、小さな頃から髪が長かったわけではない。伸ばす事に反対したのは意外にも姉だけで、両親には賛成すらされた。
切っ掛けは、柚子の言葉。
『玲ってかみ、キレーだねっ!伸ばしたらとってもにあうと思う!』
ただ、切るのが面倒で伸ばしっぱなしだった髪を褒められて、玲は面食らった。が、嬉しかったのも事実。だから。
『・・・じゃあ、おれ、髪の毛伸ばす!』
『じ、じゃあゆずが玲のかみ結ぶ!』
『おー、じゃ約束だな』
『うん!』
今から11年前の、幼い小さな口約束。それが叶ったことは、残念ながら無いのだけれど。
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「玲?」
若干訝しげな柚子の声が、玲を現実に引き戻した。
「ごめん。・・・ほら、終わったよ」
乱れていた髪を結い直し、そう声をかければ、クルリと柚子が半回転。
「柚子?」
「えへへ~」
ニンマリと笑った柚子が、玲の髪紐を解いた。
するっと重力に従って落ちる髪を見つめて、柚子は嬉しそうに微笑む。
「玲の髪、綺麗だね!」
あの頃と同じ、幼い笑顔で。
「ねぇ、柚子」
「何~?」
今、何十回も言ってきた言葉を。
11年間、変わらぬ台詞を。
言おう。
「大好き」
まだ、この言葉が恋愛かどうか判らないけど。
えっと・・・お粗末さまでしたっ!