第2章 王宮の陰謀と魔導院 第2話「エルフの知恵と時の賢者」
会見が終わり、エルフたちが退室する際、シルフィードが一瞬立ち止まり、俺の方を振り返った。彼女の深い瞳には、何か言いたげな思いが宿っているように見えた。
「佐倉時道殿、もし機会があれば、ぜひ私とお話しいただきたい」
その言葉を残し、シルフィードは他のエルフたちと共に部屋を出ていった。
「シルフィード閣下が時道さんと話したいなんて、珍しいことです」
リーシャが驚いた様子で言った。
「どういう意味ですか?」
「シルフィード閣下は何百年も生きているエルフの長老なんです。彼女が個人的に会いたいと言うのは、よほど興味を持ったということですよ」
何百年も生きている…この世界のエルフは長寿なのか。そして、なぜ彼女は俺に興味を持ったのだろう。
「黒髪だからでしょうか?」
「それもあるかもしれませんが…」リーシャは少し考え込むように言った。「シルフィード閣下は『時の賢者』の伝説に詳しいと聞いています」
「時の賢者?」
その言葉に、何か引っかかるものを感じた。昨夜の夢で聞いた「時の賢者の血」という言葉と関係があるのだろうか。
「古い伝説です。千年前、時間を操る力を持つ賢者がいたと言われています。その賢者は『クロノス』と呼ばれ、世界の危機を救ったとか…詳しいことは私も知らないんです」
クロノス…あの転生時に出会った少女の名前と同じだ。偶然だろうか。
「機会があれば、シルフィード閣下からその伝説について聞いてみたいですね」
「そうですね!あ、そうだ!」
リーシャが突然思い出したように言った。
「今日の午後、エルフの使節団は王宮の庭園で休憩することになっています。その時に会えるかもしれませんよ」
「そうですか。ありがとうございます」
会見の後、リーシャと共に執務室に戻り、会見の記録をまとめる作業を手伝った。リーシャは公の場での凛とした姿から、すっかり普段の天然な自分に戻っていた。
リーシャは記録をまとめている最中、独り言のようにつぶやいた。
「それにしても、あの若いエルフの方が何をしようとしていたか気になりますね、やはり魔道具でしょうか?魔道具であったなら何をしようとしていたのかしら」
「実は、休憩中の話しですが中庭で黒いローブの人物と何か交換しているのも見ました」
「黒いローブ…」
リーシャの表情が曇った。
「魔導院の関係者ではないのですか?」
「魔導院の正式なローブは紫色です。黒いローブは…」
リーシャは言葉を濁した。何か知っているようだが、言いたくないのだろうか。
「リーシャ、何か心配なことがあるなら、話してください。私はあなたの側近として、力になりたいと思っています」
リーシャは少し迷った後、小さな声で言った。
「実は…最近、黒いローブを身にまとった『闇の使徒』という組織が活動を活発化させているという報告があるんです」
「闇の使徒…」
バルトも同じ名前を口にしていた。暗殺者もその組織の一員だったという。
「彼らは何を目的としているのですか?」
「王国の転覆…と言われていますが、本当の目的はもっと別にあるようです。彼らは古い魔法や禁術に関心があるらしく…特に『時の魔法』を探しているという情報もあります」
時の魔法…これも俺の能力と関係があるのだろうか。
「そして、彼らのリーダーは『時の支配者』と名乗っているそうです」
リーシャの言葉に、背筋に冷たいものが走った。時の支配者…なぜか聞き覚えのある名前だ。
「時道さん?どうしましたか?顔色が悪いですよ」
「いえ、何でもありません」
会話を続けていると、ノックの音がして、アトラスが入ってきた。
「お昼の用意ができました。食堂へご案内します」
昼食の席では、リーシャが午後の予定について説明してくれた。エルフの使節団との非公式な交流会があり、その後、魔導院からオルガ院長が来訪するとのこと。
「オルガ先生は時道さんの能力について、何か新しい発見があったようです」
「そうですか」
昨夜の夢のことを記憶結晶に記録したことを思い出す。オルガに見せるべきだろうか。まだ判断がつかない。
