第3章 帝国の影と七王国同盟 第4話「七つの境界点」
**<前回までのあらすじ>**
時道とリーシャは森で闇の使徒アトラスの罠にはまるも、時空の境界点を通過して時の間に到達。そこでクロノアと再会し、時の力の真髄について学ぶとともに特訓を受けた。現実世界に戻った二人は時空の歪みを修復する力を得て、皇太子ルシウスの前でその力を披露。ルシウスは帝国に戻り、時道たちは王国内の時空の歪みを修復するため、七つの境界点を巡る旅に出ることになった。
朝靄の中、探索隊は二つ目の境界点がある村へと向かっていた。昨日、最初の境界点を無事に安定させ、今日は更に二カ所を目指している。
俺は馬の背に揺られながら、昨夜の夢を思い出していた。高い塔の上から世界を見下ろす夢。周りには見知らぬ人々がいたが、どこか懐かしく感じる。クロノスの記憶だろうか。それとも単なる夢なのか。
「悩み事?」
リーシャの声に我に返る。彼女は隣で馬を進めながら、心配そうな表情を向けていた。
「ああ、少し」
それ以上は言わなかったが、彼女は理解してくれたようだ。時の力を持つ者同士、言葉にしなくても通じる何かがあった。
探索隊は小さな峠を越え、谷間の村が見えてきた。しかし、その光景に全員が息を呑んだ。村の半分が異常に古びて崩れかけ、もう半分は不自然なほど鮮やかな色彩に満ちていた。時空の歪みがここでは更に深刻だった。
「急ぎましょう」
リーシャの言葉に全員が頷き、村へと駆け下りた。
村に入ると、住民たちの混乱した様子が目に入った。老人が突然若返り、子供が一晩で大人になるという奇妙な現象が起きているという。時間の流れそのものが乱れているのだ。
俺は胸の内で怒りが湧き上がるのを感じた。闇の使徒たちは自分たちの目的のために、罪のない人々を苦しめている。許せない。
「時の結晶が反応しています」
リーシャがペンダントを手に取り、村の北側を指した。
「あの丘の上にある古い祠です」
一行は急いでその場所へと向かった。丘の上に立つと、確かにそこには古い祠があり、その周りに歪んだ光の渦が見えた。前回よりも強い歪みだ。
「二人とも、準備はいいか?」
オルガの声に、俺とリーシャは頷いた。二人は祠の前に立ち、互いの手を取り合う。手のひらの時の印が輝き始めた。
「クロノ・シンク、クロノ・エターナル!」
二人の声が重なった瞬間、強い光が広がった。時の力が共鳴し、増幅される感覚。祠を中心に時空の歪みが安定していく。
しかし、今回は抵抗を感じた。歪みが強すぎるのか、何かが妨げているのか。
「もっと力を」
リーシャの声に応え、俺は全力を込めた。クロノアから学んだ技術を思い出し、時の流れそのものに働きかける。
「クロノ・エターナル(時空安定)!」
二人の力が完全に同調し、祠から強い光が放たれた。周囲の空間が一瞬震え、そして安定した。時空の歪みが修復されたのだ。
「成功しました」
リーシャの声には安堵と疲労が混じっていた。今回は前回よりも多くの力を使ったようだ。
「二人とも素晴らしい」
オルガが近づいてきた。
「だが、歪みが強くなっている。闇の使徒たちの活動が活発化しているのだろう」
「休む時間はありません」
リーシャの決意に満ちた声。彼女の目には強い意志が宿っていた。
「次の場所へ行きましょう」
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三日目、探索隊は既に四つの境界点を安定させていた。残るは三カ所。しかし、疲労が蓄積していくのを感じる。特にリーシャの顔色が優れない。
「大丈夫か?」
ガルドが心配そうに尋ねた。
「ええ、問題ありません」
リーシャはそう答えたが、俺には彼女の疲労が見て取れた。時空の歪みを修復するたびに、二人の力は消耗する。特にリーシャは予知能力を使って歪みの核心を見極めるため、精神的な負担が大きいのだ。
「少し休もう」
俺が提案すると、リーシャは最初は拒もうとしたが、やがて頷いた。
