表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻のクロノス〜記憶を継ぐ転生者〜  作者: 夏目颯真


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/18

第3章 帝国の影と七王国同盟 第5話「北の果て、時の神殿へ」

**<前回までのあらすじ>**

北の国境に巨大な「光の柱」が出現し、同時に帝国軍が進軍を開始した。それは古代の遺跡「時の神殿」に関わる異変であり、闇の使徒の暗躍が疑われた。国王レイモンドは、時道、リーシャ、オルガ、ガルド、そして「時の守護者」であると判明した帝国の騎士ザインを含む精鋭部隊の派遣を決定する。時道は自身のルーツと世界の命運を握る「時の神殿」へ向かう決意を固めるのだった。

午前四時十三分二十秒。


まだ夜明け前の冷気が支配する王宮の中庭に、精鋭たちが集結していた。吐く息が白く染まる中、俺は馬具の点検を済ませ、北の空を見上げた。


王都からでも微かに見えるその光の柱は、不気味なほど静かに、しかし確実に世界を歪めていた。


「準備はいいか、時道」


声をかけてきたのはガルドだ。彼はいつになく厳しい表情で、愛用の大剣を背負っている。


「はい、いつでも出られます」


「今回の任務は、これまでとは次元が違う。帝国軍と闇の使徒、両方を相手にする可能性があるからな」


「わかっています」


俺は自分の手のひらを見つめた。そこに浮かぶ「時の印」は、北の方角に呼応するように、微かに脈動している。


「時道さん」


リーシャが駆け寄ってきた。旅装束に身を包んでいるが、その凛とした表情は王女としての威厳に満ちていた。


「父上が見送りに出てこられるそうです」


その言葉通り、テラスに国王レイモンドの姿が現れた。


「皆の者、よく聞け」


国王の声が静寂な朝に響く。


「この任務は王国の、いや世界の存亡に関わるものだ。時の神殿に何が待ち受けているかは誰にもわからん。だが、予は信じている。そなたらならば、必ずや希望を持ち帰ってくれると」


国王はリーシャを見つめ、力強く頷いた。


「行け! フローレンスの未来のために!」


「はっ!」


騎士たちが一斉に敬礼し、馬蹄の音が石畳を叩いた。俺たちは夜明けの門をくぐり、北へと向かって疾走した。


---


王都を出て半日、俺たちは街道を外れ、北西の山脈へと続く獣道を進んでいた。通常の街道を使えば帝国軍と鉢合わせする危険性が高いため、オルガの提案で山岳ルートを選んだのだ。


「佐倉時道」


並走していたザインが声をかけてきた。


「帝国軍の動きが予想以上に早い。おそらく、皇太子ルシウスが『転移門』の使用を許可したのだろう」


「転移門? そんなものが存在するのか?」


「帝国の機密事項だがな。大規模な軍隊を送ることはできないが、先遣隊を送り込むには十分だ」


ザインは前を見据えたまま続けた。


「皇太子は本気だ。時の力を手に入れるためなら、多少のリスクは厭わないだろう」


「ザイン、あんたはどうなんだ? 帝国の騎士として、皇太子の命令に従うべきじゃないのか?」


俺の問いに、ザインは薄く笑った。


「私は帝国の騎士である前に、『時の守護者』だ。力の均衡が崩れれば、帝国も王国も関係なく世界が終わる。それを防ぐのが私の使命だ」


彼の言葉には迷いがなかった。だが、俺の「慎重に行動を進める性質」が警鐘を鳴らす。彼が味方であることは間違いないが、彼の正義と俺たちの目的が完全に一致するとは限らない。


