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輪廻のクロノス〜記憶を継ぐ転生者〜  作者: 夏目颯真


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第1章 異世界転生と最弱スキル 第2話「王都への道と予知の兆し」

朝日が昇る頃、俺は目を覚ました。


「朝六時七分十二秒」


目を開けた瞬間、正確な時刻が頭に浮かぶ。この「時間認識強化」というスキルは、少なくとも目覚まし時計代わりには使えるようだ。


カイルの家の窓から差し込む朝日が、質素な部屋を黄金色に染めている。昨夜見た奇妙な夢のことを思い出す。王都の広場で矢が飛んでくる光景――あれは単なる夢だったのか、それとも何か別のものだったのか。


実は、子供の頃から時々こんな夢を見ることがあった。後になって夢で見た光景が現実になることが何度かあり、母親に話したこともある。「時道は霊感が強いのね」と言われたが、成長するにつれてそんな夢を見なくなっていた。


それが今になって、異世界で再び現れるとは。


「おはよう、トキミチ。よく眠れたか?」


部屋に入ってきたカイルが声をかけてきた。昨日、名前の発音を何度か訂正したが、どうやら「時道」を「トキミチ」と呼ぶのが定着したようだ。まあ、気にすることでもない。


「はい、久しぶりにぐっすり眠れました」


実際、東京での生活では考えられないほど深い眠りだった。頭痛も消え、体が軽い。


「良かった。朝食ができているぞ。食べたら、王都行きの馬車に乗り込むとしよう」


朝食は、パンと卵、それに野菜のスープ。シンプルだが栄養がありそうな食事だ。マリアとティムも一緒に食卓を囲み、和やかな雰囲気の中で食事をする。


「王都に行くの? いいなぁ」


ティムが羨ましそうに言った。


「ティムは王都に行ったことはないの?」


「ううん。パパは時々行くけど、僕はまだ一度も」


「いつか連れて行ってやるよ」


カイルが息子の頭を撫でながら言った。


「王都はどれくらい離れているんですか?」


「馬車で丸一日かかる。今日の夕方か夜には着くだろう」


食事を終え、出発の準備をする。カイルが用意してくれた小さな布袋には、パンと干し肉、水筒が入っていた。


「これで道中は大丈夫だろう」


「こんなに用意してもらって、申し訳ありません」


「気にするな。困った時はお互い様だ」


カイルの言葉に、心から感謝した。日本では当たり前だと思っていた人の温かさを、異世界で改めて感じる。


「それじゃあ、行こうか。馬車はもうすぐ村に到着する」


カイルに導かれ、村の中央広場へと向かった。マリアとティムも見送りに来てくれた。


「気をつけて行ってらっしゃい」


マリアが優しく微笑む。


「また遊びに来てね!」


ティムが元気よく手を振る。


「ありがとう。必ず戻ってきます」


そう答えながら、この村の人々の優しさを胸に刻んだ。


広場に着くと、ちょうど大きな荷馬車が到着したところだった。四頭の馬に引かれた立派な車両で、荷物と乗客を乗せるスペースがある。


「おう、カイル! 久しぶりだな」


馬車を操る男性が声をかけてきた。がっしりとした体格で、豊かな髭を蓄えている。


「グレン、相変わらず元気そうだな。実はこの若者を王都まで乗せてやってほしいんだ」


「構わんよ。ちょうど乗客も少ないしな」


グレンと名乗る男性は、俺を見て頷いた。


「佐倉時道です。よろしくお願いします」


「ふむ、変わった名前だな。俺はグレン・ストーンハート。王国内を商売で巡っている商人だ」


握手を交わし、馬車に乗り込む準備をする。


「トキミチ、これを持っていけ」


カイルが小さな木彫りの護符のようなものを手渡してきた。


「これは?」


「うちの村の守り神の護符だ。旅の安全を祈ってな」


「ありがとうございます」


護符をポケットにしまい、カイルと固い握手を交わした。


「王都で仕事が見つかったら、また顔を見せてくれよ」


「必ず」


そう約束して、馬車に乗り込んだ。


「それじゃあ、出発するぞ!」


グレンの掛け声とともに、馬車が動き出した。村の人々が手を振る中、俺たちは王都へと向かって走り始めた。


---


馬車の中には、俺の他に二人の乗客がいた。一人は中年の女性で、もう一人は俺と同じくらいの年齢の若い男性だ。


「初めまして。私はマーサ。王都で娘の家族と暮らしているの」


中年女性が自己紹介してくれた。


「バルトだ。グレンの護衛をしている」


若い男性は短く答えた。筋肉質な体つきと腰に下げた剣から、戦闘のプロだということがわかる。


「佐倉時道です。よろしくお願いします」


「王都は初めてかい?」


マーサが優しく尋ねた。


「はい。実は……」


