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悪役令息、俺!勇者、俺!?

作者: 青猫

――俺は恭太。なんてことはない高校生、だったはずだが……。

何故だかファイティングエンブレードの悪役貴族、エルデへと転生していた。

やらかし途中で評判最悪、幸いなことに体格はまだマシ、才能はマシマシ。

これから俺、どうなっちゃうの~~!!



――なんて騒動から3年もたつと、色々と環境も変わってくる。

イメージアップの戦略の甲斐もあってか、家族や周りの人たちからの見る目は少しだけ良くなっている。

ゲーム知識を利用して、出来る限り助けられそうな人たちも助けられたし、才能にあぐらをかかず、きちんと努力をしているおかげか原作よりも多分俺の方が強いと思う。



そんなこんなで、いよいよ俺は最大の試練——メインストーリーへと挑むのだ。

ファイティングエンブレード、通称FEは非常に根強い人気を持つ戦略SLGだ。

その初代、ファイティングエンブレードはまさかの学園SLGということで、当時、いや今でも伝説と呼ばれるようなゲームとなっている。

あまりの人気ゆえにリメイク版が出るとなった時には関連ワードがトレンドを独占していたほどだ。


――閑話休題。


大事なのは、そこで俺が悪役貴族「エルデ・リンガルム」として主人公たちの前に立ち塞がること。

エルデは、自分よりも優れた能力を持っている主人公「ミルム」を疎ましく思い、何度も彼を亡き者にしようと刺客を送る。

しかしまぁ、そこは主人公。見事に目の前の困難に打ち勝っていき、最終的にエルデの元へとたどり着く訳だ。

そこでまぁ成敗され、死んでしまう、というのがエルデの物語の流れ、という訳である。


まぁ、そんな中にも出会いや別れ、笑いあり涙ありのストーリーが展開されるわけだが、そんな事はどうでもいい。

俺は死にたくないのだ。

そんな訳で、俺は俺が生き残るための完璧な計画を立てた。

これを実行さえすれば、俺の老後は安泰。ひ孫にまで囲まれたエンジョイライフをエンジョイできるという訳だ!



「「……」」



……上手くいっていれば、の話だが。

何故か、俺は勇者ミルムと向かい合って土下座をしている。

完全に膠着状態である。どうするの、これ?


――これを説明するために、少し前まで遡る必要は、ない。

俺の作戦「ミルムを呼び出し、平身低頭することで自身に戦意が無いことをアピール、見逃してもらう」

は、手紙で相手を呼び出すところまでは上手く行っていた。

が、俺と相手、両方ジャンピング土下座を綺麗に決め、完全膠着状態に陥ったのだ。



沈黙がつらたん。



俺は、恐る恐る顔を挙げて、相手の方をちらりと覗き見る。

が、何故かミルムも同じ瞬間に顔を上げ、目と目が合う。気まずい。

俺たちは、さっと頭を下げる。


しかし、このままではまずい。

――もうすぐ授業が始まってしまう。

授業が始まってしまえば、きっと俺たちは頭を上げるタイミングを失うだろう。

『あ、授業始まったべ、だったら今教室戻るのも気まずいし、このまま……』

なんてことになって延々と土下座を……。それはキツイ。


俺は恐る恐る顔を上げ、声を掛けようとする。

しかし、相手も同じことを考えたのか、「「あの……」」と声がハモる。気まずい。

無言の瞬間。


「「あっ……」」


無言。


「「お先に……」」


無言。

地獄かここは。


「俺から話しても良いでしょうか?」


なんとかハモらずに話しかけることに成功する。


「あ、どうぞ」


勇者ミルムは快諾してくれた。

これ幸いとばかりに、俺は単刀直入に告げる


「俺、何もしないんで、どうか殺さないでください」


俺がそういうと、勇者も同様に頭を下げる。


「俺もあなたに何もしないんで、どうかユキを殺さないでください」


ユキ?……あぁ、そう言えばそんな話があった。

俺が追手を差し向ける中で、俺は勇者の仲間を人質にとることを考える。

そこで選ばれたのが、ユキと呼ばれる少女。

彼女はヒーラーユニットで戦闘力もほぼ無く、基本的に後ろの方に待機させておくべきメンバーだ。

しかし、この話において、彼女は人質となり、敵陣地に一人ぽつんと配置されてしまう。

一週目においては、助ける手段がなく、見殺しにするしかない人物となってしまう。

彼女を助けられるのは、二週目以降、主人公の移動力を強化したり、もしくは転移魔法を駆使することで、なんとか可能になるラインである。しかしまぁ、結局戦闘の役には立たないので、三週目以降は無視するといったプレイヤーも少なくない。


「それ、俺と約束する必要あるか?お前が強ければ、多分守れると思うが……」


「万に一つの可能性も潰しておきたい。……お願いだ。手を出さないと約束してくれ」


「……そっちが手を出さない限りは、俺も出す理由ないからな……別に構わないが?」


俺がそう言うと、勇者は「ふぅ……」と肩の力を抜いた。


「いや、良かったよ……!……というか、お前、転生者だろ?」

「お前こそ」


俺たちはハイタッチする。


「推しは?」

「ユキ、そしてミリだな」


ミリは俺の婚約者、なんというか、好きな人に対して好き好きオーラ全開って感じの子だ。

原作では元婚約者となっており、主人公陣営につく。


「一緒だ!!」


勇者は俺の肩を叩く。


「いいよな、ユキの元気なところとか、ミリの直情的なところとか!」

「あぁ。……驚いた。まさか気の合う人間が転生しているとは」

「俺もだよ!転生前の名前とか、分かるか?」

「恭太。東屋恭太だ」



俺がそう言った瞬間、ぴしりと固まる勇者。

俺は勇者の意識を確認して声をかける。



「おい、どうし……」

「一緒だ」

「は?」

「俺も東屋恭太」

「はぁ!?」



俺たちは、急いで自分たちの個人情報を照らし合わせる。

住所、出身校、友達の名前、両親、好きなゲーム、本に至るまで。

完全一致だった。え?そんなことある?



「スワンプマンみたいだな」

「……あぁ、そうだな」


――スワンプマン。

その人がその人であることを証明するのにいったい何が必要なのかという思考実験の一種だ。



「じゃあ、本物はどっちなのか、という話なんだが」

「どっちも偽物、という可能性は?」

「……俺も考えた」



というか、これ、決めない方が良い気がする。

下手に本物偽物を決めると、まずい可能性がある。



「なぁ。」

「言わんとしてることは分かる」

「流石俺」

「現状維持ってことで」

「OK」



そう言って俺たちは拳を交わす。



「じゃあさぁ、せっかくだし情報交換しようぜ!」

「お、それいいな!じゃあ俺からいくぜ!——」



俺どうしの会合はめっちゃ楽しかった。

勇者の俺は、ユキ一筋でいくらしい。

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