「前方、魔力反応!」


先頭を走っていたオルガが叫んだ。


「クロノ・アクセル(時間認識拡大)」


俺は即座に魔法を発動し、視覚情報を処理する速度を上げた。前方の茂みの揺れ、風の流れ、そして微かな殺気。


「右前方、距離30メートル。伏兵です!」


俺の警告と同時に、茂みから黒い影が飛び出した。


「闇の使徒か!」


ガルドが大剣を抜き、一撃で影を薙ぎ払う。しかし、それは実体を持たない影の怪物だった。


「シャドウ・ビースト…時の狭間から漏れ出した魔物だ!」


オルガが杖を掲げ、光の魔法を放つ。


「数は多いぞ! 足を止めるな、駆け抜けろ!」


俺たちは魔物の群れを突破し、さらに奥地へと馬を進めた。時空の歪みが強まっている証拠だ。目的地が近い。


---


山脈の麓に到着したのは、出発から二日目の夕刻だった。


目の前に広がる光景に、全員が言葉を失った。


巨大な光の柱が天を突き刺し、その周囲の空間がまるで割れた鏡のように歪んでいる。ある場所では雪が降り積もり、その隣では花が咲き乱れ、さらにその隣では木々が枯れ果てている。季節と時間がデタラメに混在していた。


「これが…時の神殿への入り口…」


リーシャが息を呑む。


「ここから先は馬では無理だ」


ガルドの指示で馬を降り、徒歩で光の柱の中心を目指すことになった。


一歩進むごとに、身体にかかる重力が変化するような感覚に襲われる。


「気をつけろ。時間の流れが乱れている。不用意に動けば、一瞬で数年分の時間を奪われるぞ」


オルガが警告し、全員に防御魔法をかけた。


中心部に近づくにつれ、巨大な石造りの建造物が見えてきた。苔むした古代の石柱と、未来的な金属の装飾が融合したような、奇妙な建築様式。


「時の神殿…実在したのか」


俺はその威容に圧倒されながらも、既視感を覚えていた。この場所を知っている気がする。夢で見た塔、あの白い空間、そして…前世の記憶の断片。


神殿の前には、帝国軍の紋章を掲げた一団が陣取っていた。


「止まれ! 此処より先はフェルディナンド帝国の管理下にある!」


武装した兵士たちが俺たちに槍を向ける。


「下がれ」


ザインが前に出た。


「帝国魔導騎士団、ザイン・ブラッドエッジだ。この者たちは私の同行者である」


「ザイン様!? し、しかし、ヴァルター閣下からは誰も通すなと…」


「緊急事態だ。時空の歪みが臨界点を超えようとしている。我々が内部に入り、安定化させねば、お前たちも巻き込まれて消滅するぞ」


ザインの威圧感と、背後に迫る異常な現象に、兵士たちは怯んだ。


「と、通せ!」


兵士たちが道を開ける。ザインの顔パスが効いたようだが、ヴァルターという男が現場を指揮しているようだ。嫌な予感がする。


神殿の入り口は巨大な扉で閉ざされていた。扉には複雑な幾何学模様と、時計の文字盤のような意匠が刻まれている。


「開かない…ヴァルター閣下の部隊も、ここを突破できずに立ち往生しているようです」


兵士の一人が震える声で言った。


「やはり、鍵が必要か」


オルガが俺とリーシャを見た。


「時道君、リーシャ様。あなたたちの出番だ」


俺とリーシャは顔を見合わせ、扉の前に立った。


「いくよ、リーシャ」


「はい、時道さん」


二人が扉に手を触れた瞬間、ポケットの中の「時の鍵」と、俺の手のひらの「時の印」が激しく共鳴した。


『――認証。時の賢者の血脈を確認』


頭の中に直接響くような機械的な、あるいは神聖な声。


ゴゴゴゴゴ……と地響きと共に、千年の時を超えて扉が開き始めた。


「開いたぞ!」


ガルドが叫ぶ。


扉の向こうから、眩い光と共に冷たい風が吹き抜けた。


「行こう」


俺たちは光の中へと足を踏み入れた。


---


神殿の内部は、外観からは想像もつかない空間だった。


壁も天井もなく、ただ無限の星空が広がっている。そして足元には、光る道が一本だけ伸びていた。


「ここは…『時の狭間』そのものか?」


オルガが驚愕の声を上げる。


その時、前方の空間が歪み、数人の人影が現れた。


「ようこそ、招かれざる客たちよ」


黒いローブを纏った男――闇の使徒の首領、アトラスだった。そしてその隣には、見知らぬ仮面の男が立っている。


「アトラス! ここで何を!」


ザインが剣を抜く。


「我々は神殿の守護システムをハッキングしていたのさ。もう少しで最深部の『クロノスの玉座』へアクセスできるところだったのだが…貴様らが鍵を開けてくれたおかげで、手間が省けた」