どこまで正直に話すべきか迷ったが、「辺境の村の出身で、王都で仕事を探すつもりだ」と簡単に説明した。


「そうかい。王都は機会の多い場所だよ。きっといい仕事が見つかるさ」


マーサの言葉に励まされる。


「あんたのスキルは何だ?」


バルトが突然尋ねてきた。この世界では、スキルについて尋ねるのは普通のことなのだろうか。


「時間認識強化です。レベル1ですが」


正直に答えると、バルトは少し驚いた表情をした。


「時空系か。珍しいな」


「役に立つスキルなの?」


マーサが興味深そうに尋ねた。


「正直、まだよくわかりません。時間を正確に把握できるだけで……」


「それでも時空系は貴重だ。魔導院なら興味を示すかもしれないな」


バルトの言葉に、少し希望が湧いた。カイルも同じことを言っていた。魔導院というのは、それほど重要な組織なのだろうか。


「魔導院について教えていただけますか?」


「魔法や知識を研究する学者たちの集まりだ。王国の中でも大きな影響力を持っている」


バルトが説明してくれる。


「スキルの研究も行っていて、特に珍しいスキル保持者は研究対象として迎え入れることもあるらしい」


「研究対象か……」


それは良いことなのか悪いことなのか、判断がつかない。


「心配することはないよ。魔導院は優秀な人材を大切にする場所だから」


マーサが安心させるように言った。


会話をしながら、馬車は王都へと進んでいく。窓の外には、広大な草原と時々現れる小さな村々。東京では見られない美しい自然の風景に、心が洗われるような気分だった。


「王都まであと七時間十三分」


無意識に呟いた言葉に、バルトが驚いた表情をした。


「そんなに正確にわかるのか?」


「はい、このスキルのおかげで」


「なるほど。確かに便利かもしれないな」


バルトは感心したように頷いた。


時間が経つにつれ、道は徐々に整備され、行き交う人や馬車も増えてきた。王都に近づいているのだろう。


昼食時、馬車は小さな川のほとりで休憩することになった。カイルが用意してくれた食料を取り出し、川の水で喉を潤す。


「美味しい水だな」


グレンが満足そうに言った。


「王都の水は、ここまで美味しくないんだ。都会の悲しさだな」


その言葉に、東京の水道水を思い出した。文明の利便性と引き換えに失うものもある。それは、どの世界でも同じなのかもしれない。


休憩を終え、再び馬車に乗り込もうとした時、不思議な感覚に襲われた。


頭の奥で、何かが鳴っている。警告のような、予感のような――


これは、子供の頃によく感じていた感覚だ。予知夢を見た後に現れる、あの独特の感覚。


「何かが来る…」


思わず呟いた言葉に、バルトが鋭い目で振り返った。


「何だって?」


「北の方角から…危険が近づいています」


言葉を選びながら答えた。スキルではなく、昔から時々現れる予知能力のようなものだと説明するのは複雑すぎる。


バルトは即座に剣を抜き、北の方角を見据えた。


「どうした、バルト?」


グレンが不安そうに尋ねた。


「わからない。だが、警戒しておく」


バルトは真剣な表情で周囲を見回した。


「グレン、マーサさん、念のため馬車に乗ってください」


バルトの指示に、全員が急いで従った。


「トキミチ、お前もだ」


俺も馬車に乗り込んだが、その時、頭の中でイメージがより鮮明になった。


「黒い鎧の騎馬兵…三人…」


小さく呟いた言葉を、バルトだけが聞き取った。


「何だって?」


バルトが驚いた表情で振り返った時、北の丘から三人の騎馬兵が姿を現した。黒い鎧に身を包み、顔を覆っている。明らかに普通の旅人ではない。


「くそ、やはり追っ手か」


バルトが呟いた。


「追っ手?」


「説明している暇はない。グレン、急げ!」


グレンは即座に馬車を走らせ始めた。後ろから黒装束の騎馬兵たちが迫ってくる。


「バルト、あいつらは何者だ?」


グレンが叫んだ。


「闇の使徒の手先だろう。王都への荷物を狙っているに違いない」


闇の使徒? 何やら物騒な名前だ。


「トキミチ、どうして奴らが来ることを知っていた?」


バルトが鋭く尋ねた。


「子供の頃から、時々…予感のようなものを感じることがあって」


「予知能力か?」


「そんな大げさなものじゃありません。ただの直感に近いものです」


バルトは疑わしげな表情をしたが、それ以上は追及しなかった。


馬車は全速力で走り続けるが、騎馬兵たちは徐々に距離を縮めてくる。このままでは追いつかれてしまう。


「バルト、このままじゃ逃げ切れないぞ!」


グレンの声に、バルトは決断したように頷いた。


「ここで俺が足止めする。お前たちは先に行け」


「待ってください」


俺は思わず口を開いた。頭の中に新たなイメージが浮かんでいた。


