所謂厄介払いというアレ
本編と全く関係ないという導入部分的な話。
『先日、岩倉高校で起こった男子高校生の自殺について、同校は、自殺といじめについての関係は未だ確認できていないとして、―――』
真面目な顔をしてニュースを読み上げるアナウンサーが一瞬にして消える。真っ黒い画面となったテレビに背を向けるようにして、擦り切れた畳にごろりと一人の少女が横になった。
「…………暇だなぁ」
酷く精気の感じられない瞳で彼女は天井を見上げる。古い木の天井には人間の顔のように見える染みがあって、彼女はしばらくそれとにらめっこをしていたようだが、すぐに飽きたのか大きくため息を吐いた。
無造作に畳に広がる彼女の髪は、老婆の様な白髪。所々に栗色に淡く色付いた毛も見られるが、やはりおかしな髪色である。
長く伸びた自分の髪の毛の先を、ちょろちょろといじくっていた彼女だったが、先程の天井とのにらめっこのときのようにすぐに飽きてしまう。
本格的に寝てしまおうか?
目を閉じながら、どうしようかなと考えていると、ドンドンと安アパートの扉を叩く音が聞こえてきた。三日程前から、チャイムが故障しているからだ。
「すみませ~ん、郵便で~す!!」
「はいはいは~い!!」
ガバリッと音か聞こえそうな位の勢いで立ち上がった彼女は軋む扉を慌てて開けて、配達員を出迎えた。
「こちらに、サインだけお願いしますね」
先程までやる気の欠片も感じられなかった彼女の瞳は愛想よく細められ、柔和な笑みを浮かべている。
難無くサインを済ませると、彼女は人の良さそうな笑みを浮かべてペンを配達員に返した。
「ありがとうございましたぁ~」
大きな声でそう言った配達員はまだ仕事が残っているのか、いそいそと彼女の部屋から遠ざかって行く。
残されたのは、大きな段ボール箱。
彼女はグシャグシャと自分の髪の毛を掻きむしりながら、先程のように大きくため息を吐いた。
大きな箱を四苦八苦して、部屋に運び込んだ彼女は、改めて箱を見つめて首を捻った。こんな箱を送られる心当たりがないのだ。もしかしたら間違いではないかと送り主を確認したが、どうやら間違いなく自分宛に来た荷物らしい。
がっちりと貼られたガムテープを強引に引きちぎっていく。
「……これは……制服?」
中から出てきたのはどこの学校のものかわからない真新しい制服。ビニールがかけられ、一切使ってませんよ感をアピールしている。しかし、なぜこんなものが自分に送られてきたのか……送り主の意図がますます分からなくなってきた。
「一体何の目的で、こんなものを……」
ゴソゴソと箱を漁って行くと、制服のほかにも、学校用の小さなカバン、どこぞの教科書類、などが入っている。
と、そんな物達に混じって、真っ白な封筒が顔をのぞかせた。
「ははぁ~ん、読めましたよ……これは、新しい仕事の連絡ですね?」
誰に言うでもなく、薄暗い安アパートの一室で呟く彼女。そっと封筒を取り出すと、中に入った手紙を広げた。
『どうも、こんにちは。いや、こんばんは? おはよう? まあ何でもいいけど、お仕事いつも御苦労さんです。
え~、縁さんにはですね、この手紙を見たこの瞬間から、今の仕事から新しい仕事に移ってもらいます。
え~とっ、確か新しい仕事は……えっとね……なんだったかな。
まあいいや、後々連絡するけど……死神は今日でおしまい。ですから今住んでるところを出てね、新しい仕事を早速やってもらうことになりますんで。
んじゃま、いままでホントにご苦労さんでした。
いや~、何か急に決まったことでさあ、なに? 結構やばいことしちゃったんだって? いや、詳しくは知んないけどさぁ。まぁ、あれだね、左遷先でも頑張ってちょ~だい。
いや、送別会とかできなくてホントごめんね。んじゃ、ああ、そう言えばその制服とかは全部新しい仕事に必要なんだとさ。んじゃまた何かの御縁があれば。
あなたの元上司より』
「……………………えっ?」
息抜き感覚でゆる~く行こうかな……な、なんちって。