食事を終え、リーシャは別の公務のために席を立った。俺は一人、王宮の庭園へと向かった。エルフの使節団と会える可能性があるなら、シルフィードから「時の賢者」について聞いてみたい。
庭園は広大で、美しく手入れされた花々や木々が並んでいる。中央には大きな噴水があり、その周りにベンチが置かれていた。
噴水の近くのベンチに、シルフィードが一人で座っているのが見えた。他のエルフたちの姿はない。絶好の機会だ。
「失礼します、シルフィード閣下」
近づいて挨拶すると、彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
「佐倉時道殿、お会いできて嬉しいです。どうぞ、お座りください」
ベンチに腰を下ろすと、シルフィードは静かに俺を観察した。
「あなたは…どこから来たのですか?」
「東方の地からです」
曖昧に答えたが、シルフィードの目は鋭く、何かを見抜いているようだった。
「本当に…この世界の東方からですか?」
その問いに、思わず息を呑んだ。彼女は何か知っているのだろうか。
「閣下、私に何か聞きたいことがあるのではないですか?」
質問をかわすように言うと、シルフィードはわずかに微笑んだ。
「直接的ですね。そうです、あなたに聞きたいことがあります。あなたのスキルは何ですか?」
「時間認識強化です」
「時空系…」
シルフィードの目が輝いた。
「そして、予知能力もお持ちだとか」
「はい、時々、未来の断片のようなものが見えることがあります」
シルフィードは深く頷いた。
「あなたは『時の賢者』の血を引いているのかもしれませんね」
その言葉に、昨夜の夢が鮮明によみがえった。「時の賢者の血を捧げよ」という声。
「時の賢者とは何者なのですか?」
シルフィードは周囲を見回し、誰も近くにいないことを確認すると、小さな声で話し始めた。
「千年前、この世界に『クロノス』と呼ばれる賢者がいました。彼は時間を操る力を持ち、世界を滅ぼそうとした『闇の王』と戦いました」
「闇の王?」
「はい。闇の王は時間の流れを歪め、世界を混沌に陥れようとしていました。クロノスはそれを阻止するため、自らの命を犠牲にして『時の封印』を作り出したのです」
シルフィードの話に聞き入る。なぜか懐かしさを感じる物語だ。
「しかし、封印は完全ではありませんでした。闇の王は千年に一度、復活の機会を得ると言われています。そして…」
シルフィードは一瞬言葉を切った。
「その千年が、今年で満ちるのです」
「今年…」
「時の賢者の血を引く者だけが、再び闇の王を封印することができると伝えられています。そして、あなたの持つ能力は…」
その時、庭園の入り口から声が聞こえてきた。
「シルフィード閣下、お探ししておりました」
振り返ると、先ほどの会見で見た若いエルフが立っていた。彼の目は俺を見て、一瞬冷たく光ったように見えた。
「ラミエル、私は少し佐倉殿とお話をしていたところです」
「申し訳ありませんが、他の使節団員がお待ちです」
シルフィードは少し残念そうに立ち上がった。
「佐倉殿、またお話する機会があるといいですね。そして…」
彼女は小さな声で付け加えた。
「気をつけてください。あなたを狙う者がいます」
そう言って、シルフィードはラミエルと共に去っていった。
彼女の言葉が頭の中で反響する。時の賢者の血を引く者…闇の王の復活…そして、俺を狙う者。
庭園のベンチに座ったまま、しばらく考え込んでいると、背後から声がした。
「時道さん、ここにいたんですね」
振り返ると、リーシャが立っていた。
「公務は終わりましたか?」
「はい。シルフィード閣下とお話できましたか?」
「少しだけ」
リーシャはベンチに腰を下ろした。
「時の賢者の伝説について聞きましたか?」
「はい、少し」
詳しい内容は話さないことにした。リーシャを不必要に心配させたくない。
「そうですか。私も詳しく知りたいんです。子供の頃、祖母から少しだけ聞いたことがあるんですけど…」
リーシャは空を見上げた。
「祖母は『王家は時の賢者の血を引いている』と言っていました」
