Chapter6-1 それぞれの道
※この物語は97%ほどフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※ヒロインがVtuberですが、作者はVtuberの仕事を引き受けたことがありません。また、顔を隠して活動している方々の仕事を引き受けたこともなく、実際の警備体制と異なる場合があります。
※作者は完全な専門家ではないので、物語の内容と現実の内容が異なる場合があります。書いてある内容が正しいと思って読まないでください。
以上を注意の上、読んでください
ゼルテクサプロダクション、モーションキャプチャースタジオ内、楽屋。
リハーサルを終えた世奈が椅子に座り、机にうつ伏せになってスマートフォンをいじっていた。
ライブ本番四〇分間前。SNSの検索欄に「MONEちゃん」や、指定したハッシュタグを打ち込んでエゴサーチをしている。
楽しみにしている長文の感想や、物販で購入したグッズ、手ぬいと一緒に撮った風景写真、推しコーデなど、ライブが始まる前からライブの空気が漂っている。
数十日前から嫌がらせを受け、開催できるかも危ぶまれたが、無事開催することができてよかった……すべては裏で走り回ってくれた多くのスタッフのおかげだ。
「……」
楽しみにしてくれているファンたちを見ていて、この上ない幸せな気持ちでいっぱいだが……どこか心が晴れない。
(ライブ、見てほしかった)
原因は考えるまでもない。
脅迫を受けてから一緒に仕事をしてくれたボディーガード。そして、初めて心から愛してもいいと思った男性がここにいないからだ。
朝、起きると、マネージャーからメッセージが入っていて、犯人が捕まったと聞いた。
その一報を聞いたときは、今まで抱いていた不安が一気に解き放たれ、ライブが全力でできる喜びを噛み締めた。
しかし、初めて愛の告白をした男性と契約が途切れ、晴れ舞台のライブを見てもらうことができなかった。
(最後に、お礼したかった)
せめて顔を合わせて誠心誠意感謝を伝えたいとマネージャーに言ったが、今日は忙しいから無理と断られた。
ライブ終了後は明良と会えるだろうか。
(ネットチケット、渡したのかな……)
マネージャーに有料で見られるネットチケットをタダで渡してくれと頼んだが、渡っているかもわからない。
(いや、絶対に見てくれてる)
そう信じて体を起こして立ち上がった。
楽屋の隅に置いていたニパーラのトートバッグから手帳を取り出し、無地のページを一枚ベリっと破り、ペンを持った。
机に戻り、紙の切れ端と向き合い……ペンを走らせる。
イメージするのは、セットリストの最後の曲が終わり、アンコールが鳴り響き、アンコール曲の前のMC。
そこで読み上げるカンニングペーパーを口に出して作っていく。
「みんな、今日はきてくれてありがとね。みんな知ってると思うけど、このライブを開催するのホントに大変だったんだよ。でも、ファンのみんなが楽しみに待っててくれたおかげで踏ん張れたし、練習も一生懸命できた。なにより、スタッフさんたちが裏で走り回ってくれたおかげで無事に開催できた。みんな、せーので「スタッフさんありがとう」って言うぞ。せーの!」
ありがとうのレスポンスを想像する。
「いやいや、ホントにみんな、私ひとりを支えるために何人のスタッフがいるか知ってる? ライブ一回開催するだけでヤバいよ? そんなスタッフさんたちに感謝して、このステージに立ててることを感謝して、それじゃあ最後の曲といきますか! みんな! 最後まで全力でいけるよな!」
あとはアドリブに任せることにして、このカンペをポケットに仕込む。
トントンと、扉のノック音が響いた。
「はーい!」
「世奈、入るね」
聞き慣れた女性マネージャーの声と共にガチャリと扉が開いた。
「そろそろ開演だから、準備してね~」
「は~い」
椅子から立ち上がり、力強い足取りで歩いていく。
MONEというアイドルを支えてくれている、すべてのスタッフに感謝をしながら。
そして、応援してくれ、楽しみにしているファンに感謝をしながら。