「あと少し先に進めば、王国軍の巡回部隊と出会います」


「何だって?」


バルトとグレンが同時に驚いた顔をした。


「どうしてそんなことがわかるんだ?」


「説明できません。でも、確信があります」


実際、頭の中に明確なイメージが浮かんでいた。青い制服を着た騎士たちの姿。子供の頃から時々現れる予知能力は、この異世界でより鮮明になっているようだ。


バルトはしばらく俺を見つめた後、決断したように頷いた。


「わかった。どのくらい先だ?」


「次の峠を越えたところです。あと十分ほどで」


「十分か…」バルトは考え込むように呟いた。「グレン、全速力で走れるか?」


「ああ、やってみよう!」


グレンは馬に鞭を入れ、馬車はさらに速度を上げた。


「バルト、もし王国軍がいなかったら?」


グレンの不安そうな問いに、バルトは冷静に答えた。


「その時は俺が戦う。お前たちはそのまま逃げろ」


窓から後ろを見ると、黒装束の騎馬兵たちは徐々に近づいてきている。彼らの顔は黒い布で覆われているが、その目だけは鋭く光っているのが見えた。


「マーサさん、大丈夫ですか?」


震えている中年女性に声をかける。


「ええ…ただ、こんな目に遭うのは初めてでね」


「心配しないでください。必ず助かります」


自分でも驚くほど確信を持って言えた。それは単なる励ましではなく、予知能力から来る確信だった。


馬車は峠を登り、そして下り始めた。視界が開けると、前方に青い制服の一団が見えた。


「あそこだ!王国軍だ!」


グレンが歓喜の声を上げた。


「旗を振れ!こちらの存在を知らせるんだ!」


バルトの指示に従い、グレンは赤い布を取り出して大きく振った。王国軍の一団はすぐにこちらに気づき、馬を走らせて近づいてきた。


「助かった…」


マーサがほっとした表情で呟いた。


後方を振り返ると、黒装束の騎馬兵たちは王国軍の姿を見るや否や、急に方向を変えて森の中へと消えていった。


「逃げたな」


バルトは安堵の表情を浮かべた。


馬車は王国軍の一団と合流し、事情を説明した。


「闇の使徒の手先ですか…最近、活動が活発になっているようですね」


隊長らしき騎士が言った。


「王都までお供しましょう。これ以上の危険はありません」


王国軍の護衛を得て、馬車は再び王都へと向かった。


「トキミチ、お前の予感のおかげで助かったよ」


グレンが感謝の言葉を述べた。


「いえ、たまたまです」


謙遜したが、バルトの鋭い視線が俺に向けられているのを感じた。


「単なる予感じゃないな」


バルトが小声で言った。


「子供の頃から時々あったんです。未来のことが見えるということが。」


「時空系のスキルと関係があるのかもしれないな」


「わかりません。でも、この能力は日本…いえ、故郷にいた時から持っていました」


バルトは意味深な表情で頷いた。


「魔導院に行くべきだな。お前の能力について、もっと詳しく調べられるだろう」


「そうですね…」


王都が近づくにつれ、道は整備され、行き交う人々も増えてきた。やがて、地平線上に巨大な城壁が見えてきた。


「あれが王都ベルガードだ」


グレンが誇らしげに言った。


「すごい…」


思わず息を呑む。城壁は高さ20メートルはあり、その向こうには無数の建物の屋根と、中央にそびえる巨大な城が見えた。東京の高層ビル群とは違う壮大さがある。


「王都まであと十七分三十二秒」


無意識に口にした言葉に、グレンが笑った。


「そのスキル、旅には便利だな」


「そうですね」


微笑みながら答えたが、心の中では別の考えが浮かんでいた。


昨夜の夢で見た王都の広場。矢が飛んでくる光景。あれは本当に未来の出来事なのだろうか。そして、なぜ子供の頃からよく見ていた予知夢が、この世界でより強く現れるようになったのか。


「時空系」というスキルと、予知夢の関係。魔導院なら、何か答えが見つかるかもしれない。


そして、あの転移の際に出会った少女、クロノアのことも気になる。彼女は「時間に関するスキルには特別な意味がある」と言っていた。その意味とは何なのか。


王都の城壁が迫ってくる中、俺は決意を固めた。


この世界で生き抜くため、そして自分の能力の真実を知るため、魔導院を訪ねよう。


そして、もし昨夜の夢が本当に予知だとしたら、誰かの命を救うことになるかもしれない。


「新しい人生の、本当のスタートだ」


そう呟きながら、俺は王都の大門をくぐった。

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― 新着の感想 ―
隠された能力がありそうな感じ、いいですね。
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