第7話 潜む影
港の朝は穏やかだった。しかし、祐一の胸は落ち着かない。昨夜の戦いで忍びたちに見せた天祈の光は、仲間たちに安堵をもたらしたが、同時に祐一自身に深い代償を残していた。全身の疲労、脈打つ血の重さ、魂を揺さぶられる感覚――それでも心は戦いを求めている。
「……また来る」
祐一は港の石畳に立ち、刀の柄を握りしめる。天祈の蒼光が微かに刃先で脈打つ。島原の乱で失われた民たちの魂、隠れキリシタンの祈り、そして自らの祖先・天草四郎の想いが、再び彼を呼んでいる。
「祐一、大丈夫か?」
龍馬が肩に手を置き、真剣な目で見つめる。
「体は無理していないか?」
「……大丈夫です。ですが、昨日の代償は大きかった」
祐一は刀を少し掲げ、光の具合を確認する。
「これが……俺の力の限界かもしれない」
伊藤仁が小さく首を振る。
「限界じゃない。お前の力はまだ伸びる。だが、使い方を誤れば……」
彼の言葉は途切れる。代償の重さを、全員が理解していた。天祈は単なる武器ではない。魂を宿す刀であり、血の意志を具現化する力だ。
港に突然、影が走る。黒装束の忍びたちだ。
屋根の上、倉庫の影、狭い路地――彼らは影の中を自在に移動し、亀山社中の防衛線を見極める。昨日とは違う人数、異なる戦術。忍びたちは単なる戦力ではなく、戦略のプロフェッショナルだ。
「祐一、天祈を使え!」
龍馬の声に呼応し、祐一は刀を振るう。蒼光が港の闇を裂き、忍びたちの動きを遮断する。
光は敵の動きに合わせて形を変え、刃先が脈打つたびに、影を押し返す。
しかし、体の疲労と精神の消耗は限界に近い。血が逆流し、手足が痺れ、目の前が歪む。
「……まだ、俺は……」
祐一は意識を集中させる。島原で焼かれた村、亡くなった民たちの声、そして隠れキリシタンたちの祈り――全てを天祈に注ぎ込む。
光が暴れ、影が砕け、港の闇が裂ける。仲間たちは結界を広げ、敵の侵入を防ぐ。
忍びたちは再び集結し、屋根からの奇襲、路地の待ち伏せ、港を分断しようとする。だが、祐一と仲間たちの連携は完璧に近い。
天祈の光と結界が、影を封じる。血の脈動と祖先の魂が、刃に力を与え、代償の痛みを乗り越えさせる。
「……勝てる……のか?」
祐一は心で問いかける。戦いは激化し、忍びたちの動きはますます巧妙になる。光を放つ刃にすべての意識を集中させても、体は限界に達している。
その時、港の遠くで小さな光が揺れた。マリアだ。
「祐一さん!」
彼女の声は、祐一に安堵と決意をもたらす。守るべき者の存在が、力の源となる。
祐一は刀を掲げ、蒼光を全身に流す。刀と血脈、魂と祈りが一体化し、天祈が真の力を発揮する。
忍びたちは光に押され、影の中で悲鳴を上げながら退却する。港の戦いは一時的に終息する。
だが、祐一は知っていた――これで終わりではない。忍びたちも、魔導局も、必ず再び現れる。
勝利の喜びよりも、守り抜いた安堵、仲間たちと共に戦えることの尊さを噛み締める。
「俺は……この力で、日の本を守る」
胸に誓い、刀を握り直す。
港の朝日が、天祈の蒼光を淡く照らす。
戦いの代償、魂の重み、祖先の思い……全てを背負い、祐一は前を見据える。
戦いはまだ、始まったばかり――。