その言葉に、思わず彼女を見つめた。王家も時の賢者の血を引いているのか。それなら、リーシャも…
「でも、父上はそんな話を信じていません。『古い伝説に過ぎない』と言って」
リーシャは少し寂しそうに微笑んだ。
「時道さんは信じますか?古い伝説や予言を」
「…信じます」
自分の予知能力を考えれば、そう答えるしかない。
「やっぱり!時道さんなら理解してくれると思いました」
リーシャは嬉しそうに言った。
「実は私、小さい頃から不思議な夢を見ることがあるんです。過去の出来事や、まだ起きていないことが夢に出てくるんです」
「リーシャも予知夢を?」
「そうなんです!でも、父上にも宰相にも『ただの夢だ』と言われて…」
彼女の言葉に、共感を覚えた。子供の頃の俺も同じだった。
「信じますよ。それは単なる夢ではないと思います」
「本当ですか?」
リーシャの目が希望に満ちて輝いた。
「はい。私も同じような経験があります」
「やっぱり!だから暗殺を予知できたんですね」
リーシャは興奮した様子で言った。
「最近、どんな夢を見ましたか?」
「えっと…」
リーシャは少し考え込んだ。
「一週間ほど前、地下の部屋で何か儀式が行われる夢を見ました。黒いローブを着た人たちが円陣を組んで…」
その描写に、昨夜の夢と重なるものを感じた。
「それから?」
「それだけです。途中で目が覚めてしまって…」
リーシャの夢は、俺の夢の前半部分と一致している。彼女は自分が危険に陥る場面までは見ていないようだ。
「あ、そうだ!オルガ先生が来られる時間です。行きましょう」
リーシャは立ち上がり、俺も続いた。王宮の中へと戻りながら、シルフィードの言葉と、リーシャの夢について考えていた。
二人の夢が一致しているということは、それが単なる偶然ではなく、本当に未来の出来事を示している可能性が高い。そして、その儀式の目的が「時の賢者の血を捧げる」ことだとしたら…
リーシャが危険だ。
オルガとの面会室に到着すると、彼女はすでに待っていた。
「やあ、来たね。リーシャ様、時道君」
オルガは微笑みながら二人を迎えた。
「オルガ先生、お待たせしました」
リーシャが挨拶すると、オルガは頷いた。
「時道君、例の記憶結晶は使ってみたかね?」
「はい、昨夜使いました」
「そうか。何か見えたのかい?」
オルガの鋭い目が俺を見つめる。彼女に夢の内容を話すべきか迷った。リーシャの前で話すのは避けたいが、オルガなら何か知っているかもしれない。
「少し…不思議な夢を見ました」
「どんな夢だい?」
オルガの問いに、リーシャも興味深そうに俺を見た。
「地下の部屋で、何か儀式が行われていました。黒いローブを着た人たちが…」
リーシャが驚いた表情をした。
「私の夢と同じ?」
オルガは眉を寄せた。
「二人とも同じ夢を?これは興味深いな…」
「オルガ先生、これは何を意味しているのでしょうか?」
リーシャが不安そうに尋ねた。
オルガは深く考え込むように黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「二人とも、『時の賢者』の血を引いているのかもしれないね」
その言葉に、リーシャは目を丸くした。
「二人ともですか?」
「可能性はある。リーシャ様は王家の血筋だし、時道君は…」
オルガは俺をじっと見た。
「君の出自は謎に包まれているが、その能力は確かに時空系だ。そして、予知能力を持っている」
「それが、同じ夢を見た理由なのでしょうか?」
「おそらくね。そして、その夢が示す未来は…」
オルガは言葉を選ぶように慎重に続けた。
「危険なものかもしれない。特に、今年は『時の封印』が弱まる年だ」
リーシャが息を呑んだ。
「時の封印…祖母から聞いた話です」
「そう、古い伝説だが、真実に基づいているものだ。千年前、クロノスと呼ばれる時の賢者が、世界を滅ぼそうとした闇の王を封印した。しかし、その封印は千年で弱まると言われている」
オルガは立ち上がり、窓の外を見た。
「そして、その千年目が今年だ」
シルフィードと同じ言葉だ。これは偶然ではないだろう。