小さな湖のほとりで休憩することになった。澄んだ水面に映る空の青さが、心を落ち着かせる。
「時道さん」
リーシャが俺の隣に座った。
「何か感じませんか?境界点が増えているような…」
彼女の言葉に、俺も自分の感覚を確かめた。確かに、最初の地図で示されていた七カ所よりも多くの歪みを感じる。
「闇の使徒たちが新たな歪みを作り出しているのかもしれない」
「そうね…」
リーシャは湖面を見つめながら、静かに言葉を続けた。
「私たちが修復するよりも速く、彼らが歪みを作り出しているとしたら…」
その言葉を最後まで言う必要はなかった。二人とも理解していた。このままでは追いつかない。根本的な解決策が必要だ。
「闇の使徒たちの本拠地を見つけよう」
俺の言葉に、リーシャは頷いた。
「でも、どうやって?」
「時の結晶を使えば、強い歪みの源を探れるかもしれない」
リーシャはペンダントを手に取り、じっと見つめた。
「試してみましょう」
彼女は目を閉じ、ペンダントに意識を集中させた。時の結晶が淡く光り始める。
「見える…」
彼女の声は遠くから聞こえるようだった。
「強い歪みの源が…北西の山脈の奥に…」
突然、リーシャの体が震え、ペンダントが強く光った。彼女は目を開き、驚いた表情を見せた。
「何かが…私を見ていた」
「何?」
「わからない…でも、強い意志を感じた。私たちの行動を監視している何かが…」
俺は周囲を警戒した。見えない敵の存在を感じる。
「オルガ先生に報告しよう」
二人がオルガのもとに戻ると、彼女も同じことを感じていたようだ。
「時空の監視者…闇の使徒の上位存在かもしれない」
オルガの表情は厳しかった。
「北西の山脈…そこには古代の遺跡があると言われている。時の賢者クロノスに関連する場所だ」
「そこが闇の使徒の本拠地?」
「可能性は高い。だが、今はまず残りの境界点を安定させることに集中すべきだ」
オルガの判断は正しかった。まずは目の前の任務を完遂する。そして次の段階へ。
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五日目、探索隊は六つ目の境界点を安定させた。残るは最後の一カ所。地図によれば、それは王国の北端、古い森の中にあるという。
「最後の境界点は特に強い歪みを持っているようだ」
オルガが地図を見ながら言った。
「準備を万全にして臨もう」
森に入ると、空気が変わった。重く、冷たい。木々は不自然に曲がり、時には逆さまに生えているものもある。時空の歪みが最も強い場所だ。
「気をつけろ」
ザインが警告した。
「何かがいる」
彼の言葉通り、森の中から低い唸り声が聞こえてきた。それは一匹ではない。複数の魔獣が近づいてきているのだ。
「囲まれたぞ!」
ガルドが叫び、剣を抜いた。
周囲の茂みから、奇妙な姿の魔獣たちが現れた。狼のような体に鳥の頭、蛇の尾を持つ異形の生き物。時の狭間から漏れ出した存在だろう。
「時道、リーシャを守れ!」
ザインが前に出て、剣から炎を放った。魔獣の一部が炎に包まれ、悲鳴を上げる。
「俺たちは境界点を目指す!」
俺はリーシャの手を取り、森の奥へと走った。オルガも後に続く。ガルドとザインは魔獣たちを足止めする。
森を駆け抜けながら、俺は時の力を集中させた。
「クロノ・トレース(時間予知)」
数秒先の未来が見える。前方に待ち伏せている魔獣の姿。
「右に!」
リーシャに指示し、二人は進路を変えた。予知通り、直前の道に魔獣が飛び出してきた。
「あそこです!」
リーシャが指さした先に、巨大な古木が見えた。その周りには強い光の渦。最後の境界点だ。
三人は古木に向かって走った。しかし、その前に一人の人影が立ちはだかった。
「アトラス!」
闇の使徒の首領が冷笑を浮かべていた。
「よく来たな、時の力を持つ者たち」
彼の背後には数人の闇の使徒が控えている。
「お前たちが境界点を安定させて回っていると聞いていたが、ここまで来るとは思わなかった」
アトラスの声には余裕があった。