アトラスは邪悪な笑みを浮かべた。


「礼を言うぞ、佐倉時道。そしてリーシャ王女」


「貴様らに時の力は渡さない!」


俺は時間を認識し、戦闘態勢に入った。


「クロノ・アクセル(時間認識拡大)」


視界の中の時間が引き伸ばされる。アトラスが杖を振り上げる動作、ガルドが踏み込む動作、すべてがスローモーションに見える。


「やらせるか!」


ガルドが突進するが、仮面の男が立ちはだかった。男は何の構えもなく手をかざしただけで、ガルドの巨体を不可視の衝撃波で吹き飛ばした。


「ガルド!」


「フフフ…この方は『ゼロ』様。我ら闇の使徒の真の指導者だ」


仮面の男――ゼロが、ゆっくりと俺に視線を向けた。その仮面の奥にある瞳を見た瞬間、俺の頭に激痛が走った。


「ぐあっ…!」


『…思い出したか? 我が半身よ』


声ではない。記憶の奔流が脳内に流れ込んでくる。


燃え盛る世界。崩れ落ちる塔。そして、悲しげに微笑む銀髪の少女の顔。


『お前は、この世界を救うために何をした? 何を犠牲にした?』


「やめろ…!」


俺は膝をついた。頭痛が酷くて思考がまとまらない。


「時道さん!」


リーシャが駆け寄ろうとするが、アトラスが時空魔法で道を遮断する。


「おっと、邪魔はさせん。彼には、自分の罪を思い出してもらわねばな」


ゼロが静かに歩み寄ってくる。


「佐倉時道。お前が『最弱』だと思っているその能力。それこそが、かつて世界を支配し、そして滅ぼしかけた『時の賢者』の呪われた力なのだ」


「違う…俺は…!」


「否定しても無駄だ。お前の魂に刻まれた罪は消えない」


ゼロが手を伸ばす。その手には、禍々しい闇の魔力が収束していた。


「さあ、還るがよい。輪廻の輪の中へ」


絶体絶命の瞬間。


キィン!


鋭い金属音が響き、ゼロの手が弾かれた。


「話が長いな、悪党」


割って入ったのは、炎を纏った剣を構えたザインだった。


「私の友に指一本触れさせん」


「ザイン…」


「立て、時道! お前は過去の亡霊じゃない。今を生きる佐倉時道だ!」


ザインの言葉が、霧を晴らすように俺の意識を覚醒させた。


そうだ。俺はIT企業のSEで、今はリーシャの側近で、そして…仲間がいる。


俺は痛みをこらえて立ち上がった。


「ああ…そうだな。俺はもう、一人じゃない」


俺とザイン、そして魔法障壁を展開したオルガとリーシャ、体勢を立て直したガルド。五人が並び立つ。


「面白い」


ゼロは仮面の奥で笑った気がした。


「ならば試練を与えよう。過去を乗り越え、未来を掴めるかどうか」


神殿の奥、光の道の先で、巨大な時計の鐘の音が鳴り響いた。


それは、最終決戦の幕開けを告げる合図だった。


(第3章 完)


----------------------------------------------------


**次回予告:**


**第4章 時の迷宮と記憶の回廊**


神殿の内部で待ち受けていたのは、過去と未来が交錯する迷宮だった。

分断された仲間たち。それぞれが直面する「過去の幻影」。

リーシャの前に現れたのは、かつての自分。ガルドが対峙するのは、失ったはずの家族。

そして時道は、記憶の回廊の奥底で、ついに「前世の自分」と対面する。

明かされる転生の真実と、クロノアの正体。

「あなたは私を覚えていないの?」

悲劇の歴史を変えるため、時道は最大の決断を迫られる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