第11話 独り、闇へ
長崎港の夜風が冷たく、祐一の髪を揺らす。
マリアを無事救ったものの、港全体にはまだ不気味な黒霧が漂っていた。
黒装束の刺客たちは撤退したが、魔導局の影は消えたわけではない。
その霧は、まるで生き物のように蠢き、港を覆い尽くそうとしていた。
「……またか」
祐一は天祈を握り直し、白光を宿す。
膝をつきながら深呼吸し、昨日の戦いで得た力を思い出す。
島原の炎、殉教者たちの怨念、祖先天草四郎の魂――
それらすべてが刀の力と一体となり、胸の奥で脈打っている。
龍馬とイネも隣に立つ。
「祐一、冷静に! この霧は魔導局の術だ」
「……分かってます」
祐一は目を閉じ、天祈の光を集中させる。
光の刃はまだ安定していないが、感覚は昨日よりも鋭く、確かだ。
霧が濃くなる。
視界を遮る黒の波。
その中から、無数の影が浮かび上がる。
亡霊のように蠢く黒装束の刺客たち。
祐一は刀を高く掲げ、光を溢れさせる。
――天祈、新技……
思い切り叫ぶように意識を集中させる。
刀身から溢れる白光が波紋となり、黒霧に突き刺さる。
光は波となって広がり、霧の中の影を押し返す。
しかし、刺客たちは霧の中で姿を変え、光に抗う。
「……くっ!」
祐一の体に疲労が襲い、呼吸が荒くなる。
腕の筋肉は限界に近く、天祈の光は暴れ、制御が難しい。
それでも祐一は諦めない。
祖先の声が、胸の奥で囁く。
『血を恐れるな。恐れは力を弱めるだけだ』
祐一は心を静め、刀の中心に意識を集中させる。
光が震えながらも刀身に整い、白い刃として形を保った。
霧の中で影が襲いかかる。
無数の手が祐一に絡みつき、体を押しつぶそうとする。
祐一は膝をつき、刀を突き出す。
白光が一瞬にして拡散し、霧を裂き、刺客たちを吹き飛ばす。
刀の中心から、まるで血脈のように力が流れ、天祈が輝く。
「……俺は、守る!」
祐一の叫びが夜空に響き、光の刃が港全体を包む。
黒霧が裂け、刺客たちは港の端へと弾き飛ばされる。
その隙に、マリアと仲間たちは安全な場所へ移動できた。
戦いが一段落すると、祐一は膝をついたまま息を整える。
背後で龍馬が近づき、肩に手を置く。
「やったな……だが、次はもっと厳しいぞ」
祐一はうなずき、天祈を握り直す。
刀の光はまだ安定しているが、力の使い方次第で危険は増す。
マリアがそっと祐一の横に立つ。
「祐一、すごかった……」
祐一は微笑むが、心の奥はまだ緊張でいっぱいだ。
「……まだ終わりじゃない。魔導局は必ず、次の手を打ってくる」
港の夜空に黒霧が遠くで渦巻く。
しかし、祐一の胸には新たな自信が芽生えていた。
天祈の力、祖先の血、仲間の支え――
それらすべてを合わせれば、どんな霧も切り裂ける。
「……絶対に、負けない」
祐一の誓いが夜空に反射し、天祈の白光が港を白く染めた。
霧の向こうに潜む魔導局の目は、次の戦いを静かに見つめていた。
――つづく。