「ここは特別な場所だ。最も強い時空の歪みを持つ境界点。これを安定させれば、我々の計画は大きく後退する」
「だからこそ、ここを守るために来たのだな」
オルガが前に出た。
「その通り。そして、お前たちを捕らえるためにも」
アトラスは手を上げ、魔法陣を展開した。
「今度は逃がさん!」
強力な時空魔法が放たれた。オルガが防御魔法を展開するが、アトラスの魔法は強力すぎる。
「くっ…」
オルガが膝をつく。
「オルガ先生!」
リーシャが叫んだ。
「二人とも、境界点へ!私が時間を稼ぐ!」
オルガの声に、俺とリーシャは決断を迫られた。オルガを置いていくべきか、それとも共に戦うべきか。
俺の中で怒りが湧き上がった。仲間を見捨てるなど、できるはずがない。
「リーシャ、俺がアトラスを引きつける。その間に境界点を安定させてくれ」
「でも、一人では…」
「大丈夫。オルガ先生と力を合わせれば」
リーシャは迷った表情を見せたが、やがて決意を固めたように頷いた。
「わかったわ。でも、必ず戻ってきて」
「ああ、約束する」
俺はオルガの隣に立ち、アトラスに向き合った。
「クロノ・フリーズ(時間停止)!」
全力を込めて魔法を唱えた。世界が一瞬静止する。アトラスも動きを止めたが、すぐに効果が切れた。
「その程度か」
アトラスは嘲笑ったが、その隙にリーシャは古木へと走り出していた。
「逃がさん!」
アトラスが魔法を放とうとした時、オルガが強力な封印魔法を放った。
「封印の鎖よ!」
光の鎖がアトラスを拘束する。
「クロノパルス(時空干渉・波動)!」
俺も続けて魔法を放った。時空の波動がアトラスに向かって広がる。
二人の攻撃を受け、アトラスは一時的に後退を余儀なくされた。しかし、他の闇の使徒たちが前に出てきた。
「時道君、私が彼らを引きつける。お前はリーシャ様を守れ!」
オルガの声に、俺は一瞬躊躇ったが、頷いた。リーシャの元へと走る。
古木に到着すると、リーシャは既に時の力を集中させていた。
「時道さん!一緒に!」
彼女の隣に立ち、手を取る。二人の時の印が輝き始めた。
「クロノ・シンク、クロノ・エターナル!」
強い光が広がった。しかし、今回の歪みは桁違いに強い。二人の力だけでは足りないのか、歪みが完全には安定しない。
「もっと力を!」
リーシャの声に応え、俺は全てを注ぎ込んだ。クロノアから学んだ全ての技術、そして自分の中に眠る力の全てを。
その時、頭の中で何か強い力が湧き上がるような感覚があった。過去からの力が呼び覚まされたような不思議な感覚。まるで誰かが背中を押しているかのようだ。
「クロノ・エターナル(時空安定)!」
新たな力と共に魔法を唱えると、古木から強い光が放たれた。周囲の空間が震え、そして安定していく。時空の歪みが修復されたのだ。
「やった…」
リーシャの声には安堵と疲労が混じっていた。
振り返ると、オルガとアトラスの戦いが続いていた。しかし、境界点が安定したことで、アトラスの力が弱まったように見える。
「引くぞ!」
アトラスが闇の使徒たちに命じた。彼らは黒い霧に包まれ、姿を消した。
「逃げたか…」
オルガは疲れた様子で近づいてきた。
「二人とも、よくやった。全ての境界点を安定させることができた」
「でも、アトラスたちはまだ…」
「ああ、彼らはまだ諦めていない。だが、一時的にせよ、時空の均衡を取り戻すことができた」
その時、森の中からガルドとザインが駆けつけてきた。二人とも傷を負っているが、命に別状はなさそうだ。
「魔獣たちは消えた」
ザインが報告した。
「境界点を安定させたからだろう」
「全て終わったのですか?」
ガルドが尋ねた。
「いいえ」
リーシャが静かに答えた。
「これは始まりに過ぎません。闇の使徒たちはまだ諦めていない。そして…」
彼女は北西を見つめた。
「彼らの本拠地がある限り、この戦いは終わらない」
俺も同じ方向を見た。北西の山脈。古代の遺跡があるという場所。そこには何があるのか。そして、闇の使徒たちの真の目的は何なのか。