「闇の使徒と呼ばれる組織は、その封印を解き、闇の王を復活させようとしているのかもしれない」
「そのために、時の賢者の血が必要なのですか?」
リーシャが小さな声で尋ねた。
「おそらくだが、時の賢者の血を持つ者の力を使えば、封印を解くことも強化することもできるはずだ」
オルガの言葉に、昨夜の夢の意味が明確になってきた。「時の賢者の血を捧げよ」という言葉は、リーシャを犠牲にして封印を解こうとしているのかもしれない。
「リーシャ、気をつけましょう」
思わず口にした言葉に、彼女は驚いた表情をした。
「どういうことですか?」
「実は夢の続きを見たんです。あなたが危険に陥る場面を」
リーシャの顔から血の気が引いた。
「私が…?」
「黒いローブの人々が、あなたを魔法陣の中心に立たせていました。『時の賢者の血を捧げよ』と言っていたんです」
オルガが厳しい表情になった。
「やはり…闇の使徒は王家の血を狙っているのか」
「でも、なぜ私なのですか?父上や兄たちではなく…」
「おそらく、リーシャ様が予知能力を持っているからでしょう」
オルガが説明した。
「時の賢者の血は、王家の中でも特定の人物にしか現れない。予知能力と見られる予知夢はその証だ」
リーシャは震える手で顔を覆った。
「怖い…」
その姿に胸が痛んだ。彼女はまだ若く、こんな重大な運命を背負わされるには酷すぎる。
「心配しないで、リーシャ」
俺は彼女の肩に手を置いた。
「私が守ります。それが役目ですから」
リーシャは涙目で俺を見上げた。
「本当ですか?」
「ええ、約束します」
オルガは二人を見て、深く頷いた。
「時道君、君にはリーシャ様を守る力があるだろう。しかし、それには君自身の能力をもっと高める必要がある」
「どうすれば?」
「魔導院での特別訓練だ。明日から始めよう」
オルガは机から小さな本を取り出した。
「これは『時空魔法の基礎』という本だ。今夜、目を通しておくといい」
本を受け取ると、不思議な感覚が手に伝わってきた。まるで、この本が俺を待っていたかのような…
「それから、これも」
オルガは別の小さな結晶を取り出した。先日もらったものとは少し色が違う。
「これは防御用の結晶だ。危険を感じたら、『守護』と唱えるだけでいい。短時間だが、魔法の盾が現れる」
「ありがとうございます」
オルガは最後にリーシャに向き直った。
「リーシャ様、当分の間は一人で行動しないでください。常に誰かと一緒にいることです」
「はい、わかりました」
オルガとの面会が終わり、リーシャと共に執務室へ戻った。彼女は明らかにショックを受けていた。
「大丈夫ですか?」
「はい…ただ、少し驚いて」
彼女は窓際に立ち、外を見つめた。
「子供の頃から、自分は普通の王女ではないような気がしていました。夢を見ることも、時々未来がわかることも…でも、まさか時の賢者の血を引いているなんて」
「私も同じです」
リーシャは振り返った。
「時道さんも時の賢者の血を?」
「わかりません。でも、同じ夢を見たということは、何か関係があるのかもしれません」
リーシャは少し考え込んだ後、決意を固めたように言った。
「私、もっと強くなりたいです。自分の力で自分を守れるように」
「どういうことですか?」
「実は…私、魔法の才能があるらしいんです。オルガ先生に少し教わっていたんですけど、もっと真剣に学びたいと思います」
「それはいいことですね」
「時道さんも一緒に訓練しませんか?二人で強くなれば、どんな危険も乗り越えられるかもしれません」
彼女の提案に、心が温かくなった。
「もちろんです。一緒に頑張りましょう」
リーシャの表情が明るくなった。
「ありがとうございます!あ、そうだ。明日から魔導院での訓練が始まるんですよね?」
「はい、オルガ院長がそう言っていました」
「私も行きます!父上に許可をもらいます」
リーシャの積極的な姿勢に、少し安心した。彼女は思ったより強い。
「それじゃあ、明日は一緒に魔導院へ行きましょう」
その日の残りは、通常の公務をこなしながら過ごした。夕食後、リーシャは早めに自室へ戻り、俺も自分の部屋へと向かった。
