Chapter5-3
※この物語は97%ほどフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※ヒロインがVtuberですが、作者はVtuberの仕事を引き受けたことがありません。また、顔を隠して活動している方々の仕事を引き受けたこともなく、実際の警備体制と異なる場合があります。
※作者は完全な専門家ではないので、物語の内容と現実の内容が異なる場合があります。書いてある内容が正しいと思って読まないでください。
以上を注意の上、読んでください
狩桶のマンションのエントランス前。
明良がスマートフォンで陽子と通話をしていた。
「ナイスタイミングだな。それで、お前たちに伝えたい要件がある」
「なんでしょうか?」
「狩桶様に脅迫していた犯人が捕まったらしい」
「うおっ⁉ 本当ですか⁉」
「今日の二〇時二〇分頃、狩桶様のマンション内の廊下に、犯人が潜んでいたらしい。その犯人を不審に思った住人が通報して、逮捕に至ったそうだ」
中古ショップへ行ってなければ襲われていたかもしれない。運がよかった。
「一件落着。何事もなくてよかったですね」
「ああ、今回もお客様に気づかれることなく、仕事を完遂してくれたこと、ありがたく思う。犯人が捕まった時点で契約が切れるという取り決めだから、お前たちの仕事はここで区切りだ。お疲れ」
「ありがとうございます」
「一応、明良からも担当の乾に一言入れておいてくれ」
「了解です」
「オフィスに戻ったら、休みの期間と次の仕事の大まかな内容を伝える。それじゃあ、帰り道も無事に帰ってこいよ。失礼する」
「失礼します」
通話が切れ、親指で画面を操作していく。数日前に電話をした、担当の乾の電話履歴をタッチしてスピーカーを耳に当てる。
「いつもお世話になっております。私、山盛綜合警備保障の笹川明良です。夜分遅くに失礼いたします」
「お疲れ様です。ゼルテクサプロダクションの乾です。ちょうど笹川様にお電話をしようと思っていたところです。このたびは狩桶を守っていただき、誠にありがとうございました」
「いえいえ、本当に狩桶様が無事でなによりでした。では、契約通り、仕事は今日を持って終了ということでよろしいでしょうか?」
「はい、またなにか事件がありましたら、なにとぞよろしくお願いいたします」
「かしこまりました。この度は山盛綜合警備保障をご利用いただき、誠にありがとうございました。電話を終える前に、乾様にお伺いしたいことがあるのですが、よろしでしょうか?」
「いかがなさいましたか?」
「捕まった犯人の詳細情報を教えていただけますでしょうか?」
「かしこまりました、イベント前で犯人が逮捕されたこと自体隠したいので、どうか隠密にお願いしますね」
「承知しております」
「捕まった犯人は三〇代後半の女性です。狩桶が住んでいるマンションの廊下に潜んでいて、硫酸が入ったビンを持っていたそうです」
元々ジェンダーバイアスをかけていなかったが、犯人は女性だったようだ。
「犯行動機は、顔も出せないような若い女が有名になっていることに腹を立てていて、犯行に及んだようです」
古来より言い伝えられた言葉『女の敵は女』。
おそらく、犯人の女性は人前に自信を持って出られるような容姿ではなかったのだろう。そして、三〇後半の売れ残りに差しかかった年齢になって、顔を隠したままちやほやされている若いアイドルに向けられた嫉妬心が、犯人を犯行に駆り立てたのだろう。
「取り調べはまだ続いているそうで、詳細がわかり次第、また連絡いたします」
「かしこまりました。それでは明日の狩桶様のライブ、成功することを祈っています」
「ありがとうございます。改めて一週間、狩桶を守っていただき誠にありがとうございました。それでは失礼します」
「失礼します」
スマホを耳から離して画面を見る。通話時間が表示され、通話が切れたことが表示される。
「明良、戻ったよ!」
ロータリーに反響する大声で呼びかけられて、振り返る。
仕事中の謎の虚脱感が嘘のように、絵理佳は大きな胸をさらに大きく張って、ヒマワリが咲くような満面の笑顔になっていた。
意識しなければ聞こえない程度だが、鼻息が微かに荒くなっている。
「お疲れ……なんかすげぇ嬉しそうだな。狩桶様となんかあったのか?」
「あっと、えっと……明良にはアイドルと仲良くなるなって言われたけど、最後に狩桶様から友達みたいで楽しかったって言われたのが嬉しくて……相手から言われただけだから問題ないよね?」
「連絡先を交換したり、今後もオフで会ったりしなければ問題ない。一週間お客様を不快にさせずに、友達みたいに接してくれてご苦労だったな」
「ありがと! よーし! 明日のライブもエリートボディーガードの女勇者、絵理佳ちゃんがMONEちゃんを全力で守っちゃうぞ! キャハッ☆」
「いや、明日の仕事はなくなった」
「えっ⁉ えっ⁉ なんで?」
「狩桶様に脅迫していた犯人が捕まったらしい」
「ええええええええ! それはよかったね!」
絵理佳は音が鳴らない軽い拍手をしている。
「でもでも~、超絶人気アイドルMONEちゃんのライブ、タダで見られないの残念だよ~。もうチケット買えないだろうし」
「ボディーガードが仕事をサボるようなことを言うな」
「明良だって本音ではライブ見てるよね?」
「うるせえなぁ……それより、今から狩桶様お気に入りのニパーラに行くぞ」
「なんでニパーラに行くの?」
「時間がねえ。車の中で話す。乗れ!」