「王都に戻り、次の行動を考えよう」
オルガの提案に全員が頷いた。
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王都への帰路、俺は先ほどの不思議な感覚について考えていた。あの力は何だったのか。自分の中に眠る何かが、一瞬だけ目覚めたような感覚。それは時の力の新たな側面なのか、それとも別の何かなのか。
リーシャも黙って馬を進めていた。彼女の表情には疲労と共に、何か深い思索の色が浮かんでいる。彼女も何か感じたのだろうか。
「時道さん」
彼女が小声で呼びかけてきた。
「あの時、何か感じませんでした?」
「ああ、何か強い力が…」
「私も感じたわ。まるで誰かが力を貸してくれたような…」
二人は言葉少なに視線を交わした。説明できない何かを共有している感覚。それは時の力を持つ者同士だからこそ理解できるものなのかもしれない。
王都に戻ると、国王レイモンドが探索隊の帰還を待ち受けていた。
「無事だったか。心配していたぞ」
「はい、父上。全ての境界点を安定させることができました」
リーシャが報告した。
「それは良かった。だが、闇の使徒たちはまだ活動を続けているのだろう?」
「はい。彼らの本拠地が北西の山脈にあるようです」
国王は深刻な表情になった。
「北西の山脈…そこには古代の遺跡があると言われている。立ち入り禁止の地域だ」
「なぜ立ち入り禁止なのですか?」
「古くからの言い伝えによれば、そこには『時の神殿』と呼ばれる場所があるという。時の賢者クロノスに関連する聖地だが、同時に危険な力が封印されている場所でもあるとされている」
時の神殿。その言葉に、俺の胸の奥で何かが反応した。懐かしさと共に、何か重要なものを忘れているような感覚。
「闇の使徒たちはその神殿を目指しているのかもしれません」
オルガが言った。
「時の封印を解くための鍵がそこにあるとすれば…」
「調査隊を派遣すべきだな」
国王が決断した。
「だが、慎重に進める必要がある。まずは情報収集から始めよう」
会議の後、俺はリーシャと共に王宮の庭を歩いていた。星空の下、二人は静かに思いを巡らせる。
「時の神殿…」
リーシャが空を見上げながら呟いた。
「何か特別な場所なのでしょうね」
「ああ。そして、闇の使徒たちが求めているものがそこにあるんだろう」
「私たちも行くべきよね」
「そうだな。でも、準備が必要だ」
リーシャは首にかけた時の結晶のペンダントを手に取った。
「クロノアに相談してみましょうか」
「それがいいだろうね」
二人は人気のない場所を探し、王宮の古い塔の上に登った。そこなら誰にも邪魔されずに、時の結晶を使える。
リーシャがペンダントを両手で包み、目を閉じた。
「クロノア、聞こえますか…」
ペンダントが淡く光り始め、やがてその光が強くなった。空中に小さな光の渦が現れ、そこからクロノアの姿が浮かび上がる。
「リーシャ、時道、呼んでくれたのね」
彼女の姿は半透明で、まるでホログラムのようだった。
「クロノア、時の神殿について教えてください」
リーシャが尋ねた。
「時の神殿…」
クロノアの表情が厳しくなった。
「それは時の賢者クロノスが作り出した場所。時の封印の中心でもあるわ」
「闇の使徒たちがそこを目指しています」
「そうね、彼らが目指すのは当然のこと。神殿には『時の鍵』と呼ばれる特別な道具がある。それを使えば、時の封印を解くことができるの」
「時の鍵…」
「それを守るのが、時の守護者の使命だったのよ」
クロノアは二人を見つめた。
「でも、時の守護者たちも長い年月の中で分裂してしまった。一部は本来の使命を忘れ、時の力を利用しようとしている」
「帝国の魔導研究所も関わっているのでしょうか?」
「その可能性は高いわ。特に、皇太子ルシウスは時の力に強い関心を持っている」
クロノアの言葉に、二人は顔を見合わせた。
「私たちはどうすればいいのでしょう?」
