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 扉の向こう・その8・ 秘密のキス

 ナーシルとレベッカです。

 本編で出番をもっとつくりたかった二人です。




 その日は珍しく、アンビヴァレントは開店休業状態だった。


「ヒマねー」と、ベスティア。

「ヒマだわー」と、パドゥーシカ。

「ヒマだなー」と、グエン。

「ヒマですねー」と、ナーシル。


 外は雨。

 しとしと、じめじめ、うっとうしい。

 そこへレベッカがひょっこりと現れた。


「おや、皆おそろいだね。ちょうどいい、お茶にしないかい? 角の店でラズベリー・パイを買って来たんだよ」


 全員万歳して、わあい、と喜ぶ。


「さすがレベッカー!」


 ナーシルがそそくさと席を立つ。


「じゃ、お茶を淹れますね」


 それからしばらく和気あいあいと歓談したが、それでもお客は来なかった。

 雑談に、ふとした沈黙が降りる。

 小さな寝息が聴こえて、見ると、レベッカがソファの肘掛けに凭れたままうたた寝していた。


「疲れているのよ。カイザ様とルクトールの王の看病を一手に担っているらしいから」

「そっとしておきましょ。今日はもう臨時休業でいいんじゃない?」

「そうね、お嬢様にもその旨で連絡しておきましょう」

「俺、用事を思い出したわ。ナーシル、あとを頼むぜ」

 

 と言って、グエンが片手を挙げ、出ていく。

 そそくさとした足取りに、ベスティアとパドゥーシカも、ピンときた。


「そうそう、私たちも、用事があったの。出かけて来るから、レベッカのこと、お願いね」


 そして一方的に帰ってしまい、広々とした店にはナーシルとレベッカの二人が残された。


「……まったく、露骨すぎますね、あのひとたちは」


 ナーシルは額に手をやりながら、ちょっと頭を掻いた。

 気を遣ってくれたつもりなのだろうが、この状況は、微妙すぎる。

 

 優しい雨音が続く。

 ナーシルはためらった末、椅子を運んで、レベッカの寝顔を眺められる位置に座った。

 片膝を抱えて、膝頭に顎をのせ、じっと見つめる。

 レベッカは疲れた顔をしていた。

 無防備に眠りを貪るさまは、安心しきっている証拠だろう。

 

 ……ひとを好きになると、強くなるなんて、嘘だ。


 と、ナーシルは心の裡で呟いた。


 ものすごく弱くなる。

 そのひとのことが気になって、なにも手につかないで、そのひとのことしか考えられなくなるからだ。


 振り向かせたい。

 振り向いて欲しい。

 好きになってほしい。

 でも、どうすれば?

 どうすればいい?

 なにができるのだろう、私に。


 ナーシルは腕を伸ばして、レベッカの頭をそっと撫でた。

 頬の輪郭を手の甲でゆっくりとなぞる。


 あなたを守りたい。

 あなたを幸せにしたい。

 

 しとしとと、雨は降りやまず。

 レベッカが起きる気配はない。

 ナーシルは誰も見ていないことを確認したうえで、そっとレベッカに覆いかぶさり、唇を奪った。


「いつか私のことを好きになってくださいね」


 想いをこめて。

 夢の中まで届くように、そう囁いた。


 片思いの相手の寝顔に、キス。

 お・い・し・い・な~。

 まあ、相手によるかもしれませんが……。


 番外編もあと小二話ですね。誰の没エピソードにしようかな。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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