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 扉の向こう・その1・ 一緒にお風呂・続

 本編では、15Rがついていなかったのであえなく没ネタ行き。

 

 浴場は由緒正しきローテ・ゲーテ式。

 本宅とは別に敷地内に建てられている。

 石造りのサウナ・浴槽・洗い場・脱衣所。どれも大所帯にふさわしく、広さが十分に確保されている。


「えっ。あ、まさか、ちょっと待っ――」

「待ちません」

 ざぷーん。

 止める間もなく、リアリは部屋着を着たまま、浴槽に放り込まれた。

 ラザも夜衣を纏ったまま入ってくる。

「なんてことするのよ」

 いったん湯に沈められた状態からすぐに引き上げられる。

「でもこれで、観念したでしょう?」

「あんたねぇ……」

 やりすぎよっ。

 怒鳴りたかったが、着衣のまま濡れそぼるラザの色っぽさに不覚にもどきっとして、慌てて俯いた。

「どうしました?」

 腕をとられる。

 どうしよう。顔が見られない。

「リアリ?」

 声が不審そうに訝る。

「わ、かった、から……お風呂、入るから、ちょっと離れて、よ」

「……? はい」

 珍しく素直に言うことをきいてくれる。

 リアリはばくばく鳴る心臓をおさえながら後ろを向いた。

 すると、背後から覆いかぶさるように軽く抱き込まれる。

「……もしかして、どこか痛めました?」

 濡れた布越しに密着する肌。

 途端に頭に血が昇る。

 リアリは湯の中でラザの腕を振りほどこうと、必死にもがいた。

「い、い、い、いた、いたく、ないっ。ど、ど、ど、どこも、痛くないっから、は、離れてよ。お願いだから、そんなに、近寄らないでっ……」

「え? どうしたんです、いったい?」

 ひょい、と横から顔を覗きこまれる。

 その近さ。

「……あれ?」

「な、なにっ」

 声が上ずった。

 しまった、と思ったときにはもう遅い。

「もしかして……僕に欲情してます?」

 にやりと、ラザの口辺が持ち上がる。

 リアリは反論しかけて、咽喉が詰まった。陸に揚げられた魚(ラザの天敵だ)のように口をぱくぱくさせて、ふるふるっとかぶりを振った。

 ここで一言でも認めようものならば、これさいわいと、明日の朝になっても解放されず、あれやこれやと、好き放題されるに違いにない。

 逃げよう。

「逃がしませんよ」

 ぎくりとする。

 浴槽から上がろうとついた手を押さえこまれて、次には腰をさらわれていた。

「知りませんでした。あなた、こっちの趣味があったんですね。まあ、普通にやるよりは刺激的ですけど……こういった羞恥プレイはてっきり好みじゃないとばかり思っていました」