「時の神殿に行きなさい。でも、準備が必要よ。神殿には強力な守護者が存在する。そして、時の試練を乗り越えなければならない」
「時の試練?」
「そう。神殿に入るためには、時の力を持つ者としての資格を証明しなければならないの」
クロノアの姿が少しずつ薄くなっていく。
「時間がないわ。詳しいことは神殿で…」
彼女の姿が消える前に、最後の言葉が聞こえた。
「自分の心を信じて。そして、互いを信じて…」
光が消え、二人は再び静寂の中に取り残された。
「......時の神殿に行くべきでしょうね」
リーシャが決意を込めて言った。
「でも、父上に言うべきかしら」
「正直に話そう。ただし、時の鍵のことは慎重に」
二人が塔を降りようとした時、突然、空が明るく輝いた。北の空に、巨大な光の柱が立ち上がったのだ。
「あれは…」
リーシャが息を呑んだ。
「新たな時空の歪み…しかも、桁違いに強力な」
「急いで調べに行こう」
二人が急いで階段を降りていると、警鐘が鳴り響いた。王宮全体が騒然となっている。
中庭に出ると、ガルドが騎士たちに指示を出していた。
「ガルドさん、何が起きたのですか?」
「北の国境で異変が起きている。巨大な光の柱が現れ、周囲の村々で時空の歪みが発生しているという報告だ」
「私たちも行きます」
「いや、危険すぎる。まずは偵察隊を送り、状況を確認する」
その時、一人の騎士が駆け込んできた。
「報告します!帝国軍が国境に集結しています!」
「何だと?」
ガルドが驚いた表情を見せた。
「彼らは光の柱に向かって進軍しているようです」
「帝国軍が…」
リーシャの表情が曇った。
「皇太子ルシウスは何を…」
状況は急展開を見せていた。北の国境での異変、帝国軍の動き、そして時の神殿の謎。全てが何かに向かって収束していくような感覚があった。
「国王陛下が緊急会議を招集されています」
別の騎士が告げた。
「全員、謁見の間へ」
謁見の間には既に国王と重臣たちが集まっていた。オルガも呼ばれていた。
「状況を説明してくれ」
国王の声には緊張が滲んでいた。
オルガが前に出た。
「北の国境に現れた光の柱は、巨大な時空の歪みです。おそらく、闇の使徒たちが何らかの儀式を行ったのでしょう」
「そして帝国軍が動いている」
国王が続けた。
「彼らの目的は何だ?」
「時の力を手に入れることでしょう」
オルガは厳しい表情で言った。
「帝国の魔導研究所は長年、時空系の魔法を研究してきました。彼らは時の力を利用して、帝国の力を強化しようとしているのです」
「皇太子ルシウスもその計画に関わっているのか?」
「可能性は高いでしょう」
重苦しい沈黙が場を支配した。
「父上」
リーシャが前に出た。
「私と時道さんが北に向かいます。時空の歪みを安定させることができるのは私たちだけです」
「危険すぎる」
国王が反対した。
「帝国軍と闇の使徒、両方の脅威がある」
「でも、このままでは王国全体が危険にさらされます」
リーシャの目には強い決意が宿っていた。
「それに…時の神殿に行く必要があります」
「時の神殿?」
「はい。全ての答えがそこにあります」
国王は深く考え込んだ。
「わかった。だが、十分な護衛をつける。ガルド、最精鋭の騎士たちを率いて同行せよ」
「はい、陛下」
「オルガ、魔導院からも援軍を出してくれ」
「承知しました」
「そして、ザイン・ブラッドエッジも同行させよう」
その言葉に、一同は驚いた。
「帝国の騎士を?」
「彼は時の守護者を名乗っている。その真意を確かめる時だ」
準備は急ピッチで進められた。夜明け前には出発する予定だ。
自室に戻った俺は、窓から北の空を見つめていた。光の柱はまだ見える。あれは何を意味するのか。そして、時の神殿では何が待ち受けているのか。
不安と期待が入り混じる感情の中、俺は決意を固めた。どんな困難が待ち受けていようとも、リーシャを守り、王国を守る。それが自分の使命だ。
そして、自分の中に眠る力の真実にも向き合わなければならない。あの不思議な感覚の正体、そして時の力の本当の意味を。