部屋に戻ると、オルガからもらった本を開いた。『時空魔法の基礎』。ページをめくると、不思議な図形や文字が並んでいる。普通なら理解できないはずだが、なぜか意味がわかる気がした。
「時間の流れを感じ、その波に乗れ…」
本に書かれた言葉を声に出すと、手元が淡く光った。驚いて本を閉じる。
「これは…魔法?」
再び本を開き、記述を読み進めた。時空魔法の基本は、時間の流れを感じ取ることから始まるらしい。それは俺のスキル「時間認識強化」と密接に関連している。
「時間認識強化がレベルアップすれば、より高度な時空魔法が使えるようになるのか…」
読み進めるうちに、眠気が襲ってきた。本を閉じ、ベッドに横になる。明日からの魔導院での訓練、リーシャの安全、そして「闇の使徒」の脅威…考えることは多いが、今は休息が必要だ。
目を閉じる前に、オルガからもらった記憶結晶を額に当てた。
「記録」
そして、眠りに落ちた。
---
翌朝、早めに目覚めると、記憶結晶が光っていた。夢を見たようだが、内容は覚えていない。結晶に記録されているはずだ。
身支度を整え、リーシャと会う約束の場所へと向かった。王宮の東門で、彼女はすでに待っていた。
「おはようございます、時道さん!」
リーシャは昨日の不安を払拭したかのように、明るく挨拶した。彼女の隣には、騎士団長のガルドが立っていた。
「おはよう、佐倉。今日は俺も同行する」
ガルドの存在に少し安心した。彼なら確かな戦力になる。
「よろしくお願いします」
三人で王宮を出発し、魔導院へと向かった。魔導院は王宮から少し離れた丘の上にあり、高い塔が特徴的な建物だった。
「魔導院は王国最高の魔法研究機関です」
リーシャが説明してくれた。
「オルガ先生が院長を務めていて、多くの魔導士や研究者が所属しています」
魔導院の門に到着すると、門番が敬礼した。
「リーシャ王女様、お待ちしておりました。オルガ院長が中央ホールでお待ちです」
中に入ると、広大なホールが広がっていた。天井は高く、壁には魔法の歴史を描いた壁画が飾られている。中央には大きな魔法陣が床に描かれていた。
「あれは転移魔法陣です」
リーシャが指さした。
「魔導院の各階を瞬時に移動できるんですよ」
ホールの奥にオルガの姿が見えた。彼女は俺たちに気づくと、手を振った。
「よく来たね。さあ、今日から特別訓練を始めよう」
オルガは三人を奥へと案内した。
「まずは、君たちの能力を詳しく調べる必要がある」
特別な部屋に入ると、そこには様々な魔法装置が並んでいた。中央には小さな魔法陣が描かれている。
「リーシャ様、まずはあなたから」
リーシャは少し緊張した様子で魔法陣の中に立った。オルガが何か呪文を唱えると、魔法陣が光り始め、リーシャの周りに淡い光の粒子が舞い上がった。
「素晴らしい…」
オルガは満足そうに頷いた。
「リーシャ様は『精神系』の才能が非常に高い。特に『予知』と『感知』の能力が際立っている」
リーシャは驚いたような、嬉しいような表情をした。
「本当ですか?」
「ええ、そして、確かに時の賢者の血の痕跡がある」
オルガの言葉に、リーシャは身を固くした。
「それは…良いことですか?」
「それは使い方次第だね。その力は両刃の剣だ。正しく使えば世界を救う力になるが、悪用されれば危険なものになる」
リーシャが魔法陣から出ると、次は俺の番だった。
魔法陣の中に立つと、不思議な感覚に包まれた。体が軽くなり、周囲の時間の流れが見えるような気がした。
オルガが呪文を唱えると、俺の周りに金色の光が渦巻き始めた。オルガの表情が変わった。
「これは…」
彼女は驚いたように目を見開いた。
「時道君、君の中には確かに時空系の力が眠っている。しかし、それだけではない」
「どういうことですか?」
「君の魔力の波形は…まるで時の賢者クロノス自身のものと似ている」
その言葉に、ガルドとリーシャが息を呑んだ。
「それはどういう意味ですか?」
ガルドが緊張した声で尋ねた。
オルガはしばらく黙っていたが、やがて決心したように言った。
「時道君は、クロノスの転生者かもしれない」