「こっちの趣味もそっちの趣味もないわよっ。普通でいいの、普通で!」

「遠慮しないでいいです」

 かぷ。

 と、左手の人差し指を甘噛みされた。

「や」

 そのまま付け根までしゃぶられる。

「動かないで……」

 浴槽の縁においつめられ、腕囲いの中に閉じ込められる。

 指の愛撫の次はキスだった。両頬を掌に挟まれて、斜めから覆いかぶさるようにぴったりと唇を重ねられる。舌が歯列をなぞり、口腔をやさしく、円を描くようになぶられた。

「……ん」

 いつのまにかラザの手が胸におりていて、濡れた服の上からやわらかく揉まれた。

「あ……」

 ラザの指が軽く尖端をこすって、止まる。

 反射的にびくっと震えると、ラザが笑った。

「……お風呂に入るのだから、まず、服を脱がないと。今日は僕が脱がしてあげますね」

 有無を言わせぬ眼で言って、ラザはリアリの服をゆっくりと脱がしにかかった。

 羞恥心で顔がゆだる。心臓はけたたましい音を立てて鳴っている。

 いつもされていることなのに、場所が浴場で、ふたりとも濡れていると言うだけで、どうしてこんなにも卑猥な感じがするんだろう。

 どうにも黙っていられず、リアリは口をひらいた。

「……まだ怒ってる?」

「僕はしつこいので」

「……でも、あの、本当にたいして見られてなかったのよ? 私、お湯につかっていたし、ディーク様は物珍しそうにきょろきょろしていらしたから――」

 一瞬、ラザの手が止まる。

「は? 見られたって相手は、カイザではないんですか」

「カイザじゃないわよ。ディーク様が酒宴の席でお酒をかぶってしまったから、お風呂に入ってもらうことになったみたいで、そのときちょうど私が入浴中で――」

「で、ばったりはち合わせたわけですね」

「そうそう」

 にこっ、とラザが会心の笑みを漏らす。

 リアリはぞっとした。イヤな予感。

「……あなた、そんなに僕に苛めてほしいんですか……?」

 微笑が消えて、無表情が取って代わる。

 そしておもむろに、服を左右に引き裂かれた。

 下着をはぎ取られる。あっという間に裸に剥かれる。不自然な態勢で組み敷かれる。

 無言でのしかかるラザは、狂気にとり憑かれた猟奇殺人者の顔さながらだった。

「僕、カイザほどではなくとも、拷問は得意なんですよね。悲鳴を聴くのは気持ちいいし、いたぶるのは楽しいし、血を見るのも大好きです。中でも、あなたにちょっかいをかけたり、色目を使ったり、気のあるそぶりをした奴を、瀕死になるまでじわじわ追い立てて吊るし上げるのは快感です。まあ、最近はそんな輩もだいぶ減って、僕ちょっと手持無沙汰だったんですけど、久々にやりがいがありそうで、嬉しいですよ」

 リアリは、ディックランゲア王子が血みどろにされ、吊るされるのを想像してみた。

 そしてそのあと起こるのは、血の雨の降る、王家対聖徒殿戦争だ。

「だめっ。絶対だめっ」

「……へぇ―、庇うんですか」

「か、か、庇うんじゃなくて! あ、相手は王族で! 下手な手出しは無用よ」

「僕は相手がだれでもかまいません。あなたに手を出した奴は真っ二つにしてやります」

「出されてないってば! ちょっと裸を見られただけよ」

「それでも許せません。僕のあなたの裸を見るなんて目を抉り出したくらいじゃ足りません。記憶を抹消したいんです。僕の頭が嫉妬で怒り狂ってどうにかなるまえに相手の息の根を止めたいんです。ああ殺したい、殺したい、殺したい……」

「お、落ち着いて、ラザ」

「僕、殺すのがお仕事なんですよね。僕を止められる人間がいると思います?」

 リアリは咄嗟にラザの首にしがみついた。

「……私が頼んだら、ラザはやめてくれる。そうでしょ?」

 ラザは心底嫌そうに、口をへの字に曲げた。

「でもそれじゃあ、僕のこの不満はどこにぶつければいいんです」

「私にぶつけてよ」

「あなた、壊れますよ?」

「いいわ。ラザに壊されるなら、いい。だから、もう機嫌を直してよ」

 足をひらかれる。

 ラザの長い指がそっと伸びてきて、下腹部を探り、敏感な部分に爪をたてられた。

「……んっ、あ、あ、あ……ラザ!」

 性急に、身体が暴かれていく。

 ラザの指はどこもかしこも知り尽くしている正確さで攻め立てて来る。

 押し寄せる快楽。あっという間に頭が真っ白になる。低い囁きに、甘く痺れて酔わされる。

「……あなたを好きにしてもいいのは僕だけです。そして僕を好きにしてもいいのはあなただけ」

「……うん」

「あなたの男は僕だけです」

「私の男はあんただけよ」

 濡れた瞳。

 濡れた唇。

 もうなにも考えられない。

「じゃあ今回だけ、多少の意地悪で済ませます。僕は恋人に甘い、普通の男ですからね」


                                             

                                            


 お風呂エピソードでした。

 まさしく濡れ場なわけですが、これ以上は勘弁してください。笑。

 R18じゃないしね。R15だしね。ほどほど、ほどほどに。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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